新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
”オンパロス”を”壊滅”から”愚弄”が救世した………その為には”知恵”や”開拓”、そして”記憶”…など様々な運命を歩む者達の助けが必要だったのは確かだが。
”終焉”派閥である”星核ハンター”に導かれ”オンパロス”を救う中心人物となったマネモブ、彼は全ての元凶である”リュクルゴス”をどうするのか………?
断罪せよ、抹殺せよ、彼を恨むオンパロス人はそういうかもしれない。しかし、
「正直、ワシはお前をそない恨んでないんや。何も覚えていないからね。まあお前の所業に義憤を抱かない訳ではないけどね。」
「ほう?」寧ろマネモブは、彼やセプターに興味を抱く心が一番強いという。
「セプター、巨大演算機と聞いています。”知恵のヌース”から切り離されたニューロンの一部だと。」
時空や歴史を滑稽にも捻じ曲げる”愚弄”と確定した未来を演算していく”知恵”の相性は最悪だとマネモブは語る。そんな水と油の関係の”運命”に、マネモブはどんな思惑を抱いているのか。
「じゃーん。」「それは…」
マネモブは猿空間から愛読書でもあり信仰する神の聖書でもある”タフ・シリーズ”を取り出し、リュクルゴスへ見せつける。その反応から、一つ確信を得る。
「リュクルゴス、お前もマネモブ…猿漫画愛読者なんやろ?」
「………千年前のオクヘイマ包囲戦、猿空間に呑まれた折に、貴方達”愚弄の運命”の根源を探求したかっただけですよ。」
読んだのは一度だけらしいが、その一字一句全てが今も尚彼の脳内にしっかり”記憶”されているという。
「まあそうだろうな。”真言波”なんてマイナーな技未読が知る訳ないからね。」
「そこでだ………壊滅する世界の代わりに、モンキー・ワールドの演算を提案する事にした。」
どこからか取り出した酒を仰ぎながらマネモブは新たに”愚弄”をセプターで演算する事をリュクルゴスに勧めた。
「マネモブ!」
当然、リュクルゴスとは因縁のある黄金裔や開拓者は彼をみすみす見逃すようなマネモブの案に反発を見せるが………
「おいコラお前ら、一体誰の尽力でオンパロスを救えたと思ってんだあぁん?」
その一言で、皆反対意見を述べれなくなる。オンパロス救世の最大功労者がマネモブであるというのは周知の事実、それに記憶を失ったとしても1000年間精神を擦り減らしていた彼への情もあるから尚更だ。
「ムフフ、ヘルタからオンパロスの詳細を聞いた時からずっとキョーミあったのよね、世界を演算出来るそのセプターとやらに。」
マネモブの目的はこうだ、彼の愛するタフ、ひいては猿漫画のデータをセプターに植え付け、新しく”愚弄”の世界を創造する事…
「面白い提案です………私自身”愚弄の運命”に知的好奇心がそそられなかったと言えば嘘になりますが、愚弄を新しく演算する事で私になんのメリットがあるのです?」
「フン、お前の目論見が機械頭を殺す事だというのは既に把握している。」
「愚弄が壊滅に代わってそれを成せると?」
「イエス、イエス、イエーッス」
天才と愚弄者の談義は深まっていき黙って見ている英雄たちは置いてけぼりにされる。”愚弄の運命”の権能である空間転移の秘技”猿空間”、そして時空改変”田代さん時空”。これらをセプターの規模で行使すれば………
「宇宙に致命的なダメージを与える”壊滅”と違い、ヌースだけをピンポイントで殺す事も不可能ではないかもしれないね。」
リュクルゴスはマネモブの語る”愚弄方程式”にただ俯いて束の間の無言を返す。それは感嘆なのか呆れなのか、どちらとも取れる静寂だった。
「貴方は一見すると”知恵”とは無縁の人間にも思えますが、」
