しのぶが義勇の部屋に入ってきた。
「あら、ふすまが空いていますね」としのぶは言った。「さっき炭治郎くんとすれ違いました。炭治郎くんはすごい子ですね」
しのぶは持ってきた薬を義勇に手渡した。
「はいあーんして」
しのぶは義勇の診察をした。
「まだ完治ではありませんから、無理をしてはいけませんよ」
「すまない」
「ほんとにそうですよ」
「俺が元気だったら、任務に行けたのに……胡蝶の言う通り、記憶があるのはいいことばかりではない。俺は……」
「二周目の冨岡さん、本当におしゃべりですよね」と言うとしのぶは笑った。カナヲもですけれど、としのぶは付け加えた。
「冨岡さんと炭治郎くんが一周目の時に上弦の鬼に勝てた理由。それは、柱稽古だと思うんですよ」としのぶは言った。
「柱稽古……」
「そうです。前の柱合会議の時、柱稽古をしようと冨岡さん仰ったでしょう。あれにみんな驚いたんですよ。冨岡さんが喋ったことと、会議をきちんと聞いて自分の考えを持っていたことにです。要するに、柱稽古、一周目の時にしたっていうことですよね。柱稽古ってなんですか?柱同士、稽古をするのですか?もしそうだとしたら、その柱稽古で、柱同士が連携する術を身につけたのでしょう」
「柱同士が連携……」
「我々は基本単独で任務を行う。ですから、共闘する術を持っていない。それに冨岡さん、記憶は戻っても、肉体がついてきたわけじゃないでしょう?これから鍛錬をして行った結果、上弦の鬼に勝てるようになったんだと思います。ですからあまり自分を責めないことです。仕方がなかった」
「……」
「あー、柄にも合わず喋りすぎてなんだか疲れました。私は帰ります。また明日来ますから、お薬飲んでくださいね」
「胡蝶」
「はい?」
「その棚にある本を取ってくれないか」
「もう!確かに無理せず安静にしろって言いましたけどね!」
そう言いつつ、しのぶは本を何冊か取り出して、義勇に渡した。「胡蝶の夢」という本を義勇はじっと見つめた。
「胡蝶、俺は無限列車で夢を見たんだ。俺は蝶になって飛んでいて、死んだ姉さんと死んだ親友の肩に止まった。2人とも笑っていたんだ。そして、頑張れよ、って言われた気がした。2人とも黙っていたけれど、確かにそう言われた気がしたんだ。まるでそちらの方が現実のようだった」
「一説によると、故人が笑う夢は良いことが起きる前触れと言われています」としのぶは言った。
「良いことは起きていない」
「迷信ですから」としのぶ。「それにしても冨岡さんが読書家だなんて驚きました。私は夏目漱石くらいしか知りません」
では、というとしのぶは去ろうとした。
「胡蝶」
「まだ話し足りないことが?」
「炭治郎はまもなく日の出という時分に上弦の参が現れたと言っていた。しかし実際はもっと早く来た。俺が早く下弦の壱の首を切りすぎたからだ。一方で、俺は柱でありながら列車に乗り込む前から勝てない予感がしていた。なぜなら、あの時上弦の参は……」
「自害した」としのぶが言った。
「知っていたのか」
「炭治郎くんから聞きました。なぜ自害したかと思うか炭治郎くんに聞かれました。実際のところなど本人にしかわかりません」
「再び勝てるだろうか」
「柱が弱気でどうするんですか。むしろ私は嬉しくなりましたよ。そう言う鬼がいるのなら、私も鬼と仲良くすることができるかもしれない。人であろうと鬼であろうと、相手の気持ちがわかるだなんておこがましいことです。大切なのは理解しようとすることです。なるほどそのために本を読んでいるのですね。感心感心」
しのぶはにこりと笑うと部屋を出て行った。