新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「いよいよね。優勝候補の”彦卿”とダークホース”デビル・プリンス”が闘うのよ。貴方達シラナイの?仙舟「羅浮」演武典礼を。」
「はあ…」
マニアの女王とその護衛達が他愛のない会話を繰り広げている。格闘技に対する熱量の違いが見受けられるが…
バチカン市国にて
「法皇様 ミサのお時間です。」
「だったら今から始まる”演武典礼”の予約をしといてね。」
なんと、演武典礼はあの神聖と権力を兼ね備えた法皇すらキョーミがあるのか。
日本・東京にて
「彦卿様ーッ♡」
「ねぇ、”デビル・プリンス”って仮面越しだけどイケメンじゃない?」
「たしかにーっ」
主婦やJK達はイケメン格闘家達にメロついて嬌声を零している。
R国大統領執務室内にて
「”デビル・プリンス”…?」
格闘技マニアで有名なR国大統領、通称”あの男”は当然群星でも有数の格闘技イベントの事は把握していた。
特徴的な額の傷と胸に刻まれた11の数字、”悪魔の貴公子”を見て意味深な反応をするが…
米国ペンタゴン(国防総省)にて
「パパア、げんきょうって人とプリンスって人カッコいいね!」
「なにが”デビル・プリンス”だっやっぱりマネモブが悪魔王子を匿っていたじゃないか。」
マネモブが持ち帰った”ルアン・メェイ”が整えた”豊穣”の研究資料を分析した”立川博士”の尽力により植物状態から息を吹き返した愛する娘”ステファニー”と”演武典礼”の生放送を見ていたのだが…
”悪魔王子”逃亡の件で米国大統領に詰められている”スマイル・ジョー”こと”ジョー・スペンサー”は形式上は自分の部下である彼が逃亡犯を保護していたという事実から焦燥に駆られていた。
プルルルルル…
「ヒッ…」スマホのバイブ音に情けない声をだす長官。米国のトップ、”不動産屋の感覚で政治をやる強引な男”からの着信だ。
「スペンサーです…」「ボクゥ?」
電話越しの強引な男の声からは怒りは感じられない、寧ろこの状況を心底”愉悦”しているようにも思える。
その態度が寧ろ恐ろしいのだ。スペンサーはどんな”運命”を突き付けられるのか…
「飛剣よ!!」
『おおっ、羅浮の誇りを背負った彦卿選手、試合開始早々大技だあっそれだけ
マネモブ最優の弟子を決める為、彦卿は様子見や出し惜しみなどはせず、最初から大技を使い悪魔王子にけしかけていく。空を自由自在に滑空する”鷹”のような剣のファンネルが巣を刺激され怒れるスズメバチの群れのような勢いで突っ込んでいく。
「どわーっ宇宙にはこんな技使う奴もおるんかッ」
彦卿の技を凄いなあッと、”灘・真・神影流”当主”宮沢熹一”こと”キー坊”は感心している。
意外にも、強者との戦いを求める彼も宇宙に進出したのはこれが初めてなのだ。
”愚弄”の運命を司る”星神”が昇格し、”モンキーワールド”が”スターピースカンパニー”に捕捉され、群星との交流が始まったのは近現代史の出来事だ。
基本的に彼等の故郷で危険が蔓延る外宇宙と関わるのは、”マネモブ”のような命知らずで軍の中枢に入り込んでいるような者しかいないのが現状である。
「俺と打ち合った時より飛剣の精度がキレてるぜ。」
彼のもう一人の師であった鏡流のしごきや、マネモブが教えた筋トレや食事メニューを忠実にこなして基本性能を上げているお陰だろう。悪魔王子は彼の猛攻をどう凌ぐのか…
”幽幻真影流” ”朦朧拳”
『で、デビルの姿がブレて…彦卿選手の攻撃をすり抜けている!?』
