新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
オンパロスにマネモブ達が来てからどれくらいの時間が経ったか。もう数十年単位で経過してる事だけは確かだ。最初こそ暦を数えていた彼等だったが、精神的な負担が増えると次第にやめていった。
「………。」
愛するタフシリーズや猿漫画全般の語録を引用して他人をおちょくる言動が目立ったマネモブも、最近ではすっかり鳴りを潜めて黙っている時間が増えた。文字通り死んだように生きているモブ状態である。
「マネモブ様ー、いますかあ?」
「………誰だ、何の用か述べろ。」
茶髪で遊ばせた髪の目立つ男がマネモブを呼んでいる。宗教事業もすっかり軌道に乗ったので、最近は疲れをシラナイトダー達や現地で雇った”火追い”に着いていく意思を持った者達に任せっきりである。勿論、悪魔王子やマネモブの”心眼”により、内部破壊を目論むような不届き者は心の陰を見抜いて即追い出している。
「だ、ダミアノスですよ!トリスビアス様の神託に共感して貴方達に着いていくことを決めた!いい加減覚えてくださいよ…」
「………悪いな、最近物覚えが悪くてな………で、用件は何だ?金が要るのか?」
最近のマネモブの仕事は組織運営に必要な金を仲間に渡すくらいである。それ以外で彼が呼ばれる事は殆どない。
「いや、運営費に問題はありませんよ。実は炊き出しに参加した物乞いの子供の中にちょっと面倒なのがいまして…最初はトリスビアス様やメルテス様が諭していたのですが、組織の裏にいる出資者、真の
無理矢理追い返す事も考えたそうだが、なにぶん相手は子供である為に乱暴に帰らせるのは憚られたようだ。何より、子供に高圧的になっては、今まで築いてきた清廉潔白な宗教というイメージも台無しになる。
「俺達の表向きのトップはトリスビアスだが………」
しかし、マネモブはダミアノスの話す子供に関心を寄せたようだ。子供でありながら裏で組織設立の手を引いた者がいると結論付けたのは頭のキレを感じる。そこらの凡百の大人達がそこまで考えを巡らせる事はまずない。あったとしても、信仰心の厚いこの星では何らかの”タイタン”が彼女を支援していると思考停止するものだ。何十年振りか分からないが、久しぶりにキョーミという感情が息を吹き返す。
「ダミアノス………だったか、俺直々にその子供に会いに行く。」
………
「イイ加減ニシナイト”音速パンチ”ノ寸止めデシバクヤンケ。飯食ッタラ早ク帰レデース。」
「離せーっボクはお前達の首領に会いに来たんだッ」
騒ぎを起こしているのは、青髪の目立つ小柄な子供だった。今日の炊き出しはもう終わり、他の群衆は全員帰っているというのに、その場に居座り続けている。いい加減子供の相手にうんざりしたトダーの一体が、その子の首元を掴んで帰るように恫喝している。機械人形は子供一人くらいなら容易く片手で持ち上げるパワーがある。
「”我らオンパロスの黎明を目指す、あかつきの黄金裔”ノリーダーハソコノ”トリスビアス”様ダト何度モ言ッテルヤンケ。」
「滅んだと噂されているアンティキシラ人がこんなにもこの”あかつき黄金裔”に所属している!何故だ?それにお前達はボクのような乞食に何度も食事を配っているが…その金はどこから来たんだ?」
トダーの言葉を無視して子供は疑問をまくしたてる。
「おかしいのはそれだけじゃないぞ。聖女トリスビアスは的中率100%の雨乞い事業をやってるし、火追いに反発する者から投げられた石や矢が自然に止まるなどの奇跡を起こしたのは有名な話だ。彼女の母メルテスも崖から落ちた時に神風に救われたと聞いている。大人達はタイタンの加護としか言わないが、そのタイタンとは一体誰だ?ボクは色んな大人に聞いて回ったが、誰もそのような奇跡を齎すタイタンが誰とは答えないんだ。誰かが裏で手を引いてる筈なんだ、ボクはこの疑問の答えが知りたい!」
中々に聡く、賢しい子供である。普通の人間ならば気にしない事でも疑問に思うその姿勢、物乞いと言う恵まれぬ立場でなかったら、優秀な将に、あるいは神官…いや、王にすらなれるかもしれない。
