新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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裁縫女と泥棒猫

  元老院が1000年と積み重ねて来たノウハウの元施行される内政、北から遥々南下してきたカイザーの圧倒的な軍事力、そしてトリスビアスを担いだ宗教的権威と”調和”とバランスの取れたオクヘイマはかつてない安定を見せていた。

 

内側の政治はカイニスはじめとした元老院が担い、他国への外交や軍事作戦はカイザーが、オンパロス人の求心力は慈善事業を展開しているトリスビアスが集める…ある意味最強の三権分立である。

 

 カイザーはじめとした北の帝国"ヒュペルボレイオス"がオクヘイマに統合されてからは激動の時代であった。

”タイタン”から祝福を受けた者だけが授かるとされる”黄金の血”と人智を超えた力、”黄金裔”と呼ばれる者達の中にその権能を悪事に使う者達が頻出し、各都市国家では”黄金死すべし”と人々が黄金裔への反感を持つきっかけとなった。

 

この事態が”火追い”に悪影響を及ぼすと重く見たカイザーは、元老院とマネモブに各地の黄金裔を討伐する遠征を提案し、二者はそれに合意する。後に”黄金戦争”と呼ばれるこの争いは、カイザーの神策の元振るわれる黄金裔達の圧倒的な暴力の元に数十年もしない内に鎮圧される。

 

”カイザー”は征服と勝利を表し、寒波を齎す”冬霖卿”、”断鋒卿”は立ちはだかる全てを断ち斬り、そして単独で数万の敵を相手に出来ると評される…敵の死を呼ぶ”剣旗卿”。悪しき黄金裔達の首を刈り取り回り名誉回復を図る、それがカイザー達に課せられた最初の使命だった。

 

 

「ったく、俺達は暗黒の潮に侵され堕落したタイタンと闘おうって神託を追ってるというのに。」

人間同士の争いはどこまでも平和や救世の足枷になる。黄金戦争の最中、そう零す者は少なくなかった。

 

 内戦が終結してしばらく経った頃、”暗黒の潮”が”支柱の三タイタン”の一角、”海洋”の”ファジェイナ”を浸食し始める。”暗黒の潮”への凱旋を訴えたケリュドラにより、遂に神殺しへの第一歩が始まる。暗黒の潮に呑まれたとなっては、タイタンへの信仰心が深い者もその案を飲まざるを得なかった。

 

多くの血が流れる事を憂いたマネモブの提案により、徴兵による大軍での軍事活動ではなく少数精鋭の強き者達によって行われたファジェイナ討伐は大勝利に終わった。

”死の権能”で神の命を削る”キャストリス”と”悪魔の王子様”。全てを焼き尽くす”覇生”の風と”幻朧”の炎が神の命を刈り取った。民は火追いの前進に歓喜したが、マネモブは後ろ暗い顔をしていたという。

”海洋”の火種は、一先ずは”剣旗卿”の”セイレンス”が継承する事に相成った。

 

 しかし、火追いの旅の全てが順調に進んだわけではない。火追いの意思に同調した”天空”出身の女傑”陽雷の騎士””セネオス”は、”天空”のタイタン”エーグル”の最期の眼を潰しあと一歩のところまで追い詰めるも、寸前になって同胞の堕落振りに失望し、神側に寝返った。エーグルと同化した”セネオス”は”天空の民”を大量に粛清し、僅かな生き残りは放浪の末に”オクヘイマ”への庇護を求めた。

 

全ての眼を失った”エーグル”は、オンパロスに日を灯す最後の”黎明のミハニ”を”世負いのケファレ”に託し、自らを倒すに相応しい天空人の末裔が産まれるまでは人々を寄せ付けないと”大地”と”天空”を繋ぐ道を閉ざしてしまった。

 

「まさかセネオス様がタイタンの方に着くなんて…」

「相応しい末裔って…一体いつ産まれるんだ…?」

救世の停滞を意味するその出来事は、人々の動揺を誘うには十分だった。

 

「”法のタレンタム”の下す試練は”黄金裔”500人を生贄に捧げる事!?」

火追いの旅の最中、ある時そう漏らしたケリュドラに、マネモブはそんな残酷な条件をはいそうですかと受け入れる訳もないと拒絶する。

「………やはり、お前ならそう言うだろうと思っていた。」

”天空”と”法”、この二柱のタイタンからの火種奪還は未だ展望が見えない続いている。

 

 

 

………

 

 

 

マネモブがオンパロスを訪れて200年経つか経たないかという頃、マネモブ自身はとっくに暦を数えるのをやめているので知る由もないが、そんな彼の元に訪れる者が…

「マネモブ、ちょっといいか。」

「悪魔王子か…隣にいるその…金髪の女は誰だ……」

 

彼女の名は”アグライア”。オクヘイマ産まれオクヘイマ育ち、古参のトリスビアスやキャストリスに比べると火追いに賛同した黄金裔の中では比較的新参者の若者らしい。

こう見えてたった一人で”浪漫”を司る”モネータ”というタイタンの試練にも打ち勝っているらしい。

 

 

 

「産まれつき私が目が見えません………あなたや悪魔王子様の”心眼”と同調している間はその限りではありませんが。それと、試練の内容は口外しない約束です。」

(疑問を先読みされた…)

なまめかしく指を口に当てる彼女に浮かんできた問いの答えを先に述べられてしまい少し面食らってしまう。

 

