新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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”ニカドリー”すげぇ…見境なく全方位攻撃するから結果として”暗黒の潮”が溢れるのを抑止してたし。


黒衣の剣士と幻朧

 オンパロスを脅かしている最も忌むべき存在”暗黒の潮” 天外から飛来したのではないかとも考察されるが発生元は一切不明。一つだけ確かなのは、この世界に過酷な”運命”を強いた”神”はさぞ性格が悪かったのだろう。マネモブ達が訪れた”神悟の樹庭”は、今まさにその忌み物の侵攻を受けていた。

 

「覚悟してください 風と炎を撃ち込みますッ」

『グルァ………』

マネモブは”風当身”と”飛炎地獄”のいつもの合わせ技で敵の一切合切を燃やし尽くしていた。

 

「「シャアッ」」

トダーはノーモーション音速パンチ、悪魔王子は”霞突き”や”幻突”を使い雑魚を蹂躙していく。

暗黒の潮に浸食された生命は”魂”すら汚されると樹庭の学者は言うが、ただのAIロボットであるトダーは侵される心配がなく相性はいい部類に入る。

 

「チッ、キリのないキリのない…」

「トダー、俺達が倒した暗黒の潮の造物はどれくらいだ。」

「ざっと100は優に超えてまーす。」

 

 ニカドリー討伐の遠征を終えたこのタイミングで暗黒の潮と本格的に戦闘するのは非常に不味かった。フルコンタクト武闘派タイタンとの戦闘で”黄金裔”や”列車組”は疲弊していた為、裏方で魂保護のサポートに徹し消耗が少なかった”愚弄派閥”だけが先んじて”アナクサゴラス教授”との話し合いに赴いていたのだが…

 

「トダー、他の黄金裔達が来るのにはどれくらい掛かる?」

「”アラート”ガ発令サレテ即”伝言の石板”ニ共有シマシタガ、到着ニハ早クトモ半日ハ掛カリマース。」

「フンッ、英雄(ヒーロー)は肝心な時にいない…」

 

 それでも”愚弄派閥”は倒れる事はない、列車組と合流しオンパロス救世にようやく目途が立ってきたところなのだ。”タフ”さが彼らの一番の強み。鍛え上げてきた肉体と殺人術、身に付けた権能でモンスターを鏖殺する。さながら怪物同士の戦い”モンスター・ウォーズ”。

 

戦闘開始から10分も経った頃には、襲い掛かって来た造物達は駆逐された。怪我人はいるが死傷者はゼロ…

「フーッヤット終ワッタ…」

「トダーあぶねぇ!!」

 

ザシュッ

 戦闘終了と油断した彼を容赦のない斬撃が襲う。

「おいおいマジか………」

雑魚との戦闘で疲弊しているというのにまだ”ラスボス戦”が残っているなんて勘弁してくれと、悪魔王子は冷や汗をかく。

 

「マ、マネモブ、助カッタヤンケ…」

マネモブに抱えられたまま”朦朧拳”で瞬間移動した事でトダーは片腕を失う程度の負傷で済んだ。

「………。」

三人の前にいるのは黒いフードに黒がかった銀色の仮面で顔を隠し、半月型の変わった剣を持った謎の剣士だ。黒統一なのは”マネモブ”も親近感を覚える所だが…

 

 トダーが真っ先に襲われたのは、悪魔王子とマネモブが通常目視出来ないミーム体だからだろうか?ならばこれは好機である。マネモブ達にだけ敵が見えるのなら大袈裟に言わなくとも不意打ちが出来る。

 

 悪魔王子とマネモブは何の示し合わせをする事もなく、各々の最大火力である”幻突”と”飛炎地獄”で敵に攻撃した。

「やったか………?」

 

ザンッ

「なにっ!?」

爆炎を斬り裂きながら、黒衣の剣士は三人に切り掛かって来た。悪魔王子とマネモブは”霧霞”でなんとか回避する。幻突で煽った炎はあまり効いてないようだ…自分達の必殺技が通用しなかった事に動揺する二人。それだけではない、

 

「なあマネモブ、コイツ俺達の事見えてないか?」

「ああ、それに目付けで気付いたか悪魔王子。」

二人の”心眼”に映る黒衣の剣士の内側…”夥しい炎”とドス黒い”心の陰”が燃え盛っている。

 

「あれは………”火種”か?どういうことだ、火種は12柱のタイタンそれぞれ1つずつ所有していて、合計12個の筈だろ。」

黒衣の剣士の中にあるそれは千か、万か…とにかく多すぎて二人の視界では判別不能である。

 

 数百年前に”法の火種”を奪った火種の簒奪者(フレイム・スティーラー)は恐らくコイツだろうと二人は薄々察していた。自分達を知覚出来ているのは法の書き換えによるものだろうか?