「………どうしましょう?」
外部の人間にはマネモブや悪魔王子などの外部から来た見えざる人間を秘匿した方がいいだろうというのが彼等の方針だ。オンパロスでは天外が禁忌とされているし、正体不明の何者かが聖女を支えているという”神秘”性こそが民の求心力に繋がると、”あかつきの黄金裔”を設立した皆で判断したからだ。
この組織を発足した事実上の黒幕、元凶はマネモブだが…この子供をマネモブと会わせるべきなのか、メルテスやトリスビアスは顔を見合わせ、ああ困ったとでも言いたげだ。
「黙れ物乞いのガキッ」「「!?」」
皆が対応を決めあぐねていた中、事の張本人が”魂の同調”を使い突然姿を現したので、その場にいた全員面食らってしまった。
「ま、マネモブさん…!」
”死の権能”がある為に皆から距離を置いて事態を見守っていた”キャストリス”は、本当に姿を現してもいいのかと思わず一歩前に出てしまう。
「だ、誰なんだお前は?急に現れて………いや、お前が、お前こそが、ボクの求めていた答えなのか?そこの聖女二人やキャストリスの反応を見るに。」
この子供は洞察力だけでなく、不測の事態への適応も早いようだ。マネモブはやはり自分が出向いて正解だったと考えている。
「マネモブ、ソコニ居ルヤンケ?」
トダーのモノアイにマネモブのような霊魂は映らず、魂が無いために”心眼”を同調させることも叶わない。ので、マネモブがいるかどうかは周囲の反応から判断するしかない。そんなロボットに、猿空間から色紙やペンを取り出したマネモブは、子供を離してやれとトダーに伝えた。
ニイッ「白状しよう。この”あかつきプロレス団”…じゃなかった。それにあやかって名付けた”あかつき黄金裔”を設立したのはこの私だ。」
「そうか…普段は姿を隠しているお前が、金銭的支援や神の奇跡を演じていたという訳だ。全てはまやかしということか。」
マネモブを見た事で、青髪の子供は色々納得したようだ。
「そうでもない。人智を超えた存在、人の理解の外にいる存在を人は”神”と呼称するのだ。」
「フン、人の身で神を名乗るなんて。神への冒涜も過ぎるというものだな。」
「お前俺達を誰だと思ってるんや。オンパロスの神”タイタン”を殺し”火種”を奪えという神託を世に広めてる背徳者を超えた背徳者やぞ。そんなん今更や。」
「フッ…確かに。」子供とマネモブは今のところ会話の馬が合うように見える。
「だが…新しい疑問も浮かんできた。」「なんだ?」
マネモブは何でも聞いてやろうという姿勢だ。
「商売をしている様子もない聖女の金の出所は分かったが…お前は一体どうやって稼いでるんだ?」
「株と…FX…」「………?」
流石に株式投資で稼ぐという事は知らなかったようだ。最も、この星に天外のような株の市場があるのかは、ここで数十年生活しているマネモブ自身もよくシラナイが。
「要約すると…」
”あの…ワシ、商売がしたいんスよ…金銭的支援して貰ってもいいスか”
”しょうがねぇなあ…しゃあけどビジネスが成功したら支援した以上の金で返せよ”
”あざーす ガシッ”
「子供にも分かりやすく言うとこんな感じっス。」
「ふうん そういうことか…だが、支援した者が商売に失敗したらどうなるのだ。その時は損する事にならないか?」
「はい、そうですよニコニコ。だから投資には情勢を俯瞰し、正確に予測する能力がいるっス。ま、中にはインサイダー取引とか汚いけど確実に稼ぐ手段もあるからバランスは取れてないんだけどね。」
………
「雨乞いはどうやって成立させているんだ?」
「風と炎使いならば人為的に雨を降らせる事は可能っス。」
「なにっ天外にも生命や文明があるのか!?………いや、お前が天外から来た存在なら物珍しさも全て説明出来るか。行く行くは…ボク達オンパロス人も外に行けるようになるのか?」
「シラナイ…まあ黎明に辿り着けば行けるんじゃないスか?」
子供の疑問は尽きる事なく、マネモブとの会話はどんどん飛躍、広がっていく。
