新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「来たか。」
三国同盟を”猿空間送り”というまやかしの奇跡でしりぞけたマネモブは、もう一つの脅威である北の帝国”ヒュペルボレイオス”の侵略に備え、かつて”オクヘイマ”があった荒野にただ一人座り込み、侵略者の到来を待っていた。帝国軍の到着は想定より早く、三国同盟が退去してから僅か2日ばかりでマネモブの前に進軍してきた。
「………妙な一体感だ。」
マネモブはあまりに統率のとれた軍の様子に不信感を覚える。三国同盟はオクヘイマが正体不明の神に消されたという事実に酷く動揺していたが、帝国軍からはそのような揺らぎは見受けられない。まるで最初から、その事を知っていたかのようだ。
三国同盟の中に帝国の内通者がおり、”伝言の石板(スマホ)”で報告でもしたのだろうか?
(ならばこちらから接触を図るか………)
上空から軍を見下ろしていたマネモブは、中心に居座る巨大な獣、この星特有の生命体”大地”のタイタンが生み出したという”大地獣”の背に、威風堂々と座っている小柄な子供こそ統率者であろうと目付けし、魂を同調させ接触を図ろうとする。
その子供の陰を掴むのは簡単であった。何せあまりにも巨大な征服欲、支配欲…言い換えるなら他者を害する事もある攻撃性の感情に満ちていたからだ。
『おいガキ。』「!」
上空からの声と熱気にすぐさま反応する女皇。うぐいす色の炎の巨人、その麓にいる黒で統一した装束の男こそ………
『見ての通り、オクヘイマは既にここにあらず。”愚弄の神”の権能により保護されている。』
闘ったとしても無駄に血を流すだけで、肥沃なオクヘイマが手に入る事は決してない。三国同盟同様大人しく立ち去れとマネモブは勧める。
「剣旗卿、勝利の一手を………」「ああ。」
(臣下に何か命令を出した………)
マネモブの言葉を聞いたカイザーは美しい長髪の女に指示を耳打ちする。
「~♪」
その”剣旗卿”と呼ばれた女は、突然歌い出した。その美しい嬌声は、軍全体を包み込む。
「!!」
ビュンッ
女が歌い終わった時、マネモブに向かって軍が一斉に矢を放った。
”灘神影流” ”弾丸滑り”
灘神影流は投擲攻撃への防衛術も兼ね備えている為に難なく退けるが、
(見えないものを見えるようにする”心眼”の同調なくして俺を知覚している…)
ミーム体に近い状態で降り立ったマネモブ、悪魔王子、そして三月なのかは通常オンパロス人の眼には映らない。視認する為には”見えないものを見えるようにする” ”幽幻”、”見えるものを見えなくする” ”真魔”などの武術を学んで特殊な目を養う必要がある。
マネモブは見えないという特異性と己の権能を利用して、神出鬼没の神を演じて来たのだ。
(あの女の歌に視覚をどうこうする術でもあったのだろうか。)
矢の雨を全て滑らせたマネモブはそう結論付けたが、まあ然したる問題ではないと考えた。
自由自在に操れる”風”と空を鷹のように滑空できる”空眼の目付け”の精神体であるマネモブには制空権がある。常人の攻撃が彼の命に届く事はまずないが………
”満たされぬ深海の宴に響く、皆の悲鳴を”
歌っていた女が恐るべき跳躍力を見せてマネモブに切り掛かる。そして、
「も、
どんな能力かは分からないが、巨大な白い鯨が構築、あるいは召喚されマネモブの炎ごと呑み込まんとする。
ドオオオオオン
鯨ごと地面に撃ち落とされるマネモブ。
パリッ「チィッ」
鯨に飲まれたマネモブの体に異変が起こる。デーザー銃でも撃ち込まれたかのように電流が体を貫く感覚と、肌が斬り裂かれる裂傷に苛まれる。
「ハアッ!!」
帝国軍の将達の攻撃の手は止まらない。白紫色の髪に鈍い蒼い宝石を埋め込んだ鈍い黄金色の冠と同じく蒼を基調としたレースの衣を纏っている女が手から氷雪を放出し追撃してくる。
”飛炎地獄” ”風当身”
「うぐっ…」
マネモブは風で炎を煽り迎え撃つ。じゅわーと氷は溶かされていき、女の手を焼いた。
「冬霖卿!!」
「風と炎を扱えるのか…厄介な”神”だ。」
不意を突くかのように、戦士の甲冑を身に付けた筋骨隆々の大男がマネモブを背後から切り伏せようとする。
「残念、」
マネモブは”残像を残す瞬間移動” ”朦朧拳”で切り掛かって来た大男の後方を取り、
「俺が扱える属性は”炎”と”風”と”氷”…”トリプル・フェイス”と言われているんだぜ。」
”アイス” ”ピキィーン”と音を立てながら、男の体を凍り漬けにして拘束した。
「断鋒卿まで………」
「お、おい嘘だろ。俺達の主力である”黄金裔”が一気に二人も………」
先程までは落ち着き払っていた帝国軍も将達が次々とやられていく様に流石にどよめいていた。
「………。」
唯一、カイザーだけは落ち着き払った様子でそれを俯瞰していたが。
「三対一で数の有利を取ろうとしたのはいいが、これで
残された”剣旗卿”と呼ばれる女を見据えるマネモブ。
「神に喧嘩を売るだなんて随分と罰当たりだな、あーっ」
「フン、元より我らは神殺しの為に凱旋を始めた。」
貴様が支援している”トリスビアス”が”ケファレ”より授かった”火追い”の神託も同じであろうと”剣旗卿”は言う。
「”冬霖卿”と”断鋒卿”を瞬く間に無力化したのは見事だったが………」
女はチラリと軍の方を見つめる。いつでも多勢に無勢でマネモブに侵攻する用意がある、あの”
(タタイイチは美味しくなさすぎる………体もビリビリするし………)
マネモブは大軍を相手にどう戦うのか?
