新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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我らオンパロスの黎明を目指す、あかつきの黄金裔

  行動は言葉よりも雄弁(Actions speak louder than words)ということわざがある。

「結局のところ…口でどれだけ神託を述べようが、信じない奴は信じないんだよ…」

オンパロスの地母神、”タイタン”を殺せというお告げに抵抗がある民も多い仲、マネモブが下した決断とは…

「分かりました…火追い信仰を広める方法は私が決めます…”慈善事業”をやります。」

500億信用ポイントを稼いだ男”マネモブ”…オンパロス、ひいては地球を救う為、いよいよ火追いを信仰する大規模宗教団体設立に本気を出す…

 

………

 

 手始めにマネモブは、保有する莫大な資産を惜しみなく使い、膨大な食料を現地調達し物乞いや戦災孤児に施していた。猿空間に元々保有していた日持ちのする缶詰や調味料などでも食事情をカバーしている。

「うめっうめっ」「おかわりモアルヤンケ」

「と、トダーさんって料理も出来るんですね…しかも複数体いる。」

「トダーは”人間のような機械”を目指して開発された量産型ロボットなんだ。」

 

 本格的にオンパロス救世に動き出したマネモブは、猿空間に保管していた予備のトダーも全開放。

そこらの人間より手慣れた手付きで野菜を切り、ある時は炒め、ある時は煮込むその姿にキャストリスは困惑と賞賛が混じったような反応をする。彼女の場合、”死の権能”から新鮮な野菜や肉に触れると腐敗が進み、給仕など尚の事出来ないので黙って後ろから活動を見つめている。

 

 「フッ、トリスビアスやお前はいわば神輿なんだ。これからもセックス・シンボルとして教団の支持を、特に馬鹿な男共を中心に増やしていけばいいんだ…うん、俺はアメリカ生まれだからやっぱり味噌よりコンソメの方が舌に合うな。」

相変わらず忌憚なく本音を隠さない言動をしながらトダーの作った汁物を啜る悪魔王子。

 

 「………。」

悪魔王子の言葉を聞いたキャストリスは黙って食事の手を動かさない。量産型トダーが必死に炊き出しをし、マネモブは活動資金の全てを出資しているというのに、同行を名乗り出た自分は果たして役に立っているのだろうか?トリスビアスやメルテスの神託配信を手伝う事はあれど、それが本当に私の望んだ旅なのかと、彼女は思い悩んでいる。

 

 「全く、相変わらず口が悪いんだから。気にしなくていいよキャストリス。この子が皮肉屋なのはいつもの事だし…それに、アンタこそ今の所何もしてないんじゃない?」

 キャスを励ましながら悪魔王子を咎めに来たのは三月なのかだ。演武典礼からの付き合いがあるので、悪魔王子の口の悪さには慣れている。

 

 「俺は有事の時に備えて心・技・体を鍛えてるんだよ…だからオンパロスに来てすぐに”陰陽互根の術”とそれに必要不可欠な”心眼”を身に付けたんだ。」

チラリとキャストリスの方を見つめてまたすぐに視線を食事に戻す悪魔王子。言葉にこそ出さないが、彼女の”死の権能”は強力な武器となる。現状、教団を攻撃してくる勢力などはいないが…

 

 「俺は人を殺すのには慣れている。元は兵器として産まれて来たからな…」

キャストリスは”死の権能”で命を奪う事に忌避感がある。それを悪魔王子が察していたのか、彼女を気遣う心があり、殺しが必要なら代わりに請け負うというつもりで発したのか、定かではない。

だが、その言葉を聞いたキャストリスは、少しだけ顔が綻んでいた。

 

………

 

 「ああっ、雨を降らせてくれーっこれ以上日照りが続くと今年の農作物は壊滅的被害が出るんだァ」

オンパロス人の胃袋を掴む策略以外にも、マネモブ達は雨乞いのような事業もしていた。

 

 「あ、雨乞いって…実際どうすれば、」

最初の頃の赤髪の聖女親子は、私達にそんなノウハウはないと困った様子を見せるが…

「まあ安心して。雨を降らせるのは俺がやりますから。」

 

 アンタ達はただそれっぽく手を握って祈ってればいいんだよとマネモブは言った。そもそも聖女とは元来そういう職だから何もおかしくはないだろう。そう残して彼は風を使って飛んで行ってしまった。

 「………。」当然、彼女の命を狙う者がいないかと、機械人形トダーとミーム体の悪魔王子が常に周囲を警戒している。抜かりはない。

 

 「フーッ、遂に”覇生流”のあの”宝具”を使う時が来ましたね…!!」

人里離れた場所まで飛んで行ったマネモブが猿空間から取り出したものは…

”天鳴大太鼓” 人間の体なんて小さく見えるまるで象さんのような太鼓である。

 

 「風当身ーッ」

ドォーーーーン

マネモブは手を使わずに風で太鼓を鳴らしオンパロス全域に響かんという轟音を響かせる。

 「風当身の鼓動に天もビックリして明日は大雨警戒注意報だあっ」

かつて”覇生流”総本山”覇生の山”にて、”最強のモラリスト” ”宮沢静虎”が”風当身”を太鼓に20回叩き込んだ時、その念と鼓動は天にまで届き3日3晩の豪雨を齎したという。

 

 「4000発も風当身を撃ったんだぜ。そりゃあ”天空”に構える”エーグル”もビックリして雨を降らせるだろ。」

 しかし朝から夜に切り替わるまで太鼓を撃ち続けたマネモブの予想に反し、天候は変化を見せなかった。エーグルはこの程度の音では驚かないのか。それともマネモブの故郷の法則がオンパロスでは通用しなかったのか。

