新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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真・飛炎地獄 心臓は猿空間へ…

「お前に技を掛けたのは…熹一さんか…いや、尊鷹さんか?」

『ああ、俺にこの妙な技を掛けた男は、”宮沢尊鷹”と名乗っていた。』

「ふうん、ああそう…」

脱走した呼雷との闘いの最中、マネモブは彼と他愛のない話を繰り広げる。

 

「朗報だ。奴は相当弱っている、きっと今のお前等でも十分殺せる筈だ。」

『!』

マネモブが呼雷と無駄話をしている間、彦と三月は剣に氷を込め始めていた。マネモブから何か指示があった訳でもなく、彼ら自身で隙を見出したのだ。気付いた時には既に遅く…

「「はあっ!!」」

強烈な突きと共に発射される氷結攻撃。呼雷は足を奪われる。これは”鏡流”が彦に授け、そしてまた三月へと脈々と受け継がれた技だ。700年前に取った不覚が、呼雷の頭をよぎる。

「好機ッ」

二人に呼応して雲璃も大剣を振るい、呼雷の脳味噌をグッチャグチャにする。そして、

 

ドクンッドクンッ…

悪魔王子は心臓に意識を集中させ、”ガルシア・ハート”を覚醒させる。

ドンッ 父親から継いだ”龍脚”を”突然変異の心臓”の優れたポンプ性能から送り込まれる膨大な量の血液で活性化させ、強い踏み込みを行う…

”幻突ッ” ”入神の打撃”と称される謎のエネルギー波が呼雷に向かって発射される。

マネモブに教えられた鏡の中の己に勝つ修行、げに恐ろしき悪龍の血を継ぐ男は既に、幻突をモノにしていた。

 

 

「弟子達ばかりに良い恰好させる訳にはいかないんだァ。」

悪魔王子が幻突を放つ直前、マネモブは彼に合わせて”飛炎地獄”を打とうと考え、内にいる幻朧に呼び掛けていた。

『断る。』マネモブの事は気に食わないし、妾に何の利もないと当然拒まれる。しかし、

「ま、お前に拒否権なんてないからバランスは取れてないんだけどね。」

『はうっ…』

マネモブは最初から対等に頼むつもりなどなく、彼女の魂を強く握りしめる事で強引に炎を引き出す。

 

「いい力やん…」

”壊滅”の力とはいえ、うぐいす色の炎は惚れ惚れする程美しい。

「幻朧、お前はただ炎を撃ち込むだけの雑な使い方をしていたが…」

”飛炎地獄”を超えた”飛炎地獄”…その神髄を見せてやろうとマネモブは刀に炎と”気”を纏わせる。

 

「本当の”飛炎地獄”とはこうッ」

”灘神影流”の”秘技” ”幻魔拳その2” ”飛炎地獄”

防火装備と痛覚麻痺のクスリを服用した特殊部隊の軍人すらダウンさせる強烈な炎の幻覚。

本来この技は”幻魔”の応用であり”幻朧”が使った炎の放出とはまるで原理が違う、彼女がやったのはただの猿真似に過ぎない。

 

「悪魔王子の理論によれば、”幻魔”は寸止めではなく肉体を同時に破壊する事でその威力は500億倍にも膨れ上がる。」

それこそが”真・幻魔拳”本来暴力を好まない"宮沢静虎"が悪漢に対して体を傷付けずに制裁を加える用途で好んでいた技だが、肉体を効果的に破壊しようと模索していた悪魔王子は”幻魔”をより凶悪に使う方法を発見していたのだ。

 

”灘”の”飛炎地獄”と”幻朧”の”飛炎地獄”を合一させる…

「ククク…学我者生、似我者死(われに学ぶ者は生き、われに似せる者は死す)とはこういう事よ。」

『…ッ』

教えを悪用しようとした幻朧に本当に技を進化させる手本を見せてやると”愚弄”しながら、マネモブは真の”飛炎地獄”を、悪魔王子の幻突と共に発射させた。

 

幻突に煽られ、炎は更に勢いを増していく。そして凍り付いた呼雷に着火し、

『グオオオオオオオオオオオ…』

”ウアアア炎ダーッ 助ケテクレーッ”程の情けない悲鳴こそ上げないが、氷と炎を連続で喰らった事による急激な温度変化は”豊穣”の"祝福"を有している者であろうと危険すぎる。

「おいおい、これまた随分と危険な技を開発したな…」

悪魔王子は新技のえげつなさに気圧される。

 

(700年、”幽囚獄”の拷問に耐え続けて来たこの俺が…たかだか肉体を燃やされる程度の事に苦しむだと…)

”五年殺し”に”幻魔”…未知の技を前に誇り高き狼は、”鏡流”と相対した時でさえ感じなかった恐れに苛まれる。

 

「トドメを刺せお前達。」

700年のブランクに尊鷹のかけたデバフ、仙舟にとって”灘”の”気”の活殺術が未知だった事も相成り最早”呼雷”に反撃の余力はないと、そう目付した彼は弟子達にぶちかませと拳を突き出した。