マネモブは自身の周囲に突風を起こして、砂煙で身を隠す。
これは”覇生流” ”砂塵の障壁” かつて”宮沢鬼龍”相手に”風使い” ”風のミノル”が使った目くらましに使う技だ。
「その程度のまやかしで………」
剣旗卿は砂嵐ごとまた白鯨で呑み込めばいいだけの事と、マネモブが先程までいた位置に鯨を撃ち込んだ。
ドンッ
妙な手応えだった。鯨越しに感じるのは荒野の冷たく乾いた土だけ。マネモブは逃げたのか………
「………まさか!!」
大軍を相手に一人で闘う方法。それは………
「カイザー!!」
気付いた時にはもう遅かった。白鯨を繰り出す女が何もない空間を攻撃している間、既にマネモブは風を操り女皇の元まで辿り着いていた。そのまま後ろに回り込み、首筋に指を押し当てる。
カリスマ的な指導者に依存した集団は”キング”を取られれば実に脆い、”チェックメイト”だろう。
「おい侵略者の野蛮人共!!殺気立っているが妙な真似はするなよ。俺はお前らのカイザーの人生を指一本で終わらせることが出来るんだからな。」
幽幻真影流を学んだ者は手で首を斬り裂き、臓物を引き摺り出す事が出来る。カイザーの首から黄金の血が滴る。
「貴様―ッ」
「おいやめろっ神を刺激するなっカイザーの命を持って行かれるぞ。」
頭に血が上り弓を構えて打ち込もうとする者もいたが、周囲に制止されて何とか留まった。
”ツークツワンク” チェスではどんな手を撃っても事態が悪化する状況をそう言うらしい。
(鍛え上げられた肉体だ………)
「………。」
混乱の広がる臣下たちに反して、カイザーは自らの命を握られているというのに至って落ち着いている。首を掻っ切るだけでなく、背骨や内臓を圧し潰して破壊する手段も取れるようにと、自身の腹を巻き付くように抱え込んでいるマネモブの腕を見て、彼の強大さをしみじみと感じている。
「………酷い血と腐臭の匂いや。征服の過程で一体何人殺して来た?」
ハッキリ言って、オクヘイマを脅かそうとするお前らは目障りや。殺されたくなければ、最初に言った通り、今すぐこの場から立ち去って消えて欲しいとマネモブは語る。
ヒュンッカッカッ
カイザーに帰国するように促していたマネモブの首を狙い、剣旗卿が駆け付け刀を振るいにくる。
(最初は生け捕りにしろと命令されたが…カイザーの命が危うい以上悠長な事は言ってられない。奴がカイザーを道連れにする前に、首を刈り取れるか………?)
一抹の不安はある。しかし、カイザーを救う為にはやるしかない。
「………やめろ剣旗卿。」
彼女の剣筋がマネモブの首に届く寸前、カイザーは攻撃を止めるように言った。
「カイザー何故止める!!」「臣下が王に意見するか?」
納得いかない様子の部下をその一言で王は一喝する。
「王を取られた時点で、僕達の負けだ。無駄に足掻いて恥を重ねることはないだろう。」
不服そうではあったが、剣使いの女は得物を鞘にしまった。
「…で、帰ってくれるんですか?」
「天外から来た”まやかしの神”よ。やはり僕達の”強さ”はお前の首にはまだ届かないようだ…」
「これは皇帝としてでも黄金の血流れる”黄金裔”としてでもなく…”人間”の祈り、願いとして聞いて欲しい。」
(俺が外から来た者だと知っている…?)
マネモブが天外の者だと知っているのは”あかつきの黄金裔”など彼が”トリスビアス”をかついで始めた宗教関係者など限られている筈。この子供は一体何者だとマネモブは訝しむ。
「しばし、僕とお前、他の者がいない場所で話をさせて欲しい。」
「…そうしたら帰ってくれるのか?」
◇この女の目的は…?