新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
演武典礼開催より少し前の事…
”悪魔を超えた悪魔” ”怪物を超えた怪物” ”蓋世不抜の超人” ”傲岸不遜の嗤う龍”
”不羈奔放の武人” ”病的な程自己中心的で周りにいる者に厄災と不幸を齎す人間の屑”
IQ200を超える天才的な知能、身長は190近く、心・技・体は鍛え抜かれている、顔に横一線の傷跡があり、黒で統一したジーパンとTシャツに茶色の皮コートを靡かせるその男には、数多くの異名がある。
「初めまして鬼龍さん。私、稲荷神と申します。」
演武典礼の会場である”競鋒艦”の関係者室、ここは運営費を提供するスポンサー室のようだ。
人々から悪魔と呼ばれる程に蛇蝎の如く嫌われている自分を呼び出したこの狐族の男は、その義手と義足から禄でもない男なのだろうというのは何となく察せられる。
「この俺に倒して貰いたい奴がいるんだってな。」
「………ええ、私の手と脚の自由を奪ったあの男に、」
”その男は素手で私の手を…足を…いとも簡単に引き千切った”
”悪魔なんてものじゃない。あの男の怒りに触れたら有象無象の恐怖を植え付けられる”
『悪因悪果…己の悪行を恨め。』
『国賊が。』
”関節を逆方向に一撃加えるだけで切断する”
”私の手足をまるで鶏肉でも捌くように慣れた手付きで斬り裂いていく”
”あの男の前では有機生命体とはこんなにも脆弱な生き物なのかと思い知らされる”
ファントム・ジョー
「懐かしい名だ…」
「わ、私はあの男の名を口にするだけで呼吸が止まらなくなる…今でもあの時の事を悪夢に見るんだ…」
鬼龍とは対照的に、依頼人は過去のトラウマを思い出して脂汗と震えが止まらない。
「フン、アイツは今”巡海レンジャー”をやってるんだろ。」
”巡海レンジャー”とは”巡狩”の運命を歩み悪党に”悪因悪果”を突き付ける事を生業としてる義賊の総称だ。そんな彼に目を付けられたということは、それ相応の悪事をこの稲荷とやらは犯している筈である。
「ええ、だからこそ同じ闇社会で生きる貴方に依頼した…」
狐族でありながら同族を”歩離人”や”殊族の民”の変態権力者共に売り飛ばす人身売買、仙舟では禁忌とされている”豊穣”の流出、これらの大罪を犯して”稲荷”は莫大な富を築き、名前の後ろに”神”を付けるまでに至る。
狐族は”豊穣”の影響を受けた長命種の中でも美男美女が多いため、商品としてはとても人気がある。
「フン、お前の所業は悪知恵の働く狐の範疇は優に超えてるな。」
鬼龍自身も相当なクズではあるが、何だかんだ善行を積むことも多いために彼の事は気に食わないらしい。
「私は、報復の為にあの男の事を調べ尽くしたんだ…」
ファントム・ジョーは悪人に制裁を加える時、いつも”俺の名は日下部丈一郎”と言い残して去って行く。
群星中の同じ名を持つ有力な格闘家を探し回った結果、地球という辺境の惑星にある”幽幻真影流”という古武術との関りがあると分かった。
「他にも、貴方とファントム・ジョーがかつて交戦した事があるのも知っている。」
「フン…」10年前、今と同じように日本の裏社会を生きるフィクサー”御子神”の依頼を受けた鬼龍は、彼が使う朦朧拳を修得する為とはいえ、ファントム・ジョーに肋骨が飛び出るするどい拳を喰らって敗北した苦々しい”記憶”を覚えている。
「なに、過去の貴方が敗北した事は気にしてません…」
その言葉にキッと視線が鋭くなる鬼龍に狐は情けない声を上げてビビってしまう。
『最初から勝負だと思っていないから負けたとも思ってない(Sのコメント)』
稲荷はファントム・ジョーや鬼龍周りの人間へのリサーチも徹底的にしているようだ。
「お前の情報収集能力の高さだけは褒めてやるよ。」
だが、ファントム・ジョーと闘うとして、彼がどこにいるか見当はついてるのかと鬼龍は問う。
「宮沢熹一…」
”T.D.K" "
理由は分からないが、彼は現”灘・真・神影流”当主が出場する大型大会には必ず観戦に現れるという。
「つい先日、灘の関係者がここ「羅浮」で英雄的な活動をしましてね…」
その褒賞として、彼の故郷に演武典礼特別招待枠が一つプレゼントされたのだ。
「成程、熹一の奴がこの大会に出場すれば…」自ずと奴の方から現れるだろう。
この国賊の復讐心を満たす事にキョーミなどないが…
「10年前の借りがあるからな。もう一度お前を愛してやるよ。」
傲岸不遜に悪龍が嗤う。
………
