新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
これからもお願いするのん。
マネモブ達がキャストリスと邂逅した土地から予言にある”赤髪の聖女” ”メルテス”とやらがいるオンパロスにそう何個もない都市国家の一つ、”ヤヌサポリス”には数時間で到達した。
都市というだけあり、喧騒も建造物の豪勢さも先程の市場とは比にならない規模だ。信心深い民が多いのか、街を見渡すと神職らしき衣を纏っている者がチラホラいる。キャスが言うには、あれは司祭というタイタンの神事の生業としている人々らしい。
丁度今日は、”メルテス”が”神託”を民草に伝える恒例行事の日との事で、これまた間がいい事この上ない。
ここに来るまで、文字通りオンパロスの空を支える巨人、”背負いのタイタン” ”ケファレ”というらしい地母神とは逆方向に進んで来た。その道中の間、キャスは約束通りオンパロスの歴史やタブーについて掻い摘んで話してくれた。
「マネモブさん達は天外から来たのですか…?」
「そうですけどなにか?」「ハイデース。ツマリワシハ”アンティキシラ人”デハアリマセーン。」
情報を共有する中、三人の出身を話したことでキャスの顔が少々引き攣る。
「あ、あの…余計なお世話と思われるかもしれませんが…」
今後オンパロスと関わる上で、天外から来訪したという事実は伏せた方がいいとキャスは忠告する。
「どういうことだ。」
「ええ、理由は二つありまして…オンパロスの”天空”には、天外を目指す者を絶対に許さない”エーグル”というタイタンがいます。」
悪魔王子の忌憚なき疑問に、かつて巨大な宇宙船を作り、天外を目指した都市国家がエーグルの怒りに触れて、全てを”壊滅”させられたと彼女は説明する。
他にも、”紛争”を愛する野蛮人ならぬ野蛮タイタン”ニカドリー”と戦争し、目こそ潰されたが痛み分けで終わる程の強き者でもあるらしい。
ただ、エーグルに存在する複眼の光こそ、オンパロスの昼を照らす光そのものである為か、”紛争のタイタン”に壊された目が見据えていた土地は未来永劫昼の来ない”永夜”に成り果てたという。
「なんや天外を目指して滅ぼされるなんて…ワシ等の故郷にある”イカロス”の話を思い出すのお。天や太陽に憧れ、蝋燭で翼を作り空を目指した愚者、或いは開拓の道を歩んだとも言えるのか?最終的には陽光で黒焦げになって蠟は燃えちゃったんだからバランスは取れてないんだけどね。」
キャスは物語が好きなのか、マネモブの故郷地球に存在する神話をキョーミ深そうに聞いている。
「ハッ、つい話を聞くのに夢中になってしまいました。もう一つの理由はですねぇ…」
いつ現れたのか全くの原因不明、だがそれは確実にオンパロスに存在し、人もタイタンも見境なく蝕み続ける…”暗黒の潮”。オンパロス人はこの脅威を天外からの侵略だと仮説を立てている。
主にこの二つの存在を恐れ、オンパロスは天外へと向かう事を禁忌としている。
「まあ、外宇宙に危険が蔓延っているのは否定しないけど…」
人や地母神を蝕むドス黒い潮はそれなりに宇宙を練り歩いている彼等も聞いた事はない。
”万界の癌”と呼ばれる”星核”の造物だろうか?など考察する面々だが…
「………そろそろメルテス様が神託を授ける場所まで着きます。」
「シャアケド、コンナ崖っぷちデヤルナンテ危ナイデース。」
神託の儀は、ヤヌサポリスの端にある崖の先端に聖女様が立ち、民はそこから少し離れた都市側からタイタンや聖女に祈りをささげるのだという。トダーの言う通り、安全面には問題があるように思える。
「凄い数の信者が集まって来ている。」
まだ聖女様は見当たらないのだが、信仰心が厚いのか既に都市中の人間という人間が集合しているのにマネモブは驚いた。
「おぉ、これはこれは………」「ヤンケ?」
トダーを絶滅の危機に瀕していると言われるアンティキシラ人とやらと勘違いしている民草がまたも現れた。これは吉兆かもしれないと一人の老人が近付いていくが…
「はうっ…」
急に体調を害してしまったのか、すぐに何処かへ行ってしまった。その様子を物悲しそうに見つめるキャスをマネモブは訝しむ。
「なあキャスちゃん。」
(ちゃん付けじゃなくて今度は略称まで…)
「アンタ初対面の時ワシ等に大っぴらに近付かない方がいいぞとか言ってたけど…それは今のとなんか関係あるんか?」
「………マネモブさんは鋭いですね。」
もう隠し通すのは無理かと判断したのか、キャストリスは自身に課せられた呪い、或いは祝福について話し出す。
「オンパロスには”災厄”を象徴する三タイタンが存在します。”詭術” ”紛争” そして”死”…」
