冨岡義勇は無惨討伐一周目を思い出した   作:高橋夏帆

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冨岡義勇が煉獄の応援に駆けつけたその日、胡蝶しのぶは蝶屋敷で藤の花をすりつぶしていた。


藤の毒

 胡蝶しのぶは今日何度目かのため息をついた。今、冨岡さんは煉獄さんの応援に行っている。あの人たちの言うことが本当であれば、今日上弦の鬼が姿を現す。

 

 他の人たちは眠れているだろうか。カナヲは?不死川さんは?宇髄さんは?そういえば朝からカナヲの姿をみない。

 

-本当に皆に心配ばかりかけて

 

 しのぶはルツボに入れた藤の花を慣れた手つきですりつぶす。ふと手を止めると、徐に顔を触った。私の顔色、悪いだろうか。

 

 時折、冨岡さんの勘の良さに驚かされる。もしかして、私の作戦にも気がついているのでは。

 

 しのぶは、すりつぶした藤の花を丁寧に、一つ残らず飲み干した。もうこの吐気のするような苦味にも慣れてきたころだった。

 

 ねぇさんを殺した鬼を倒すためにはこうするしかないのだ。そんなねぇさんは、鬼と仲良くすることを夢見ていた。

 

 冨岡さんはなぜ禰豆子さんを守ったのだろう。鬼と仲良くする夢を模索しながらそれは無理だと半ば諦めていた私と比べ、冨岡さんは行動に移した。あの冨岡さんがだ。私が禰豆子さんと出会っていたら、同じことができただろうか。炭治郎くんの話によれば、その冨岡さんの判断が、無惨討伐に貢献したのだという。

 

 那田蜘蛛山から降りる時、冨岡さんはこう言っていた。

 

「あれは2年前のこと。俺の師匠が鬼との共生の可能性について論じはじめた」

 

 鬼との共生?無理な話だ。鬼が人を喰う限りは。

 

「それで?」としのぶは義勇に尋ねた。

 

「それでとは?」

 

「え、今ので説明したと思っておいでですか?正気でしょうか。何を見て人を喰わないと判断したのかとか、見逃したとしてなぜ竈門くんを鬼殺隊に引き入れようとしたのかとか」

 

「……」

 

「なんとか仰ったらどうですか!!!」

 

 しのぶはやりとりを思い出し、机に手を押し付けてぐっと力を込めた。冨岡さんは言葉が足りない。鬼側に肩入れしたと思われても仕方ない状況だというのに、危機感がまるでない。

 

 その時、しのぶのカラスが飛んできた。

 

「本部にくるべし」

 

-----------

 

「しのぶ、夜分にすまないね」とお館様は言った。

 

「いえ、なんなりとお申し付けを」

 

「北の町に鬼が出た。他の隊士たちもやられている。行ってはくれないか」

 

「承知」

 

「実は先ほど義勇に頼んだのだが、野暮用があるようで断られてしまってね。こんなことは初めてだ。しのぶ、隊士の体調を知る君なら何か知らないか。私は義勇が何かに不安を感じているのではないかと心配しているのだよ」

 

 しのぶはうつむいた。

 

「……。気鬱は判断が難しい病です。それに冨岡さんは掴めない人ですから」としのぶは呟くように言った。

 

「そうかい。変なことを聞いてすまなかった。しのぶ、体調にはくれぐれも気をつけるように」

 

 しのぶはハッとして頭を上げた。お館様は月を見ながらにこやかに笑っていた。

 

------

 

 北の町に到着すると、何人もの血まみれの隊士が倒れていた。その先で鬼が人を喰っている。その様子を見た人々が逃げ回っていた。

 

 だから言ったのだ。記憶があることが全て良い方向に転ぶわけではないと。

 

「蝶の舞」

 

-戯れ

 

 鬼の首がコロンと落ちる。冨岡さん、もしあなたが私よりずっと早くこの町に来ていたら、何人の人が助かったと思うんですか。冨岡さん、あなた1人で私の何倍の鬼が狩れると思うんですか。

 

 冨岡さん……。

 

 藤の毒を摂取し始めてから、走馬灯に似たものをよく見るようになった。まだ私が一般隊士だったころ、鬼に喰われそうだった私を冨岡さんが助けてくれた。これが柱かと感動した。水の呼吸は誰のものよりも強く美しかった。芸術にすら思えた。

 

 私は鬼の首を切れない。もし私が二周目を迎えたとしてもきっと誰の助けにもなれないのだろう。だからこの方法しかないのだ。でもそれで勝てるのか。鬼の首を切れない剣士が姉を殺した鬼を倒せるのだろうか。この毒ももし効かなかったら……。

 

 その時、カラスが焦った顔つきで飛んできた。

 

「煉獄杏寿郎死亡!上弦の参と遭遇し、死亡!」

 

「すぐに生存者を蝶屋敷に運んで!」としのぶは鬼の形相で叫んだ。

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