新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
遥かなるタフリカ編 猿神昇格
天の川銀河にある太陽系第三惑星”地球”…蒼き美しい星ではあるが、宇宙開発は進んでおらず、天外の存在をシラナイ、天外からも認知されていない辺鄙でつまらない星だった。ある事件が起きるまでは………
その星には1600万人もの信者を持つとされる偉大なる漫画家がいた。泥臭さとその中にある清涼さを兼ね備えた格闘漫画で読者たちを魅了する作風だった。泥の中でも綺麗に咲く”蓮”のように。
しかし、彼の描く漫画はただ面白いだけの作品ではなく………
”はっはあーーっ 英雄色を好むと言うじゃないか。これが強い奴はこっちもつよいものよ”
ある時は実在する高名な野球選手が家庭環境に問題のある中学生を金銭的支援を条件に手籠めにする人面獣心のクソ野郎とされたり、
”僕は水木喜太郎。君に恨みはないが鬼龍とは色々あって御足労願ったわけだ”
ある時は高名な漫画家が愛人に暴力を振い見限られるDVクソ野郎とされたり、
”生意気だな…人間レベルの戦闘能力でボクに歯向かうなんて…”
”風俗マニアの俺の眼に間違いはない”
友好のあった格闘家をドーピングモンスターや風俗中毒のおっさんにして登場させたり、
”アニマルは鬼龍の子どもでもなんでもない…遺産欲しさに鬼龍の息子を騙ったクズ野郎なんだ”
実在する格闘家がetc...しかも元ネタの格闘家は当初鬼龍の息子とされた設定に大いに喜んだというのだから人生の悲哀を感じずにはいられない。
この機械的な”愚弄”こそが通称”猿漫画”の特徴である。そして愚弄されるのは実在人物に限らない。かつてラスボスだった男が続編で動物園のゴリラにボコられたり、最強格闘家になった筈の主人公が続編でデーザー銃やロボットに負けたり、主人公の父親が節穴を超えた節穴にされたり…
主人公の初のライバルがなんの脈絡もなく消えたと思えば再登場時はポメラニアン=弱き者扱いされたり…現実の政治家モチーフのキャラがほぼそのままの画風で登場したり…とにかく例を挙げればキリがないのだが、この荒唐無稽さとでもいうのか?ある種のルール無用な作風が一部の読者の心を鷲掴みにしているのも事実だ。読者もまたそれらの展開を”愚弄”し、愛を注いでる。”愚弄する愛情もある”………
さて、問題はここからだ。その漫画家は”愚弄”を突き詰め過ぎてしまった。彼の信者達もまた愚弄を周囲へ振りかざした事もあり、この宇宙に存在する生命体の中で一番”愚弄”の最先端に立っていたと言っても過言ではなかった。群星に存在する”虚数エネルギー”、”運命力”と言い換えてもいい。運命を象徴する概念は沢山あるので一々挙げていくとキリがないのだが、その中には”愚弄”の概念も………
生命体が生きていく上で”愚弄”は付き物だ。マウンティング、いじめ、差別、犯罪、ネット炎上、レスバ………愚弄は生命体が日々起こすあらゆる事象に内包している。生命体が培ってきたその”エネルギー”は銀河で最も”愚弄”の道を突き進んだ者に注がれ………
ピキィーン
”今ここに偉大なる”猿渡哲也先生”は昇格し”愚弄の星神” ”サルワターリ”が誕生したのだッ”
猿渡先生、愛称猿先生が神に昇格し、莫大な”愚弄”のエネルギーが解き放たれた時、ある大事件が起きる。それにいち早く気付いたのは彼の信者、”異常猿愛者”こと”マネモブ”達だった。
「うああああああああ、鬼龍が、尊鷹が、オトンが、キー坊が吉祥寺を練り歩いている。」
「渋谷がアフリカになっちまったあっ」東京中の動物園から動物が脱走し渋谷を闊歩するという珍事も起きた。
其の作品、創造物が実体化し、現実を浸食、融合し始めたのだ。元の地球の住人達は恐れ、困惑した。ヤクザや野蛮な格闘家が至る所にいる、レイプや暴力事件の増加、世界は大混乱に陥る。
ただ、アメリカとロシアの大統領が領土ではなくある”突然変異のクローン”が有する心臓を欲するようになり戦争が止まったなど良い事もあるにはあったのだが、殆どの人間はその事象に恐怖した。
「すげぇ………本物のキー坊だ。」
リアル・ワールドとモンキー・ワールドの融合という混乱の中、ある一人のリアル・ワールド出身の少年は吉祥寺でタフ・シリーズの主人公が実体化したというニュースを目を輝かせながら見ていた。
彼はそこまで特徴的な人間ではなかった。通ってる小学校での成績は並、容姿は死んだマネキンのようなモブ顔、言及すべきは齢10歳にして父親が購読していた”タフ・シリーズ”を読み込んでいた事くらいだ。その少年は世の中の混乱や治安の悪化などを憂うような年頃ではなかった。好きな漫画のヒーローが生命体に昇格したという報道に目を惹かれ、興奮した。
「………。」
今まで普遍的な人生を送ってきた少年は、生まれて初めて罪を犯す。大変貌を遂げた社会情勢から逃げるように家という安息の場所に籠りきりになった両親、二人が寝静まった頃を見計らって親の金を盗み家を飛び出した。
(目指すは吉祥寺、吉祥寺!!)
良心が痛まなかったわけではない、それでも実行してからは罪悪感も軽くなり、そこからの行動は早かった。家の外で朝を待ち、電車に子供一人乗り込み、憧れの格闘家のいる吉祥寺を目指す。途中暴漢に絡まれたりもしたが、所持していた金を渡すなどしてやり過ごし、そして遂に…
「着いた………」
猿漫画で何度と見た光景…レイパーや不良、ヤクザを恐れてか人通りは少ないが…少年は”宮沢一族”御用達の”雨の木なコーヒー”、”吉祥寺公園”などの名所を巡りずっと焦がれていたキー坊を探す。
「見つけた………」
探し出すのにそこまで時間は掛からなかった。雨の木なコーヒーで購入したのであろうドリンクを片手に吉祥寺を練り歩いている筋骨隆々な”ナチュラル・ボーン・ファイター”…
「あ、あの…!」「ん、ワシになんか用か。」
少年にとって、ここまで勇気を振り絞ったのは人生で初めての経験だった。幸運にもキー坊は話を聞いてくれる姿勢だったが…
「み、宮沢熹一さんですよね?僕、あなたのファンなんですよ………」
「ぼ、僕を…僕を貴方の、”灘・真・神影流”の弟子にしてください!!」
今まで、普通を超えた普通な人生にどこか愉しさを見いだせなかった少年は、大きく動いた世界情勢のように、自分の人生も大きく変わる予感がした。
その後、猿先生ことサルワターリの発するアホ程の量の虚数エネルギー、新たに産まれた”星神”と”愚弄の運命”を観測した宇宙一の大企業”スターピースカンパニー”が地球への接触を図り、群星との交流が産まれたのはまた別の話である。