新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「簡単な話だよ。所詮電気信号でしかないオンパロス人達と天外に存在するあらゆる生命体…どちらを救うべきかって話♭」
「トロッコ問題で誤魔化すのはやめて…」
三月なのかの中にいるもう一つの人格に誘拐され彼女の領域に閉じ込められた開拓者は、もう一人のなのかが考案した独自の再創生をするように迫られていた。再創生には開拓者の同意が必要なようで勝手には行えないのか、言葉による懐柔を試みていた。
「夢のない事を言うのは嫌なんだけど、”鉄墓”育成の為に造られたオンパロス人は消えた方が世の為なんだ。だから火種ではなくアンタの”記憶”と”歳月の権能”…そして私の”使令級”の力を以てして、”壊滅”の因子が存在しない新しいオンパロスを”再創生”で構築するの♭」
彼女の言う事は正しい、残酷すぎるくらいに。しかし、
「オンパロス人は皆”壊滅”に抗って来たのに、消してしまうなんて残酷過ぎる………マネモブ達だってそうでしょ。」
オンパロス人とも友好関係を結んでいる開拓者は決して首を縦には振らない。
「だったら他に代案はあるの?このまま待って解決する保証は?」
開拓者は100年ほど前に”天才クラブ”が接触してきて”
「天才クラブのことも、”愚弄”がオンパロスに関わったら鉄墓が誕生しない可能性を拾える予言が下されているのはもう一人のアタシの記憶を覗いてるから知ってる♭」
だからこそ、なのかが自分ではなくあのような野蛮人を頼った屈辱も受け入れたのだ。
「マネモブは思ったよりメンタルが普通というか、あの子の中から1000年以上ずーっと見てた訳だけど♭」
”愚弄の行人”はオンパロスに溢れる戦争や血でどんどん精神を擦り減らしていった。だからいつか壊れてしまうのではないかとずっと懸念していたと彼女は言う。
「結果アタシの悪い予感は当たった訳♭」
「星核ハンターの予言、”脚本”が外れた事はない…」
「今回初めて外れたのかもしれないよ?」
議論はどこまで行っても平行線だ。どちらかが折れるまで、やり取りは続くだろう。
「天才クラブだって、アンタに
「今マネモブが帰って来れるように何かしてる最中かもしれない。」
なにか、かもしれない…アタシの案と違い確証のない言葉ばかりだと、黒いなのかは溜息をついた。
「まあいいや。アンタがアタシの案を受け入れるまで、こうやって説得し続けるから………」
開拓者は赤いクラゲに包まれ再び意識を失う。その時、
「開拓者!三月!」
聞きなれた男の声に、黒いなのかは豆鉄砲を撃ち込まれた鳩のように面食らってしまった。
「………こんなに早く見つかるなんて♭」
目の前にいるのは丹恒、少し背が伸びて彼の中にある”龍”の血が強く出ているように見える。他にも何人か黄金裔やトダーなどがチラホラいる。
オンパロスを下から支える”大地のジョーリア”、その火種を継いだ”カイザー”御用達の”大地獣”である”半神” ”荒笛”…荒笛が有する”火種”に影響を受けるということはオンパロスの地そのものと同化する事と同義であり、見失った仲間を探す事は容易だっただろう。
「悪魔王子殿が教えてくれた天外の”魂を繋げる”術、そこにオンパロス独自の錬金術で通り道を整える事で彼が部分的に”大地の権能”を使えるようにしました。突如として消息不明となったあなた達を探す為にね。」
腕を組んだ教授、”アナクサゴラス”はご満悦そうに解説した。だが黒いなのかは、大地の権能があったとしてもここまで早く見つかるとは思えないと疑問に思っていた。彼女の中にある”使令級”の”記憶”と”神秘”の力で、領域には視覚を妨害する結界やプロテクトを何重にも貼っていたからだ。
「三月を追えたのは、三月がオンパロスで積み重ねて来た1000年の軌跡のおかげだ。」
「!!」丹恒が取り出したのは、カメラがなかった三月が1000年の間に描き続けてきたオンパロスの風景画や肖像画だった。最初はお世辞にも上手いとは言えなかったが、長年続けた事で最後の方はみるみると上達していった。錬金術で言うと、これらの絵はなのかと捜索隊とを繋げる”道”に使えたという。
「全く、あの子の記録癖が私を追い詰めるなんてね…♭」
