新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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この星は猿を待っていた

 『20年ぶりのオンパロスか………ですねぇ恩人様。』「えっそうなんですか?」

自己崩壊したマネモブが幻朧に連れられてオンパロスを離れてから、セプター内では軽く千年単位の時間は経過していた。

それでもオンパロスの民はしぶとく”壊滅の造物”である”暗黒の潮”に抗っていたようで、オクヘイマは未だ健在である。

 

 精神を立て直し、”開拓”の”界域アンカー”を辿って瞬間移動してきたマネモブ…彼が内包する運命は”愚弄”と”幻朧”の”壊滅”、そして未知なるものに挑戦していく”開拓”の”スリーフェイス”である。”開拓の運命”のエネルギーを行使し、”ガーデン・オブ・リコレクション”が貼った障壁を無視して”星穹列車”がオンパロスに打ち込んだアンカーを通じてすぐに馳せ参じる事が出来た。

 

 壊滅の危機に瀕しているという前情報の割には、馬鹿デカイ巨人とその麓にあるギリシャ風の雄大な都市が広がっている事にマネモブはどこか違和感を覚える。ここに来るまでに、今は銀河が致命的なダメージを受けるか否かの瀬戸際だと聞いていたのだが…

 

 「マネモブ!!」「間に合ったんだね。」

マネモブがアンカーを使った反応を感知した開拓者や黄金裔、元老院の議員までもがゾロゾロとやってくる。リュクルゴスは絶対に間に合わないと断言したが何らかの解決法を見つけたのかと皆安堵している。

 

 「おーっトダー、この星で頑張ってたらしいやん…星穹列車の開拓トリオも久しぶりやん。あれっナノーカがいない…彼女は元気しとん?それから………」

トダーと開拓者達には気さくに挨拶するが黄金裔達を見て言葉が詰まるマネモブに皆が違和感を覚える。

 

 「そうか、マネモブは記憶障害が…」「いや、」

マネモブがオンパロスで初めて相対した黄金裔”キャストリス”、そして初めて助けた”メルテス”と”トリスビアス”の聖女親子はいち早く彼のおかしさに気付いた。

1000年に及ぶオンパロスでの活動、短命種故に記憶能力の限界に達していたマネモブだったが”あかつきの黄金裔”初期メンバーの事は忘れていなかった筈…それなのに彼の口振りや態度は、まるで初対面のような感覚だ。

 

 「それは私から説明させて貰います…」

ヌーッと、猿空間から水色の装束を身に付けた中背の女が現れた。

「あれっルアンじゃん。」「お久しぶりです助手さん。」

天才クラブ#81”ルアン・メェイ” マネモブ達とはちょっと因縁がある彼女だが開拓者には”愚弄派閥”へ向ける冷めた態度と違い、いつもにこやかな顔をいつも向けている。

 

 「アンタもマネモブ蘇生に一枚噛んだって事?」

「はい、その通りです。」ルアンの口から、マネモブがどう復活したのか真相が語られる…

 

………

 

 「おいオトン!もう10年近く”活法”や”針治療”を施術してるがマネモブ全然息を吹き返さんで。」

静虎(オマエ)の時は2年くらいで蘇生した筈だが………」

”宇宙ステーション:ヘルタ”の中にあるラボ、ベットに寝かされているマネモブを3人の灘一族が囲み後ろ暗い顔をしている。

 

”灘・真・神影流”当主”宮沢熹一” 

”灘神影流”の光と闇、”闘わずして場を収める事を信条とする” ”宮沢静虎”と”効果的に相手を破壊する術を知っている悪魔のような男” ”宮沢鬼龍”の”宮沢兄弟”

 

 「マネモブには恩があるからな…悪魔王子も匿って貰っとるし。」

幻朧が地球に帰り吉祥寺に構える宮沢一族に助けを求めた所、彼らは快く助けると即答した。

彼には龍の血族が抱える致命的な病、”バースト・ハート”を克服する切っ掛けを与えてくれた借りがあったからだ。

 

 幻朧が灘の面々に接触して間もない頃、”天才クラブ”の”ヘルタ・プライム”から”宇宙ステーション”を治療の現場にと手引きする連絡があった。彼女は”スクリューガム”と共にオンパロス現地でリュクルゴスが組んだソースコードを少しでも解きほぐせるよう尽力していた為、別の天才を協力者として手引きしたのだが……

 

 「分析した所…彼の心が息を吹き返さないのは”記憶”に問題があるかと。」

「記憶?なんやそれ。」

マネモブの生体データを分析していた”生命科学”の金字塔であるルアンが灘の面々に原因を解説する。

 

