新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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今回と次回はタフ要素強めになりそうっス。


最強チャンピョン(?)宮沢熹一

「フッ、無様だなキー坊。地球人類最強格闘家を騙るお前がまさか一回戦敗退なんて笑っちゃうよね。」

「やかましいわっお前だって一回戦敗退してたやろが。」

「フン、試合には負けたが、俺は羅浮最強剣士を倒してるんだよ。」

「へっ、実戦だったら首ハネられてたんとちゃうか?」

 

「マアマア、同ジ一回戦敗退同士仲良クシロヤンケ。」

地球上では”最強チャンピョン”を名乗る宮沢熹一だったが、演武典礼においては最強とは程遠かったらしい。彼の一回戦の相手は”ベロブルグ”の巨大メカ”スヴァローグ”、まるで”黒鉄の城”を想起させる漆黒のロボットだ。トダーの仲裁は却って、二人の機嫌を損ねるだけだ。

 

「灘神影流は人間相手に作られたもの…機械相手に本気でケンカして勝てる訳ないやろが。」

あのロボット、ミサイルとか光線バンバン撃って来たんやで、お前も闘ってみーやと悪魔王子に反論するキー坊。

「まあ、熹一さん程の格闘家でも生身ではトダーにすら勝てませんからね。」

マネモブは擁うつもりで言ったのだが、それは擁護になってないでとキー坊は若干ショックそうだ。

 

「フン、そこまで言うなら…」「!」

キー坊は結構好戦的、売られた喧嘩は買う、貧乏だろうと学がなかろうと構わないが喧嘩に負けるのだけは嫌だという哲学を持っている。

演武典礼には本選以外に参加者同士が思うが儘に対戦するエキシビションMATCHがある。

 

「ワシと闘えや悪魔王子。」

「そういえば、キー坊と本格的に戦った事は一度もなかったな。」

多少小競り合いした経験はあるが、この際どちらが強いか決めてしまおうという。

 

「絶対勝って下さいっス!」

タブレットを持った鯱山は、この試合が彼等のジム運営に相当響くからとキー坊にプレッシャーをかけている。既に本選で敗れているので、ここで巻き返さないと不味い。

 

「当然俺を応援するだろ?なあ、師匠。」

悪魔王子はマネモブにそう問うが、熹一をかつての師の一人として尊敬している身としては、答えに困る質問をすなっと内心思っている。

 

「なんやマネモブ、師匠ならしっかり応援してやれや。」

それが弟子を拾った者としての責務やろとキー坊は言う。粗暴で挑発するような態度も目立つ彼だが、サッパリした好青年な部分が垣間見える事もある。

 

「わ、分かりました。悪魔王子、熹一さんをぶっ倒せ。」

「言われるまでもないよ。」

拳を突き出し合う二人、”虎”と”龍”、どちらの後継者がより強き者なのか、今「羅浮(ここ)」で決まるのだ。

 

………

 

「キー坊頑張れー!」「熹一くーん!!」

「熹一…」

観客席から熱い声援を送る優希や愛子に手を振り替えすキー坊。彼の父親である静虎も、その名の通り静かではあるが、内心では彼の勝利を願っている。

 

「妬けるねぇ、俺も一応灘とは血の繋がりがあるんだけどなあ。」

灘の面々が応援しているのはキー坊、対して悪魔王子の背中を押すのはマネモブしかいない。

だが、本当に嫉妬しているかと言うと微妙な所で、ここまでの旅路でマネモブとの信頼関係を深めた彼にとっては、その応援一つでも十分なのだ。

 

「この試合にレフェリーはいないで。」

それはつまり、正真正銘のノールール、どちらかが倒れるまで潰し合いが続くと暗に示している。

「まあ、お前が参ったって言うなら認めない事もないで?」

 

「その減らず口、今すぐ叩けないようにしてやるよっ」

悪魔王子は彦卿戦では遂に披露できなかった至高の奥義を披露しようとする。

ドクン ドクン

超人の心臓が今、慟哭する。

 

”幽幻真影流” ”象塊”

