新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「今日もオクヘイマは気味が悪い程平和だなデコイチ。」「クーン…」
高所にある元老院の議会付近から悪魔王子はつまらなそうにオクヘイマを見下ろしている。
最近の悪魔王子と言えばデコイチと一緒に散歩をするくらいしかやる事がない。まあ、かつての地獄に比べたら平和は悪い事ではないが。
とは言っても、ここ数百年の内に”サパニー”や”クレムノス”を始めとしていくつかの都市国家が暗黒の潮に呑み込まれ、難民がオクヘイマに押し寄せるという惨事は起こっている。カイザー軍の千軍万馬の活躍によって人間同士での紛争が減ったのはまだ幸いだが。
特に大きな事件は”クレムノス”崩壊であろう。”暗黒の潮”の浸食は”タイタン”すら例外なく呑み込み、野蛮人共が信仰する”紛争のタイタン” ”ニカドリー”は元から武闘派だった攻撃性が狂気に堕ちた事で見境がなくなり、己を崇める国や人々をその矛で滅ぼしてしまった。
『何故各国に紛争を仕掛け続けてきた野蛮人共を受け入れねばならんのだ!』
当初はクレムノスの難民を受け入れることに反発するオクヘイマ民も多かったが、
『ウム、血と紛争に鍛えられたクレムノスの民は良い戦力になる。』
カイザーの傘下になる事を条件、というよりは彼女が軍拡の一環として欲しがったというのが正確な表現だろうが。
『闘わずして場を収めるのが強き者の信条なのだろう?』
そんな事を言ったとか言わなかったとか噂されているが、クレムノスとオクヘイマの懸け橋になったのは何も彼女だけではない。
「オロロロロロ…」
「はっ、より多くの”メーレ”を飲めるのはどちらか…勝ったのは俺の方…はうっ…」
「………。」
悪魔王子の軽蔑の視線の先、オーディエンスが集まる中、オンパロスの特産酒”メーレ”の飲み比べ勝負をしている男が二人。
その一角こそ、クレムノスとオクヘイマの関係改善に努めている、亡国の王子”メデイモス”、人は”モーディス”と呼んでいる。
先王である父親を殺したなど後ろ暗い噂もあるが、血と紛争を好む野蛮な国民性に若くして疑問を抱き、クレムノスの在り方を変えるべきだと訴えかけていた良識派である。しかし、
「はあっはあっ………”不死の権能”で肝臓のダメージをものともせずに飲み続けるなんて、」
「不服か?権能を使ってはいけないという決まりはないだろう。」
彼の横で頭と胸を抑えている白髪の男は”ファイノン”。人里離れた妖精と人間が共存する”エリュシオン”という村の出身だったが、暗黒の潮と謎の”黒衣の剣士”に仲の良かった幼馴染もろとも他の住民を殺害され、復讐心と救世への憂いを抱えてオクヘイマの火追いに馳せ参じたという。
両者ともに心根はオンパロスを救う志と闘う覚悟を持った”英雄”なのだが…ライバル心なのだろうか。二人きりにさせるとこうやって子供のような争いを始めてしまう。
「お前は”黄金裔”の中でも唯一欠陥のない完璧な存在だとされているが…肝臓は完璧に作られてないようだ…」
「フッ、また低俗で下らない争いをしてるんだな。」
モーディスが負けたファイノンを挑発するように、悪魔王子も勝ち誇るモーディスを煽る。
「悪魔王子か。」
態々”魂を同調”させ姿を現してまでやいやい言って来るなんて、ケンカでも売っているのかとモーディスは真っ向勝負の姿勢だ。
「クレムノスの辞書には、”売られた喧嘩は買え”とある。」
「野蛮人国家らしいな。」
子供と本気でケンカをする大人などいない…と悪魔王子はスルーした。彼は既にモーディスやファイノンの数倍は長く生きている。
「ほう、”大人”が”子供”にケンカで負けるのが怖いのか?」
「………。」
両者の眉がピクつき、空気がざわめき始める。
「グルル……」
「落ち着けデコイチ、これは俺の喧嘩だ。いいぜ、何で勝負する。」
「そうだな…まずはお前が下らないと吐き捨てた酒の飲み比べで、第二ラウンドだ!」
闘いのゴングが鳴る…!