すり抜けながら攻撃を行う攻防一体の拳”朦朧拳”。
『まるで実体のない幽霊のようだ!!』
実況のフク郎の例えはかなり的を得ている。”幽幻”の”幽”の文字は正にそこから取られているからだ。
「なにっ」「何故悪魔王子が幽玄のかわしを…?」
「キー坊、幽幻ってなんだよ。」「俺も気になるっス。」
かつて”幽幻真影流”と因縁のあった灘の面々は驚愕し、シラナイ者はキョーミをそそられている。
「それは俺が教えたからだ。」
「全く、本当にあのクソ親父に似て来たなお前…」
タバコを咥えながらご満悦なマネモブに、彼と同門であり数少ない”灘”と”幽幻”両方を学んでいる”姫次”は”悪魔を超えた悪魔”と呼ばれる父親を想起して呆れている。
「しかし悪魔王子は回避に専念するばかりで彦卿君の魔合いに入れていない。」
「幽幻のかわしで永劫避け続けるのも不可能だろう。」
動揺する若者たちと違い冷静に戦況を俯瞰する”静虎”と”尊鷹”。特に尊鷹は出奔している時に”幽幻真影流”歴代最強と呼ばれた”拳聖” ”日下部丈一郎”の元で学んでいる為、彼の戦術眼に間違いはないだろう。
「しかもあの彦卿君って子、ちゃんと手に獲物を持っていて抜け目がないっス。」
仮に悪魔王子が飛剣から抜け出しても、カウンターの準備は整えていると実践的プロレスラーの目から分析する鯱山。
「だったらここからが悪魔王子の見せ所や。」
飛び回る剣で牽制し距離を取っている彦卿にどのような一手を打つのか…?
(チィッ、近付けさえすれば、幻魔でも塊蒐拳でも霞突きでもいい…あの金髪のガキくらい一発でノックアウトする自信はある。)
ならば遠距離手段の幻突を使うか?しかし、強烈な踏み込みという工程が必要という隙を彦卿が見逃すはずも無く…
(多少の被弾はしょうがない…寧ろ、)
悪魔王子はその名の通り悪魔的な閃きをし動きを止める。
『おっと、悪魔の貴公子が止まったぞおっ。飛剣を避け続けるのに体力的な限界が来たのかあ!?膠着した試合がついに動くのか!!』
幽幻のかわしをやめた悪魔王子は…
ブシャアアアアッ
「「「「「うわっ…」」」」」
なんと、首の頸動脈に飛剣を喰らって大量出血を起こす。観客達は流血沙汰に悲鳴を上げ、攻撃を行っていた彦卿もやり過ぎてしまったと焦る。
いくら何でもアリのバーリ・トゥードとはいえ、演武典礼は殺し合いの場ではないのだ。静虎の隣で試合を見ていた愛子と優希の女性組は、思わず手で目を覆ってしまう。
「アイツ何考えてるんや!?」
観客達は悪魔王子が不覚を取ったと認識しているが、灘一族だけは悪魔王子があえて首を差し出したというのを長年格闘技に関わって来た経験から察している。
『こ、これ以上は危険だ。今すぐ試合をとめ…』
実況のフク郎がレフェリーストップをかけようとした所、何者かに口を塞がれる。
「待てよ。試合はここから面白くなるんだぜ?」
関係者席からいつの間にか抜け出していたマネモブが彼の口を塞いでしまった。
「アイツ何してるんや…」
熹一達は試合の流れが気になりつつも、マネモブの移動と行動の早さの凄さを認めると同時に引いていた。
「あ、悪魔王子さん。もうやめた方がいいんじゃ…」
彦卿は彼に大怪我を負わせた負い目から降伏を促す。神聖な儀式の場を血や殺人で汚したくはない…
「俺を誰だと思ってるんだ。死んでも生き返る…」
それが悪魔と呼ばれる所以…悪魔王子が首に意識を集中させると…
「おおっさっきまであんなにドクドク流れていた血が止まってるぞッ」
