新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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群星で悪人に悪因悪果を突き付ける為、旅の資金をラーメン屋を営み賄っている”ファントム・ジョー”の元へ…
「すまない、”並ラーメン”を一杯頼む…」
「はいよ。」
今にも色を失いそうな、紫色の装束と身に纏いう女剣士。しかしその心の中には、決して無くなることのない暖かさが確かにある。
そんな女が一杯のラーメンを求めて、今は義賊の"ファントム・ジョー"ではなくラーメン屋の営業中である"ラーメン・ジョー"の元を訪れた。


”巡狩”vs”愚弄”

「悪魔王子と熹一さんが戦ってた時、観客席のアンタ達の殺気がダダ漏れだった。」

"気"の感知によりマネモブは。試合後の祝賀会に向かう皆から抜け出して、ファントム・ジョーと鬼龍を追い掛けていた。

 

「その不自然な消え方…」

其から貰った"愚弄"の権能かと、鋭い眼光で睨みながらマネモブに問う、"ファントム・ジョー"こと"拳聖" "日下部丈一郎"最後の弟子

 

金城剣史

 

「猿空間に抹消した鬼龍を渡して貰おうか。」

執行対象である人間のクズはともかく、同じ幽玄の系譜であり、特殊任務に従軍し"愚弄"派閥の増強に勤しんでいるマネモブを傷付けたくはないと金城は言う。

その悪魔が人の形をしているような男を生かしておいたら、また不幸を振り撒くだろうと。

 

「俺も鬼龍のオッサンが龍を継ぐ者達の父親じゃなかったらこんなクズとっくに殺してるよ。」

首を親指で掻っ切るポーズをしながら吐き捨てるマネモブ。投資のノウハウや暗殺術を学んだ恩はあるが、彼自身は鬼龍に対してそこまでの思い入れはない。それでも庇ったのは、一重に悪魔王子や優希を始めとした龍の血が流れる子供達、彼の兄と双子の弟である尊鷹や静虎には何だかんだ情があり、鬼龍を必要としているだろうと判断したからだ。

 

「それにね、オッサンも俺や米軍との契約を元にある程度丸くなったんだ。アンタが態々手を下す必要はないよ。」

鬼龍やスマイル・ジョーの依頼から始まった"豊穣"を探す旅路、危険な群星に飛び込むにあたって、マネモブは一つの条件を提示していた。

 

『オッサンももう高齢者に近い年齢だろ?そろそろ静虎さんに任せきりにしないで優希ちゃんや姫次、龍星君の面倒をちゃんと見ろよ。』

マネモブの要求は鬼龍が放置している子供達に、父親としての責務を全うする事だった。当然、口約束だけで信用できるような男ではない。なので契約にあたって、鬼龍の体内にゴア博士特製の小型爆弾を埋め込ませてある。そのスイッチはマネモブのスマホの中だ。

 

『生殺与奪の権は我にありっ』

『やかましいわっ…』

自身の決まり文句をマネモブに突き付けられて過去の鬼龍は苦い顔をしていた。

だが、ガルシアの"突然変異の心臓"に頼らずとも、"バースト・ハート"という大きな問題を解決した事で、現在の鬼龍は大人しく灘一族と暮らすようになっている。

 

「そうか、お前も"豊穣"に手を出すキッカケに関与していたのか。」

ならば同じ"幽玄"の人間でも、貴様にも悪因悪果を突き付ける必要はあると、金城は"朦朧拳"の構えを取る。そうでなくとも、鬼龍にトドメを刺すのを妨害されて殺気立っているのだ。

 

「かーっ良いねぇ…」

マネモブは最初からそのつもりである、説得に来たのではない。"巡狩"の"運命"を歩む彼と一度戦ってみたかった。

 

ビュンッ マネモブは金城に回し蹴りを入れるが、

"幽玄真影流" "朦朧拳" "霧霞"

「なにっ霧霞。」

昔の金城は通常の朦朧拳しか使えなかったというのに、マネモブは驚くと同時に、昔より強くなっているかれに戦いを挑んで正解だったと思った。

 

