TS男のシーフユニオン活動録   作:Xbox360

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4/11 アルセーヌ

 

今日は春休み明け初めての登校日だ。

そして、ジョーカーこと雨宮くんの初登校日でもある。さらには初めてカモシダ・パレスへの侵入日でもあり、ペルソナ覚醒の日でもある。

 

な、なんというか…忙しい一日だな。マジで。

 

「んじゃっ、俺も頑張らないとナ…!」

 

当然のように遅れる電車に乗り、俺は傘を持たずに四軒茶屋まで行く。前世と比べて、地名の改変はままあるが、基本的にはあまり変わっていない。

そういう意味では、下手な異世界よりも助かったと言える。

 

「しっかし…前世でも来たことないからな……検索しないと。純喫茶ルブラン…あったあった。」

 

人通りの少ない路地を歩き、Closedになっている看板を見つける。ゲームの中でだけ見ていた場所は、いざ実際に見てみるとやはり感慨深いものがある。

しかし…傷薬などの回復アイテムはここの武見診療所でしか出してないのだ。

なんとかして、代替の回復手段を手に入れなければ。

 

「や、雨宮くん。おはよう」

 

「おはよう。今日はよろしく」

 

ルブランの扉の奥で、そーじろーさんが「本当に来やがった…」みたいな顔で驚いている。まぁ、普通は突然押し付けられた転校生、それも前歴持ちの異性の面倒なんか見たいわけがないからな。

 

「登校するまでさ、雨宮くんの事教えてよ」

 

「…自分の?」

 

「どうして転校してきたの〜、とか!色々あるでしょ?」

 

「…それなら。」

 

雨宮くんの口から聞かされたのは、酔った男に言い寄られていた女を助けようとしたら男がよろけてしまい、結果的に訴えられた────という、ペルソナ5経験者なら誰もが覚えている出来事。

ゲームで聞くのと、本人から痛々しい表情つきで聞くのでは、話が違う。

 

「………酷い話だね。許せないよ。」

 

自然と、口をついてそんな言葉が漏れる。

正しいことをした人が罰せられるなんて間違っている。たぶん、もし俺がジョーカーを助けるって使命を持ってなくても、何か力になっていたに違いない。

 

「あ、着いたみたいだね。行こっか、同じクラスだから案内……って、雨か。」

 

そこで気づく。このまま一緒にいると、俺までイセカイに行くことになり、俺がすでにペルソナ覚醒済みであるということがバレてしまう。

困ったな。だが、こういう時は敢えて何もしないのだ。機を見計らい、こっそり離脱するとしよう。

 

当然だが、俺もイセカイにはついて行くつもりだ。

折角の探索機会を逃すわけにはいかないしな。それに、もし万が一があり、竜司ともども死なれては困る。

 

「そこで雨宿りしよっか」

 

適当な店の前で雨宿りをしていると、フードを被った美少女が駆け込んでくる。金髪碧眼、誰もが羨むようなスタイル。

アン殿…もとい、高巻杏がそこにいた。雨宮くんはすっかり見惚れているようだ。まぁ、無理もない。誰だってこんな美少女が現れたらガン見するわ。

 

「……てことは。」

 

車が一台、俺たちの近くに停まる。見覚えのあるモジャモジャ頭が車窓を開ける。

 

「おはよう、遅刻するぞ〜。乗ってくか?高巻」

 

「あ、はい…」

 

鴨志田だ。まあ来るのは知っていたので、ここは何もしないでいいだろう。全ての真相を知っている身としては心苦しいが、ここで手を出すわけにはいかない。

原作の流れが台無しになってしまっては、俺とてどうしようもないからだ。

 

「桐崎も乗るか?」

 

「いえ。私は大丈夫です。」

 

「そう言うなって、遅刻するぞ」

 

「いえ。私は大丈夫です。」

 

「………そうか。ならいい。遅刻するなよ」

 

適当に返す俺に辟易したのか、そのまま窓を閉めて発車する鴨志田。それと同時に、見覚えのあるパツキンの男子高校生が駆け込んでくる。

坂本竜司、元陸上部のエース。鴨志田に脚を壊され、陸上部そのものまで解体された不遇な男。

 

「…くそっ!変態教師が…!」

 

「変態教師?」

 

「あぁ?鴨志田のヤローにでもチクる気か?」

 

ぎろり、と雨宮くんを睨む竜司。その姿はまさにヤンキー。コープの竜司とストーリーの竜司は別人とはよく言ったものだ。

 

「カモシダ…?」

 

