新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「た、大変だあっ」「なんや、やかましい。」
「ほ、”法のタレンタム”が、法のタレンタムが何者かによって討伐、火種を奪われましたッ」
「なにっ!?」
そのニュースはオクヘイマ中を震撼させるには十分だった。タイタンを討伐し、火種を人の元へという志を持って闘っていたのはてっきり”あかつきの黄金裔”や”カイザー軍”だけだと思われていたが…ここに来て第三の勢力(?)の登場である。
「どこかの都市国家が動いたのか?」
「いいえ、各国にそのような動きは見られず…」
「じゃあ一体誰が火種を奪ったっていうんだよえーっ」
手段、正体、実力、その全てが不明な謎多き者…人々は”火種を奪う者”として、”フレイム・スティーラー”と呼称するようになった。
(どういうことだ…)
法の試練を乗り越えるには500人の黄金裔を生贄として捧げる必要がある。しかし、各国の黄金裔は既に黄金戦争時に殆ど死に絶え、火追いの意思に共感しオクヘイマに集った者は依然健在である。
法の試練の概要を知るカイザーと一部の腹心、協力者達は、その”フレイム・スティーラー”が何故試練を突破出来たのか訝しんでいる。
「とにかく、そのフレイムス・ティーラーとやらが他の火種を奪ってしまう前に、我々も動いた方がいいのでは?」
緊急事態を前にして、元老院、皇帝軍、トリスビアスを担ぐ宗教関係者が一堂に集まり話し合っている。
「討伐、返還されてない火種はあといくつだったか。」
「”紛争”、”天空”は依然健在。”死”は行方が分からず。”理性”の火種は”樹庭”の学者達が保管、”歳月”の火種は受け継ぐ者がおらず何百年も前からこの地に置かれています。」
「”詭術”は最近、サフェルを名乗る黄金裔が試練を乗り越えました。」
「天空への道は閉ざされたままだが…”死”と”紛争”はそろそろ討伐に出向いても良いのではないか?」
「”紛争のニカドリー”はタイタン一の武闘派だぞ。それと奴を信仰する”クレムノス”を同時に敵に回したら、一体どれほどの犠牲が出る事か。血と争いを好む奴らは黄金戦争で何度敗れても立ち上がって来た。」
「それを言うなら”死のタナトス”もそうだろう。未だどこかで生きているという前提で話すが、近付くだけで命を刈り取られると聞いている………」
議員はその言葉を聞いて表情が曇ったキャストリスをチラリと見た後、申し訳なさそうに視線を戻した。
「とにかく、多少のリスクを負ってでも闘いを挑まなければ…」
「私はタイタンを殺す神託には未だ忌避感があるが、厄災の三タイタンならば討伐して欲しいと思っているよ。オンパロスに災いが産まれたのは、その三タイタンが誕生してからとされているからね。」
「………その危険な神共と実際に闘うのは、僕の指揮のもと動く帝国軍だろう?」
カイザーのキツイ言葉に、鷹派の議員は黙ってしまった。現場をシラナイ人間がとやかく言う様に不服を感じたのだろう。
「フッ………」「なんだリュクルゴス。僕が貴様を嗤わせるような事でも言ったか?」
「いえ………お気になさらずに。」
タイタンと衝突すれば自ずと犠牲になるであろう臣下の事を考えて発せられた彼女の威圧がそこまで面白いだろうか。
「私はタイタンより先に、その火種を奪おうとする輩を殺した方がいいと思うがね。法の火種も取り返さねばならないし。」
「まあ、俺達”あかつきの黄金裔”も、火種をタイタンから奪えという神託を受けてるんだけどね。」
悪魔王子の皮肉節に、フレイムス・ティーラーを真っ先に始末すべきだと進言した議員はムスッとした態度を取る。
「マネモブ殿はどう考える?」
「えっ、俺に振るんですか?」
”トリスビアス”を裏から支えてきたオクヘイマの宗教的権威の事実上の黒幕である”マネモブ”ともそこそこ交流のある”カイニス”が、彼に意見を求めた。
「………忘れっぽいから情報整理するのに精一杯だったが、そうやねぇ。」
未だ討伐されていないタイタンは危険な神ばかり、いや、危険だからこそ今まで中々手を出せずにいたというのが正確だろうか。そして単独で法の試練を乗り越えたとされる謎多き人物に、マネモブはどう対処すべきと答えるのか。
「とにかく、どれも相手取るには危険過ぎて迂闊に手を出さない方がいいと思われる。」
静観しろという事だろうか。タカ派の連中はその消極的な姿勢に眉をひそめている。
「んじゃ周囲に死を振りまくバケモンみたいな巨人と単独で巨人を御したそのフレイム・スティーラーとか言う奴をどうやって倒せっていうんだ?言ってみろ。」