そして謎ではあるがたった一つでも強大な権能を齎す”火種”を大量に所持しているという事実。

このままでは勝ち目などないだろう。”このまま”では…

 

 「燃えるねぇ、だったら…」

”魂の同調”は他者の神権を引き出す事も可能だ。マネモブ達は迷うことなく”陰陽互根の術”を発動し少しでも敵の剣使いとの規格の差を埋めようとするが…

 

「ぐはっ!!」

「大丈夫かマネモブ…」

全身を燃やし尽くすような感覚、マネモブは耐えきれずにその場に座り込んだ。

(フレイム・スティーラー…お前はこの痛みに耐えながら闘っているのか!?)

その身に一体、どれ程の苦痛と業を抱えているのだろう。考えるだけで恐ろしく、悲哀を感じずにはいられない。マネモブは痛みの後遺症で動けない。秘技の”猿空間送り”で退避する余力もない。

 

(クソッ、トダーもマネモブもやられた。闘えるのはもう俺しかいない。アナイクスの野郎はまだ来ないのか?)

”耐えている、悪魔王子は地獄の苦しみには慣れている”

悪魔王子だけは敵との魂を同調させても継戦が可能であった。負傷した二人を守りながら戦えるのか…

 

「やってやるよ。」

悪魔王子と黒衣の剣士は同時に走り出した。

ボッボッパンッパンッ

”弾丸滑り”の上位互換、彼独自の”スリッピングアウェイ”で敵の剣をいなしながら、確実に拳を叩き込む。

 

 「!」

そんな彼の意識外から、敵の剣撃が遅いかかり、首筋を斬り裂く。

「………分身か。」

黒衣の剣士は分身を作れるらしい。彼一人に集中していた事で不覚を取った。

 

「ククク、効いてないよォ」

この程度の出血なら血流操作で止められるし、大量の火種を抱え込めるフレイム・スティーラーの器としての頑強さが悪魔王子にも影響を及ぼしている。

 

 「………。」

寧ろ負傷が酷いのは血流操作を使えない黒衣の剣士の方かもしれない。仮面の下から黄金の血を垂れ流している。

 

 「好機ッ」

”灘神影流” ”真・幻魔拳”

悪魔王子はすかさず顔面崩壊のイメージを植え付ける。その幻覚は自身にも跳ね返るが、彼は幻魔の抜き方を熟知している。自爆する事はない。

 

 「特別キツイ幻覚を植え付けて…」

ビュンッ「おいおい、マジか。」

顔面崩壊のイメージを植え付けて尚、フレイム・スティーラーは動いた。まあ全身が焼ける痛みが常に走っている事を考えたら、幻魔の痛みなどたいしたことないのかもしれない。

 

 ”幽幻真影流” ”四人霞”

「分身は俺にも使えるんだよね。」

敵の数の利に対抗するため、悪魔王子も三体の分身を出して応戦する。1000年の間、マネモブに教えて貰った霧霞の発展技だ。悪魔と簒奪者の戦いはより熾烈になっていく。

(幻魔が効かないならその先にある技なら効くかもしれないが…)

悪魔王子には何か秘策があるようだが、攻防がギリギリすぎてその技を使う余裕がないようだ。

 

 「悔しいよな、トダー…」「…ハイデース。」

悪魔王子一人に闘いを背負わせ自分達は見ている事しか出来ないという現状。しかも”陰陽互根の術”を使っているという事は、彼は相討ちしてでもフレイム・スティーラーを倒す覚悟をしているという事だ。

 

 (くっ、掌底に俺のありったけの”気”を溜め込む時間があれば…)

互角に見える戦いだが全身が燃える感覚に耐えながら高度な”灘・真・神影流”の技の数々を使うのはかなりキツイ。少しでも気を緩めれば”陰陽互根の術”を維持できないかもしれない。

 

ドンッ

「………。」

「待たせましたね。」

僥倖、隙が出来るのを欲していた悪魔王子の元に、アナイクスが駆け付け敵に弾丸を撃ち込んだ。しかも彼の肉体の中には…

 

 (教授の中に火種が…)

”理性の火種”を敵から守る為に最も適した場所はどこか?避難誘導を終えた彼は数瞬考えた後、”黄金裔”の一角である自身が火種を継承し、体内に取り込んでしまうのが一番良いと結論付けた。

 

