新運命「愚弄」の行人「マネモブ」   作:異常猿愛者

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あの男は突然変異の心臓を欲している…

 淫売のクソ女と享楽主義のオスブタ共の溜まり場、”愉悦の運命”を歩む者が練り集まっている酒場”パブ”。何を隠そうマネモブも一仕事を終えた時はよく訪れてアルコールに溺れ、女共を侍らせて悦に浸っている。今日のマネモブは悪魔王子を連れて”オンパロス”の”開拓”を終えた祝杯を上げに来ていた。

 

 マネモブは珍しくいつものように女を囲うような事はせず、カウンター席に悪魔王子と二人並びカクテルをチビチビと飲んでいた。悪魔王子が二人きりで飲むのを望んでいるだろうと気を遣った。

 

「新人のバーテンダーやな。」「ええ、最近勤め始めたばかりで...」

「北欧系の顔やな。もしかして同郷なタイプ?」「ええ、目ざといですね。」

「格闘家は目付けが出来るもんでね。」

 

このパブには常連と言っていい程通い詰めているマネモブは新参の顔に目ざとく気付く。

「お客様は数多の星を救った偉大なる旅人と聞いています。忍辱の衣を纏っていると。」

「へっ、煽てても話はしねーよ…」

マネモブは新人をあしらいながらカクテルのお代わりを頼む。

 

「どうぞ………」

「それにしても………今日はやけに客も客引きも少ない…少なくない?というより全くいないという感覚ッ」

「そうなのですか?すみません、自分新人なもんで…普段の盛り具合がよく分からないです。」

忌憚のない疑問が浮かぶがそう言われてはこれ以上会話は続かないとマネモブは酒を煽ることにした。

悪魔王子はオンパロス救世にひた走った1000年間の疲れからか殆ど口を開かず、マネモブもそんな彼へ無理に声を掛けようとする事はなかった。三人の間に流れる静寂、異変が起きたのは………

 

「うぐっ………」「マネモブ!?」

突如としてカクテルを煽っていたマネモブが胸を抑えてカウンターにつっぷした。悪魔王子は心配そうに彼を介抱しようとする、急性アルコール中毒か?いや、血流操作が出来る灘の人間に限ってそんな事は………

 

「………。」

新人バーテンダーは不気味で冷淡な目を二人を向けている。

(毒か、不覚を取ったな…)”心眼”で敵意の感知を怠った事を後悔するが、パブで毒を盛られるなど想定しろというのも無理な話なので仕方ないだろう。バーテンダーの正体は俺の命を…いや、悪魔王子の”突然変異の心臓”を狙った特殊工作員といったところか。恐らくロシア大統領の”あの男”の息が掛かっている…あの男は是が非でもガルシアの心臓を欲していた。

 

 マネモブが盛られた毒物は”ポロニウム210”。この劇薬を人工的に作るには原子力施設並の大掛かりな設備が必要であり、”動機・手段・機会”のすべてがあの男の関与を物語っている。

 

          ・・

”全ては悪魔のようなあの男が仕組んだこと”

 

 マネモブは”総身退毒印”で解毒を試みるが…

グサッ「なにっ」「灘神影流の解毒法は特殊な印を結ぶ工程を要するのは把握している。」

特殊工作員は懐から取り出したナイフでマネモブの片手を突き刺し印を封じた。

 

「マネモブの生死はどうでもいい、あの方が欲しているのはお前の心臓だ。」

悪魔王子は敵に呼応して臨戦態勢を取る。バーテンダーに化けていた工作員が何らかの合図をしたのか、いつの間にやら完全武装した軍人達が練り集まって来ている。

 

「店の中でやり合おうってのか。滅茶苦茶な奴等だ…」

「店側に許可は取ってある。良くも悪くも、ここの連中は面白ければそれでいい異常者達だからな。アクション映画を現実で見れるぞと言いくるめたら簡単に了承を得れたぞ。」

パンッ 悪魔王子に向かって一斉射撃が行われる。悪魔王子は”朦朧拳”で瞬間移動しマネモブが倒れているカウンターから離れる。彼を銃撃戦に巻き込まない為だ。

 

ボッパンッパンッ

すり抜ける瞬間移動の最中、何人かの敵に拳を撃ち込み意識を落とし間引く。工作員たちも負けじと彼の後を追い鉛玉を浴びせるが全て”弾丸滑り”を超える”スリッピングアウェイ”で退ける。

