TS男のシーフユニオン活動録 作:Xbox360
けたたましいアラームの音が鳴る。この時代には珍しい、アナログ時計のものだ。
ジリジリとやかましい時計を叩いて黙らせ、疲れの残る身体を起こす。今日は日曜日だが、大切な日だ。
地下鉄暴走事件と、ジョーカーこと雨宮蓮くんの転校挨拶がある。
確か、この暴走事件はどこぞの探偵王子が引き起こしたものだったはず。防がなきゃ…とは思うが、冷静に考えれば分かる。
俺では、黒い仮面の明智吾郎には勝てない。
「……かといってなぁ。今日渋谷に行って明智と鉢合わせるわけには行かないしな。よし…学校行くか。」
風呂に入り、身体を流してから部屋に置いてあった替えの制服を着込み、早速朝一番に電車に乗り込む。この路線はたいてい社会人でいっぱいなのだが、あいにく今日は日曜日。
席に座れるほどの余裕があるほどだった。うむ、これはいい。
「こういう空いてる時間に、知識を高めていくんですなぁ…」
家から学校までは約30分ほど。その間に、俺は『最強!ハーレム王』という本を読むことにした。理由は特にない。強いて言うなら、家を出る時に咄嗟に取ったのがこれだったから…としか言いようがない。
これを読むことで、【魅力】のステータスが上がるはずだ。もちろん、これ一つでは足りないだろうが。
「ヒソヒソ……あの人、こんな人前で……」
「恥ずかしい……ヒソヒソ」
……度胸も上がったような気がした。
まぁ良いんだ。どうせそのうち、俺は雨宮くんの前で助っ人キャラムーブをするのだ。恥など飲み込め。男は度胸!今は女だが、そこはまぁ些細な問題だろう。
電車が止まると同時に本をしまい、駅を降りる。
「お、あの車……そーじろーさんのだ。てことはもう来てるんだな、雨宮くん」
随分とお早い到着に少し驚きつつ、校舎内に入る。こういう時に生徒会の身分があると、何かと便利なんだよな。
下駄箱の位置がわからないので、空いてる場所に適当に突っ込んでおき、上履きに履き替える。
「ん?桐崎じゃないか。おはよう。どうしたんだ、こんな日曜に」
雨宮くん達が校長室から出てくるまで暇だったので適当に校舎内をぶらついていると、知っている声が聞こえてきた。
知っている────とは言っても、それはあくまでゲーム内の話だ。忘れるはずもない。主人公の覚醒に寄与し、合計で3人のペルソナ使いを生み出した悪党。
「……カモシダ…先生」
振り向いてみれば、印象的なもじゃもじゃヘアにがっしりとした体格、好意的に微笑む瞳の奥には、下卑えた欲望が見え隠れしている。
……リアル鴨志田を見れた感動と同時に、納得も浮かぶ。
鴨志田は確かに、見てくれと実績、表の顔だけなら誰も体罰を疑いはしないだろう。ぱっと見、爽やかなスポーツ青年といったふうだ。
「なに驚いてるんだ?もしかして、生徒会の仕事が終わってないから、委員長に叱られたくなくて内緒で来てたとかだろ。」
「ん?あー……ハイ。そんなとこです。」
「なら、先生が手伝ってやろうか?一人でやるより、二人でやった方が効率良いだろ」
こ、こいつ……手慣れてやがる。
俺は鴨志田の手口や本性を知っているからこそNoと言えるが、何も知らない生徒なら簡単に引っ掛かるだろう。いや、そうに決まってる。
「大丈夫です。それに、カモシダ先生は人気ですから、すぐバレちゃいますよ。」
「ははは、確かにそうかもな。仕事が終わったらバレー部の見学来いよ、たまには運動しなきゃダメだぞ?」
「はーい。考えときます」
絶対行かねえけど。
鴨志田はバレー部のコーチングに戻り、俺はまた暇になる。夕方になり、スマホを眺めていると、ちょうど地下鉄暴走事故のニュースが流れてくる。
負傷者、および死者は240人を超えたらしい。随分とたくさん死んだなあ、と他人事のように考えながら校長室の前に陣取る。
「や、雨宮くん。昨日ぶりだね」
「どうも。」
校長室から出てきた雨宮くんとそーじろーさんを出迎える。雨宮くんは涼しい顔で挨拶をしてくれるが、そーじろーさんは目を丸くして驚いている。
背後から様子を見ていたらしい校長も驚いている様子だ。
「お前、もうこんな可愛い子と知り合いになった訳…?」
「昨日声をかけてきてくれた。」
「出会った経緯は聞いてねえよ」
ああ、この感じ。やっぱり惣治郎と主人公だ。この空気感が好きなんだよな。
俺も一人の原作ファンとして、あまり原作に介入しすぎるということはしたくない。が、しかし。万が一にも雨宮くんに何かあってはまずい。
なのでこうして毎日様子を確認する必要がある……と思う。これが正しいかは知らないが、やるだけの意味はあるはずだ。
「おお、桐崎くん!生徒会役員として、君に頼みがある。彼も転校してきたばかりで勝手が分からないだろう。たしか、クラスは2-Dで雨宮くんと同じだったね。面倒を見てやってくれないか?」