「最初はあのリュクルゴスがお前達を捕えたのではないかとも懸念していたが、お前は誰だ?」
黒いなのかに並々ならぬ不穏さを感じ、警戒しながら丹恒は問い詰める。後ろで拘束された開拓者が、事態がただごとではないと物語っている。
「開拓者と同じ事聞くんだね♭」
黒いなのかは開拓者に問い詰められた時と同じよう、なのかが危機的状況に陥った時に現れるもう一人のなのかだと、自分の正体を明かした。
「オンパロスではあの子の誕生月を”長夜の月”って言うらしいし、”長夜月”って呼んでよ♭」
同じなのかではややこしいし、火追いの旅を始めたのもその月だから縁起がいいと長夜月は言う。
「何故開拓者を連れて隠遁した?」
丹恒の問いに長夜月は答えない。黄金裔達もいる中で”壊滅”の因子を消す為に”再創生”を行おうなど正直に言おうものなら必ず反感を買うと分かっている。既に開拓者を連れ去るという暴挙を働いている以上、ウマい言い訳も思い付かない。
「これだけは言っておく…アタシが表に出ているということはあの子が危機的状況にあるということ♭」
何も長夜月は無理矢理なのかの体を動かしている訳ではない。三月なのか自身、マネモブをただ待つという今の状況に不安を覚えたからこそ、長夜月が表に出てくる機が出来たのだ。
「言葉による和解は無理そうだし…さよなら♭」
「!!」ここは長夜月が”神秘”と”記憶”の力を作った”記憶域サンクチュアリ”、主導権は彼女にある。長夜月は自身の領域に侵入してきた丹恒や黄金裔達を強引に排除する事にした。
「三月………」
丹恒は大事な仲間一人を取り戻せなかった事を悔やみながら、オクヘイマに引き戻された。
………
「ううっ………」
ここはどこだろうと辺りをキョロキョロと見回しながら、開拓者は目を覚ました。その部屋には見覚えがある。マネモブがかつて入院していた病院だ。清潔に保たれた純白、黄金裔の一人である天空の民の末裔”ヒアンシー”もここで働いている。
「思ったより何ともなさそうだな………良かった。」
ベッドのすぐそばにいた丹恒が安堵の言葉を述べる。開拓者が目を覚ますまで、ずっとそばで見守っていたようだ。
「なのは?」
自分の事より、もう一人のなのか”長夜月”の事が開拓者は気になるらしい。
「三月が”多重人格”?だったのには俺達も戸惑ったが…説得は失敗して長夜月と名乗ったもう一人の三月は自身の領域から俺達を追い出した。」
丹恒の言葉を聞いて、開拓者はもう一人のなのかに囚われていた事を思い出す。
「どうやって私を…」「それはあたしが説明するにゃ。」
ヌーッと、神出鬼没に現れたのは”嘘を真実にする”という突拍子のない権能を持った”詭術の半神” ”サフェル”だった。
「闇落ちしたグレっちのお仲間とりゅうくんがお話してる間に、あたしの権能でグレっちに変装させたトダーちゃんと入れ替えちゃった。」
泥棒や詐欺師の手本のような手口だがこの期に限っては見事としか言いようがないだろう。彼女が培ってきた泥棒としての手腕も無駄ではなかった。
「まあこれも時間稼ぎにしかならないだろうけどね。トダーちゃんには口調に気を付けるよう口の中が酸っぱくなるくらい言っといたけど、」
長夜月が変装したトダーに違和感を持った時、詭術は解除されてしまう。
「安心しろ。長夜月が何度お前を攫おうと、」
何度でも俺はお前を探し出すと、丹恒はカッコよすぎるセリフを言う。彼のようなイケメンにこんな事を言われたら誰でも惚れるし、女だったら股を濡らす事だろう。
「丹恒…」
「ヒューッりゅうくんカッコイ~それじゃあねぇ。」
二人のいい雰囲気を邪魔する事は誰にも許されないと、バイバイと手を振りながら、俊足の権能を持つサフェルはそそくさと帰って行った。他の黄金裔達、特にアグライアとは会わないつもりなのは相変わらずである。
「でも、長夜月は私となのを救う事だけを必死に考えていた。」
その気持ちだけは否定できないと、開拓者は何とも言えない所感を抱く。
「ああ………」いつか彼女と敵対せずにすむ日は来ないだろうか。今はただ、開拓の道を歩む二人は”まだ見ぬ明日”を信じることにした。
◇信じる者にのみ、明日は訪れるー
「ほら、アンタとあの子の明日の為に”再創生”するって言いなよ。」
「嫌ヤン…イヤデース…」