TS男のシーフユニオン活動録   作:Xbox360

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4/9 覚醒

「……おかしいな。転生ってもっとファンタジー寄りじゃないの?」

 

目の前に広がるのは、東京は渋谷。スクランブル交差点。突然立ち尽くした俺に、迷惑そうにする通行人たち。

俺─── 桐崎 零(キリサキ レイ)は、転生者…のはずだ。前世で歩きスマホをしていたら、自称正義ジジイに階段から突き落とされるという、つまらない死に方をして、「なんでも願いを叶えてくれる」という神様に、異世界に転生させてもらったのだ。

 

のだ…が、どうにも、俺の知る現代日本と比べて、何かが変わったようには見えない。

それに、身体も違和感がすごい。着慣れないものが胸部を締め付け、声も記憶より甲高い。これは…アレじゃな?

 

「TS転生…ってやつか。」

 

よく見たら、着ている服も変わっている。学生服のようなデザインで、黒いブレザーにチェックのスカート、白いインナーシャツに黒タイツ……うーむ。どこかで見覚えが。

 

「うん?これは…スマホか。それとメモ…?」

 

スマホを開くと、見覚えのある赤い目のアプリがあり、「案内を終了しました。」と言う音声が流れる。履歴には、メメントスと書いてある。

メモには『汝、殉教者よ。トリックスターを助け、真実への道を開け』とある。

 

……ここまで来れば、もう分かる。

 

「ペルソナ5の世界じゃねえか……」

 

その答え合わせというように、世界の時間が制止する。交差点の真ん中には青い炎が迸っており、怪しい影が浮かび上がる。

これは…もしかしなくても、プロローグの部分なのでは?となれば、この近くにジョーカー…アニメ版なら雨宮蓮がいるはずだ。

 

「えーっと…あ、いたいた。」

 

少し周りを見回せば、困惑した様子で炎を見る黒髪の少年…といっても、俺と同じぐらいの年齢だろうが。

メモの内容が気がかりだし、せっかく転生したんだ。目標があった方がやりやすいだろう。

俺はジョーカーを陰ながら助ける、いわゆる「お助けキャラ」ポジションに収まろうと考えた。

 

実際、ゲームでも困ったら助けてくれる「別世界の怪盗」や、行動のヒントを出してくれるシステムがあったわけだし、俺がそれになれば良い…というわけだ。

 

「や、こんにちは。」

 

「……君は?」

 

止まった時間の中で、俺はジョーカーに話しかける。ううん、やはり顔が良いな。

なぜ止まった時間の中で動けるのか、という疑問はあるが、それ以前に生ジョーカーを見られた喜びの方が大きい。

 

「おr………私のことは、まだ知らなくて良いよ。」

 

おっと、今は女なのだから、一人称も統一すべきだろう。身体は女でも、精神は男だということを忘れなければ、自己同一性は保たれる。

 

「君の名前を教えて欲しいな。トリックスターさん?」

 

お助けキャラは、割といつも謎めいていたように思える。故にこのムーブだ。元男故に、興味を惹かれる仕草というのは弁えている。

手を後ろに組み、前屈みになり、顔を覗き込む。

 

「…雨宮蓮です。」

 

「ふうん…よろしくね。」

 

ちらりと後ろを見ると、青い炎がやや消えかけている。じき、頃合いか。

俺はジョーカー…もとい、雨宮くんに背を向け、振り返り、手を振る。

 

「また会おう。そして時は動き出す……」

 

炎が消えるのと同時にそう言い残し、俺は人混みに消えていく。人々もそれに合わせて動き出し、雨宮くんに追いつかれないように必死になって紛れる。

初めてにしては上出来の謎のお助けキャラムーブが出来たんじゃなかろうか?