”横隔膜は第二の静脈心臓と呼ばれている。横隔膜が1分間に行う収縮は心臓の4分の1に過ぎないが、血液を圧縮する力は遥かに強力”
”横隔膜を古来より伝わるヨガの呼吸法で独自の刺激を加えると、血液の循環を活性化させることも、鈍らせることも自由自在に行える”
『な、なんと!!致命傷かと思えた傷を、手を使わずに塞いでしまったあッ』
『デビル・プリンスの正体は、”悪魔”ではなく”神”だったのかあ!?我々は今、”神”の奇跡を目撃しているのか!?』
試合を止める筈だったフク郎もそのパフォーマンスに圧倒され、試合にのめり込んでしまう。
(な、なんだこの人は…)
「どうした?お前がつけた傷はふさがったぞ。安心して責めて来いよ。」
血は止まったんだから安心しろと悪魔王子は挑発するが、安心どころか却って彦のメンタルは更に揺れてしまう。
「彦卿君は
静虎が険しい顔をしながら呟く。
「だったらこっちから行かせて貰うぜッ」
攻撃を止めてしまった彦卿に、ここから反撃開始だと責めに行く悪魔王子。
ハッ 戦いに意識を戻さなくてはと、間合いに入って来た悪魔王子に剣を振るうが、難なく避けられ後ろに回り込まれてしまう。
「うぐっ…」そのまま寝技に入り、彦卿の首を強く締め上げる。
「すげえ…これが人間の出せるスピードか?」
『速い、圧倒的に速い!!まるで水を得た魚!!これが羅浮を救った英雄の推薦に裏打ちされた世界最高峰のグラウンド・テクニック!!ここから先は悪魔の殺戮、いや神の審判か!?』
観客は一連の攻防に息を呑み、実況席も悪魔王子を褒め称えるが、
「悪魔王子が彦卿君と比べて特別速いんやない。彼の対応が遅れているからそう見えるだけの事…彦卿君は悪魔的パフォーマンスに翻弄され、動揺から本来の実力を出し切れてない。」
「あの羅浮の剣士は反撃を許さない連続攻撃の応酬で試合のイニチアティブを握ろうとしたが、悪魔王子は心理戦でアドバンテージを取った。」
宮沢兄弟達の”目付け”は相変わらず的確で鋭い。
「なんかプロレスみたいっスね。好感が持てるっス。」
「ワシ…あの戦い方にどこか見覚えがあるんや…」
プロレス界出身の鯱山は怪我を負いながら反撃する悪魔王子にプロレス精神を感じたが、キー坊は目の前で繰り広げられている光景にいつかの激闘が頭をよぎっていた。
『どうする彦卿選手!!チョークスリーパーはガッチリ決まってしまったぞ!!ここから抜け出せるのかあ!?』
(く、苦しい…息が…)彦卿の意識が朦朧とし始める。
(…あの技は消耗が激しいけど、負ける位なら…)だが、彼にもまだ何か手札があるようだ。
ピリッ… 「!」
悪魔王子は一瞬空気が冷えた事を瞬時に察知し、悪魔的勘の良さで彼から離れる。その直後…
ピキィーン
『な、なんと!!これまた随分と派手なカウンダ―だあっ』
彦卿は周囲全体に氷を発生させ、悪魔王子の体を拘束しようと考えた。
「あれは…」フク郎の隣に居たマネモブはその技に見覚えがある。鏡流が彼に喧嘩を売って来た時、”土竜突き”を封じる為に使った技だ。この彦卿もまた、驚異的な速度で師匠の技を吸収していく、天賦の才を持っている。
『だが”デビル・プリンス”は驚異的な戦闘勘でそれを察知し紙一重で躱したぞッ正に”神”技』
フク郎がちょっとしたシャレを言いながら神掛かっている攻防で張り詰めたスタジアムの空気を多少和ませる。
「はあっ…はあっ…これも避けるなんて…」
やるねお兄さんと賞賛する彦卿に対して、
「フンッ、さっきのチョーク、それからその大技…」
