義勇はおはぎを持って不死川邸へと訪れた。
義勇は屋敷の門を叩いた。しばらくすると実弥が屋敷から出てきた。
「義勇かァ」と実弥は言うと、屋敷の中へと通した。2人は縁側に座ると、一緒に無言でおはぎを食べた。堰を切ったように義勇が話しはじめた。
「良い香りがするな」と義勇。
「ああこれかァ、胡蝶に処方してもらったんだ。気が回復するって。おかげでだいぶましになったぜ」
「そうか。……実弥、歴史が変わったぞ」と義勇。
「あァ、聞いた。天元のやつ、それで必死に鍛錬してたんだな。このところイキイキしてやがる。まるで、自分の居場所を見つけたかのようだぜ。今回こそは腕を落とさず、歴史を変えられる証明をしようとしてたってわけだ」
「お前の弟も、助かるかもしれない」
「あの時は悪かったなァ」と実弥。「あとでお前のこと、炭治郎から聞いた。お前だって、何度も傷ついていたというのによォ」
「話し方が昔みたいだな」と義勇。胡蝶の薬の効きは良い。
「炭治郎に言われたんだ。失った命を助けるのも大切かもしれないが、それ以上に、過去に助けることができた命をもう一度救うことの方がずっと重要だって。ったく俺に説教しやがって、調子の狂うガキだぜ全くよォ」
「いつもの実弥が戻ってきたな」そういうと義勇は笑った。
「お前なんか気持ち悪りぃな」と実弥は言うとふっと笑った。「なァ義勇、俺らもう一度無惨に勝てると思うか?」
「それでも柱か」と義勇。
そうは言いつつ、義勇もそのことについてはずっと考えていた。
「なんだとてめぇ……と前なら言っていたかもしれねぇが俺らももう若くはねェ。体は若いかもしれないが、心が追いつかねェ」
「25だろう」
「……。天元たち痣者でないやつらは俺らより年食ってるはずなのにやる気あってすげえな。尊敬するぜェ。結局何歳まで生きたんだろうな……。あの後時代は様変わりしたと天元は言っていたが、それ以上は何も教えてくれなかったんだ。俺も詳しくは聞かないようにしていたけどよォ」
「天元は長生きしたのか。それを言うなら竈門カナヲもそうだな……何歳まで生きたのだろうか。その後の話など聞いてはいないし、案外早かったのだろうか」と義勇はつぶやいた。
「お前の奥方がどうなったかカナヲに聞いてねぇのか?」
「なぜ?」
「なぜって、カナヲは大層生きたみたいで、俺の奥さんや子供のその後も知っていたぞ。それに知ってたか。俺らは同じ日に死んだんだ」
「まるで道長と行成みたいだな」
義勇はムフフと笑うとおはぎをもう一つとって食べた。実弥は、なんじゃそりゃ、と言った。
「まぁ、なんであれ、一度無惨に勝てただけでも奇跡だったんだ。またあの奇跡を繰り返せってかぁ。無理な話だぜ。なんで転生なんてしちまったんだろうなァ。」と実弥。
「誰かを生かすためじゃないか?」
「でも俺はカナエも煉獄も守らなかったしよォ。玄弥を守り切れるか、不安なんだ。でもよォ、歳を重ねたおかげでやっとわかったぜ。相手の決意を踏み躙るのもよくないって。玄弥が鬼殺隊に入るって決めたんだ。俺にやめさせる権利はねぇよ。結果がわかっていたとしてもだ。あ、そういえばお前は誰を生かしたいんだ?」と実弥は言った。
「俺が生かしたいのは……」
カナヲの言葉が脳裏に響く。
-師範が死ぬのが怖いんでしょう
「言いたくないなら言わなくていい。けど、その気持ちは大切にした方がいいぜ。後悔だけはしないようになァ」
優しい風が庭を通り過ぎて草花を揺らした。実弥の炊く藤の花の残り香が鼻を掠める。
-俺が生かしたいのは
義勇は膝の布をギュッと握りしめた。
「用を思い出した。失礼する」
「おォ、そうかァ」
義勇は不死川邸を出ると真っ直ぐに走り出した。