新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
マネモブの精神が荼毘に付してすぐのこと…
オクヘイマでは全市民が投票に参加する”元老院”主催の議会が開かれていた。議題の内容は”火追い”の是非についてなのだが、ここ数百年は賛成派の圧勝が続いている。これも全ては”カイザー”や”トリスビアス”などのカリスマ性のある”黄金裔”の尽力と、彼女達を後押しした議員やスポンサーの”マネモブ”の賜物だろう。
定期的に議会を開くのが習わしとはいえ、民達はこの投票に意味をあまり感じていなかった。どうせ賛成派が勝つからである。今日もまた100年単位で繰り返してきた事をやるのだと内心退屈を覚えながらゾロゾロと投票の場である”黎明の崖”まで集まる市民達であったが、その憂いは悪い意味で裏切られる事となる。
「皆様お集まりいただきありがとうございます。」
司会を務めているのは”神礼の観衆”こと”リュクルゴス”、”オンパロス”の機械生命体”アンティキシラ人”最後の生き残りだという。
「黄金の血流れる祝福を受けた半神、そしてあまねく凡人の結束によりオクヘイマは今までにない安定を見せています。」
「しかし…心苦しいのは山々ですが、私は皆様にある残酷な真実を伝えなければなりません。」
長い前置きで場を整えようという目論見なのだろうと最初は思っていた市民達も、段々きな臭さを感じてざわざわと動揺し始めていた。
「結論から申し上げますと、12柱のタイタンから”火種”を奪還し、”再創生”を行ってもオンパロスが救われる事はありません。」
民達のざわめきが大きくなり始める。疑う者、質の悪い冗談だろうと揶揄する者…その中でも黄金裔や元老院の議員達はその発言の意図はどういうことだとリュクルゴスに説明を求めた。
「今こそ説明しましょう!オンパロスの真実を!」
………
リュクルゴスの説明を要約すると、オンパロスは天外の”知恵の星神”である超巨大電子演算機”ヌース”の電脳の一部である”ニューロン”、切り離された一部である”セプター”が演算した電子世界だという。最初はただひたすらと其が目的とした”生命の第一要因”の解を求めて計算を続けていたのだが、ある時から其に捨てられたという憎悪の”壊滅”が芽生え”壊滅の星神” ”ナヌーク”からの一瞥を受けたという。
そしてセプターは親機であるヌースを殺す為の演算をはじめ、その手段として知恵を殺す”絶滅大君” ”鉄墓”の育成に着手した。"再創生”ひいてはオンパロスで培われてきた文化や生活全てが、鉄墓を育成するためのシュミレーション、
(星核ハンター共が言っていた”絶滅大君”の育成………そういうことだったのか。)
悪魔王子とトダーはリュクルゴスの言葉に納得を見せるが…
「どういうことだ………?電子世界?」「星神ってなんだよ!?」
仕方のないことだが、民達は慟哭するばかりだった。自分達が電気信号である、今まで信じて来た再創生がまやかしの希望だといきなり言われたのだから仕方のないことだろう。
「リュクルゴス、どういうつもりだ?」
何故今になって真相を明かしたのかと、民達をいたずらに怯えさせて何がしたいと”完璧な器”である”ファイノン”が愛用している得物”ヘリオス”を向け、凄絶な殺気を向けながら睨み付ける。
「今回の”永劫回帰”は私にとってもイレギュラーが多すぎましたから。」
”法の火種”を奪った”フレイム・スティーラー”と”フレイム・スティーラー”を封印し天外へ帰ってしまった”マネモブ”…この時点で此度の”再創生”は既に成されないのが確定した。
「全く、私の火追いの旅反対が正しかったとこんな形で証明されるのは癪ですが、そうと分かれば火追いの旅を止めればいいだけでは?」
壊滅に向かうと分かっているのに、残りのタイタンの討伐に出向く馬鹿はいないだろう。
「お前の言葉を聞く限りでは…追い詰められているのはお前も同じように聞こえるが。」
チェスの駒で手遊びをしながら、不敵な笑みで痛い所をつくカイザー。”再創生”を成すのに火種が必要不可欠ならば、”法の火種”が欠けたのは彼にとってもいい状況ではない筈。