「霧霞の定石だ…相手の不意をつく為に敵の背後に回り込む。」

マネモブの言葉の通り、瞬間移動した金城は彼の背後から拳を入れようとしている。

"灘神影流" "鷹鎌脚"

「!」マネモブは初撃の回し蹴りをそのままスイカを輪切りにする切れ味の灘の技に昇華させ、金城に脚技を入れようとする。

 

ドンッ 寸での所で腕で頭をガードした金城は、ダメージを最小限で抑える。

「昔のアンタは基本の朦朧拳しか使えなかったのになあ…」

「宇宙で"巡狩"の理念を体現する為日々精進してるんだ。」

かつて灘の"高潔なる鷹"に敗れた彼は、己を見つめ直し、幽玄が解散して世界中へと散った"幽玄死天王"を探し出し、頭を下げて彼等の元で鍛え直したという。

 

「霧霞は"鼬"の元で習得したんだ。」

「アンタ…死天王とそんな仲良かったんか?」

マネモブの言葉を無視して金城は朦朧拳で攻撃しに行く。

 

「霧霞を使えるのは何もアンタだけやない…俺は姫次と共に、熹一さん直々に幽幻の技を仕込まれてるんや。」

突撃してきた金城の背後をマネモブが取っている。

ビュンッ

いや、金城も”霧霞”を使いマネモブの後ろに瞬間移動している。

 

ギリッ…「うぐっ」

マネモブの後ろに回り込み、”象塊”で体重を重くしながら首をチョークスリーパーで締め上げる。

「これは”大蛇”から学んだ締め技だッ」

関節可動域が異常に広い”大蛇”の”武山”の”蜷局固め”程異次元な関節技こそ使えないが、10年前より確実に技のキレは増している。

 

フッ…「!また抹消かっ」

金城の腕の中からマネモブが消える。幽幻の消えたように錯覚させるまやかしなどではない、本当に現実から消えている。

「プハーッ、あぶねーあぶねー…」

猿空間から帰還したマネモブは愉しそうに金城を見据える。

 

「…武術の戦いにおいて、その突拍子のない権能は些か卑怯ではないか?」

「おいおい、これは演武典礼のような試合じゃない、ケンカなんですよ。」

猿空間のインチキ染みた効果に苦い顔をする金城に、ケンカはルール無用、金的も目潰しも何でもアリ、誰も助けてなどくれないとマネモブは返す。そも、鬼龍に玉を潰して勝った彼が卑怯と責める筋合いはないと思える。

 

「次は猿空間に逃げる暇もなく仕留めてやるッ」

余りにも素直に接近してくる彼の顔面にマネモブは”灘”の”霞突き”を撃ち込もうとするが…

ボッ 金城の頭が二つに割れ、マネモブの拳は外れる。

これは”疾風の春草”や”NEO宮沢熹一”が見せた事のある”幽幻のかわし”…

 

ズッ 「ぐっ…」

金城の指がマネモブの目に伸びていく。

”幽幻真影流” ”四玉突き”

「目玉二つに喉と金玉潰して…」金城の追撃と言葉が言い終わる前にマネモブはまたも猿空間に逃げる。

 

「…そろそろその逃げ腰も見飽きたぞ。」

金城は思ったより大したことないなと、再び現実に舞い戻り目から血を流すマネモブに落胆したような表情を見せる。

「そうか?俺は金城さんがごっつぅ強くなっとってメッチャ嬉しいで。」

 

(なんなんだコイツは…)

マネモブからの攻撃は一撃たりとも被弾してない。チョークや眼球のダメージ、追い詰められているのは奴の方だ。だというのに、

(マネモブは俺との闘いを愉しんでいる…?)