「もう何度もこのやり取りしてるんだぜ。そりゃあお前の会話の傾向くらい分かるだろ。」

「………こんな可憐という字を体現するような子を俺が忘れている?」

「………。」

無言でマネモブを見つめる二人は、痴呆老人のような彼に憐れみの眼を向けている。これでも初めてマネモブや悪魔王子と魂を繋げた時は、初めて見た色鮮やかな世界に感涙していたという。

 

 

 

「………悪魔王子は俺と違って元気そうだな。」

「心臓が産まれながら特別だったように、脳味噌の方も数百年に及ぶ生活に耐えれるくらい頑丈に出来てたのかもな………フン、今は俺の事はどーでもいいだろ。」

「そんな事よりマネモブ様。」

他愛のない話を続けるマネモブに、二人は強引に本題を伝える。

 

 

 

「物乞いへの炊き出し中に盗みを働く子供がいる………?その程度の話ならトダーやお前達が一度キツく怒れば済む話だろ。」

「普通の子供だったらな。俺達だけで解決できたなら態々お前に頼みに何て来ないよ。」

アグライアと悪魔王子が言うには、その子供の駆け足は音速超えるという。

 

「俺とトダーの脚の早さはそれぞれ時速換算で36㎞と100㎞だぜ。捕まえられる訳ないだろ。」

「私のように、黄金の血の祝福を持って生まれた子供なのでしょう。」

二人は、風を操るマネモブになら彼女を捕える事も出来る筈だという。

 

「しょうがねぇなあ…ま、最近やる事もなかったし頑張ってやりますよ。」

 

………

 

(今日も沢山の人カモが集まって来ている………)

整備された花壇の裏から、炊き出しに集まる群衆を見てほくそ笑む猫耳の子供が一人。

(乞食たちは大したものは持ってないけど、高貴な人間や軍人と違って反撃のリスクは少ないし、誰もアタシを捕まえられるない!)

 

 

 

ビュンッ

鋭い風を切る音と共に炊き出しに並ぶ者達から凄い勢いで持ち物が奪われていく。

(チョロいチョロい♪誰もアタシに気付いてない…)

僅かな貨幣や綺麗なだけの石クズも塵も積もればなんとやら、繰り返していけば馬鹿にならない額になる。

 

「アーッ、マタ来タヤンケーッ」

トダーの高フレームモノアイは彼女を見逃さなかったが…

「バイバイ!」

”人間のような機械”のスピードの限界を知っている彼女は余裕綽々で去って行く。

「…甘イデース。今日ハ”風使い”ガイルヤンケ。」

 

”バウッ”

「か、体が…!」

猫女の軽い体が突如として引き寄せられる。”猿空間送り”で真空を作りだす事で発生する空気の流動である。そして…

「んかあっ!つかまえたあ。」

彼女の体を全身黒統一の大男が掴んで離さない。

 

(アタシに追い付ける人間がいるなんて…)

首元を掴まれて釣り上げられながら、不貞腐れたような顔でマネモブを見つめる子供。

当の昔に滅んだ故郷、”盗賊国家” ”ドロス”にて、盗みに失敗してボッコボコに殴られ、黄金色の血を流した恐怖が甦る。

 

「一体、何の為にこんな事を?」

「フン…金なんていくらでもあるに越したことはないでしょ…」

「金なんか盗まなくとも、俺達の炊き出しに来れば腹は満たされるのによォ。」

「その脚の速さ………悪事に使わなきゃいくらでも人を助けられるだろうに。」

 

「………殴らないの?」

てっきり制裁を加えられると恐怖していたが、男の対応がその実大人しかったので拍子抜けしてしまう。そして子供の猫耳は、”人を助ける”という言葉に少し反応したようにピクリと動いた。

 

「アタシにも黄金の血が流れてるんだ…アタシも、黄金戦争や暗黒の潮の凱旋で活躍したこの国の英雄のようになれるのか?」

「それはこれからのお前次第だろ。少なくとも、盗みを働いてるようなうちは無理デース。」

この子供が盗みに走っていたのは、他の黄金裔へのコンプレックス、自分の器では英雄にはなれぬという劣等感の表れだったのだろうか。

 

「とりあえず盗んだ物はちゃんと持ち主に返せよ。殴られて怪我でもしたら、活法で治療してやらん事もないからな。」

最も、今日の出来事を俺が覚えてるかは分からないとニガ笑いしながら、マネモブは拠点で精神統一をしに戻った。

「英雄か………」

子供は盗んだ戦利品にしばし目を向けた後、罵声を浴びせられる覚悟をしながら返しに向かった。

 

………

 

「セファリア、あまり気負わなくともいいのですよ。焦らないで、」

「余計なお世話だよ裁縫女(アグライア)!!」

後日、教団で”金織卿”と元”泥棒猫”が仲睦まじく服の裁断に勤しんでいたという。




 「セファリアに金をプレゼントしますよ。ただし、金糸で作ったエンドモをね!」
「なにっ」

………

 「此度の永劫回帰は、火追いへの取り組みが少々消極的に思えますね。これも、全てはあの変数の影響か………」
オンパロスにはそぐわないように見えるモニタールームに囲まれた場所にて、元老院の”神礼の観衆” ”リュクルゴス”が何やら意味深な事を言っている。

「”愚弄”の名に恥じぬ”愚か”なまでの善意に当てられ腑抜けたカイザーは”法の試練”の完遂に動けない。となれば………」
◇”黒衣の処刑人” あの男がついに動き出す
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