どちらにせよ、猿空間から大気を放出して補助しているとはいえ、”風当身”を撃ち続けるのは相当根気がいる。聖女様達も未だ祈祷を続けているだろうし、別の方法を考えた方が良さそうだ。

 

 「あーあ、風当身の天候操作が通用しないならしゃーないな。ここからはモンキー・サイエンスの出番やで。」

マネモブは再び風で飛んで行き、今度は大自然の湖に降下する。そして…

「覚悟してください。炎を打ち込みますッ」

 ”我流” ”飛炎地獄”

 

 ”壊滅”の炎に当てられた水はじゅわーと鈍い音を立てて蒸発していく。

「そのまま風を使い水蒸気を巻き上げるんやッ」

強引に作られた水蒸気は上昇気流に引っ張られて天空へと昇っていく。上空で冷やされた水蒸気は固体と液体の練り混ざった雨雲を形成する。

「どや、義務教育で習った知識の応用や。」

夜が明ければ、オンパロス中に雨を齎す事になるだろう。タイタンの加護は見せかけの欺瞞だが、雨乞い成功である。

 

………

 

 「面目ねぇ面目ねぇ…」

「フフッお代や寄付金などは一切求めませんから…ゆっくり食べて行って下さいね。」

マネモブが考案、出資した事で宗教団体、”オンパロスの黎明を求める我ら、あかつきの黄金裔”は、慈善事業や数々のまやかしが認められたことで日に日に信者を増やしている。

今日の炊き出しは”火追い”の神託を受けたトリスビアス直々に担当し、戦争で食うに困った浮浪者の大人に慈悲深く食を提供している所だ。

 

 「………マネモブ様はどうしてここまでオンパロスに多額の資金を使ってくれるのですか?」

娘の奉仕活動を眺めながら、マネモブに救われたメルテスは、隣でパンを咥えていた彼に疑問を述べた。

 「天外からの来訪者でありながら…やはり本気でオンパロスを憂い、愛してくれているのでしょうか。」

もしそうであったら心から嬉しいと、不束ながらというような感覚でうやうやしく微笑む彼女だが…

 

 「フン、迷惑だな。所詮俺は故郷を護りたかっただけ…この星を救う事がその必要条件だったというだけでオンパロスに思い入れなどない。」

「寧ろ俺はオンパロスの事反吐が出る程嫌いなんだよね。戦争が絶えなくて気が滅入るでしょう?今まで渡り歩いてきた星や俺のふるさとにも全く争いがなかったとは言わないが、暗黒の潮やそれに侵され腐敗したタイタンという目下の脅威がありながらも人間同士で争うなんて…ここまで酷い情勢を見るのは、この星が初めてだぜ。」

マネモブはぶっきらぼうに辛辣な返答をするが、メルテスはただ笑うだけだった。

 

 「もしかして俺が悪魔王子みたいなツンデレだと思ってるタイプ?ハッキリ言ってこれは100%の本音だから。お前俺の事を善人だと思ってると死ぬよ。」

「そもそも善行なんてもんはどこまで行っても自己満足なんだよ。俺の恩人様の一人がそう言っとったわ。俺の星には自ら磔になった聖人もいるが…その男すら例外ではないと。」

「俺が無償で資金を提供してるのは今回に限っては金儲けが目的じゃないからや。信者共から寄付金を集め出すとアンタの愛娘を担ぐウチの宗教の神聖さが下がるし、メンドクサイしがらみも増える…」

マネモブの荒々しい言い草にはオンパロスの長い旅路による疲れからか精神の摩耗が垣間見えた。

 

 「フフッ、例えその乾いた言葉が本心だったとしても…貴方は立派な聖人ですよ。」

ある種の八つ当たりでもするように突き放したというのに…心からの賞賛で返されたマネモブは、彼女の純粋な善性と基本的に理や実益で動いている自身の心根との対称性に居心地の悪さを覚える。

どう返答すればいいのか分からず、それ以上は何も言わない、いや言えなかった。

 

◇あかつきの先に、黎明はあるのかー

 

 




 「お前ら、ちょっとコイツらが善行積んだくらいで騙されるなよ!」
「ん?」
聖女やトダーが懸命にボランティアに勤しんでいる中、タイタンを殺すお告げに反感を持った原理主義者の一人がやって来て反発していた。

 「今ハ炊き出し中ヤンケ。腹ガ空イテナイナラ帰レヤンケ。ソレ以上居座ルナラシバクヤンケ。」
 「黙れアンティキシラ人ッ。人の身でありながらタイタンから神権を奪えだなんてなんたる冒涜、俺はお前らなんか認めないっ」
そう言うと男はその辺にあった石ころを拾い、トリスビアスに向かって投げつけるという暴挙に出る…が、

 パシッ
 「なにっ!?」「「「「おおっ」」」」
しっかりと聖女を補足し投擲されていた石は彼女に衝突する寸前で静止してしまう。
「フンッ、俺はこういう時の為にいるんだよ…とはいっても、群衆共に俺は見えていないだろうが。」石を掴んだのは悪魔王子だ。

 「お見事ッ」
「聖女様達がタイタンに護られてるってネタじゃなかったんスか?」「マジだよ。」
男の行動は却って民の信仰心を厚くしてしまうだけだったようだ。
「ハイハイ、モウ帰レヤンケ。ソレトモ…」
「ううっ…」それでも尚納得いかないのなら闘うかとファイティングポーズを取るトダーに分の悪さを感じた男は逃亡する。

 「やるな悪魔王子。目に見えない状態で投げられた石を止める事は民達が神の御業だと勝手に解釈する宗教的パフォーマンスに繋がるとしっかり理解している…」
悪魔王子の瞬間的なキレの良さを賞賛しながら、パンを呑み込むマネモブであった。  

………
 
 「なんや地上に煩い人間がいるなあ…」エーグルのコメント
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