「手負いの獣が一番恐ろしい、灘・真・神影流は追い詰められてからが”タフ”なんや。」

出血で当分は目も見えない筈なのに、得体の知れない余裕を見せるマネモブに恐怖心が芽生える。

 

「しゃあっ」

恐怖心を払拭するかのように、息も絶え絶えな敵に雑なコンビネーションを撃ち込もうとする金城だが…

ヒョイッヒョイッ

「なにいっ!?」

マネモブは全てを見透かしてるかのように、金城のラッシュを躱す。

 

”灘神影流には二つの目付けアリッ”

”一つは万物を流れる”気”を観測する”気眼”ッ”

”そしてもう一つは、灘を修めた者の中でも一部の選ばれし素養のある格闘家にしか使えない”空眼”ッ”

 

危機的状況に陥った時、一種のゾーンのような状態に陥り、空に現れるもう一人の己が敵の攻撃を俯瞰し、的確に回避する出来る。

”灘神影流” ”空眼の目付け”

学術的には”サードマン現象”とも呼ばれるこの技は、遭難など極限状態の生命危機に陥った一般人にも、同様の体験をする者がいるとされている。

 

(目が見えない状態で攻撃を避けるなんて…)

今までこれといった負傷はしてない金城の顔は焦燥と恐れで汗を垂れ流し、歪んでいく。

パッ

マネモブはメンタルの不調で攻撃の精度が落ちた金城の拳を手で受け流しながら滑らせ…

 

”灘神影流” ”破心掌”ッ!!

「んがっ…」

闘いを制するは、タフシリーズ最初の必殺技によるカウンターであった。金城の心臓が停止する。

「敗北から幽幻にもう一度向き合い、必死に鍛錬したアンタは尊敬できるが…」

「悪いのォ、ワシは幽幻と灘の両方を鍛えて来たんや。」

 

◇決着…

 

 




「フンッフンッ」「かはっ…」
あの世に逝きかけている金城を背後から抱え込み、背中から心臓を刺激して蘇生するマネモブ。
意識を取り戻した彼の口からは唾液が零れ、臨死体験の辛さが感じられる。

(今…黒い太陽と、この前俺のラーメン屋に来た女と会ったような…)
「おっ、しっかり生き返ったようだな。」
金城が甦った事に安心するマネモブ。肉薄した戦いと、それを制した満足感からいい笑顔をしている。

「…俺を稲荷神の奴に引き渡さないのか?」
「稲荷?誰やそれ。仙舟にいる狐族の知り合いか?」
マネモブは鬼龍とは違い、復讐を依頼されて来た訳ではない様だ。

「まあその稲荷とかいう奴の事はどうでもいいやん。闘ってくれたアンタへの感謝の印として、一つ忠告しとくで。」
今の羅浮には灘の面々や彼に父親を壊された恨みのある鯱山などが練り集まっている。早く逃げないとそいつ等が報復に来るかもしれんでとマネモブは言う。

「勘違いするなよ。鯱山さんの家庭を崩壊させたアンタの罪が許されるとは思ってない。」
ただ、キー坊と愉しそうにジムを経営している今の彼に、辛い過去の”記憶”を思い出させたくないだけである。

「そうか…」
「俺もそろそろ戻らんと先に宴会に向かった皆が不審がるからな。俺は何も見なかった事にするで…」
敗北で意気消沈したファントム・ジョーを置いて帰ろうとするマネモブだが…

「そうや、」一つ気になる事があったとマネモブは振り返った。
「金城さん、アンタどないして”グレート・オルカ”を襲ったんや?」
忌憚のない疑問、タフ七不思議の一つ、その一角にマネモブが迫る。

「………分からない。」「なんやそれ。」
だったら理由もなく彼を襲ったのかと呆れるマネモブだが…
「俺から一つ言えるのは…」
俺達は”愚弄”の其にそうあれと”運命”を仕組まれたのだろうと、金城は語った。

「ふうん、それが猿先生の創造物の宿命ということか。」
答えを聞いたマネモブは、キョーミ深そうな顔をして帰って行った。
ちなみに”稲荷神”は”符玄”の占いで悪事が露見して”雲騎軍”に逮捕されたらしいよ。
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