幽幻のオカルト技で体重を増加させ、より強い踏み込みを行う。

「この動作は!!」

観客席で見ていた静虎が豆鉄砲でも喰らったような驚きの表情を見せる。

 

”幻突発射ッ”

目に見えない謎のエネルギー砲がキー坊を襲う。

「げ、幻突やと!?」

マネモブの奴はどれだけ灘や幽幻の技を流出させれば気が済むんやとキー坊は溜息をつく。

 

「幻突って…師匠は”玄脚”という特殊な脚がないと使えんって言ってたけど…悪魔王子もそうなのか?」

数少ない幽幻を学んだ者として忌憚のない疑問を持つ姫次だが…

「いや、悪魔王子の脚は鬼龍から遺伝した”龍脚”の筈…恐らく彼の持つ”突然変異の心臓”で外部的なバフを掛けて龍脚だけでは足りない踏み込みの威力を補っているのだろう。」

 

「あ、あんな目に見えない当身にどうやって対処するんスか?」

「…熹一は幻突を撃つ敵への対処法を確立している。」

キー坊が収めている武術にはこんな技もあるのかと困惑と戦慄を覚えている鯱山に説明するように、今まで声援を上げず、黙って試合を静観していた尊鷹が口を開く。

 

”灘神影流” ”弾丸滑り”

幻突を体表で滑らせ、そこに己の”気”を練り込んで更に威力を上げる。

”幻突返しッ” 

 

「どや、これが灘と幽幻、ワシが合一させた最強のオリジナル技やッ」

自分が撃った幻突で自滅しろと煽るキー坊だが、

「その技は既に予習済みなんだよね。」

 

ドンッ

悪魔王子もキー坊同様、幻突を滑らせてあらぬ方向へと飛ばす。幻突が衝突した壁には大きな亀裂が入った。こんなものが人にまともに当たったら内臓や骨を簡単にやってしまうだろう。

「なにっ」キー坊のように気を練って返す事こそ出来ないが、幻突を無力化するだけでも相当なものである。これは暴走トラックで”スリッピングアウェイ”の鍛錬を積んでいた賜物であろう。

 

「どういうことだ?」

悪魔王子はまるで、キー坊に”幻突返し”という手札があるのを知っているかのように難なく対処した。観戦していた灘の面々は違和感を隠せない。

 

「不知火御殿の戦い…」

悪魔王子がそう一言つぶやいた事でハッとするキー坊。

西暦2009年の末、巨大右翼団体・集英新党の総裁で、武道家でもある。「日本武道界の大重鎮」「日本の黒幕(ドン)」”不知火検丈”の立ち合いの元、”拳聖” ”日下部覚吾”と”宮沢熹一”が繰り広げた”不知火御殿の戦い”

 

その死合いは後世に残すべきだと考えた検丈の采配により、ユーチューブなど各プラットフォームで生配信されたのだが、当時の同説数が120万人を超えるという凄まじい反響を呼んだ。現時点での再生回数は2億を超えるとか超えないとか。

 

「思えば悪魔王子は、私が幻魔を撃つ所を動画で見ただけで習得するような怪物的な天才だった…」

静虎は彼と初めて相対した時の事を思い出していた。

「つまりこの戦い、幻突では勝負は付かないって事?」

きょとんとした顔で疑問を述べるリカルドだったが、その認識は正しい。

 

「チマチマ遠くから撃ち合っててもつまんないだろ。」

悪魔王子が通用しないのは分かり切っていた幻突を撃ったのは、単に自分がどれだけ強くなったかを見せたかったからだ。大柄な肉体に反して、結構承認欲求が強い部分がある。

ここからが本番だと、悪魔王子は彼に殴りかかる。

 

「ハッ、こっちは灘と幽幻の本家本元なんやで!?」

”幽幻真影流” ”朦朧拳”

悪魔王子の攻撃をすり抜け後ろに回り込み蹴り飛ばそうとするキー坊だが…

「その技は俺も見せてるだろ。」

彦卿の飛剣を避けたように悪魔王子も朦朧拳で対抗する。

 

”重力を無視した高い次元での瞬間移動”

”残像を残し瞬間移動する朦朧拳の応酬ッ”

