新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
評価、感想…もっと待ってるよ
マネモブの年齢、遂に100歳を超える。”記憶”能力にも問題が見られ、精神の疲弊も尋常ではなく、最近では、拠点の奥深くで黙って膳を組んでるばかりだ。
各国を渡り歩いていたマネモブ達も、今では”火追い”の神託を授けた”世負いのケファレ”の麓に位置する都市国家”オクヘイマ”に腰を下ろして宗教活動をしているが、ここ数年は所要以外の護衛や監視などの業務は、量産したトダーや痛みや苦しみへの耐性が強い悪魔王子に任せっきりである。
オクヘイマの中は今の所平和を超えた平和ではあるが、その外では今日も”紛争”は絶えず起こっており、そんな地獄にうんざりした者達が数多くオクヘイマ近郊に越してきている。
何せこの地を拠点に活動している黄金裔達は”タイタン”に護られており、その奇跡の一端を無償で与えてくれるというのは”伝言の石板”で広まりに広まった周知の事実だからだ。
「帰ったぞマネモブ………しかし、タイタンを倒して火種を集めろというお告げを俺達は追っている訳だが…」
休憩の為に巡回から戻って来た悪魔王子が、瞑想にふけていたマネモブにこんな疑問を述べた。
慈善事業の始まりは反発の多かった”火追い”を信じる者がより増えるようにというのが切っ掛けだったが、既にかなりの信者が集まって来ている。問題は、いつ”タイタン”討伐に動くかと言う事だ。そろそろ動いても良いんじゃないかとでも悪魔王子は言いたいのだろうか。
「しゃあけど、そのタイタンってのは滅茶苦茶強いんやろ?」
オンパロスに君臨する12の神はそれぞれの名を冠する”神権”を行使するのは当然の事、その巨躯だけでも相当厄介なものだ。格闘技でもウェイトの差は勝敗の有利不利にそのまま直結するが、それのスケールがより大きくなった話である。
「俺達全員で凱旋をしたとしても、屍を無駄に増やすだけなんとちゃう?」
民の殆どは無力な人間だ。巨人の前では虫けらのように潰されるのが目に見えている。それでは、マネモブ達が軽蔑する戦争を続ける馬鹿共と何も変わらないではないか。
「なら厳選した強者だけを集めた少数精鋭で責めるのはどうだ?」
「………キャスちゃんの”死の権能”を宛にしてるんかい。」
触れた者を死に至らせ、近付くだけでも体調不全を起こす強力な権能。しかもマネモブと悪魔王子も彼女と魂を繋げれば、部分的に引き出す事も可能だ。マネモブ達の協力者で、神討伐に役立ちそうなのは今の所彼女くらいしか思い付かない。
「しかし、あんな馬鹿デカイ神共が人間相手の時のように素直に死んでくれるかのォ?」
窓越しに見えるオクヘイマにそびえる数千メートルの巨神、”ケファレ”、遠目でそのスケールのデカさを噛み締めながら、マネモブは訝しんでいる。しかもそんなバケモノがまだ何体も残っているというではないか。確かに、彼女が触れただけであの超巨人が倒れる所は、凡人の頭には想像しがたい。
「とにかく、ワシは迂闊に動くのは危険や…と思う。」
マネモブに下された予言は、オンパロス救世の”道筋”と”ゴール”を示すものが一つずつある。
その道筋とは、”赤髪の聖女”、恐らく”メルテス”や”トリスビアス”の事だろうが彼女達を支える事。そして、
「俺達のゴールは、”星核ハンター”共が言っていた”星穹列車”の到来を忍耐強く待て…だろ?」
しかし、かれこれ80年近く経つが、未だに”三月なのか”以外の列車組が訪れた様子はない。彼女はというと、黄金裔の女子達といつも呑気に女子会などを愉しんでいる。
元々写真で各地の記録を残すルーティーンがあった彼女だが、カメラのない彼女は最近では絵を描く事で”記憶”を形にしようと取り組んでいるそうだ。
