新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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カスライナの捏造語録
四億個も火種を集めたんだぜ そりゃあ一発くらいあたるだろ
想像してみろ 3000万回ループしてもオンパロスの明日が見えない徒労を……エグいなんてもんじゃない
3000万回永劫回帰したから四億分の黄金裔と火種の重さがある 俺はそれを背負って走り回って来たんだ ナヌークをぶっ殺すためにな…
ナヌークタヒね!
相棒すげぇな…
次は六億個火種を集めてやる
俺はカスライナだあっ鉄墓の素体になんてなったらナヌークに壊滅をくれてやれないだろうが!!
もう逃がさねぇぞナヌーク
か~~~~~っ気持ちいいねェ 3000万回分の憎悪をぶつけるのは最高だぜ!


仏の境地

 『ほら、この指とまれ!』

『熹一、蝶は繊細で気にしいや。”生きてる人間”には止まらへん。』

 

………

 

 「今日のオクヘイマもいい天気ですねぇ…マネモブさん。」

白いタイル、壁、天井、シーツ、カーテン…オクヘイマの一角、”黄金裔”の一人”ヒアシンシア”、通称”ヒアンシー”が働く大病院の病室だ。置かれているベッドは一つしかないが、部屋全体は十数人程なら余裕で入れるくらい広い。日光が窓から差し込み、光が白く乱反射して輝いている。光景の美しさに反して、ベッドに横たわるマネモブへ声を掛けるヒアンシーの顔は後ろ暗い。

 

 ”神悟の樹庭”を襲った”暗黒の潮”と”フレイム・スティーラー”と思われる黒衣の剣士を、愚弄派閥がしのぎを削ってなんとか”猿空間”に封印したという吉報はオンパロス全体を歓喜で包んだが…

マネモブと同行していたトダーは完膚なきまでに破壊され、マネモブは生きた身で仏と同化した代償として廃人化するという犠牲を払う事になった。

 

 マネモブが病室に運び込まれてからというもの、悪魔王子とアナイクスが交代制で常に”魂を観測する目”を医者達と同調させ、精神体であるマネモブの治療を続けられるようにサポートし続けていた。不思議な事に、肉体には全く問題が無く、寧ろ健康体であるとさえ言えるというのが彼の診療をした医者達の意見だ。

 

 ヒラヒラ…

「あっ…」

幽冥蝶…荼毘に付したオクヘイマ人の魂、あるいは死者を冥界に導くとも噂される不吉な蝶だ。

しかし紫色のそれは、同時に”神秘的”な美しさも感じさせる。

ピタッ

蝶はマネモブの顔に止まった。これは彼の精神的な死を暗示しているのだろうか…

 

 ゾロゾロ

「マネモブ、面会と見舞いに来たぞ。」

凄い数の英雄が集まって来ている。有力な”黄金裔”は全員いるし、彼と親交があった元老院の”カイニス”、”列車組”も全員揃ってる。

 

 「ヒアンシー、マネモブは大丈夫なのか!?」

ファイノンが我先に彼の安否を問う。

「肉体には全く問題ないのですが…」

眼を覚ましても上の空、あらぬ方向を向いている。口からはだらしなく涎を垂らしている。

 

 (1000年間オンパロス救世に奔走した英雄の末路か?これが…)

彼のあんまりな惨状に、黄金裔達は人生の悲哀を感じずにはいられない。

きっかけは地球を救う事であって、オンパロスに思い入れはなかったかもしれない。それでも、こんな結末はあんまりすぎる。

「ミュミュ…」

開拓者の周囲を浮遊しているピンクの妖精も、思わず哀しそうな鳴き声を漏らしている。

 

 「彼の魂の炎は…」

アナイクス先生曰く、完全に死んだ訳ではないそうだが、今にも消えそうなくらい燻っているという。それじゃあ助かるのかと、皆が期待を込めて聞くが…どのような処置をすれば息を吹き返すかの見通しは立たないという。

 

