新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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悪魔と猫はうそつきなんだ

 ”海洋”と”天空”、二柱のタイタンと黄金裔が衝突した戦争からはや300年が経過しようとしていた。一時はオクヘイマ中を震撼させた”フレイム・スティーラー”は”法の火種”を強引に奪還して以降はまるで音沙汰がなく、最初こそ恐れ慄いていたオクヘイマ民も、今では目立った内紛もタイタンとの衝突もない時代が長く続いた事で、すっかり平和ボケしている。

 

「元老院の司祭様が態々アタシを呼ぶなんて”詭術”の神もビックリ仰天だと思うよ。」

嘘と盗みと脚の速さが売りの自分に一体何をしてもらいたいのやらと、皮肉を交えながら依頼者を見据えるのは”詭術”の半神”セファリア”通称”サフェル”だ。

目の前にいる司祭は、300年前に”陽雷の騎士”と呼ばれた”天空人”の英雄”セネオス”が神殺しの土壇場で”天空のタイタン” ”エーグル”に寝返った事で空を追われた生き残りの老人だった。

 

「………これから先の話を聞いたら、貴方に生涯かけて重責を背負わせる事になるでしょう。断るというのなら、それはそれで構いません。」

「まどろっこしいのは嫌いなんだよね。脚も早ければ気も早くてせっかちなんだ。頼みたい事があるなら率直に言いなよ。これでもアタシ、英雄の一人らしいからさ。」

サフェルの言葉に感謝を述べながら、老いた司祭はしわがれた声で話し始める。

 

「300年前、私達の英雄だったセネオス様はエーグルの最後の瞳を潰しました。」

「でも倒す直前になってエーグルの方に寝返って同化したんでしょ?”火追いの旅”の大敗として有名だよね。」

司祭はよくご存じだと微笑みながら続ける。

 

「エーグルの瞳がかつてオンパロスを照らしていたのは有名な話ですが…」

最後の眼も潰されてしまったエーグルは神権を振り絞り、オンパロスを照らす新たな太陽として”黎明のミハニ”を創り出し、”世負いのケファレ”に授けた。

 

「その神話も知ってるよ~退屈な”樹庭”の授業で習ったしね。」

「本題はこの”黎明のミハニ”についてでして………」

あなたの覚悟を疑う訳じゃないが、これより先の話を聞いたらもう後戻りはできないと再確認する司祭。

 

「舐めないでよね。アタシだって黄金の血流れる”黄金裔”なんだ!詭術の試練だって乗り越えたし。」

司祭は重々しい雰囲気で、真実を話し始める。

◇黎明のミハニの真実とはー?

 

………

 

マネモブ達がオンパロスに訪れてからはや500年近く経過した。ここ数百年、火追いの旅は停滞し、情勢も安定している。特に”黄金戦争”を制し神殺しを成した”カイザー”や”あかつきの黄金裔”を擁しているオクヘイマに無謀な争いを仕掛けようなどという国は既になく。

 

「グルル…」

「最近のオンパロスはビックリする程つまらないな。そう思うだろD-51(デコイチ)。」

悪魔王子は陽光が気持ち良く刺す快晴の中、かつては弟である”28号”の相棒、あるいは友であった最強のアンドロイド犬兵器と共に散歩に勤しんでいた。

 

”その咬合力はT‐レックスすら凌駕する10万トン超え”

”デコイチが本気を出せばウイルスの速度で人を殺害する”

危険過ぎて普段は猿空間に封印されていたのだが、退屈に悩む悪魔王子にマネモブが与えたのだ。

 

『ニンゲンはうそつきなんだ。』

かつて騙し討ちのような形で、28号の心臓を移植された龍星を保護するデコイチを悪魔王子が襲った経験から、最初こそ唸り声を上げて悪魔を警戒していた。

しかし、”28号”と同じ匂いと遺伝子を持っている彼はかつての主であると擦り込まれたのか、今では大人しく付き従っている。

 

(俺はマネモブほどセンチじゃない………が、そうは言っても。)

マネモブより発症は遅かったが、IQ200を超える天才的な頭脳を父親から受け継いでいる彼の”記憶”能力にも、容量が限界に達したのか問題が見られるようになった。

そんな悪魔王子に、マネモブは”灘神影流”の施術を授けた。

 

『記憶を消す施術…?灘にはそんな技術まであるのか。』

『本来は秘伝書にも残せないような危険すぎる暗殺術を授ける時、継承完了後に先代がその記憶を消す用途で使うんだ。』

”灘神影流” ”13代目当主” ”宮沢金時”は、長男”宮沢尊鷹”に”鬼の五年殺し” ”塊蒐拳”を授けた時、この施術で自身の”記憶”の中にある”塊蒐拳”を抹消し使えなくなったという。

 

(この施術のお陰で、今でも俺は心身共に健康で生きていられる。)

最近では覚えるべき”記憶”などない事が殆どなので、一日の終わりにこの術を使い、その日の全てを”忘却”している。

 

(しかし、列車はいつ来るんだ。)

いくら時の進みが違うとはいえ、まさか500年経っても来ないというのは流石に想定外だ。

地獄の苦しみや痛みに慣れている自分はまだいい、問題は”マネモブ”だ。格闘家といえど、戦地や人死にを見て来たわけではない彼のSAN値はオンパロスで相当削られてしまった。