悪魔王子と宮沢熹一、最強を決める戦いが終わった時、”
「まだ偽善的で下らん義賊ごっこをしているのか。」
「灘の悪鬼羅刹、こうして相対するのは10年振りか。」
鬼龍の痛烈な批判に何の用だと尋ねるファントム・ジョー。
・・
「何の用だぁ?てめぇもその気の癖に勿体ぶってるじゃねぇよ。」
いい女を見れば抱きたくなる、強い奴を見れば闘いたくなる、それは男としての根源的な欲求、本能である。
「お前も正義の使者を騙っているが、本質は力を振るう衝動に忠実なタイプだろ。」
ニーッ 鬼龍の言葉を聞き、巡海レンジャーは不気味な笑みを浮かべる。両者本気になったのか…
ビュンッ 常人には観測できない速度で近付いていく二人。
「「”幽幻真影流” ”朦朧拳”」」
両者の繰り出す技は同じ、まるで幽霊のように体がすり抜け合う。立ち位置が入れ替わり、敵に向き合い直した二人の頬は、互いの拳で斬り裂かれていた。
「ほう、かつて同門だった尊鷹は、お前が俺に負けたのは朦朧拳を修得する為だと言っていたが…」
それは本当だったのか、学習能力は高いようだなとファントム・ジョーは多少感心する。
「フン、これでも勉強家でね。」
意外にも鬼龍は世界中の哲学書や武術書を読み漁るような活字中毒者だ。
「しかもお前…」
一撃拳を交わした事で鬼龍に違和感を覚えるファントム・ジョー。以前闘った時からはや10年経っているというのに…
「老いを感じないな。」
「はーっよく気付いたなっ。」
上機嫌になった鬼龍はベラベラと語り出す。灘の門下生でも一際優秀だったある男が、宇宙中を練り歩いて情報だけではあるが”豊穣”を地球に持ち帰った。
それを元に”立川博士”は”自己治癒力促進剤”、あらゆる病気に効く”ネオ・タチカワスペシャル”などを完成させたのだ。
”バースト・ハート”を患う彼も当然それを服用しており…
「俺と龍の血を受け継ぐ者達は心臓病を完治した…それだけでなく、副次的な効果で多少ではあるが肉体的な若さを取り戻している。」
”豊穣”の力は余りに劇薬なので、立川博士はこれでも500億分の1程度にまで”祝福”を抑えている。
それでも尚この効能なのは”星神”の権能の強大さを感じる。
「”仙舟同盟”では禁忌とされている”豊穣”に手を出したのか。」
元々悪人の鬼龍だが更に堕ちたなと義心から殺気立つファントム・ジョー。
「フン、それはここでのルールに過ぎないだろ。」
マネモブが豊穣の情報を手に入れたのは”天才クラブ”経由であり、再現したのは”地球上”での話だ。それをどうこうしようが”羅浮”や”ファントム・ジョー”に裁かれる筋合いも道理もない。
「まあいい、どの道お前からは最低でも手足の一本は貰うと決めている。」
正義を執行するに足る罪状が一つ増えただけだとファントム・ジョーは再び拳を構える。
ビュンッ 再び瞬間移動のような速さで衝突する二人。また朦朧拳の応酬なのか?
「鬼龍、お前のそれは所詮猿真似。本物は進化し続けるから本物なんだ。」
「なにっ」鬼龍の朦朧拳は先程同様すり抜けていくが、先程とは様子が違う。
”幽幻真影流” ”朦朧拳” ”霧霞”
先に通常の”朦朧拳”を打ち合った時のように位置関係が入れ替わるのではなく、”残像を残す瞬間移動”で鬼龍の背後を確実に取る。
「朦朧拳など幽幻真影流の基本技にすぎない。これはその発展技だ。」
ゴンッ「うぐっ!?」
後ろから卑怯にも思える容赦のない金的を喰らい思わず倒れ込む鬼龍。
「かつて”四玉突き”を喰らって満身創痍になったのは”疾風”のから聞いているぞ。」
その時と同じように、残りの目玉と喉も潰してやるとファントム・ジョーはトドメを刺しに近付いていく。
「10年前…お前はお師様の道場を破壊し、愚弄した…」
過去の因縁から怒りを燃やして拳を振るう。
フッ…「!!」ファントム・ジョーの拳は空を切る。
突如として、鬼龍はどこかへと姿を消した。幽幻の技ではない、まるで最初からいなかったかのような不自然な消え方…
「金城さん、暴れたいなら俺がケンカ相手になりますよ。」
「マネモブか…」現代の義賊の前に立ちはだかるは、愚弄の運命を歩む者。
◇次回、『巡狩』と『愚弄』が衝突する…!!
ファントム・ジョーって鯱山のパパを壊した設定さえなきゃそんなに嫌われてなかったんじゃないスか?俺は悪因悪果を実行するとか結構好きなんだよね。
あっ、稲荷神はファントム・ジョーを闘いの舞台に立たせる為だけに作ったオリジナル闇のフィクサーでヤンス。狐族の御子神って認識してくれればそれでいいっスよ。