 「一時的とはいえ神仏と同化した後遺症もあるでしょうが、根本的にはもっと致命的な傷が………」

血と争いと腐臭に満ちているオンパロスで過ごした1000年の”記憶”…その心的外傷、あるいはPTSDがマネモブが甦る障害となっている。

 

 「となれば………マネモブを救う方法は一つしかない。」

しかしそれは、見方を変えればあまりにも残酷な決断だ。息を呑む三人だが、背に腹は代えられない………

 

………

 

 「それって………」

ルアンの掻い摘んだ説明を聞いたオンパロスの英雄たちは凄惨な真実に悲哀を感じずにはいられない。マネモブは助かる為に、オンパロスで過ごした全ての記憶を灘とルアンの施術で切り離してしまった。

 

 マネモブは何も覚えていない。一人でも多く救おうと慈善事業を始めた事も、戦争を回避する為に一計を講じ、時には激しい戦闘を繰り広げた事も。苦悶の表情を浮かべる英雄達に対して、マネモブはケロっとした顔で平然としているのは皮肉なものである。

何より一番黄金裔達の心を抉ったのは、”オンパロスの記憶”がマネモブの自我をグッチャグチャに傷付け、健全な状態に戻るには邪魔でしかなかったという事実。

確かにオンパロスは紛争に明け暮れ、戦災孤児や物乞い溢れる過酷な星だったかもしれない。それでも、彼にとって共に積み重ねて来た記憶とは、ゴミのように捨てるに過ぎないものだったのか…

 

 「ワシハいつもノ”マネモブ”二戻ッテ嬉シイデース。」

後ろ暗い英雄達とは対照的に、量産されたトダー達はペットのように彼に擦り寄っている。魂のないAIにも喜びの感情は確かに存在している。

マネモブもトダー達へにこやかな顔を向けるのを見て、英雄たちは彼らとの隔たりを感じた。思えばマネモブがこの星に来たのは故郷を救う為、彼の心はいつもこの星にはなかった。

 

 「………これは一体、」

「「「「「!」」」」」

マネモブとトダーがじゃれ合うなか、全ての元凶であるリュクルゴスが、集合した皆の前に姿を現した。帰ってくる筈のないマネモブの帰還を察知し、相対せずにはいられなかったのだろう。

 

 『早速のお出ましですよ恩人様…』

「テメーがオンパロスの黒幕って奴か?」

記憶を失っても、オンパロスを救う為に前情報を教えられていたマネモブは警戒した顔で目の前の無機生命体を見据える。

 

 「ええ、その認識で合っていますが。」

「貴方が聞きたいのは、マネモブさんが間に合った理由でしょう?」

リュクルゴスが問うより早く、天才生命学者が先に答えを述べ始めた。彼だけでなく、開拓者や黄金裔達もそれは気になる所だったので、ルアンがベラベラと話し始めた事に内心安堵する者もいた。

 

 オンパロスと天外は確かに時の進みが違った。マネモブが自己崩壊し地球へ帰還した時、鉄墓誕生まで天外に残されていた時間は僅か14システム時間しかなかった。普通ならば、療養に20年かかった彼が、どう考えても間に合う筈がない。

 

 「しかし、私達にも都合よくあったのですよ。セプターのように天外より時間の進みを早められる演算装置が………」

「その演算装置って、ま、まさか………」

開拓者は天才クラブとも馴染みがあるからかすぐにピンときた。

 

 「模擬宇宙?」

「フフッ、助手さんは相変わらず賢いですね。」

「………そうきましたか。」

天才クラブのヘルタが星神(アイ―ッオーン)の行動原理を研究する為に宇宙中の情報をかき集めて演算した過去の宇宙を演算する装置、それが模擬宇宙だ。

精神崩壊したマネモブ、活法を施す灘の一族とルアンは模擬宇宙に意識をダイブする事で、時間の問題を解決した。これは開拓者と接触したヘルタが考案した作戦である。

 

 「見事です後輩殿………」

しかし、マネモブが帰還しても尚、リュクルゴスは余裕の態度を崩さない。

「………それで、マネモブ殿が帰還した今、鉄墓誕生を阻止する為にどのような策を講じるのですか?」

猿空間からフレイム・スティーラーを解放し、”法の火種”を奪い合う為に闘うのかと彼は嘲笑う。

 

