新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「ここがオンパロスのある座標か…?」
「オカシイデース。」
星核ハンターに渡された航路図通りに来たというのに、そこにあるのは暗い星海が広がるだけである。悪魔王子は星核ハンターに騙されたのかと疑っているが…
「シャアケド”ゴア博士”ガ作ッタ”虚数エネルギー探知レーダー”ハ反応シテルヤンケ。」
しかも、今まで訪れたどこの星よりも濃い反応だ。ここまでの規模は、複数の”星神”の”一瞥”や”使令級”の存在がないとあり得ないだろう。確かにそこにある筈なのに観測できないという事実に、トダーはAIながらむず痒さを感じている。
「見えているようで見えていないという事だ…」
「どういうことだマネモブ。」
マネモブには常人には見えないものが見え、聞こえないものが聞こえると言われている。目に見えないトダーに運転を変わろうとハンドルを握る。
「どこの勢力の悪戯かシラナイが…見えるものを見えなくする”真魔”…”ゴーストフット”と似たような術で”オンパロス”とやらを隠蔽している。」
マネモブは手慣れた手付きで宇宙船を操縦しながら、悪魔王子もそろそろ”幽幻”や”真魔”の”心眼”を身に付けられるようになれと言う。相手の魂の陰を見透かし、掴み取る”陰陽互根”など手数をより増やせるとお墨付きを与える。
「魂か…目に見えないという点では”気”と同じようなものか?」
「肝心なのは見えないもの見ようとする己をどう信じるかということ………そろそろまやかしの防壁を抜けるぞ。」
「「「!」」」
三人の眼前で、永遠の円環を表す巨大な”メビウスの輪”が美しい虹色に光り輝いていた。しかし、三人が一番驚いたのはその美しさではない。
「コレハ…機械ヤンケ?」
舟を停泊させようとメビウスの輪に近付いていくと、遠目では黄金虫のように発行していたそれの正体が電気回路から発生したものであると分かった。
「オンパロスは星じゃなかったのか?」
星核ハンター達から聞いた話と違うと悪魔王子は苛立っているが…
「マア、”夢の地”トカモアルシ今更デース。」
この宇宙には電子情報が生命体に昇格している”パンクロード”、夢の中に星を構築している”ピノコニー”、肉体を捨て”記憶”の衣を纏っている”ミーム”など知識のない地球人類は面食らってしまうものなど幾らでもいる。
「オンパロスの正体が機械だったなんてそんな事はどうでもいいんだよ…」
問題は肉体のある俺達三人がこの巨大スパコンにどう侵入すればいいのかということだ。
カフカはオンパロスは”壊滅”の危機に瀕しており、この銀河全てを滅ぼすとされている”絶滅大君”が育っている最中だと言っていたが…
「…アイツ等に連絡するか?」
「うーん、しょうがない。分からない事が多すぎるからしょうがない。」
悪魔王子は不本意そうだが、困った事があったらオンパロス救世の依頼をした時の回線にメッセージを送ってこいとハンター達は言っている。トダーは二人のやり取りを聞いて無言でリダイヤルボタンを押した。
『予定通りの時間だね。ヤッホー初めましてかな?』
電話の向こうにいる相手は、エリオの脚本に合わせてゲームスケジュール組んで良かったァなどと呑気な事を言っている。マネモブ達は初めて聞く声だ。
『何を隠そう、私が星核ハンターの”スーパーハカー”、”銀狼”だよ。ちなみにカンパニーにかけられてる懸賞金は”51億信用ポイント”…』
自己紹介を始める銀狼にお前のパーソナルデータなど至極キョーミないわと悪魔王子は遮った。
『感じ悪…はいはい分かってるよ。オンパロスに着いたはいいけど、目の前に広がるのは巨大なコンピュータで、どうすれば良いか分からず手をあぐねてたんでしょ?』
可能性の予見で何もかもお見通しである星核ハンターに、どこか気色悪さを感じる悪魔王子だったが…
『私達が…というより”エリオ”の予見と”カフカ”の親心から、アンタ達が”オンパロス”に関与するのがより良い物語の結末を手繰り寄せられるって結論を出した訳だけど。アンタ達に救ってほしい”オンパロス”はスーパーコンピューター、厳密に言えば”知恵の星神”である”ヌース”の電子脳から切り離された一部である”ニューロン”…”セプター”の中で演算されてる”仮想世界”なんだよね。』
恐らくキーボードを物凄いスピードで撃ち込んでいるのか、カチャカチャと音を立てながら銀狼はオンパロスの成り立ちを説明する。
