新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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オクヘイマ包囲戦 戦わずして場を収める信条

 光暦3867年

 きっかけは悪魔王子の”心眼”とトダーのモノアイが、オクヘイマに紛れた他国の間者を見抜いた事であった。どうやら奸計によりオクヘイマが所有する将校の何人かを殺す事で混乱を起こし、それを足掛かりに侵攻しようという”ルキア”という都市国家の悪魔のような僭主が仕組んだ事らしい。いつの時代も、強欲な権力者というものはより多くの土地や権力を求めるものだ。

 

 「コイツら殺すか?」

「当然だ。オクヘイマを脅かそうなど言語道断。そもそも、殺すか殺さないかを決めるのはオクヘイマを支配する我々元老院だ。」

悪魔王子はカイニスの元に裏切り者を引き渡しに行くが、偏屈で頑固ないつもの彼女らしい返答にはいはいと笑いながら受け流した。

 

「………オクヘイマを内から崩し、外からも責める目論見だったようだが、策が瓦解した事で敵も諦めが付けばいいのだがな。」

近衛兵に裏切り者の首を斬り落とさせながら、他国の侵攻を憂うカイニスであった。

 

 「また戦争と裏切り…血と腐臭の匂い………」

当然、此度の事件はオクヘイマにおける宗教勢力を担う”トリスビアス”を裏から支える事実上の発足者である”愚弄の行人”の耳にも入る。

 

「ええ、昨今は情勢も悪化してましすから…北の帝国”ヒュペルボレイオス”が肥沃な土地を求めて遠征を開始してからもう16年…」

他国に戦争を仕掛ける遠くて寒い国なんてR国を思い出すなと少し望郷に浸るマネモブだったが…

聖女”トリスビアス”と”メルテス”親子の故郷、”ヤヌサポリス”はもう何年も前に陥落し支配下にあると伝えられる。

 

「………えっそうなんですか?」

ダミアノスの報告を聞いていた彼は少し驚きの表情を見せる。オンパロスに訪れた彼が初めて助けた二人の故郷、マネモブ自身もそこで10年間は過ごしたのだから流石に後味の悪さを覚える。

まあ、二人を傀儡に金儲けを目論むような神職の風上にも置けないクズ司祭共が蔓延っていたなど救いようがない歴史もあったが。

 

「………。」

ダミアノスは既にこの話を何度もしているのだが、オンパロスでの100年近い生活で記憶障害に陥っているまやかしの神を憐れみ、何度でも報告するのが自分の役目だと最早何も言わない。

 

「………で、聖女の故郷を滅ぼしたっていう首謀者は誰だ?」

マネモブの質問からは、多少の憤りを感じる。彼は戦争や血を嫌悪し、軽蔑しているからだ。

「はい、現ヒュペルボレイオスの事実上の指導者は”女皇”や”カイザー”などと呼ばれているらしいですが………」

ダミアノスはその名を告げる。マネモブはなるべく忘れんようにと思うが、恐らく数日もせずに忘却の彼方だろう。

 

………

 

 「クソッ、なんてことだ…なんてことだ…最悪の万が一が出た…!!」

オクヘイマの議会は今、混乱の最中にあった。先日露見した”ルキア”の内部工作、悪魔王子やトダーの活躍により未遂に終わったというのに、躍起になった僭主が”イカリア”、”コリンス”などの他国と”三国同盟”を組んで”オクヘイマ”に侵攻しているという。それだけではない、

 

「密偵の報告によれば、北の帝国軍の侵攻ルートもオクヘイマ方面らしいです………」

オクヘイマは気候もよく、人口も食も比較的豊かな国ではある。それでも、四つもの国を同時に相手取れる筈がない。間違いなく民は殴られ、犯され、そして皆殺しにされ全てを奪われるだろう。

 

「ここ”オクヘイマ”は”オンパロス”を支える”世負いのケファレ”の神聖な地でもありますからね。タイタン信仰から狙う目的もあるのでしょう。」

動揺している議員たちの中、唯一、落ち着き払い膝を組んだ座り方をする機械人間が一人。

 

「”リュクルゴス”、何を呑気に分析している!オクヘイマが滅べば、殺されるのは貴様も例外ではないのだぞ。」

そんな彼の態度に苛立ちを隠せないカイニス。絶滅危惧種の”アンティキシラ人”も今度こそ完全に滅びることになるやもと皮肉をぶつける。

 

「”神礼の観衆”の名において…私はここ”オクヘイマ”の世情は長らく見守ってきましたが、」

リュクルゴスを名乗るこの男は、今一度落ち着いてオクヘイマを見渡すべきだと他議員に伝える。

今回の侵攻に対処する切札が、この地にはある筈だと。

 