 「私が言うのもなんですが………彼はとても強いですよ。」

フレイム・スティーラーは4億の業と火種を背負う男、たった1つでもタイタンの神権を得られるというそれを莫大に所有しているのだ。今のオンパロスに現存する全勢力で当たっても彼には勝てないとリュクルゴスは笑った。詰問を続ける姿はまるで卒論で素人質問を繰り広げる大学教授のようだ。この状況を愉しんでいる節すらある。

 

 「武において至高の領域とは闘わずして場を収める事………」

『フッ、見せてあげようじゃないですか恩人様。極限究極の護身法を………』

マネモブとその中にいる幻朧の雰囲気が変わった………一体何をしでかすつもりか………

 

ブアッ

その場にいた全員が戦慄した。オンパロスが壊滅するまでの時間を稼ぐ為に永劫回帰を繰り返して来た反面、火種の争奪においてオクヘイマを震撼させた黒衣の剣士、処刑人が猿空間から解放されたのだ。リュクルゴスは彼もオンパロスを救う為に闘っていた者だと言っていたが、それでも警戒せずにはいられない。

 

 「………。」

宿敵(リュクルゴス)を見たフレイム・スティーラーは、思わず彼に襲い掛かろうとしたが………

「落ち着け!」マネモブが彼の肩を掴んで必死に抑え込もうとする。そして………

 

世尊妙相具

せーそんみょうそうぐ

我今重問彼

がーこんじゅうもんぴ

佛子何因縁

ぶっしーがーいんねん

名為観世音

みょういーかんぜーおん

 

具足妙相尊

ぐーそくみょうそうそん

偈答無盡意

げーとうむーじんにー

汝聴観音行

にょーちょうかんのんぎょう

善応諸方所

ぜんのうしょーほうしょー

弘誓深如海

ぐーぜいじんにょーかい

歴劫不思議

りゃっこうふーしーぎー

侍多千億佛

じーたーせんのくぶつ

発大清浄願

ほつだいしょうじょうがん

 

我為汝略説

がーいーにょーりゃくせつ

聞名及見身

もんみょうぎゅうけんしん

心念不空過

しんねんふーくうかー

能滅諸有苦

のうめつしょーうーくー

 

假使興害意

けーしーこうがいいー

推落大火坑

すいらくだいかーきょう

念彼観音力

ねんぴーかんのんりき

火坑変成池

かーきょうへんじょうちー

 

或漂流巨海

わくひょうるーこーかい

龍魚諸鬼難

りゅうぎょーしょーきーなん

念彼観音力

ねんぴーかんのんりき

波浪不能没

はーろうふーのうもつ

 

 マネモブの中にいた幻朧が観音経を唱え始める。こ、これは一体!?

「これは………」皆が困惑する中、リュクルゴスだけはその技を知っているような反応を見せる。

 

 血肉に飢えた獣であろうとおとなしくなる………怒り狂った者でもこの念を聞けば安らかな気持ちになれる。リュクルゴスを斬ろうと剣を振りかぶっていた処刑人も、今では純粋無垢な幼子のようにじっとしている。

「真言波ですか。」「なんや知ってたんかい。」

 

 『武道において究極の技とは…闘わずして闘いを治める事じゃ。』

かつてマネモブや宮澤熹一もそこで修行したという”黒龍寺”に伝わる至高の技。”灘神影流”の”幻朧”とは別の形で神仏の域に達しているという境地。

 

 こんな逸話がある。名刀と言われる”正宗(まさむね)”と”村正(むらまさ)”…二人の師がどちらの刀がより優れているのか品評した事があるという。

師はまず村正を川の中に立て葉を流した。すると水に流された葉は真っ二つに斬り裂かれたという。見事な切れ味である。

次に正宗で同じ事を試してみたが…葉は避けるばかりで何度やっても切れなかったという。

しかし師に評価は”刀とはただ人を斬る為の道具にあらず”とし、正宗の方を褒め称えたという。

 

 「フッ、壊滅の大君が神仏の境地に至るとは何とも…」

オンパロスでの記憶を全て失ったマネモブは既に”仏の境地”を忘れている。その境地に達しているのは”魂の同調”を通して彼と繋がっていた”幻朧”である。マネモブは戦いではなく、懐柔という選択を以てして、フレイム・スティーラーと4億の火種を引き込む事に成功した。

 

 「フレイム・スティーラー、天才共と一緒に考案した作戦は覚えてるやろ?」

頬を両手で包みながら目を見据えるマネモブに対してフレイム・スティーラーはコクリと無言で頷く。

 「あれは…」

フレイム・スティーラーは体内から”法の火種”を取り出して手に収める。そして………

 