悪魔王子はそんな体たらくの列車や狩人達の事は信用できないらしい。
「とにかく、ワシは格闘技は好きでも戦争とか血生臭いのは嫌いなんじゃ。」
予言にある通り、聖女を隣で支え、列車の到来を待つ。宗教活動で戦争の被害者を救う事で”トリスビアス”への求心力や民の結束を促す。自分達がやるのはそれで十分だとマネモブは言う。
「昔のお前らしくもない…随分と消極的だ。」
「俺は昔から死に急ぐ馬鹿じゃねぇよ…お前こそ機を焦ってるんじゃないか?」
もし悪魔王子が焦燥に駆られて無謀な戦いに身を投じ死ぬような事があったら、俺は哀しいとマネモブは言う。
「………。」
「悪魔王子、お前にも分かってる筈や。俺達の一番の武器は、地獄に耐える
今はまだ動く時期じゃないと、マネモブは己の心の弱さを自嘲しながら再び目を瞑った。
悪魔王子も、これ以上やり取りを続けても仕方ないと、再びミーム体である事を活かして滑空し、オクヘイマに不穏分子がいないかを探しに行った。
………
「た、大変ですよマネモブ様-ッ」
「瞑想の邪魔はしないで欲しいな。」
自己崩壊に陥らないよう、精神統一をしていたマネモブの平穏を壊す喧騒が、
「君は…まあいい、何の用だ。」
(また僕の名前忘れてるな…まあもう慣れてるから態々言わないけど)
「はい、今回は大事も大事ですよ。何せあの”元老院”が接触を図ってきましたからね。しかもアイツ等、日程も決めないでいきなり今日お前達の組織の全貌を見せろなんて無茶苦茶いうんだから…名目上はアイツ等の方が立場は上とは言え失礼にもほどがありますよ!」
「元老院…?」
マネモブに報告しに来た慌ただしい若者はダミアノスだ。まあ、若いとは言っても、オンパロス人はかなりの長命なので、これでもマネモブ達など優に超える年月を生きている探検家なのだが。
”元老院”の事がよく分かっていないマネモブに、ダミアノスは人の身で人を支配しているオクヘイマの政治組織だと簡潔に説明した。
「…で、何で政治家共が俺達に接触してくるんだ?」
今までのマネモブ達は政教分離、しがらみが増えるのを嫌い政治にも戦争にも干渉しないで人を救う方針で活動してきたのだ。元老院にとやかく言われるような事は何もしてない筈だ。
「ええ、元老院はあくまで”視察”という名目でアポを希望しているのですが…ここからは僕の勝手な推測ですけど、奴等は僕らの事を警戒しているというか、図りかねてるんじゃないかと。」
表向き政治をやる意思はないと主張しても、かなりの信者を抱える”トリスビアス”が意見を覆せば、オクヘイマの勢力図などあっという間に塗り替えられてしまうだろう。
「そういう独り相撲な政権争いは俺達に関係ない所で勝手にやって欲しいが…元老院から来た奴等は今どこに?」
「はい、元老院の使者は今トリスビアス様が対応してますよ。確か名前は…”カイニス”と名乗っていました。」
マネモブはトリスビアスだけに任せるのを不安に思ったのか、俺も行こうと立ち上がった。
「無暗に血を流す事はない…ただ敵意はないと事実を伝えお互い不干渉なあり方を続ければいいだけのこと。」
………
「トリスビアス殿は食の飽和や天候の操作など、あらゆる奇跡を起こして来たと聞きますが…いやはや、人の身としてはそこまで”タイタンの加護”を受けている事は羨ましい限りですよ。やはり、それも”黄金の血”が流れる所以なのですかな。」
「は、はあ…」一見すると聖女を褒め称えるように見えてその実”黄金裔”の実情を引き出そうとしてる”元老院”からの使者、武装した護衛二人を横に並ばせたその女は、白髪に整った顔付き、そして少しばかり野太い声が特徴的であった。
だがトリスビアスの周囲にも、トダーが複数体並んで、迂闊に元老院が手を出せないように牽制している。
(トリスビアスの前にいるあの白髪女が元老院から来たっていう”カイニス”か…?)