列車が来る前に彼の心が壊れてしまはないかと、悪魔王子は常に憂いていた。

 

「やあ悪魔っち。久しぶり、元気してる?」

「ん?泥棒猫か…って、なんで”心眼”を同調させる前から俺が見えてるんだ。」

最近見かけなくなった黄金裔の一角、”詭術”の半神”セファリア”、通称”サフェル”に声を掛けられた悪魔王子は彼女と魂を繋げ、会話を試みる。

 

「”犬”とかいう珍しい動物を飼ってるって風の噂で聞いたからね。そのワンちゃんはいい目印になってくれたよ。」

「それから、泥棒猫呼びは嫌だなあ…盗賊からはもうとっくに脚洗ってるでしょ。本名の”セファリア”って呼んでよ。」

他愛のない会話をしながらサフェルは犬を撫でようとする。

 

「グルルル………」

「デコイチはただの犬じゃない、初対面の相手には10万トン超えの顎の力で噛み砕いてくるから気を付けろよ。」

悪魔王子の忠告を聞いたセファリアは、デコイチを撫でようとした手を思わずひっこめた。

 

「ここ数年、教団に顔を出さないじゃないか。各地を放浪してると聞くが…」

一体何が目的でそんな事を理由を問う悪魔王子。お前の事をまるで我が子のように可愛がっている裁縫女(アグライア)が哀しんでいるぞと付け加える。

 

「………へえ、裁縫女はアタシがいなくなったのを哀しんでくれてるんだ。」

いつも笑顔を崩さない彼女は少し俯きがちになり、上空から刺す光によって顔に陰が出来る。

「何かあったなら話せよ。」

教団、とくにアグライアを避けるのには深い事情がある筈。自分に接触してきたのは、お前自身それを共有したいと思ったからではないのかと彼は指摘する。

 

「あはは、アンタ詭術が使える訳でもないのに。」

人の機微を見破るのが得意だとセファリアは褒める。

「ちょっと人がいないとこで話したいかな。」

サフェルは人通りのない裏路地に彼を導く。

 

「まさか人気のないとこに誘い込んで盗む…なんて事はしないよな。」

「心の陰を見たら悪意がないことくらい分かるでしょ?素直じゃないんだから。」

「フン…」

 

「これから話すことはただの愚痴みたいなもんだからさ………1人で抱え込むのはしんどいから、誰かに共有したいと思って。」

「何で俺なんだ。仲良しこよしのアグライアに話せばいいじゃないか。」

「アグライアは駄目なんだ………!」

悪魔王子の疑問に、切羽詰まった様子で語気強く否定するサフェル。明らかに普通じゃない。

 

「まあまあ、落ち着けよ。」

「………ごめん。アンタを選んだのはさ、アンタが”記憶”を消す施術を使えるって聞いたから。」

それに顔も良いし!と、場を和ませるには少々無理のあるテンションでサフェルは彼を誉める。

 

「ああそう…」

「これから話す事は、すぐにでも記憶から消して欲しいの。」

「おいおい、消したら相談する意味ないじゃないか。」

 

「いいの!誰にも話せないのが辛いだけだから…アンタがそれを忘れても、アタシの気持ちは楽になる。」

「で、その悩みってなんなんだ?」

悪魔の王子様は彼女の辛さを受け止める覚悟が決まったようだ。

 

「アタシさ………うそついてんだよね。」

「はあ、なんだよそれ。」

嘘は”詭術の権能”を使うお前の十八番、そもそもニンゲンはうそつきな生き物だろうと悪魔王子は言う。誰だって多かれ少なかれ嘘を付いた事くらいある。

 

「そういう話じゃないんだけどさー…ああ、詳細話しちゃうとオンパロスがヤバいから言えないんだけどね。」

「………本当だと思い込ませた嘘を具現化する”詭術の権能”、オンパロスの情勢に関わるような大きな嘘でもついてるのか。」

げっ、察するのが早すぎるとサフェルは答えた。もうちょっと段階を踏んで話したかったらしい。

 

「そういうことなら、嘘の詳細について俺は詮索しない。」

「あはは、気遣い助かるよ…アンタ結構モテるでしょ?」

モテを意識するような環境で生きてなかった悪魔王子だが、父親の鬼龍はかなりモテていたからその血なのだろうかと心の中でふと思った。

 

「………ありがとね。嘘を付く時一番楽になる方法は、正直に話す事だからさ。」

そういってサフェルは去ろうとする。

「アグライアには会いに行かないのか?」

せめて挨拶くらいしていけばいいのにと、悪魔王子の一言に彼女は歩みを止める。

 

「………それは無理だよ。だって、」

また彼女と会ったら、離れたくなくなってしまう。

「アグライアは………人の心を見抜くの上手いじゃん。」

傍にいたらいつか、アタシの見え透いた嘘などバレてしまうからと。人生の悲哀を漂わせながらそう言い残して、彼女は再びオクヘイマから去った。

 

「フン、アイツは今日の事は”忘却”して欲しいと言っていたが………」

彼女が大きな嘘を抱えているという苦悩は、俺も”記憶”して一緒に背負うと、約束を反故にする事を決めた悪魔王子だった。

 

◇優しきうそつき二人…

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