(クソッ…俺の目的は終ぞ…)

本物の炎と幻覚に心身共に焼き尽くされながら、呼雷が諦めかけたその時、彼は競鋒艦へと急接近してくる強者の気配を感じた。

 

「あれは…」後方師匠面していたマネモブも”気眼”でしっかり感知していた。彼はまだ相対した事はないが、その者こそ”呼雷”が囚われている間に”歩離人”を”壊滅”状態に追い込んだ仙舟「曜青」の”天撃将軍”こと”飛霄”だ。

「なんだ、私の出る幕は…」

マネモブ達が既に戦いの決着をつけていた事に感心しながらも多少残念さを覚えかけた彼女だが、すぐにその感情は焦燥へと変わる。

 

『ハハハ!一手遅かったな貴様等。』

己を殺すあと一歩手前まで追い詰めた事は賞賛するが、飛霄の到来こそ彼の真の狙い、僥倖である。

『俺は死ぬ…だが、羅浮も道連れだ…!』

呼雷は己の胸に手を突っ込み、赤黒く光り禍々しく脈打つ心臓を取り出し、空中へと放った。

 

「何あれ…ウチらにやられるくらいならって、自害のつもり?」

「いや、違うそうじゃない!」

三月は事態を呑み込めていないが、雲璃は何となく呼雷の行動の危険性を感じ取った。彦卿と悪魔王子は無意識に女子たちを庇う為に前へと出る。

 

『この”紅月”が…”羅浮”に血の雨を降らせるだろう!!全ての狐族を恐怖で狂わせ…血肉への渇望の中に堕としてやろう…!!』

呼雷の突然変異の心臓から溢れる血に触れた狐族は、歩離人に変貌してしまうという。

(さあ飛霄よ…民草を守る為、お前ならこの心臓に対処せざるをえまい。)

しかし、呼雷が最後の悪足掻きとして語ったそれもまたカモフラージュ。裏の裏の目的は…

 

(今この場であの紅月に対処出来るのは…私しかいない…!)

飛霄は己の肉体を心臓の受け皿とする事で民を守る選択を取る。それこそが呼雷の狙い…

脱走の道中で部下達から聞いた歩離と狐の血を継ぐ”戦奴”だった女、狼の群れを駆逐寸前まで追い込んだ偉業により将軍にまで登り詰めたというその至高の肉体を呼雷は欲していた。心臓に向かっていく飛霄を見上げて、崩壊する肉体でほくそ笑むが…

 

「ばあっ」

「「「「「「「なにっ」」」」」」」

敵味方を問わず、その場にいた皆の予想の斜め上を行く展開が訪れた。

飛霄が紅月に辿り着くより僅かに早く、マネモブが”猿空間”を応用した”風使い”、大気の放出で身を運ぶ高速移動でいち早く突然変異の心臓を掴む。

 

「この心臓…狐族にしか効かないらしいやん…」

マネモブは至って平然としながら、手中に収めたそのグロテスクな臓器を猿空間へと封印した。

『………。』飛霄を乗っ取る目論見を阻止される光景をまじまじと見ていた呼雷は言葉を発さなかったが、塵と化しつつある彼が最後にどんな思いで消えて逝ったかは想像に難くない。

 

「ふーっ、良かった。ありがとうござい…」

呼雷の肉体は消滅し、心臓も封印した。これで一件落着だろうと息を付くマネモブに…

「うああああああああ!!避けてそこの殊族の…」

「えっ…」

飛霄が呼雷の心臓を取り込もうと暴走トラックのように駆ける眼前に立ったのだ。そんな事をすれば当然…

 

ドンッ

「あががっ」頑強で天賦の肉体を持つ彼女の疾走がモロに直撃した。マネモブはそのまま観客席まで吹き飛ばされ…

「大丈夫か、マネモブ。」「先生…!」

心配した弟子たちが急いで駆け付けるが…内臓や骨を幾分かやってしまっている。

 

「あうっ…」

内臓の一部が破裂した事で口から血が零れ落ちる。

「だ、誰かあ!丹鼎司の医者を…」

「あはは…えぇーと…ごめんね?」

息が浅くなり死に掛けているマネモブを見た飛霄は、ばつの悪そうに謝るしかなかった。

 

◇呼雷編遂に完結…!次回、遂に演武典礼編へ…




入院中のマネモブ…
「初めまして、私、飛霄の補佐兼医者を務めさせている…椒丘と申します。」
「へぇ…仙舟では部下一人に謝罪へ向かわせるのが礼儀なんだ…」
勿論そんな訳はないが、その態度は気に食わないと皮肉をぶつけながら”愚弄”するマネモブ。
「ハハッ、とんでもない。飛霄ともう一人の補佐を連れて、改めてまた謝罪の場を設けますよ…」
今日は彼一人で内密にしたい話があるようで…
「貴方が封印した呼雷の心臓について話が…」
「………?」
◇この狐男の目的はー?
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