 

センター街まで歩き、人のいない裏路地まで駆け込む。

荷物整理の続きだ。学生カバンと思われるそれには、学生証、バイクの運転免許、定期券が入っている。

 

「ふむ…名前は相変わらず『桐崎 零(キリサキ レイ)』で、顔は……うおっ、すげぇ美人…本当に俺かよこれ?」

 

学生証に写っていたのは、青みがかった黒髪に、黄金の瞳をした美少女が真顔でこっちを見ている写真だった。

他にも、色々なことが分かった。

まず、俺は2年生であること。そして、生徒会の庶務だということ。どうやら、俺はこの世界に桐崎零ときて生きてきた…と言う風になっているらしく、プロフィールや住所も遜色ないものになっている。

 

「へえ、目黒住みなんだ。俺…良いとこ住んでるじゃん」

 

なかなか良いところに住んでいて気分が上がる。生前も都内住みだったが、高級というほどではなかったからな。テンション上がるぜ。

早速帰宅しようと思った矢先、俺はあることに思い至る。

 

「………お助けキャラって、主人公より強くないとダメじゃね?」

 

当然ながら、俺は戦いに関してはズブの素人だ。ジョーカーの危機に、ペルソナもない、ただの一般人が参戦するとか、あり得ない話だ。

足手纏いだし、俺自身も死ぬかもしれない。

せっかく決めた目標だ、しっかりと完遂するとしよう。

 

「イセカイナビがあるのは分かってる。それに…ご丁寧に、履歴にメメントスとあるわけだしな。」

 

渋谷駅前まで移動し、イセカイナビを起動する。再ナビゲートが出来るのは知っているので、ボタンをタップして待つ。

じんわりと視界が歪んでいき、気づけば俺は赤黒い世界にいた。

服装は変わっていない。まぁ、それもそうか。ヤルダバオトに賊だと思われていないわけだし、そもそも反逆の意思も覚醒させていない。

 

「さて……潜るか。メメントスへよ……!」

 

ぱしん、と拳を叩いて異界と化した渋谷駅に潜っていく。赤黒く、そして歪んでいる道を辿っていくと、剥き出しになった線路が見えてくる。

なるほど、確かに一抹の美しさも感じられる造形だ。これが全て人の欲望から出来ていると考えると余計にそう見える。

 

「武器武器……あっ、これなんかどうだ?」

 

道端に落ちているガラクタの中から、鋭利なものを選んで抜き取る。長めの釘というか、そんな感じの黒い小刀だ。

ペルソナと一緒に使うと武器になりそうなソレを握り締め、俺はメメントス第一階層へと足を踏み入れた。

 

「……どこからともなく呻き声が聞こえる。怖えなぁ…」

 

及び腰ながら進んでいくと、牢屋に入れられた物品が落ちている。紙切れや宝石など、玉石混合だ。これでキーピックを作れば、さらに良いものが手に入るだろう。

換金して、武器を買うのも手だ。

 

「稼ぐぞぉ〜……って、うん?」

 

ねっとりとした感覚が頭にかかる。まさか、と思って振り向いてみれば、仮面が大量に張り付いた化け物─────シャドウが、俺の後ろに立っていた。

 

「うっ、うわぁっ!?」

 

手に握り締めた黒い小刀を振るう。だが、小刀は容易く折れ、シャドウには傷のひとつも付かない。途端に後悔が押し寄せる。

俺が甘かった。そうだ、シャドウは悪魔。超常存在だ。その辺で拾ったナイフ一本ごときで、一般人が太刀打ちできる相手じゃ…ない!

 

「がっ……ぁ……!」

 

畜生、バカだ俺は!無謀にも程があるって、分からなかったのか!ゲーム感覚で、突っ込むんじゃなかった!

 

「けほっ、けほ……があっ!!?」

 

腹部に強い衝撃。込み上げてくる苦味と酸味。壁に叩きつけられたのか、背中全体を痛みが襲う。そのまま地面に転がり落ち、咳き込む。それと共に血の混じった吐瀉物が口から転がり落ちる。

死が、そこに見える。同じだ、状況は違うけど、同じ。

 

「ぁ……あ゛〜っ!!!そう、だ!げほっ、げほ…!そうだ!」

 

結局は全部俺のせいだ。俺が階段から突き落とされるのも、シャドウに殺されるのも、全部、全部そうだ。

俺が自分で招いた災難だ。

 

「………………かはっ…」

 

シャドウが迫る。頭から流れ出るもので赤く染まった視界に、死が迫る。また、俺は殺されるのか。こんな、自分のせいなんかで。

運命や、ドラマや、ストーリーもなんにもない、こんなつまらない死に方をするために俺は生きてきたのか?