相当消耗したように見えるぞと悪魔王子はニヤリと嗤う。しかし、彼もまた派手な出血パフォーマンスにより、貧血症状で身体に倦怠感が出始めている。
「お互い満身創痍一歩手前…」
そろそろ決着がつくぞと予測する静虎。
「「………。」」
剣と拳を構え睨み合う二人、一秒が永遠にも思える程の重厚な空気だ。
ダッ
もう後がない、次使う技に全てを捧げる勢いで駆ける。
”円月流” ”土竜突き”!! ”灘神影流” ”霞突き”
両者が選んだのはシンプルに速い突き技だ。もう下手な小細工などいらない、一瞬でも早く、敵に攻撃を叩き込む。
(突き技の対決か、剣を使いリーチで優ってる僕にそれを挑んでくるなんて…)
優勢なのは僕の方だと彦卿は判断する。実際、彼の剣の方が先に悪魔王子の胴を捕えるが…
ギュインッ 「なにっ!?」
「これが”灘神影流” ”弾丸滑り”をより進化させた”スリッピングアウェイ”だッ」
猛スピードのトラックを自身に衝突させ、その慣性エネルギーを独自の身のこなしで逃すという、一歩間違えなくとも死ぬ、おおよそ彼にしか出来ない訓練で身に付けた至高の護身法。
ドンッ 「はうっ…」
悪魔王子のカウンターが彦卿の顔面を確実に捕らえ、彦卿は鼻血を出しながら後ろへ大の字に倒れ込んだ。
『き、決まったあッ剣客と悪魔の戦い、制したのは”デビル・プリンス”だあっ』
うおおおおおおおおおおおお
余りに見ごたえのある試合に、彦卿を応援していた筈の現地人ですら歓声を上げている。
「”土竜突き”を”弾丸滑り”で避けながらカウンターキメるなんて…」
またも過去の激戦の”記憶”が掘り起こされるキー坊である。
「フン、マネモブ最優の弟子は俺だと証明された訳だ…」
意識を失った彦卿に拳を突き付ける悪魔王子。そこにはいつもの皮肉だけでなく、彼なりの激励も含まれているように思える。
『ええ、一回戦から激闘を繰り広げ場を盛り上げてくれた彼等の試合に水を差すようで申し訳ないのだが…』
歓声も収まってきたころ、フク郎が他のレフェリー達と話し合いながら、バツの悪そうに口を開く。
『諸事情あってレフェリーストップが遅れ、私も彼等の戦いについ夢中してしまったのだが…』
”演武典礼”のルールに乗っ取れば、悪魔王子が大量出血した時点でTKO負けとの事。
『ウィナー、彦卿選手!!』
「「「「「ええっ!?」」」」」
担架で運ばれていく彦卿をよそに、観客席は再び喧騒に包まれるが、今度は賞賛ではなく、困惑や訝しみが場を支配している。
「いや、先に落ちたのは彦卿なんだから勝ったのは”デビル・プリンス”だろ。」
「待てよ、これが実戦だったら…あの大量出血を鑑みるに、先に殺されてたのは”悪魔の貴公子”の方かも…」
「たらればや三段論法はですねぇ」
試合結果は賛否両論、正に勝負には勝ったが、試合には負けたという所か。
「フッ、くだらない…」
そんな群衆たちを鼻で笑い、おぼつかない足取りで静かに席に戻っていく悪魔王子。一回戦敗退に思う所がない訳ではない。しかしマネモブの前で弟子同士による骨肉相食む戦いを制した、彼にはそれだけで十分だった。
◇次回、次の対戦MATCHは一体…?
な、なんや連日評価が増えていく…感謝しますガシッ
これからも励むからお願いさせて貰おうかァ
ちなみにこの話は高校鉄拳伝タフ33巻の”ゴードン・クランシー”戦の影響を大きく受けてるらしいよ。名勝負だから是非履修して貰おうかァ。
話逸れるけどゴードンって瞬間移動のような身のこなしに体重や血流操作したりとか名門の柔術家出身なのに灘や幽玄みたいな技使うよね。