 「灘・真・神影流を使うお前には分からないのか?」

「俺がただ黙って見ていたと思うか?」

医者がマネモブの治療を投げてからというもの、悪魔王子は師から教わったありとあらゆる”活法”や”針治療”は施した。それでも、目に見えた変化は訪れない。

元々”活法不要ッこの”非人道的破壊打撃”があればいいッ”などと宣って活法の修業を疎かにしていたのを今更後悔している。

 

 「元々マネモブの精神には相当な不調が見えていたからな…」

「そういえば悪魔王子様。マネモブさんは最後の力を振り絞ってフレイム・スティーラーを猿空間に封印したと聞きますが…」

猿空間には悪魔王子とマネモブの本体が残されている。襲われる心配はないのかと、二人と最も長く協力関係を築いてきた為に色々事情に詳しいキャストリスが質問するが。

 

 「その点は問題ない。オンパロスと猿空間の時間の進みには差異があるあからな…」

マネモブが病院に担ぎ込まれて既に一日半経過しているが、猿空間では刹那程の時間も経っていない。仮にフレイム・スティーラーが暴れたとしても、マネモブ達の命が脅かされるのは随分先の話になる。

 

 「”再創世”の為には、奴が900年ほど前に奪った”法の火種”も取り返さなければならないのだろう?」

カイニスが痛い所を指摘してくる。結界を貼って効力を上げるなどのサポートは出来ても、猿空間にアクセスできるのは異常なまでに猿漫画を愛して”愚弄の運命”に浸かった者だけだ。それが出来るのはマネモブだけ…

 

 「全戦力を以って封印から解放した”フレイム・スティーラー”と再戦するとしても…」

「マネモブを活かさないと、何も始まらないか。」

精神的に死んだ人間を治すノウハウは彼らにはない。基本的には健気にケアを続けて奇跡的な復帰を祈るしかないと思われるが…

 

 「もし方法が見つからないのなら…」

アナイクスが己の”魂”を錬金術で切り離してマネモブに埋め込み、操作するという方法を考えたが、幾らなんでも極端すぎると他の者達が却下した。

  

 「しかし他に方法は…」

『妾には思い当たる節があるぞ。人の身でありながら神となった愚か者を治す術…』

「「「「「!」」」」」

マネモブがだらしなく垂らしていた涎は炎で蒸発し、生気のない目には色が戻っている。

マネモブ完全復活か………?と、その場にいた皆は一瞬考えたが、すぐに考えを改める。声色が彼と違う、女のものだ。

 

 「どういうこと…?」

多くの黄金裔は困惑して彼、あるいは彼女を見つめているが…

ボッ 悪魔王子は即座に戦闘態勢に入りマネモブ?に殴り掛かった。が、”朦朧拳”で難なく回避された。

 

 「コイツはマネモブじゃない…」

マネモブが扱っていた”壊滅”の炎の大本であり、彼と魂を同居させていた。

絶滅大君 幻朧

直接手を下す事を好まず同士討ちによる”壊滅”を好む歪んだ美学を持った”壊滅の使令”。

その幾千、幾万といる分身の一体である。

 

 悪魔王子は追撃を行おうとするが、

『落ち着け悪魔の王子様よ。妾にはもう”壊滅”を齎そうなどという気概はない…』

心の眼を見れば、今の自分に”陰”がないことは分かる筈だと彼女は訴える。

 

 「………目的はなんだ。」

悪魔王子は一先ず戦闘を止め、彼女の目論見を会話で聞き出そうとした。

『なに、貴様らと同じ事よ。マネモブを助けるのに協力してやろうと思ってな。』

どういう風の吹き回しだと、悪魔王子は警戒を緩めない。

 

 『1181年…妾がこのマネモブと肉体を同居していた年数だ。』

その間、マネモブはただひたすら故郷を救う術を模索し、オンパロスの民を一人でも多く救うよう尽力してきた。

 

 『全く、その果てが精神の”壊滅”とはな。』

”愚”直としか言いようがない善行、彼の人生を定める”神”がいたとしたら、ここまで運命に翻”弄”された男もいるまい。

 