「ま、まさか…黄金裔やその裏にいる正体不明の”タイタン”に頼れと?」

「しかし…奴等は自ら政教分離を訴え、今まで一度も政治や戦争に加担した事はないだろう。」

オクヘイマが抱える”あかつきの黄金裔”最高戦力の”キャストリス”の”死の権能”や”神”の”炎”が振るわれれば連合軍など一網打尽に出来るかもしれないが………今まで頑なに政治や闘いに身を投じなかった彼らが協力してくれるだろうか。

 

「我々に出来る事は一つ………頭を下げて、戦争への介入を”神”に懇願するしかないでしょう。」

タイタンを殺せなどという神託を広める連中に頭を垂れよというのか………?

マネモブ達が必死こいて善行を積んできた今でも、”火追い”の神託に忌避感を持つ者がいなくなったわけではない。多くの議員は、黄金裔と対話しに行くのを躊躇っている。

 

「………分かった。”トリスビアス”達への交渉には私が向かおう。」

真っ先に名乗り出たのはカイニスであった。傲岸不遜な態度が目立つが、国を憂う気持ちやタイタンへの信仰心に偽りはない。

 

「流石、カイニス殿は今為すべき事をよく理解されている。」

(丁度いい機会です…マネモブ殿の規格、力量、この際図らせて貰いましょう。)

国を憂う女とは裏腹に、このリュクルゴスとやらには何か別の目論見があるようだ。

 

………

 

 「俺に戦争しろと…?冗談だろ………」

連合軍がオクヘイマまで辿り着かない内に参戦を受託させようと、カイニスはすぐ頭を下げに行った…が、返答は予想通り難色を示す。

 

「貴様らが参戦しなければ、オクヘイマは恥辱の限りを尽くされた後に、血の海に染まる事になる………」

カイニスの言葉は懇願というより、情に訴える脅迫にも聞こえるが…

「結局、お前達の代わりに、俺達が血を流せってコトだろ。」

マネモブの視線は酷く冷たい。

 

「………勝算があれば、我々だけでも闘っている!だが、」

人の身だけで勝ち目がないのなら、人は神に奇跡を祈るしかない。

「頼む………この通りだ………」

尊厳も何もかもかなぐり捨てて、遂に土下座して祈り始めるカイニスに、彼女が引き連れいてた護衛は酷く動揺してしまう。最も、マネモブはそんな土下座に何の価値もないと思っているが。

 

「………しょうがねぇなあ血と腐臭の匂いは苦手だっていうのに、」

「私達の為に闘ってくれるのですか…!!」

カイニスの部下はありがたやとでも言うように目の前の希望に目を輝かせている。

 

「だが、その三国連合だか北の遠くて寒い国だかとの戦い方は全て俺が決める………」

重い腰を上げたマネモブの決断とは………?

「オクヘイマ中の結界が扱える者を可能な限り用立てろ!見せたろうやないか”愚弄の権能”、”サルワターリ”の”神の御業”を………」

 

………

 

「ここがオクヘイマか………?」

ルキア、イカリア、そしてコリンスの描く三つの都市国家の連合軍。オクヘイマを刈り取る今日この日の為に、黄金の血流れる強き黄金裔を数多く抱え、遥々”世負いの神”の麓まで訪れたのだが…

 

「人っ子一人どころか………建造物すら何一つ見当たりませぬ。」

「おい、地図や座標が間違っていたりはしないだろうな!?」

「そ、そんな筈は…私は何度もオクヘイマに偵察で訪れております。」

まるで最初から何もなかったかのように空虚な荒野だけが辺りに広がっている。三国同盟に混乱が広がる。

 

「これって………ま、まさか………」

ある一般兵が憶測を話はじめる。オクヘイマに拠点を構える黄金裔の一人、”トリスビアス”をトップに置く宗教組織には正体不明の神、タイタンの加護が与えられているという噂がある。

その力を以てして、今まで何度も奇跡を起こして来たというのは有名な話だ。

 

「神がオクヘイマを守る為に………神隠しにでもあったというのか!?」

噂は真実味を帯びて、軍全体に広がっていく。

『イエス』

 

軍の混乱が最高潮に高まった頃、”壊滅”の炎を宿す”悪神”が降臨する。

「な、なんだあっ………」

高貴な装備を身に付けた、恐らく身分の高い者だと思われる奴等に限定して、心の動揺という陰を掴み”陰陽互根の術”で通常は目に見えぬ己を知覚できるようにする。”幻朧”の炎を引き出し馬鹿デカイ巨人の虚像を作り、敵の黄金裔や貴族たちを恫喝する。