「マネモブ、ソロソロ”夜”ガ来ルヤンケ。」
オンパロスに”夕”はない。”天空”に座する”エーグル”が目を閉じる時間が来れば、”昼”と”夜”が切り替わる。マネモブがいるであろう方を見つめて、トダーがそろそろ寝所に戻った方がいいと言う。
「そうだな…小僧。久々に、この星に来て愉しいと思えたぞ。賢い子供と話すのは中々悪くない。だが、もう時間も遅い…」
お前も帰った方がいいとマネモブは言う。まあ、物乞いだから家はないだろうが…
何なら、俺達の拠点で寝泊まりしたいなら勝手に着いて来ればいいとマネモブは言い、そのまま立ち去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!最後に一つ、夜が来る前に一つだけ、一番気になる事を教えて欲しい!」
夜までまだ数分はある。一つくらいなら答える時間はあるだろう。
「お前は…何故そうも他人に与えられる?」
「慈善活動をしている理由が聞きたいのか?詳しい事は俺も知らないが…この星を救わないと俺の星も”壊滅”するって予言があったんや。これでも故郷への愛は深くてね、何としてもそれだけは避けたいんや。」
「………いや、そういう答えじゃないな。ボクが聞きたいのは、」
マネモブの答えは子供の聞きたかった事とはズレていたようだ。
「ボクが知りたいのはお前が活動を始めた原点とかではなくて…もっと根本的な心の話?とでも言うのか…言葉にするのが難しいが…とにかく、お前はこの星に来てから、莫大な富を投入している筈だ。だというのに……」
マネモブは平然としている。この星の住人に見返りを求めた事もない。
「予言に向かって進むという目的があるとはいえ、何故そうも毅然としていられるんだ?ひたすら施しを与え続ける事への葛藤はないのか?お前の心の在り方は、ボクには少々常軌を逸しているように見える。」
「なんや、そんな事が聞きたかったんか。そんなん簡単な話よ。」
「俺が他者に与え続けられる理由…それは俺が”強い”からや。」
「強い…?」「そうや。」
マネモブの答えに、少し漠然とし過ぎていると子供は言う。
「まあ、強さにも色々あるけどな…」
マネモブは言う。まず俺は金持ちであると、金銭的に強いと言える。だから他人に食を与える余裕がある。そしてあらゆる武術を習い、”心・技・体”を鍛えている。単独での武力も強いと言っていい。弱き者を護る為に力を振るう事だって出来る。
「そして何より………俺の行動を最も支えているのは、さっきも言ったが故郷への”愛”なんや。」
”タフシリーズ”やふるさとへの”愛”が強いから、”オンパロス”での慈善活動も躊躇なく行える。全ては己の”愛”する者に報いる為に…
「そうか、他人に何かを与えられるのは”強い”からなのか…」
マネモブの答えに、目の前の子供の心にストンと響いたようだ。
「色々話を聞いてくれた事、食を与えてくれた事に感謝する。ボクもそろそろ帰る事にする…」
子供はマネモブ達に背を向けると、そそくさと走っていく。マネモブとの問答で、自分の進みたい道でも見えたのだろうか?その足取りはハッキリとしておた。
マネモブの寝床も提供できるぞというさりげない気遣いは、物乞いにも矜持があったのか突っぱねたが…
「………。」
最後にまだ言い足りない事があったと立ち止まり、クルリとマネモブ達の方に再度顔を向ける。
「ボクもいつか!お前に肩を並べられるような強き者になる!」
「フッ、まあ先は長そうやけど、頑張って下さいよ。」
大声でそう言い残すと、今度こそ子供は行ってしまった。
”トダー、夜道は危険や。あの子の安全が確認できるまでは一応ついていってやれ”
「ハイデース。」
つい夜が来る時間まで話し込んでしまった責任は俺にもあるとして、マネモブは指示を書いた紙をトダーに渡した。
「マネモブ様の笑顔…久しぶりに見ました。」
長い生活を経て心がすり減っていたマネモブが、子供との対話を重ねた事で多少元気が戻った…聖女親子とキャストリスはそれが嬉しいようだ。
◇マネモブの心はどうなっていく?