 「貴様はマネモブを”愚弄”するのか?」

彼女の話を聞き入っていた皆が敵意と怒りを露わにする。

『まさか、寧ろこれは誉め言葉…”愚弄の運命”を歩む者らしい人生だとは思わないか?』

 

 「あなたがマネモブさんと肉体を同じくしていたのは分かりましたが…」

”灘神影流” ”極限究極の護身法”を使った代償が見られないのは何故かと、アナイクスは訝しんだ。

 『フッ、灘の至高の技が大君の一角である妾と同じ名前とはなんたる皮肉だが…』

マネモブは人間の身。対して幻朧は”使令”であり、”歳陽”でもある。彼よりは”神”に近い規格だった為に、人が神となる代償の対象外だったのだろうと彼女は考察した。

 

 「幻朧…とか言ったかな。」

最初にマネモブを助ける目途と助ける意思があると言ったのは本当なのかと、ファイノンは聞く。

『勿論、マネモブの故郷の暦でおおよそ12年程前だったか…』

マネモブより以前に、”仏と合一”した後遺症から復帰した人間がいると、彼女は話した。その言葉に、皆が歓喜寄りの驚きを見せる。

 

 『骨肉相食む”夜叉瓦の戦い”、廃人から復帰した男の名前は”宮沢静虎”』

かつて猿空間の中、タフシリーズを全巻読破している彼女は当然その事を知っていた。

「やっぱり静虎さんは凄い。」

かつて彼の幻魔の精度に感心したように、再び彼に尊敬の念を抱く悪魔王子だった。

 

 『彼の愛息を始めとしたあらゆる灘の関係者が彼に”活法”を施術した。』

「その男は回復するまでにどれくらい掛かったのだ?」

展望が見えてきたところで、カイザーは具体的な計画を立案する段階だと時間の話をする。

 

 『二年だな。』

思ったより早いじゃないかと、各々は安堵しているが…

「いやちょっと待てよ。」

その二年という数字は、天外の時間だろう。オンパロスの時間は外より早く刻まれると悪魔王子は指摘した。

 

 「マネモブは灘一族とも親交があるから皆治療は気持ちよく引き受けてくれるだろうが…」

マネモブが一旦地球に戻り、回復して再び戻って来るまでに、オンパロスでは何千、いや、何万年経つ事になるか…ニカドリーを倒してからというもの、暗黒の潮が勢いを増している。彼の回復が先か、オンパロスが滅びるのが先か…皆の顔がまた暗くなる。

 

 「みんな”聞いて”!マネモブがいなくなる間、一緒にオンパロスを守ろうよ!」

唯一開拓者だけは、希望を捨てずにマネモブが再び戻って来るのを信じようと言った。

「………ありがとう、相棒。」

開拓者の言葉を聞いて、黎明の到来、日が昇る明日を信じる心を取り戻したようだ。

 

 『話は纏まったな。』

マネモブの精神体の主導権は今”幻朧”が握っている。その彼女が地球に帰国し、灘の陣営に助けを求める。マネモブの魂が息を吹き返したら、即オンパロスに舞い戻る。

『地球に設置した”界域アンカー”を使えば、戻るのは一瞬だろう。』

善は急げ、幻朧はすぐにでもオンパロスを離れ、帰国しようとする。

 

 「ちょっと待て。」『なんだ悪魔の王子様。』

悪魔王子はどうしても腑に落ちない事があると、彼女を呼び止めた。

「”壊滅”を齎すことを至上命題としているお前が、どういう風の吹き回しなんだ。」

『フッ………1000年以上も、マネモブの”愚行”を内から見て来たんだ。』

『マネモブと妾の魂はずっと繋がっていた。この愚か者、最後には”仏の境地”まで妾に見せてきよった。』

そりゃ心変わりもするだろうと、彼女は苦笑しながら語った。

 

 『だが気を付けた方が良いぞ。』

改心したのはあくまでマネモブの中にいる己だけ、他の分身や本体は依然として”壊滅”を信奉しているということを。そう忠告を残して、幻朧はオンパロスを去った。

 

◇オンパロスとマネモブの運命はー?




キミ、ノット”壊滅”として認めるネ マネモブの中の幻朧へのコメント
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