「まるで不知火御殿での戦いの焼き直しを見てる気分になる…」

「こ、今度見てみるっス。」

尊鷹の言葉を聞き、かつての熹一の武勇にそそられる鯱山。

 

「どっちの拳が先に当たるんだろう…」

紙一重の回避と攻撃が連続する中、心配そうな目で熹一を見守る女性陣だったが…

「悪魔王子、お前この構えは知ってるか?」

「なにっ」

突如として朦朧拳による回避をやめたキー坊が手を前に押し出す独特の構えをする。悪魔王子の拳がモロに突き刺さらんとするが…

 

”夜叉燕ッ”

悪魔王子の攻撃は受け流され、寧ろ彼の方が強烈な二弾蹴りによるカウンターを胸と腹に二発被弾してしまった。更に…

”潜隠爆破脚(見えない爆破のような蹴り)”

内臓そのものを破壊するのではなく、気を溜め込む”丹田”を破壊、ゆっくりと内機能を弱らせ3年後には死に至らしめるという危険すぎる技。

キー坊がここまでやるとは、そこまでしないと悪魔王子には勝てないと判断したのだろう。

 

「うぐっ…」

「前にワシのローキックは効かないとか言うてたけど、結構痛いやろ?」

負けを認めれば、気の施術で解いてやらん事もないでとおちょくる彼だが…

「ククク、舐めるなよキー坊…」「!!」

悪魔王子は独自の印を結んだ。

 

「これは”総身退毒”を応用した気の操作!!」

「悪魔王子の奴…まさか吉祥寺でキー坊とボリスが闘った時に見て盗んだのか?」

リカルドはロシアから命を狙われていた時、自身を捕えようとした”囚人兵” ”ボリス・イワノフ”と熹一が衝突した時の事を思い出した。

 

「全く、相変わらず技を盗むのだけは上手いのォ…」

ここまで本気の技を出しても倒せないという事実に、驚くと同時に武闘家の血が騒ぐ。

「”気”のコントロールさえ意識すれば、キー坊の蹴りなんて怖くないよォ」

首筋をパンパン叩いて悪魔王子は煽る煽る。

 

「悔しいが…玄脚の存在を鑑みても、基本性能は心臓を覚醒させた悪魔王子の方が上だ。」

何だかんだキー坊もアラサーのオッサンである。人間老いには勝てぬもの、例え息子であろうと、目付けは正確に述べるオトンである。

「蹴りも”気”を乱す攻撃も効かない悪魔王子に対して、熹一がどう攻略するのか見物だな。」

尊鷹は苦戦する甥を心底愉しそうに観戦している。このような切迫した戦いこそ、格闘技の醍醐味だ。

「いいぞ龍を継ぐ男ーッ」「行クヤンケ―ッ」

キー坊は今までの技が通用しなかった事で焦りが見えている。そのままぶっ倒せと仲間達が応援する。

 

 

 

「”灘・真・神影流”当主は例え悪魔だろうと倒してみせる…」

見せたろうやないか、超絶技巧の技を…!!熹一はそういうと”気”を掌に貯め始める。

(次は何を撃って来る…)

宮沢熹一は技のビックリ箱だ。まだ自分のシラナイ技を撃ってくるかもしれない。悪魔王子はカウンターを決める為に構える。

 

「これは…!!」

先程熹一が使った”夜叉燕”と同じ構えだ。まさか、たった一度見ただけの技を使おうとでも言うのか。

「悪魔王子の才能なら…」この短時間の攻防だけでのラーニングも可能かもしれない。何せ動画で見ただけの”幻魔拳”を修得する程だ。実際に受けた技なら尚更覚えやすいだろう。

 

「かかってこいよキー坊。」

「ああ、気持ちようブチのめしたるわ。」

カウンターなど意に介さずキー坊は悪魔王子の元へ駆ける。

(風"呼吸"を起こし、火"意識"をつけ、爆発"丹"させるんやっ)

「熹一はまさか、幻魔の先にある極限究極の技を使おうとしているのか!!」

 