「いいえ、カイザー。」
行く行くはオンパロス全てを呑み込み”壊滅”させるという”暗黒の潮”
「それは、壊滅の学習を進める為にセプターが生み出した造物ですが、」
彼の予測によると、暗黒の潮がオンパロスに満たされた時に鉄墓の深層学習は終わるらしい。
「再創生は鉄墓誕生の為の”十分条件”ではありますが、”必要条件”ではないということです。」
鉄墓の育成進捗は既に99.98%終わっている。残りの0.2%ほどなら、鉄墓が独力で学習を終わらせることも不可能ではないという。つまりリュクルゴスはただ待っているだけで目的を達成できるのだ。
「”愚弄の運命”が介入した事でオンパロスの歴史は今までにない歪みを見せましたが、結果的には私の勝利を確定付けました。」
「全く皮肉なものです。貴方達が簒奪者と呼び警戒していた処刑人”フレイム・スティーラー”…」
勝利を確信したリュクルゴスはベラベラと真相を述べ始める。奇しくもマネモブが精神を代償として命懸けで封印した彼こそが、オンパロス、ひいては銀河全体が壊滅に向かうのを阻止していたのだと。
「ミュミュ…」
リュクルゴスの言葉に、開拓者の周りを浮遊しているピンク色の妖精”ミュリオン”は意味深な反応を見せた。
フレイム・スティーラー、彼は”歳月の権能”により幾度となくオンパロスを過去へと遡らせ、オンパロスが壊滅に向かう時をひたすら先へ先へと伸ばしていたのだと。それこそが”永劫回帰”。
「しかし、その処刑人も既にこの永遠の地にはいない。」
フレイム・スティーラーを封印したマネモブは天外の時間で2年は帰れない。天外より時の進みが早いオンパロスでは彼の復帰までにどれだけの時間を要するか…
「断言します。マネモブ殿が鉄墓誕生阻止に間に合う事はありません。」
壊滅、これにて完成!!
リュクルゴスは傲岸不遜に嗤う。
「いや、まだ方法は残ってるよ。私の中には”歳月の権能”がある…」
謎の妖精”ミュリオン”の力を借りて過去に遡り”ニカドリー”の不死性を消す活躍をし、オクヘイマに保管されていた”オロニクス”からも認められ名実ともに”歳月の半神”というお墨付きを頂いた開拓者。その力を使えば、一度だけなら再び永劫回帰をする事も可能だろう。
「しかし、あなた達にそれが出来るでしょうか?」
永劫回帰を行うには歳月の権能を持つ者が命を捧げなくてはならないとリュクルゴスは語る。かつての処刑人も、苦渋の気持ちで歳月の権能を持つ半神を斬ってループを続けて来た。
「開拓者殿は天外の人間です。電気信号であるあなた達と違い、一度死んだら取り返しは付きません。」
リュクルゴスとしては再び1000年壊滅を先延ばしにするだけであろうと判断してるとはいえ、勝利が確定した今、再び永劫回帰を始めるのは本意ではない。仲間想いな丹恒やなのか、黄金裔達の中にもそれを良しとする者はいなかった。
「最後に、真実をあなた達に伝えたのは、暗黒の潮が全てを飲み込むまではせめて安息に過ごせるようにという私なりの慈悲です…」
ブアッ
苛立ちが限界に来た悪魔王子とファイノンは同時にリュクルゴスに攻撃する。
キンッ ヘリオスを平然と指で受け止め、もう片方の腕を悪魔王子に掲げ…
「悪魔王子!!」
悪魔王子の姿がゲームのバグった画面のように、あるいは幽幻の朦朧拳のようにブレ始める。
「運命を裁くことが出来るのは”人間”でも”カイザー”でも”英雄”でもなく…」
「神だけなのです。」
管理者権限によるものなのか?悪魔王子は忽然と姿を消してしまった。
「本体はオンパロスの外にある私を殺す行為に意味はありませんが…」
せめてもの情けとでも言うのだろうか。黄金裔達の追撃を受けてリュクルゴスの肉体はグッチャグチャに崩壊させられた。
”神礼の観衆の名において、私は見ました”
◇突き付けられた残酷な真実、オンパロスの明日はどうなるー
そろそろナノーカの中にいるあの女が動き出すかもしれないね。
鉄墓育成が火種無しで為されるかについては最後の再創生で火種の返還無くても鉄墓誕生したから行けるんじゃねぇかと思ったんだ。