人の意見にケチをつけるなら代案を出してみろとマネモブは不機嫌そうな顔をする。
「しかしマネモブ殿、あなたの意見は問題を先送りにしているだけでは?」
その先に転機が訪れるのなら賛成できるのだがと、得意の神託でもないのかと、議員も強気な言葉で返した。
「ただ待った先にあるゴールか…その予言が無い事もないぞ。」
マネモブのその言葉にその場にいた全員が息を呑んだ。
「俺や悪魔王子とトダー、そしてそこのピンクが天外出身という事はここに呼ばれる程の立場の人間は殆ど知ってるやろ。」
ピンクと呼ばれておいと怒った三月なのかを無視してマネモブはこう続けた。そこのピンクの仲間である”星穹列車”という集団の来訪を忍耐強く待てばなにか転機が訪れるという予言が下されていると。
「…で、その星穹列車やらはいつ訪れるのだ。」
「あううっ…ウチにも分からない。」
返答がハッキリしない様子のナノーカに、議員の疑りは益々高まっているように思える。でも、自分達はいくつもの星を救ってきたから、実力だけは保証出来るとなのかは答えた。
「この星の住人は知らないだろうが…」
「ワシ等ニソノ予言ヲ下シタ”星核ハンター”ノ予言的中率ハ100%トサレテルヤンケ。」
悪魔王子とトダーが星核を狩る事を生業としている犯罪者達の概要をかいつまんで説明しているが、知識のないオンパロス人はそうすぐには信用できないようだ。
「んじゃあ様子見以外でどうすればいいのか教えてくれよ。」
懸念するばかりの人間は、実際に意見を求められると押し黙ってしまう。そんな様子を子馬鹿にするように、マネモブはwhyのポーズを取った。
「いいではないですか。静観という選択をとっても。」
ここに来て、元老院でもかなりの影響力を持つリュクルゴスがマネモブの意見に同意した。
「リュクルゴス!」
法の火種以外の神権も取られたらどうするのだと反発の声もあるが………
「ならば、今すぐにでも遠征を起こすか、それともマネモブ殿の言うように機を待つか、元老院の法に従いオクヘイマ全市民で投票を実施しましょうか。」
リュクルゴスの提案に、反対意見を言うばかりの議員はぐぬぬと黙ってしまった。”あかつきの黄金裔”と”ケリュドラ”の鋭い視線。悔しいが、民からの求心力が高い二勢力と選挙をしても勝ち目はないだろう。元老院で一番演説の上手い”カイニス”も恐らくマネモブズブズブであろうから尚更である。
「では、フレイム・スティーラーの問題は一度保留にし、三月殿の仲間がこの地に訪れるのを待つという事で…」
議会は一先ず終わりを見せ、各勢力はゾロゾロ各々の拠点に帰っていく。唯一、神礼の観衆を残して。
(しかし、タレンタムが要求する黄金裔の生贄は、永劫回帰の中で処刑人が幾億の”壊滅”育成モデルを殺戮してきた事実で満たされた扱いになるとは…この挙動は初めて観測しました。)
(どの再創生でも躊躇なく家臣を犠牲にしてみせた”法のモデル”がマネモブ殿の影響を受けて試練を先延ばしにし続けた事で待っていられず自ら出向く事にしたのでしょうが。)
”愚弄”がオンパロスに介入してからというもの、歴史は今までにない歪みばかり見せてくる。
これが俗に言う”田代さん時空”というものだろうか?知的好奇心がそそられると同時に危機感を持たせてくる。
(今回の再創生はあまりにもイレギュラーが多すぎる。私としても、再び彼に徒労のやり直しを選択して貰った方が都合がいい。)
リュクルゴスはチェスの次の一手でも考えるように思考を巡らせている。
(”愚弄派閥”とその首領であるマネモブ殿、彼が全ての元凶ですが…)
思いの外強力で類を見ない権能の数々を所有していた事で表立って敵対する事は避けていたが、
(”短命種”故の哀しき宿命か、彼らはオンパロスの永い時を生きるのに向いていない。)
マネモブには既に自己崩壊の凶兆が出ている。闘うまでもなく、彼の方から勝手に自滅するだろう。悪魔王子は割と耐えているが、それもいつまで続くか怪しいものである。
(”星核ハンター”の予言…マネモブ殿は”星穹列車”の到来が事態を好転させると本気で信じていますが、)
現在の星穹列車にオンパロスの事態を解決させるような、最低でも”使令級”の存在がいるという話は聞いた事がない。”開拓”より時間や空間を歪ませる”愚弄”の方がよほど脅威である。
このリュクルゴスという男、天外への知識が疎いオンパロス現地人だというのになぜか外部勢力へのアンテナも張っているが、計算上列車は取るに足らない誤差レベルの変数と結論付けたようだ。
私の一番の武器はその時を辛抱強く待つ
◇心の強ぇ敵なのか…?
法の試練の突破条件は自己解釈を超えた自己解釈なんだ。