「お前、吉祥寺公園でワシにこの技を撃ち込んでみせろって言ってたやろ。」

望み通りにしてやると、掌に溜め込んだ気を悪魔王子の頭に突き付け爆発させる。

「「うぐっ」」

同時に、ガルシアハートで驚異的なバフの掛かった蹴りのカウンターを頭に喰らって、キー坊の視界が揺らぐ。軽く脳震盪を起こしているのか、キー坊は頭を抑え込む。

 

「き、熹一君は大丈夫なの?」

「いや、寧ろ不味いのは…」

妻の問いに、悪魔王子の方が重傷だろうと返す静虎。悪魔王子も熹一同様頭を手で覆い、苦痛の声を漏らしていた。

 

(ぜ、全身が焼けるように熱い…!!体が溶けていくような感覚ッ)

しかし悪魔王子は強靭な精神力で苦痛を堪え、キー坊にトドメを刺そうと近付いていく。

”耐えている 悪魔王子は地獄の苦しみには慣れている”

 

キー坊にトドメを刺そうと拳を振り上げるが…次の瞬間、

「苦痛の後は、夢見心地な至福の快楽や…」

悪魔王子の脳裏を巡る、幸福な”記憶”

 

”どや、悪魔王子。ピノコニーは愉しいやろ?”

 

”この海は、お前のアニキの戦跡が刻まれた地や”

 

”鏡の中にいる己より、早く拳を撃てるようになるんや”

 

共に旅をして来たマネモブの声がフラッシュバックする。決して長い旅路ではない。それでも大事な”記憶”…

「悪魔王子ガ、膝カラ崩レ落チタヤンケ…?」

「観音様みてぇな穏やかな顔してやがる…」

 

”精髄破滅拳”

幻魔を超える地獄の苦しみの後に天国のような悦楽を与え、そのジェットコースターのような緩急で敵を戦意喪失に追い込む。

「…正直言って、この技がお前に効くかは賭けやった。」

幸せな記憶に浸り、目が虚ろになっている悪魔王子に話し掛けるキー坊。恐らく彼にその言葉は届いていない。

 

「お前が”幻魔”なんて生温い地獄を生きて来たのは知っとるからな。」

しかし、マネモブという師、あるいは仲間、あるいは友を得た事で、”精髄破滅拳”により引きだされる幸せな”記憶”を得たのだろうと。その事実は、何よりも代えがたい、彼の救いを象徴している。

 

「マネモブ…」

爽やかな笑顔をかつての弟子に向けるキー坊。そこに勝利した喜びはない、悪魔王子に安らぎを与えた事への感謝である。

 

「あーあ、あんだけ煽っといて、俺の顔丸潰れじゃんか。」

軽口を叩きながら、トダーと共に、大事そうに悪魔王子の肩を取り運ぼうとするマネモブ。

「…悪魔王子の事、」

これからもどうか見守ってくれやと、キー坊は想いを託す。

 

マイ・ペンライ(大丈夫)

背を向けたマネモブは、師に親指を立て去って行く。そこに敗北への悔しさなどない、誰もが清涼感に満たされた戦いであった。

 

◇想いは脈々と受け継がれ…




スタジアム観客席、ガラス張りの関係者室にて…
「なんだかんだ言って、最強は熹一か…」
身長190近い頭を丸くまとめたスカーフェイス、黒いジーパンとTシャツに革のコートというファッションの男が一連の戦いを見つめていた。

「悪魔を超えた悪魔と呼ばれる貴方でも、我が子や親戚は可愛いのですか?」
その隣には狐族の男がいる。関係者席に居座っているという事は、ここ「羅浮」において相応の地位を築いているのだろうが…特筆すべきは、彼の両手両足が義手義足だという事だ。

「俺は息子と甥っ子の応援に来た気の良い叔父さんじゃねぇよ。」
吐き捨てるように否定する彼だが、単なるツンデレだろう。そしてその男の視線の先には…

「………。」「ヒイッ」
対岸の観客席に、黒く禍々しいオーラと白い眼光を放つ謎の男が…狐族の方は怯えているが…
「フッ、あの時から早10年か…もう一度お前を愛してやるぜ。」

◇この男達の目的はー?
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