「知恵の運命かあ。」
野蛮さや滑稽さを暗示する”愚弄”とは対極に位置する運命だとマネモブは語る。
「…で、俺達にその仮想世界へどうダイブしろと?」
オンパロスがどのような場所かというwhenの疑問は解消されたが、一番重要なのはどうやって侵入するのかというHowの疑問であろう。
『何故に英語…?まあいいや、かくいう私も”パンクロード”出身の電子生命だからね。心当たりはあるよ。』
銀狼が提案する方法は…
『アンタ達が学んでるその”灘・真・神影流”とかいう武術、思念体だけ飛ばす技とかないの?有体に言えば幽体離脱みたいなものなんだけど。』
電子情報も人間の意識体も似たようなもの、もしマネモブ達が能動的に意識を体から切り離せるのならば、オンパロスという仮想世界に溶け込み活動する事も可能だというが…
「”トダー”ハソノ手ノ”オカルト”ハ分カラナイデース。」
元より”幻魔拳”などに代表される”灘の気”の原理を理解出来ず、無機生命体に昇格していないただのAIロボットである彼が幽体離脱など理解出来る訳はないが…
「いや…ワシ、オンパロスに侵入する方法に心当たりがあるんや…」
「奇遇だなマネモブ。俺もオンパロスに入れるんじゃないかと思っていた所だ。」
マネモブが思い付いたその方法とは…
灘神影流 空眼の目付け
学術的には”サードマン現象”、遭難などの危機的状況に陥った時にもう一人の己が現れ俯瞰的に物事を見れるというそれを、”灘神影流”は敵の攻撃を的確に回避する為の”目付け”として利用する。
「俺はそのクウガンとかいうのはシラナイが…」
悪魔王子はアメリカの病院に入院していた時、その天賦の才からか”空眼の目付け”に酷似した幽体離脱状態を引き起こし、遥々海を越えて”吉祥寺”にいた龍星やキー坊に会いに行ったという。
「へぇ、ちなみにその時どんな話したんや?」
「フッ、終わった事だ。もう忘れたよ…」
マネモブの疑問を、気恥ずかしいからか悪魔王子は誤魔化した。
『…ねぇ、友愛が深いのは結構な事だけど。そろそろ切っても良いかな?』
「なんでもいいですよ。」
オンパロスに入る方法は分かった。もう用はないとマネモブは回線を切ろうとするが…
『ああ待って。一つ言い忘れてた。』
銀狼は慌てて最後の言葉を言い残す。
『カフカが救世の為に開拓者達を根気強く待てみたいな事言ってたでしょ?』
マネモブ達がオンパロスに降り立ったら、現実時間で一日もしない内に”星穹列車”もオンパロスに来るから安心してと、銀狼は言い残して通信を切った。
「………また詐欺師みたいなことしちゃったな。」
銀狼の言葉に一切の嘘はない。だが彼女の言動や表情に少しばかり後ろめたさを感じる理由は一体…?
そして意識を切り離したマネモブ達が降臨したオンパロスは…
光暦 3750年 ヤヌサポリス近郊
◇マネモブ達の運命は…?
「マネモブ大丈夫ヤンケ?悪魔王子ハトックニ幽体離脱ヲモノニシテルヤンケ。」
悪魔王子の意識は既に肉体という器を離れ、地面に横たわっている。
「ちょっと待ってね…今”空眼の目付け”の原理を思い出すから…」
マネモブは”ファントム・ジョー”こと”金城剣史”の戦いで満身創痍まで追い詰められた事で発現した”サードマン現象”を能動的に起こそうとするが、上手くいかない。
「メンドクサイカラ”トダー”ガ”マネモブ”ヲ追イ詰メルヤンケ。」
ビュンッ 文字通り”鉄の拳”であるトダーのノーモーション音速パンチがマネモブを襲う。
「うわあっやめろおっロボットが主人に暴力を振うなあっ」
ロボット三原則だの喚きながら、トダーの拳をそのまま顔面に喰らおうものなら、グッチャグチャに崩壊してしまうと恐れるマネモブだったが…
ヒョイッ なんと、マネモブの意思とは関係なく、トダーの音速パンチを見事に避けてしまった。
「コレッテ…」
”空眼の目付け” 成功ッ
『やっと来たかマネモブ。』
幽体離脱しても、相変わらず悪魔は口が悪い。同じ思念対同士、やり取りは可能なようだ。
『よしっそれじゃあ安全の為に俺達の肉体は宇宙船諸共猿空間に送って…』
本体がおねんねしている悪魔王子と違いマネモブの肉体にはしっかりもう一人の自我が残っている。マネモブ達が宇宙船を抜け出すと、最初から何もなかったかのように消えてしまう。
『これで後顧の憂いは何もないな…』
『救世開始だGO-ッ』
◇戦いのゴングが鳴る…!!