 「火種を………」

フレイム・スティーラーの意識が彼の火種に向いて、攻撃対象を変えようとするが…

「させないよォ」

悪魔王子はアナイクスが作った隙を見逃さずに”幻魔”の先にある技を使う。

”風"呼吸"を起こし、火"意識"をつけ、爆発"丹"させる”

 

精髄破滅拳

幻魔の苦しみが効かぬのなら、幸せな”記憶”を蘇らせて戦意を喪失させようと狙ったのだろう。

「アイツ…いつの間に精髄破滅拳を。」

マネモブは教えてない、というより使えないから教えられない。悪魔王子は”演武典礼”で一度だけ”キー坊”から喰らったそれを、千年の時の中独自に習得していた。恐ろしい才能である。

悪魔王子はもう”離の段階”にいるようだ。とっくに師匠を超えた灘の使い手に進化している。

 

 「………。」

静止するフレイム・スティーラー。彼の脳内に一体どんな幸福な記憶が駆け巡っているのか。

「終わりましたね。」「ふう、助かったよ教授。」

悪魔王子はフレイム・スティーラーとの繋がりを断ち切り、マネモブの元へ向かう。教授もそれに続いた。

 

 「マネモブ、アイツは危険過ぎる。俺も限界だ、すぐにでも猿空間に…」

ビュンッ「なっ…」

至極の快楽に浸っていた筈の黒衣の剣士は再び動き出し、アナイクスと愚弄派閥に再び攻撃を始めた。

 

 (コイツ、ボリスと同じタイプ…)

囚人兵”ボリス・イワノフ” かつてキー坊の精髄破滅拳を喰らった時、幸せな記憶より復讐心が勝って尚闘いを続けたという。フレイム・スティーラーも彼と同じタイプだとしたら、一体どれ程悲哀に満ちた人生を送って来たのか…

 

 ガシャアッ…

「マ…ネモ………」

仲間を庇う為に前に出たのはトダーだった。三人の目の前に出て振るわれる剣の肉壁となる。

腕を失った自分に出来るのは盾になることくらいだと、AIが合理的にそう判断したのか、それとも仲間を守る義心がそうさせたのか…

 

 「トダー………」

ドクン ドクン

怒りではない…マネモブの心臓が哀しさで慟哭する。ロボットか人かなど関係ない。オンパロスでの1000年の旅路で、記憶と心がボロボロになった彼を最初から支えてきた仲間が今、壊された。

 

 (どうする………もう打つ手はないぞ!?)

悪魔王子は満身創痍だ。元が文弱なアナイクスでは彼に勝てないだろう。このまま皆殺しにされてしまうのか…

 

 ピタッ………

突然、不自然にフレイム・スティーラーは攻撃を止めた。

「これは一体…」

座り込んでいたマネモブの肉体から黒い瘴気が発せられている。それは像を結び、もう一体の”フレイム・スティーラー”を形どった。

 

武道において究極の奥義とは"闘わずして勝つ"こと

 

灘神影流においてもその秘鍵ありっ

 

しかしその技は幻とされていた

 

なぜならそれは仏教者が目指す最高到達点「悟り」の境地に達しなければならないからだ

 

それは生身のまま仏と合一するということ

 

慈悲と慈愛に満ちた境地

 

極限究極の護身法その技の名は…

 

”灘神影流" ”幻朧"

 

 マネモブの心に、トダーを壊された、仲間を傷付けられた怒りなどない。寧ろ、痛みを抱えながら周囲に暴悪を振りかざしてしまう”フレイム・スティーラー”を憐れんでいる。

「お前は憐れな奴じゃ…どうしてそこまで哀しみを背負って闘うんじゃ…?」

 

 奇しくもマネモブの中にいる”絶滅大君”と同じ名を冠するその至高の技は、相手の殺意の波動を跳ね返し動きを封じる。

「もう………やめろよ。」

幻魔の苦痛、精髄破滅拳の悦楽すら切り伏せて闘い続けた剣士は、今度こそ”猿空間”の中に眠った。

 

 「灘・真・神影流………このような技まであるんですね。」

アナイクスは感心したような態度を見せる。が、次の瞬間………

ドタッ

 

 「!マネモブッ」

”愚弄の行人”は、空気の抜けた風船のように、地面にドタッと倒れ込んでしまった。

人の身では神にはなれぬのだ。生き仏となったその代償は………

 

命を以って償うしかない

 

アナイクスと悪魔王子の心配をよそに、マネモブは仏のような微笑みを浮かべているように見えた。

 

◇マネモブの運命はー?

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