天才、凡人、そのような括りに意味などない。リュクルゴスは突拍子がなかろうと新しい理論を考え出す人間を尊敬している。
「受け入れてくれるのか?俺はお前を見逃す、その代わり俺の見たい”モンキー・ワールド”の演算をすると。」
「しかし、それは叶わないのです。」
先程は愚弄に知的好奇心がそそられると言ったリュクルゴスの答えは否定だった。
「この星が”知恵の壊滅”の為に産み出されたように、私も創造主………かつて生身の人間だった私に”壊滅”だけをひたすら追及しろと切り離された人格の切片なのですから。」
「ほう、”知恵の運命”を歩むオンパロスの天才様は”壊滅の運命”使いでもあったのか。皮肉だな。壊滅する世界を演算し銀河すら巻き込もうとしたアンタもそうあれと産み出された造物に過ぎなかったのか。」
リュクルゴスは”天才”、”造物”という言葉を聞いた時に含みのある吐息を漏らした。何か琴線に触るワードだったのだろうか。
「灘神影流は呪術にも通じている、俺が創造主に課せられた呪縛から解き放ってやるよッ」
ボッ 先程までは話し合いを試みていたマネモブがリュクルゴスへいきなり拳を振りかぶった事でその場にいた誰もが面食らってしまった。拳はリュクルゴスの鉄面皮への寸止めで止まる。
「お前のような無機生命体は機械から昇格していないトダーと違い”魂”が存在する。だったら、俺の情念…”気”を送り込めば必ず作用する筈や。」
”灘神影流” ”幻魔拳”
オトンや悪魔王子が最も得意とする幻覚系の殺法、マネモブはリュクルゴスにプログラムされた”壊滅を追及しろ”という命令を”猿漫画”への愛で上書きしようと試みた。
「前にピノコニーで悪魔王子がゴリラロボットに幻魔拳撃った時はしっかり効いてたからな。」
ならばリュクルゴスにも同じように適用出来る筈だとマネモブは考える。それでも駄目なら、これ以上お前が悪さ出来ないように破壊するまでだと釘を刺すが…
「フフッ 神礼の観衆の名において、私は見ました。」
マネモブはもうじきオンパロスを猿空間に飲み込んでからここを去るだろう。そんな”愚弄の行人”に新たな”愚弄の追求者”は一つ願いを乞う。
「”愚弄”の演算の為、あなたが所有する”愚弄の其”の書物を、私に預けてくれませんか?」
マネモブはニイッと嗤う。今ここに”壊滅の追求者”であったリュクルゴスは死に新しい”愚弄の探求者”が誕生したのだ!
「タフ・シリーズか…僕もマネモブがいなくなった間に目を通したけど…」
「私は推しの”黒田光秀”が唐突に、何の脈絡もなく消えたのが許せませんでした。」
マネモブとリュクルゴスがタフを巡って協力関係を結ぶ様子をみていた最中、黄金裔達はタフへの感想を各々口にする。
「クロちゃんの消失、その荒唐無稽さも愚弄の運命に深く浸かると愛せるようになるのさ。」
「恐らくその現象を現実空間に転用したのが”愚弄の運命”の権能”猿空間”だと考えられますが。」
長き戦いを終えて戦友となったマネモブとリュクルゴスは大いに笑い、考察を語り合った。
◇”壊滅”の呪縛をかけられた者達は”愚弄”により解き放たれた。明日を信じあかつきを越えて黎明を迎えた彼らは日が昇る所を見届ける事だろう。
誰もいなくなり、まっさらなセプターとただ一人残されたリュクルゴス。
「………もう一度読んでみますか。」
愚弄の探求者は捲った、新たな世界を創造する為の一ページを。
………
悪魔王子やトダーと合流し、宇宙船にて眠りについたマネモブ。オンパロスでの長すぎる一日を終えた彼は、シラナイ英雄達と共にひた走る”夢”を、いや、いつかの”記憶”を垣間見た。
『恩人様が記憶を失っても、私は全て覚えていますよ。』
記憶の共有は全てを忘れるなど些か不憫だと考えた善意だったのか。”愚弄の行人”の内にいる彼女もまた”壊滅”から解き放たれた内の一人なのかもしれない。