………
「がはっ………」
「も、モーディス様もうおやめください………」
部下に駆け寄られ静止されるモーディス。酒の飲み比べ対決、勝ったのは悪魔王子だった。
既にファイノンとの闘いで、相当な負担を肝臓や脳に課していたのもあるが…
「~♪」
悪魔王子は既に酒樽10個分程の酒を飲み干しているが涼しい顔をしている。
「く、クレムノスの王子として、ここまでの大敗など納得できるか………!」
「忘れたのか。お前と魂が繋がっているという事はお前の”不死の権能”が俺にも影響を与えるという事を。」
不死の権能は肉体の基本性能の向上や自己治癒力の増加を齎す、そして悪魔王子が勝利した理由はそれだけではない。
”総身退毒印” 悪魔王子は特殊な印を結ぶ事で体外に毒物を輩出する灘の活法を使い、アルコールを血管から排出していたのだ。
「なにっ」「そ、そんなのアリか!?」
血を流す形とはいえ、それは飲まずに吐き出してるようなものじゃないかと、悪魔王子の勝ち方にクレムノス人のオーディエンスは反発している。
「フッ、そこでぶっ倒れてる白髪に不死の権能で強引に勝ったのがお前らの王子様だろ。」
灘・真・神影流の技を使ってはいけないなんてルールはないだろうと、先程モーディスがファイノンに言ったような謳い文句で返した。
「はあっ………第二ラウンドは俺の負けだ。お前の扱う武術の”強さ”は認めよう。」
ゆっくりと立ち上がり悪魔王子を真っ直ぐな眼で見据えるモーディス。
「お前が使うその”灘・真・神影流”…ずっと興味があったんだ。」
それは俺と闘ってみたいということか?と聞く悪魔王子。
「ああ、第三ラウンドだ!」
王子と王子、二人の意地をかけた戦闘開始だッ。
モーディスも数多くの格闘家同様拳を武器にして闘う。
ボッボッパンッパンッ
”灘神影流” ”超鞭打ち”
ジャブ感覚で拳のラッシュの応酬を繰り広げる二人だが、この程度では勝負は永遠に着かないだろう。
「こんなものではないだろう。もっと灘の技を使ってみろ!」
「あーあ、俺なりの気遣いだってのに。」
灘の強力な技を解禁したらお前なんて即倒せるとでもいうような悪魔王子の態度。
「舐めるなっ」
ボウッ モーディスは拳と地面から鮮血のように紅い結晶のようなものを構築し悪魔王子にぶつけんとする。
”幽幻真影流” ”朦朧拳” ”霧霞”
悪魔王子は残像を残す瞬間移動でかわす。結晶が捕らえたのはまやかしだけだった。
「フッ、技を使ったな。」
「…朦朧拳を引き出させたくらいで勝った気になるなよッ」
悪魔の王子様がモーディスに急接近する。そして…
ザクッ
「ぐうっ」
手刀をドテッ腹に突き刺し臓物を引き摺り出す危険すぎる暗殺術。相手が不死だから危険な技も遠慮なく使えると悪魔的に微笑んでいる。
「幽幻を極めた人間は下手な刃物より切れる手刀を使え………」
ここに来て悪魔王子は動揺する。刺した手が抜けない。
「クレムノスの辞書には、”肉を切らせて骨を断つ”という言葉がある。」
悪魔王子の動きを封じ顔面に綺麗なカウンターを決めて意識を落とす。
「はあっ…これで一勝一敗………」
おおおおおおおおおおおお
クレムノスの民は王子の勝利を自分の事のように喜び、雄たけびを上げている。
だが、腹を刺されたダメージは相当重く、膝から崩れ落ちてしまう。クレムノスの民は王子を心配し、早く医者を呼べと叫んでいる。
「ワン、ワン…」
デコイチは意識のなくなった主を心配し鳴いている。
ドクン…ドクン…
「ばあっ」
悪魔王子は”突然変異の心臓”の鼓動で意識を取り戻した。
「まだ
酒と抜き手による内臓の痛みを抱えながらも、モーディスは勇猛果敢に立ち上がる。
敗北はあれど、敗走はない。それが野蛮人国家の”破滅の美学”だからだ。
「次はもっと残酷に破壊して………」
「ストップ!!」
突如として、二人の争いを止める鋭い女の声が辺りを支配する。
「ひ、ヒアンシー…」
「プルル…」
止めに入った女の名前は”ヒアシンシア”、通り名は”ヒアンシー”。”天空の民”の子孫で黄金の血流れる黄金裔の一人にして心優しき医者だ。そして彼女の周囲を飛ぶ謎が多い生命体”イカルン”
「モーディス様、不死に甘んじて無暗に体に負担をかけるのはやめましょうって何度も言ってますよね?」
「僕が倒れてる間にモーディスが悪魔王子と本気の喧嘩を始めたって…」
彼女を呼んだのはファイノンらしい。
「全く、ファイノン様も酒の匂いが酷いです!」
医者として皆の不健康は見過ごせないと、ふんすと息をする。
「どうせまた熱くなって二人で勝負でもしてたんでしょう。」
((見抜かれてる…))
二人は今後は気を付けると頭を下げた。いつの時代も、最強は野郎共ではなく男を叩いて正しい方へ導くような女傑なのかもしれない。
「そういえば悪魔王子は?」
「………あ!」
周囲を見渡したモーディスは、100メートルくらい先に悪魔王子の姿を見る。
「説教は勘弁だ。バイバイ。」
悪魔王子はヒアンシーが来た時点で逃亡の算段を付けていた。爽やかな笑顔をしながらデコイチと走り去って行く。
「………。」
「まあ安心してくださいモーディス様。悪魔王子様にはまた後日キツく怒っておきますから。」
「………ハハッ」
この平和がずっと続けばいいのにと、ファイノンは笑いを零した。
そろそろ列車の介入を書きたいですね…本気でね。
ホントはもっとエグイ殺人技出そうと思ったけど話の構成作ってく内に猿空間送りになってしまったんだ。