「よろしく頼む」
校長が揉み手で頼み込み、雨宮くんも面倒を見られる気まんまんでいる。なるほど、校長とて前歴持ちの相手はしたくないか。だが、この状況、願ったり叶ったりだ。
雨宮くんも乗り気みたいだし、丁度いい。
「喜んで。」
そのまま俺は雨宮くん、そして幸運なことにそーじろーさんの連絡先を交換することが出来た。
彼らが車で走り去っていくのを見届けると、俺も帰路に着く──────ことはせず、路地裏へと入る。
「メメントスは俺にはまだ早い。と、いうわけで……イセカイナビ、起動!」
昨日潜ってみて、判ったことがある。
メメントスのシャドウは無限湧きだ。故に、ちょっとでも戦闘が長引くと一瞬で囲まれてボコボコにされかねない。
それに────明智吾郎といつ鉢合わせるか分からない。小悪党の心を破壊して精神を暴走させることのできる凶悪な奴のことだ。俺なんかが出くわしたら、速攻で殺されるに決まっている。
「カモシダ、城、変態、学校……だっけ。」
『ヒットしました。ナビゲーションを開始します』
故に、カモシダパレスだ。ここを攻略して、レベルを上げる。ここなら無限湧きじゃないし、今後訪れるジョーカーたちも手助け出来るだろう。
それに………なぜ、俺がこんなにも先生方に信頼を置かれているのか、そして俺がこれまでどんな人生を歩んできたのかを知る、良い機会だろう。
「正直、気持ち悪いというか…不自然だよな。都合が良すぎるというか…」
視界が歪み、イセカイへと足を踏み入れる。
目指すは図書館。結構奥の方にあったはずだ。幸い、謎解きのやり方は覚えている。あとは戦闘面だが…。
「よしよし、武器はちゃんとあるな。」
腰に挿さっている二本の銃剣と、折りたたまれている重スナイパーライフル。こんなのどこに持ち歩くんだ?と思わなくもないが、そこはイセカイ。都合のいいように出来ているんだろう。
「…そういえば、モルガナも来てるんだっけか。見つかんないようにしないとな。」
助っ人キャラというのは、いざという時にしか現れないからこそ助っ人なのだ。故に、心苦しいがピンチになるまで見守っていなくてはならない。
「さてさて…侵入ルートも考えないとな。とりあえず、例の穴から潜入を……げほっげほ、ダクトきったね…!いや、そんなもんだけどさ……」
多少汚れつつ、城の中に潜入することが出来た。
場内は何やら騒がしくなっており、侵入者の反応を察知したシャドウたちがざわついている。無論、俺は怪盗なのでカバーを駆使して見つからないようにしているが。
「おかしい…侵入者の反応はここからあったんだが……」
「隙を見せたな。」
「何者だ…!?ぐわっ!」
衛兵が近くにやってきたので、仮面を剥ぎ取ってその正体を暴く。現れたのは昨日も倒したピクシーだ。こいつは弱いので、たくさん出てくれると助かる。
スナイパーライフルを展開し、狙いを定め、引き金を引く。ずどん、と重い音と共にピクシーが木っ端微塵に爆散する。
「ヒュウ!人に向けるもんじゃないなこれ」
若干戦慄しながらも、部屋の入り口───この場合、一つしかない扉に向けて重スナイパーライフルを構える。今の音を聞きつけて、もう何体か狩れるかもしれない。
「何の音……ぎゃっ!」
ひょっこり顔を出してきた瞬間に、シャドウを撃ち抜く。火力が高すぎたのか、シャドウが正体を表す前に殺してしまったようだ。
……これは使えるな。パレス攻略中、ジョーカーたちもリソース不足で戦いたくない時もあるだろう。そういう時に、どこからともなく重い射撃音が響く………うん、いいな。かっこいいと思う。
「おっ、これは……なんか、なんだ?力が湧き上がってくる……まさかレベルアップか?」
シャドウを倒したことでレベルがあがったのか、身体の奥底から力が湧いてくる。これは良い。あと98回ほどしか体感できないというのは残念だ。
部屋から出て、大広間を横目に扉に入る。たしかここには一体のシャドウがいたはず。
「なっ、何者……貴様、寵愛の部屋から抜け出してきたのか…?いや、賊……?」
「なに訳わかんない事言ってんだ…?」
困惑した様子の兵士に向かって銃剣を突きつける。あわよくば俺について何かを聞き出せれば幸いだが…そう上手くいくとは思わない。
この世にはどこにでも落とし穴というものがあるからな。
「貴様は、カモシダ様がさらなる栄光を得るための大切なピースだ。喜ばしいだろう?カモシダ様のための礎になれることが…」
剣を引き抜き、臨戦態勢となるシャドウ。これ以上は聞き出せそうにないな。
しかし、栄光のピースと来たか。生徒会役員になったのも、ただの偶然じゃなさそうだ。俺を転生させた神みたいな存在は何のためにこんな役職に就けたんだ…?