もう何百年も前の事、キャスも正確な年月は覚えていないが、彼女の出身地である”スティコシア”という国で、”死のタイタン” ”タナトス”の造物なのか、それとも”暗黒の潮”から産み出された怪物なのか…とにかく周囲に死を振りまく”邪龍ボリュクス”というバケモノが突如として現れ彼女を丸飲みにし、故郷も滅ぼしてしまったのだという。
「ふうん、お前王族だったんだな。」
悪魔王子はスティコシアの王女だったという彼女の身の上を聞いて、確かに気品や教養を感じるから納得だなという態度だ。しかし、今では薄汚れたローブを身に付ける放浪者なのだから人生の悲哀を感じる。
「ええ…奇跡的に生き残った錬金術師達がなんとか私だけは蘇生してくれたのですが…」
”死のタイタン”に愛されてしまったのか、理由は分からないが、邪龍から吐き出された彼女は”死の権能”の”死”を司る片割れを宿してしまったのだという。
「それから、私に近付く人々は体調を害し、触れた者に至っては………」
成程、彼女が長く放浪を続けてきた理由は最後まで言わずとも十分に察せられた。
「しかし、天外から来た”アンティキシラ人”であるトダーさんだけは違いました。」
機械か生身の人間かなど関係ない、意思疎通できる相手とウン百年振りに触れあえるという事実が彼女にとってはこれ以上ないくらい嬉しいらしい。
「フッ、初のモテ期到来だなトダー。」
「”モテ”ッテナンダ?後ワシハ”機械のような人間”デハナク”人間のような機械”…生命体デハナイデース。」
悪魔王子の皮肉を込めた賞賛と恍惚とするキャストリスに困惑するしかないトダーだったが…
「おおっ”聖女様”だあッ」
情報交換も兼ねた雑談をしている間に”神託”の時間が来たらしい。おおおおおおという民達の声援が上がる。
「私達は目立ちますから…少し離れた所で見ましょうか?」
4人は人混みから更に下がった所から聖女様を見据える。赤髪にスラっとした長身、その顔には少し憂いを帯びているが、中々美しい女だ。
「さあ、見せて貰おうやないか。”ジョーイ”が支えろとお告げした聖女様の姿を…」
マネモブは”メルテス”がどんな人間なのか見定めようとしている。彼女と縁を結び救う事がオンパロス救世にどう繋がるのか、非常に気になるのだ。
「………私は憂いています。オンパロスの未来を…」
聖女の演説が始まり人々は生唾を呑み込んで真面目に聞き入っている。
「タイタンと人々の争い、人間同士の紛争、そして全てを狂乱させる”暗黒の潮”…人々は傷付き、親を失った戦災孤児や物乞いは増えるばかりです。」
彼女の心の陰からは真にオンパロスの未来を考えている事が嫌という程マネモブの”心眼”には伝わって来る。
「だからこそ、今一度人間同士には結束が必要です。」
「確かに、暗黒の潮やタイタンという脅威がありながら、この星の人間は同士討ちをしているなんて話にならないな。」
聖女の言葉を聞いて得意の皮肉を炸裂させる悪魔王子。今まで何個か星を渡り歩いたが、目下の脅威がありながらここまで内紛の歴史を築いてきた集合体を見るのは初めてかもしれない。
「今の所、凡庸で善良な聖女という印象しかないな。」
忌憚のない意見を述べるマネモブだがその直後、
「私は…」
ガララ…
メルテスが必死に弁舌する中、突如として彼女が立っていた岩場が崩れてしまう。
「なにっ」「なんだあっ」
「よしっ不都合な神託を告げる聖女を事故に見せかけて殺してやったぜ。これで金儲けの邪魔になる奴はいない。あとはアイツの娘を新しい傀儡に…」
民草は慟哭し、混乱状態だが、そんな中ほくそ笑む者も幾人かいる…礼服の衣を身に纏った祭司だ。
「………。」
悪魔王子は何となく薄汚い陰謀を感じ、民に見えないよう必死に笑顔を隠している”国賊”を軽蔑の目で見ている。
「メルテス様…!!」
あまりの不慮の出来事に、キャストリスは他の民と同じように動揺する事しか出来ず、
「マネモブ、ドウスルヤ…」
トダーは主人にこの異常事態にどう対処するかと問おうとしたが、マネモブは既にいなくなっていた。
「うわっ!!」
”覇生流”の”風使い”と”猿空間”の”風の放出”の合わせ技による相乗効果が可能とする高速移動。
その突風に煽られた民草は次から次へと不穏な事が連続すると頭を抱え、女性たちは服が捲れないよう必死に抑えている。マネモブは誰よりも早く崖から飛び降りていた。
(チィッ…下向きな風で速度を上げても、聖女様が地面に到達して落下死する方が確実に速いッ)
マネモブとメルテスの間には相当な距離があるが…ここからがマネモブの見せ所である。手持ちの手札で一体どうやって聖女を救うのか…?