”円月流” ”陽炎”

悪魔王子は己の姿を景色と同化させるまやかしを使い工作員たちを翻弄する。目標を見失った工作員は急いでサーモグラフィーに視界を切り替え補足しようとするが…

 

「フッ、対応が後手後手、気付くのが遅いよ。」

悪魔王子は自ら作り出した僅かな隙を使い、既に”至高の当身”に必要な強烈な踏み込みを追えていた。

 

"幻突発射ッ” 1000年間鍛錬した悪魔王子が使う技の精度は正に神業、後ろから手を組んだ状態でも自由自在に”気の砲弾”を操り特殊軍人をなぎ倒していく。ものの数分の内に、悪魔王子は店にいたロシア軍を制圧した。数々の修羅場を乗り越えて来た彼にとっては敵を倒すことなど大した試練ではない…が、問題はここからだ。

 

「マネモブっ」

カウンターに突っ伏している師であり戦友、そして仲間でもある彼に駆け寄る。内臓をやってしまったのか、口からは血を噴き出している。

 

「俺達の一番の強みは”タフ”な筈だろ!?」

悪魔王子は手に気を練り込み、治療に使う”活法” ”気動波”での治療を試みるが…もう毒は全身を回っているようで、焼け石に水であった。

 

(俺達の旅は………)

大国のエゴ、色んな星を救ってきた筈の俺たちの旅はこんな下らない終わり方を迎えるのかと悪魔王子は理不尽に怒り、嗚咽する事しか出来ない。”喪失感” ”憎悪” 悪魔王子の心を”壊滅”や”虚無”が支配していく。もう万事休すかと、悪魔がうな垂れた時………

 

”影も雲も押しのけて、晴れ渡る空を!”

突如として店内をプリズムが発するような美しい七色が支配し辺りを包む。悪魔王子はこの虹に見覚えがあった。

 

「ヒアシンシア!」「お久しぶり、いや、それほどでもないですね!」

オンパロスの名医だったヒアシンシアことヒアンシーがマネモブの毒を除去する為に”猿空間”から帰還した。彼女はマネモブに手を掲げ、マネモブの顔も自然と和らいでいく。

 

「何故お前がここに…」

猿空間へのアクセス、”愚弄の方程式”は愚弄の運命を歩む者独自の権能の筈だ。マネモブの猿空間には”オンパロス”が内包されているとはいえ、オンパロス側から勝手に出入りする事は出来ない筈………

 

「うーん、色々理由はあるのですが、」

一つは”オンパロス”の拠り所が”知恵”の”セプター”、”壊滅”を演算する為の電気信号から”愚弄”の猿空間へと切り替わった事、愚弄の”虚数エネルギー”が支配している空間に存在する事で、其の影響を強く受けるようになった。そして最大の理由は…

 

「私も、タフシリーズ全巻読破しちゃいました!」

”愚弄の運命”を歩むという事は猿漫画を愛するということ、ヒアシンシアはその条件を満たしていたようだ。

「プルプルッ」「イカルンもオンパロスの為に色々頑張ってくれたマネたんに恩返ししたいと言っています!」

 

「ううっ………」

悪魔王子とヒアンシーが話し込んでいた時、

「悪魔王子テメェこの野郎………あの方を裏切った挙句俺達をこんな目に………」

戦闘で気絶した工作員の中に意識を取り戻し、悪魔王子に銃を向ける者が一人、

「悪魔は地獄に行きやがれッ」

パンッ 銃弾は無情にも悪魔王子の喉を狙う。悪魔王子も対応が遅れ、弾丸滑りが間に合わない。

 

「プルッ!」

悪魔王子を庇ったのはイカルンだった。平然と弾丸に体当たりし、軌道を逸らしてもピンピンしている。

「ば、バケモノが…」「マネたんやデビたんを苦しめる人は許しません!」

発砲した工作員はイカルンの突撃で再び眠りについた。人間相手ではオーバーキルすぎる火力、暴走車に轢かれるようなものだがその痛みは想像したくもない。

 

「これからは私達も二人やトダーたんを守ります!」

”愚弄派閥”と”オンパロス”は互いを信頼し、尊敬し、そして認め合っていた。これから先の旅路、必ずやマネモブ達の心強い味方となってくれるだろう。

 

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