現場に駆け付けたマネモブは”心眼”で彼女の心の陰を探る。その形は…
(ふうん、あの………”茶髪”の予想は正しかったということか。)
カイニスの心の陰は”黄金裔”への”敵意”というよりは”疑心”という感覚であった。今後彼女含めた元老院達が”敵”になるか、それとも結束まで持って行けるかは、マネモブ達の手腕次第である。
「カイニス様…我々は貴方達元老院に干渉する意思はありません。政治に介入する事もありませんから…」
元老院の接触はお互いに民の疑惑、不和を呼ぶだろう。お引き取り願いたいと頭を下げるトリスビアスだが、
「ほう、これはこれは面白い事を。我々がいつ、あなた方を政敵として警戒していると言いましたか?」
トリスビアスの言葉に嘘は無いが、少し言葉を急いてしまった為か、カイニスの疑心が少しばかり敵意に傾く。実際、誰の眼から見ても元老院の猜疑心は明白なのだが、自ら敵対の意思はないと主張するトリスビアスの発言は、保険を貼ったようにでも彼女には映ったのだろうか。
「コイツ等メンドクサイヤンケ。」
こういった人間の素直でないやり取りを理解出来ないトダーは、粘着してくるカイニスが鬱陶しいと拳を構えようとする。
「駄目ですトダーさん!」
カイニスの護衛も敵対の意思を感じ取ったのか武器を構えるが、闘ったら今まで積み上げて来た物が台無しになるとトリスビアスは必死に抑える。
ゴオッ
「うぐっ…」
一触即発な険悪な雰囲気を壊すように、不自然な暴風が元老院と黄金裔が向かい合う場に吹き荒れた。トリスビアスやカイニスは思わず服を抑えるが、その風がやんだ時には…
「き、貴様は…一体?」
黒い装束を身に纏った大男が、彼等の頭上に現れる。
「”聖女トリスビアス”に加護を与えている存在…それがボクです。」
「私は神である…とでも言いたいのか?」
カイニスは表面上強気な態度を取ってみるが、目の前の浮遊する男が纏っている異様な気配、妖気とでも言うのだろうか?先程の突風といい、どこか男の大言を信じてしまう自分もいる。
「民が雨を、風を、食を聖女に望んだ時…その奇跡を聖女越しに与えて来たのは全て私だ。」
「マネモブ様…!!」
真相を白状する事に不安感を覚える聖女をよそに、マネモブは話を続けていく。
「………何故その神が直々に私の元へ現れた。」
「ククク、警戒する事はないよ。私はこう見えても争いが嫌いな神だからね。」
地に降りたマネモブは心の底からの本音を話し始める。
「聖女様だけではお前達が信用してくれないかもと思ってね。神直々に出向いたという訳さ。」
戦争や政治への介入の意思がない、それは真実だ。元老院は今まで通り、どうぞご勝手にオクヘイマの統治をしていればいい。
「………。」
「まさか神の言葉を信用しない…なんて事は言わないでしょ?」
そういうとマネモブは幻朧から引き出した炎でおどろおどろしい虚像、オーラのようなものを発現させる。
(なんて熱だ………)
どの”タイタン”かは知らないが、まさかここまで強大な規格を持った存在が聖女を全面的に支援しているとは…聖女はともかく、この男と敵対するべきではないなんて事は子供でも分かる。
この神を名乗る男が本気になれば、ウイルスの速度で敵対勢力を燃やし尽くすだろう。
そんな危険な神の方から、敵対するつもりはないと言ってくれるのだ。真意は分からないが、乗っかるしかあるまい。
「正直な所………今回の視察は、我々元老院内部に貴様等を警戒する者が一定数いたから行われたのは確かだ。」
「神を前にしてもその傲岸不遜な言動を崩さないのは好感が持てるが………随分と素直になったじゃないか。」
嫌味を織り交ぜながらも、目論見を白状したカイニスに意外性を感じるマネモブ。
「フッ、神直々に謁見しに来てくれたのだ。それに応えるのは…”人”としてそうあるべきではないか?」
カイニスは拳を祈る形に握り、膝をついた。隣にいた護衛達も慌ててそれに続く。
「敵対は回避できたと認識してええか?ええか?ええのんか?」
「………変わった喋り方は癪に障る神だが、”あかつきの黄金裔”達と敵対するのは得策ではないと、他の議員には報告しておこう。」
カイニスは苦々しげにそう告げながら立ち上がると、部下を連れて帰って行った。
「オーッ助カッタヤンケマネモブ―ッ」
暴風が吹き荒れた時に、AI予測で主人の到来を何となく察したトダーは黙って見守っていたが、元老院が帰った事で忌憚なき感謝を述べる。
「私も………ありがとうございますマネモブ様。」
私達だけでは、衝突の未来が待っていたかもしれないと、自分の至らなさを責めるようにトリスビアスは俯く。
”人間ってどこまで愚かなんだ”
”壊滅の危機に瀕している極限状況においても人間同士で争う理由を探している”
”下らない地位や権力に縛られている”
”冷徹に、冷酷に本能のまま生き、血肉を喰らう獣の方がまだ賢いと言える”
結局、今回争いを回避出来たのはマネモブがまやかしの”神”を演じたからだ。縋るものがないと人は結束できないのか………”愚弄の運命”を歩む男は人の”愚かさ”を嘆いた。
◇"愚弄"は"衆愚"に結束を齎せるのか…?
この世界線だとカイニスが綺麗になるかもしれないね