「悪いけど、俺が支えんのは一人って決めてるんだよね。」
「カモシダ様のお心も分からぬ下賎な女が…!ここで教育してくれるわッ!」
兵士の人形がぐちゃりと崩れ、どす黒い泥の中から長靴を履いた猫───ケットシーが現れる。俺のレベルが2〜3だとすると、彼我のレベル差は2とだいぶ強敵だが…やれるか?
それに、敵は武器を持っている。刺されれば痛いだろう。最悪、死ぬかもしれない。
「あー…嫌だなあ。ホント…ビビってんなよ、俺。」
もう片方の銃剣を引き抜き、構える。戦い方は知らなくとも、身体が知っている。結局、昨日は近接戦闘らしい近接戦闘をしていない。どこまでやれるかは…未知数だ。
「……いや。けど、これでいい。」
死への恐怖を失ってしまったなら、それは多分、俺じゃない気がする。それに、アニメや漫画でも言われている。
優れた戦士は、臆病なものだと。
「カモシダ様に仇なすものは、死ね!」
「来い……!」
ケットシーが俺よりも素早く剣技を振るってくる。レイピアによる斬撃を両手に握った銃剣で防ぐ。刺突じゃなくて助かった。線の攻撃なら、点よりも威力が分散されるからな。
「でぇいっ!離れろ!」
ケットシーを蹴り飛ばし、手を前にかざす。コウハを放つがケットシーは炎の球を出してこれを相殺してくる。威力が低すぎたか。
だが、魔法を魔法で相殺したのは悪手と言える。俺はペルソナを介して魔法を発動出来るが、相手は動作を必要とする。
「その時点でっ…人間は、有利ッ!」
銃剣を逆手に持ち替え、ケットシーの脳天に突き立てて身体を半回転させ、無理やりぐりんと引き抜く。
シャドウだって生きているなら、致命傷を与えれば死ぬはずだ。
「……ふぅ、よし。これで…えっ!?」
脳天を貫かれたはずのケットシーがなんともないように剣を振り払ってくる。避けきれず、横薙ぎの一閃を喰らってしまう────前に、ザグレウスを出して攻撃を防ぐ。
ザグレウスは俺だ。痛覚もリンクしているので痛みは確かに来る…が、俺本人は痛いだけで怪我を負っていない。
「ジョジョみたいなもんか…せやっ!」
双剣による斬撃を浴びせ、相手の攻撃をザグレウスで防ぐ。不恰好な舞踊のように互いに削り合い……勝ったのは、俺だった。一撃も生身で受けていないのに、体力がごっそりと持っていかれたように疲労感が溜まっている。
五発ほどの応酬でもこの削られようならば、戦闘を控えた方がいい気もするが、そういうわけにもいかない。
「さて…トドメを刺してやる。」
跪き、息も絶え絶えのケットシーに銃剣を向け、首を落として討伐する。それと同時にまた一つ強くなった感触が湧き上がってくる。
それと同時に、傷薬を買い忘れたことを思い出し、頭を抱える。武見先生のところに行こうにも、ジョーカーじゃあるまいし売ってはくれないだろう。
「………なら、魔石…か?」
魔石。それはメメントスを探索したり、シャドウを倒したりすると出てくるドロップアイテムだ。使うと、HPの30%を即時回復する優れもの。
ゲーム後半では殆ど使わなくなるが、それでも3つ使えば殆ど全回復するあたり、優秀なアイテムだと言えるだろう。何事においても割合回復は強いんだ。
「今日はこれで引き揚げよう。」
まだ2部屋しか探索できていないが、こういうのはコツコツとやるものだ。それに、ジョーカーたちがカモシダパレスを本格探索するまでにまだ五日程度余裕があるはずだ。
それまでに、なんとか図書館までの道を開拓したいが…この調子だと、さらに時間が掛かりそうだ。遠距離狙撃で殺せるやつだけ殺して、サクッと進むとしよう。
ナビを頼りにカモシダパレスを出て、そのまま帰路に着く。電車は止まっている…ので、振替輸送を使って帰ることにした。