 

『神の炎を打ち込まれ、身を焦がしたくない弱き者は去れっ』

『最も、蛮勇にも私に挑んたとして…貴様らが欲しがっているオクヘイマは絶対に手に入らない。』

 

「な、なにが起こってるんや………」

一般の兵隊達は突如として軍の責任者共がこぞって虚空を凝視するという異常事態に動揺が隠せない。だが、見えずとも伝わってくる”壊滅”の炎の熱と、目に見えぬ何者かという”神秘”は恐怖を煽るには十分だった。

 

『さあどうする。無駄に血を流すか、それとも大人しく帰るのか!選べ。』

将軍達は理解した。配下には見えてない様だが、この炎の巨人こそが、オクヘイマを消した元凶であると。国一つ簡単に消滅させるような存在に人の身で叶う訳もなく………

 

「ぜ、全軍、撤退………!!」

「撤退だあっ」

混乱はまだ残っているが、将たちが各々の国に去る選択をした事で、おめおめと大軍は去って行く。目的としていたオクヘイマもないのだ。帰るのは至って合理的な選択と言える。

 

(ウム、トリスビアスや悪魔王子はじめ、オクヘイマの皆に貼らせた空の大規模結界に”愚弄の権能”、”猿空間送り”を流し込み、発動するのは上手くいったな。)

マネモブが猿漫画を深く愛し”愚弄の運命”に深く浸かった事で獲得した空間系能力、”秘技・猿空間”。”灘神影流”の”高潔なる鷹” ”宮沢尊鷹”が見せた”気”、”念”で結界を構築する神業。

その二つを併用する事で、結界内の全てを猿空間に送る発展技がマネモブにはあった。

 

マネモブが認識する限り、猿空間に容量の限界はない。今回のオクヘイマ全土を呑み込む上で問題だったのは、入口の狭さだ。マネモブ一人の規格では、用意できる入り口には限界があるし、侵攻が目前に迫る中チマチマと猿空間送りをしている暇はなかった。

しかしマネモブは一人ではない、100年培ってきた仲間や信者と協力するというやり方を彼は知っている。国全体を覆う結界を作るのは容易な事だった。

 

それとマネモブも露知らぬ事だったが、この星にある独自の技術体系、”錬金術”により、結界に付与する権能の通りをよくする土壌を作るというやり方を、錬金術にある程度ノウハウがあった”キャストリス”が提案し、実行してくれた。

 

(あとは北の帝国を追い返せば、猿空間からオクヘイマを吐き出し、万事OK(マイ・ペンライ)な筈だ。)

”愚弄の権能”と”人々の結束”さえあれば、血を流さずに戦争を回避する芸を見せることさえ出来る。

マネモブは"其"の偉大さを噛み締めると共に、やはり自分には"戦わずして場を収める" "灘神影流の光の側面" "宮沢静虎"の信条が合うと思った。

 

………

 

 オクヘイマに向かってきているもう一つの障壁、永久凍土から遥々遠征してきた屈強な野蛮人共。指導者が優れているのか?その歩みにはまるで乱れがない。

軍の中枢、恐竜のような獣の背に乗せた玉座に居座るは蒼空のような青髪の目立つ中性的な子供だった。こんな小さな子供が北の帝国の指導者、人呼んで”カイザー”だの”女皇”だの呼ばれる存在なのか?外部の人間には俄かには信じ難く思える。

 

「カイザー、既に三国連合はオクヘイマに着いている頃だと…」

黒掛かった茶色の長髪に長剣を携えた腹心であろう女が玉座の前に跳躍しながら、敵軍の侵攻状況を報告する。

「うむ…」カイザーは小さくうなずき………

 

「皆聞け!既に連合軍はオクヘイマに辿り着いているという。聖都が陥落し”ケファレ”の神聖なる土地が不浄なる血で汚される前に、背徳者達に血の旋風と鎮魂の旋律をくれてやろう!」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

詩的ではあるが虐殺の宣言など恐ろしい事を宣う子供である。だが、兵隊達は強き言葉に乗せられて、妙な一体感と熱気に包まれている。下手な単独で強い兵士より、この手の人の心を掴み、扇動する指導者の方が恐ろしいかもしれない。

 

(待っていろ天外の”まやかしの神”………ボクは強くなった。)

 

◇”愚弄”と”女皇(カイザー)”の邂逅の行方は…!?

 




「空間転移の権能"猿空間"…高校鉄拳伝タフ、TOUGH、龍を継ぐ男………ですか。」
リュクルゴスは猿空間で見つけたマネモブの愛読書、力の根源を興味深そうに見ていた。

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