「まだ試した事はありませんが…この猿空間と風の応用なら落ちて行く聖女様も救えるんじゃないかと思えるんですよ。」
マネモブは自身とメルテスの間の空気を”猿空間送り”にし、真空状態を作る。すると、
ギュインッ
(な、なにが…)
突然現れた真空に周囲の空気は引っ張られ、流れていく。メルテスの下にある空気が上昇気流を作り、彼女の肉体ごと押し寄せた。
「つかまえたあ。」
マネモブも聖女様と同様流動する空気に引っ張られ、彼女との距離を縮めて完全に捕らえる。そのまま風を操って上空まで一気に駆け抜ける。
「だ、誰…まさか…タイタンのご加護…?」
見えないマネモブに抱えられた彼女は、死に掛けた恐怖と九死に一生を得た安堵から情緒がグッチャグチャになっている。
ゴオッッッ
「なにっ」「なんだあっ」
本日二度目の民草の慟哭、突如崩れ落ちた崖から上向きな暴風が吹いたかと思えば、その風に聖女が運ばれて来たではないか。マネモブは優しい風を出しながらゆっくりと地面に降り立つ。
「き、奇跡だ…」「タイタンのご加護だ…」
民草達は感極まって涙を流し、タイタンに助けられた(と思い込んでいる)聖女に平伏する。
(ま、まさかタイタンが彼女を助けるなんて…)
しかし、彼女の暗殺を企てていた一部の司祭だけは、神罰を恐れたのか恐怖で顔が引き攣っている。その心の動揺を、マネモブは見逃さない。
ブワッ
心の陰から人の機微をある程度見通せるマネモブは、彼女を殺そうとした首謀者たちに目を付けて、その薄汚い金銭欲を掴んで”陰陽互根”で視界を共有する。
「ヒィーッ」
司祭達が目撃したのは、巨大に燃え盛る人の像であった。
(ククク、肝心なのは演出よ。)
全ては”幻朧”から無理矢理引き出した炎で作りだしたまやかしの虚像だが…人間とは目の前に起きた事象にそれらしい理屈を後付けするもの。
宗教が深く根付いている文化圏なら、全て神の御業なのだと考えるのが道理だ。
かつて”悪魔”と呼ばれる”宮沢鬼龍”が一族に伝わる禁術、”呪怨”を手に入れる一環として2億円を半ば強引に受け取った(500億あるんだから自分で用意しろ?ククク…)、”新興宗教団体” ”福童教”の教祖、”
「か、神様…」
一部始終を後ろから見ていたキャストリスは、彼の所業を神と言わざるを得なかった。
「マ、ドチラカトイウト”マネモブ”ハ”悪神”タイプヤンケ。」
「全く、滅茶苦茶な野郎だな…」
地球人類最強の格闘家とも接戦を繰り広げ、故郷では上から数えた方が速い強者だと自負している悪魔王子だが、”愚弄”の権能や”絶滅大君”を宿した彼は既に人間の範疇を超えた”バケモノ”の領域に至っているかもしれない。
「はあっはあっ…どのタイタンの御心かは分かりませんが…感謝しまs………」
突如として、マネモブに抱えられていたメルテスが意識を失う。
「お、おい聖女様が倒れたぞ。」「医者を呼べ医者を!」
「め、メルテス様!しっかりしてください!びょ、病院へ急げっ」
「えっ………」
今度はマネモブの心が揺らぐ番のようだ。何故”神託”通りに救った彼女が倒れ込んだのか理解出来ず、頭がグラングランとし、彼女を一旦手放して後ずさってしまう。
「この現象ってま、まさか…」
数百年の放浪の中、”死の祝福”に思い悩んで来た彼女はすぐに察する。
”陰陽互根の術”は魂の同調…”キャストリス”と魂が繋がっていた彼にも、”死の権能”は適応される。
◇どうする、マネモブさん!!
まあ安心して。”灘・真・神影流”は”気の活法”、心肺蘇生なども心得ていますから。