家に着く頃にはとっくに夜になっていた。
「ただいまー…って、誰もいないんだったか。」
家に戻ると、静まりかえった玄関が出迎える。当然だ。転生者である俺に家族はおらず、天涯孤独の身である。
まぁ、家族や同居人がいたら「こいつ違くね?」と思われかねないからな。好都合だ。
「飯は…まぁインスタントでいいか。」
冷蔵庫に置いてあった冷凍食品をレンジで温めながら本を読む。こういう隙間時間をうまく活用しなきゃな。
食事が済んだら軽く筋トレをして、風呂に入る。
「はぁ〜…やっぱ綺麗な身体してるな…全然興奮しないけど……」
昨日は疲れていたのでちゃちゃっと済ませてしまったが、改めて風呂場に備え付けてある鏡を見る。
均整の取れた体つき、整った顔、それでいて出るところは出ている、まさに完璧美少女だ。俺が男なら付き合いたいぐらいだな。
……まあ、自分に興奮する奴はいないので興味をそそられないが。
「……なぜ女なんだ?」
転生させて欲しいと願ったのは俺だ。だが、TSさせてくれなんて願ってない。むしろ、男の身の方が楽だし、なんなら同性である分、ジョーカーとも近寄りやすかっただろう。
未だに不可解なことばかりだが、それでも「トリックスターを助ける」という目標だけは明確だ。アプローチは一任されているとはいえ、俺には俺の出来ることをしよう。
「…今日は疲れたな。もう寝ようか。」
ドライヤーで適当に髪を乾かし、そのまま床に着く。寝る前にスマホでSNSを眺め、1時間ほどしてから眠りにつくのだった。
♢
雨宮蓮は、身元引受人の佐倉惣治郎と共に渋谷近辺の高速道路にいた。
ハンドルにもたれかかり、ため息をつく惣治郎。その原因は、高速道路を埋め尽くす車の群れだ。蓮自身も辟易としてきたところで、惣治郎は口を開く。
「お前、どこであんな子捕まえてきたわけ?」
「あんな子って?」
「確か、桐崎って名前の子だよ。お前の世話してくれるって話だったろ。」
ふむ、と考える。越してきたばかりの自分に突然話しかけてきてくれ、同じ学校で、なおかつ自分の面倒まで見てくれるという。
「運命の人では?」
「そんなわけねえだろ」
ちょけた事を言ってみると、即座にツッコミが入ってくる。しかし、思い返してみれば確かに運命的な何かを感じないでもない。
「昨日、渋谷駅で偶然会った。自分でも驚いている」
「ふうん…なんでも良いけどよ、人様に迷惑だけは掛けんな?先生方の反応見たろ、マエある奴なんかどこでも厄介者なんだからな。」
「気をつけます」
ルブランに着く頃には、すっかり夜も回っていた。屋根裏の広い部屋で横になると、スマホから通知音が鳴る。
見れば、消したはずの赤い目のアプリがある。
(不気味だ……消しておこう。)
ゴミ箱に目玉のアプリを入れると、その直後にチャットが届く。何の関係もないことは分かるが、今日会った少女────桐崎零からのチャットが届く。若干それに違和感を感じるが、それもすぐに霧散する。
『明日、迎えに行くから早起きよろしくね』
という、なんてことのないありふれた内容だった。
適当に返信し、床に着く。睡魔が襲い、意識がだんだんと深く、深く落ちていき──────。
「ようこそ。我がベルベットルームへ。」
雨宮連は、不思議な体験をした。
桐崎零(キリサキ レイ)
対応コープ:殉教者
コープ進捗:0/10
コープアビリティ:
『援護狙撃』…主人公がシャドウに追跡された時、一定の確率でシャドウを狙撃し、討伐する。
ペルソナ:ザグレウス
所持スキル:『コウハ』『テンタラフー』
どこからともなくジョーカーの前に現れた謎めいた少女。ジョーカーの学園生活をサポートしてくれるようだ。