 「じゃーん。皆さんがボロボロになってでも欲しがった火種はここにありますよ。」

フレイム・スティーラーは”法の火種”自体を代償として支払う事で、オンパロスに一つの法を制定した。代償次第では何度でも法の書き換えが出来る神権を使い捨てるとは全く贅沢な話である。

 

 ”オンパロスの管理者権限をリュクルゴスからヘルタ・プライムとスクリューガム、そしてスティーブン・ロイドに移行する”

それがフレイム・スティーラーが新たに敷いた法である。これから天才クラブの面々が”アンチ壊滅”のソースコードで鉄墓の育成進捗をどんどん解体していくのだ。

 

 「リュクルゴス…だっけか。アンタはあの天才クラブも手を焼くほどの天才やもんなァ。」

時間さえかければ、三人から権限を取り返す事も出来なくはないだろう。しかし…

「フレイム・スティーラーの中にはアホ程”法の火種”があるんや…」

その数、3000万。どんなにリュクルゴスが必死こいてもあと3000万ドリトライ出来るとなったら鉄墓の育成進捗が0に戻る方が明らかに速い。凡人であろうと詰みである事は理解可能だ。

 

 「フフッ、負けましたよ達人………」

権限を取り返そうとするのが無駄な抵抗だと気付いたのか、リュクルゴスは白旗を上げた。あとは煮るなり焼くなり何でもアリ、生殺与奪の権は今マネモブの手にある。

 

 「実験が失敗したのは忌々しいですが、ここまで見事な反証を突き付けられては褒めざるを得ません。」

リュクルゴスはマネモブを素直に認め、褒め称える。ヘルタが聞いたらそれは私が考えたプロットなんだけどと反論しそうではあるが。

 

 「しかし、鉄墓の育成進捗を0に戻したとして、オンパロス救世はどうするのです?」

最早負け惜しみなどなく単なる好奇心からくる疑問のようだが、鉄墓育成の為に演算された電気信号達はどうするのだとリュクルゴスは問う。セプターがヌースを憎悪する感情から演算されたオンパロス、このままセプター内に現存させる選択をする事は再び鉄墓の演算を始めることを意味する。

 

 「だから俺達がいるんだろッ」

フレイム・スティーラーが法の火種で鉄墓の育成進捗を0にする道筋を舗装する偉業を成し遂げた今、オンパロスを救うのは”愚弄”の番である。

 

 「今は外で鉄墓解体に勤しんでいる天才達だが、それが終わったらオンパロス内に侵入して空の”方程式”を貼って貰うんだァ。」

他にもマネモブは、結界術に優れた仙舟の偉い人を半ば強引に連れて来たという。そしてオンパロスにも、結界を貼れる者がいたら協力してほしいとマネモブは語る。

 

 「まさかマネモブはオクヘイマ包囲網戦の再現をするつもりか?」

マネモブはもう覚えていないが、光暦3867年に起きた戦争をマネモブの猿空間送りで回避した大事件は当事者たちの頭の中にしっかりと焼き付いている。

 

 「なるほど、銀河中から名立たる人材を集め、猿空間でオンパロスを飲み込み、オンパロスの箱庭を壊滅の意思が植え付けられたセプターから愚弄の猿空間に移すと………」

「宇宙中の天才や偉人を集めてやることが大規模な”愚弄方程式”の展開なんだ。これはもう”自主規制”以上の快楽だッ」

マネモブのテンションは最高潮に達し、これから行われる有史以来最大の”愚弄”に大いに高笑いしている。ここにオンパロス救世の解は完成した。が、

 

 「………。」

下卑た笑いをするマネモブを見て、オンパロスの英雄たちは心にしこりが出来るような気分だった。戦いや血を嫌った平和主義者、いつも憂うような顔をしてたあの儚げなマネモブは………

こんなの、僕達の知っているマネモブじゃないッ 口にこそ出さないが皆心の中ではそう思っていた。

 

 「皆に夢のない事言うの嫌なんだけど、」「本来ノマネモブハコンナ感ジデース。」

ただ列車組とトダー達だけは、昔のように戻ったマネモブに懐かしさを覚えていた。

 

 「オンパロスを救うのは”開拓”でも”記憶”でもなく…”愚弄”ですよニッ」

あとはお前の処遇だけやリュクルゴスと、マネモブは指をさす。

 

◇救世はここに成された…次回、”オンパロス編”最終回、マネモブはリュクルゴスをどうする?

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