 

「ふざ、けるな……」

 

そんなふざけたことが、あって良いはずがない。

 

「テメェら、寄ってたかって……俺に追いつこうと、必死になって………!」

 

力なく付いているだけだった手足に、活力が満ちる。

 

「俺ァ、一度死んでんだ……!テメェら(『死』)が、なんぼのもんじゃい…!」

 

この場にそぐわない、()()()()()()()()が聞こえる。その声は、間違いない。俺が15年間聞き続けてきた、大して良くもない、平凡な声だ。

だが、だが!それは、紛れもなく俺だ。俺の声だ。俺の姿だ!

 

『ああ、そうだ。二度も殺されるなんざ御免だね。力が欲しいんだろう?どのような難局をも乗り越える、偽りの神から与えられたお前だけの力を!』

 

「なんでもいい……全部寄越せ。ハハッ、笑いモンだよな…!テメェのことも解ってねえのに、お助けキャラとはよ!」

 

『ならば契約だ。我は汝……』

 

俺の心の声に同調し、俺は、叫ぶ。

 

「汝は、我!一度殺したぐらいで、俺を殺せると思うなよ!来い!」

 

いつのまにか顔に張り付いていた仮面を引き剥がし、痛みを無視してその名を呼ぶ。

 

「────ザグレウス!」

 

現れるのは、『殉教者』あるいは『吊るされた男』のペルソナ。彼は白いコートを着て、鬼のようなヘルメットを被り、歯が剥き出しになっている口を大きく歪め、哄笑する。

変わったのは、それだけではない。俺の姿も、運命への叛逆者に相応しい姿……怪盗服へと変わっていた。

 

「シャドウ…たしか、その形態だと喋れねえんだったな。良いぜ、その姿のままブッ殺してやるよ……」

 

手を前に翳し、内側から湧き出る力を手の前に集中させる。確か、魔法というんだったな。どうやら、俺は齢15にして魔法使いになれたらしい。

15年得したな。

 

「コウハ!」

 

身体から何かが抜ける感じがして、その直後。シャドウは突如として現れた光の刃に斬り刻まれ、黒いチリと化す。

シャドウの血とは存外赤いらしく、飛び散った血が俺の衣服を汚す。

 

「ちっ、まだ居るのかよ。」

 

騒ぎを聞きつけてきた他のシャドウが臨戦態勢で向かってくる。コウハで斬り殺してもいいが、SPの消費は抑えたい。

なので、腰に差してある銃剣を引き抜き、構える。

 

「正体を見せろ!」

 

シャドウに飛び乗り、ぶちぶちとシャドウの仮面を剥がす。黒い血が出た後、シャドウは本来の姿を見せる。

現れたのは、馬の怪物(バイコーン)妖精(ピクシー)の2匹だ。

 

「ザコ2匹。弱点は分かってんだよ………馬の方が雷、羽虫のほうは銃撃、氷、呪怨だったか?ま良いけどな……」

 

口を歪め、敵を睥睨する。シャドウたちは突然自分の弱点を言い当てられて困惑している様子だ。祝福属性があまり効かないのは残念だが、その他なら違う。

 

「狂え!」

 

掛けた魔法は、テンタラフー。対象を狂わせ、味方同士で殺し合わせる魔法。

視界の先では、バイコーンがピクシーの電撃によって焼かれ、殺されかけている。俺はその隙をつき、ピクシーに銃剣につけるべき単発式重スナイパーライフルを突きつけ、撃ち抜く。

 

『た、助かっ……ぐはぁっ!!?』

 

弾丸を発射した勢いのまま、その反動でぐるりと回転し、バイコーンを殴打し、始末する。残るは、混乱から覚めた様子のピクシーに銃剣を突き立ててチェックメイトだ。

 

「………終わった…」

 

黒と赤の血にまみれて、俺は胸を撫で下ろす。どっと疲れが湧き上がり、尻餅をつきかけるが、気合いで立つ。

こんなことじゃ、助っ人キャラも出来やしない。

 

「はあ、鍛えねえとな……」

 

結局、その日は帰宅しても何も出来なかった。

ベッドに腰掛けた瞬間に睡魔に襲われたからだ。




桐崎零(キリサキ レイ)
対応コープ:殉教者
コープ進捗:0/10
ペルソナ:ザグレウス
所持スキル:『コウハ』『テンタラフー』
どこからともなくジョーカーの前に現れた謎めいた少女。ただ者ではないようだが…?
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