雨宮くんが助けを求めるように俺に目線を向けてくる。それで気がついたのか、竜司も俺の方を見て嫌そうな顔をする。

そりゃあそうか。竜司は秀尽学園への反抗心を剥き出しにしているようなものだ。当然、学園側の立場である俺は不倶戴天の敵と言ったところだろう。

 

ならば──────。

 

「鴨志田は秀尽学園の体育教師。セクハラ、暴力、なんでもござれのクソ野郎。気になった女生徒を体育教官室に呼び寄せて、あんなことやこんな事をしてる…って噂だよ」

 

「………マジか。」

 

竜司の前で、鴨志田を思いっきりこき下ろせば良いのだ。

完全に虚を突かれたようで、エスカレートしていく暴言に逆に顔を青ざめさせている。

ふむ、これぐらいでいいだろう。

 

「…まぁ、全部話されちまった気もするけど…カモシダは学校で城の王様みてえに振る舞っていやがる。」

 

「なるほど。」

 

流石のスルースキルで受け止める雨宮くん。ふむ、これでイセカイナビのキーワードは揃ったな。あとは歩き出すだけだ。

もちろん、俺はあくまでシーフユニオン…所謂お助けNPCだ。いざという時にしか怪盗団の前に顔を出すつもりはない。

 

であればどうするか?

 

「……よし、行ったな。」

 

目の前でどこかに消える二人を見つつ、俺は携帯を取り出す。体調不良による遅刻の連絡を入れ、一息つく。

そう。俺にはゲーム知識がある。それを利用して、俺は敢えて雨宮くんたちの後ろを歩くことで入らないくらいの位置で立ち止まったのだ。

 

「さて、と。行きますか」

 

足を一歩前に踏み出すと、イセカイに入る時特有のぐにゃりと世界が歪むような感覚に陥る。

次第に服装が学生服から怪盗服へと変わっていき、全身に万能感が漲ってくる。

 

「マップはだいたい覚えてる。見取り図は…まぁ必要ないでしょ」

 

実のところ、ペルソナ5も5Rには探索面でも大きな差がある。具体的に言えば、ワイヤーフックだ。アレを使った移動は、モルガナに貰うか自作しなければ成し得ない。

故に…気合いで登っていくしかないのだ。

 

「ヤンナルネ…っと、ちょうど入って行ったか。」

 

視線の先では、雨宮くんと竜司が扉を開けて城内に侵入していくところだった。当然、パレス全体がざわつき始める。

侵入者が3人…いや、モルガナを含めて4人も来たなら、大騒ぎにもなるだろう。

 

「怪盗らしく、隠密行動を取らせてもらいますよ」

 

ダクトを通り、小部屋に入る。扉の陰に隠れてシャドウが大広間に走っていくのを眺めつつ、最後の一人を部屋に引き摺り込み、銃剣で滅多刺しにして始末する。

レベルは上がらなかったが、その代わりに傷薬を落としていった。これは収穫だな。

 

こっそりと廊下に出て、雨宮くんたちの様子を見る。

シャドウに囲まれ、なすすべなく鎮圧されている。地下牢のある方へと連れて行かれ、辺りには静寂がこだまする。

 

「……ここを突っ切るのか。しんどいな。」

 

大広間には、3体のシャドウ。残りは伝令や巡回、監視のために散らばっている。チリツモで1匹ずつ減らしていくのも良いが、カモシダ・パレス全体のシャドウ総数が分からない以上、全滅は難しいだろう。

 

「かと言って、やらないわけにもいかんしな…やるか。」

 

背中に背負った折り畳み式重スナイパーライフルを構え、鈍い銃口を向ける。8倍スコープで脳天を狙い───撃ち抜く。

 

「っ!?おい、どうした!」

 

相変わらず凄まじい威力だ。一撃で一体を殺し切るとは。

薬莢を排出し、再度引き金を引く。

重い音と共にもう一体のシャドウが吹き飛ぶ。ようやく気がついたのか、最後のシャドウが全速力で俺の方へ駆け出す。

 

「遅えんだよ、バーカ。」

 

スナイパーライフルを折り畳み、背負ってから銃剣を構え、走ってきたところを跳躍。シャドウの肩に乗り、仮面を引き剥がす!

途端に兵士というガワは崩れ、シャドウ本来のチャーミングな姿へと変わる。本来ならば、奴らが姿を現しきるまで待つものだ────だが、これはゲームじゃない。

 

「コウハ!コウハ!コウハ!」

 

ゲームじゃない、のならば。わざわざターン制を守ってやる必要もない。

 

「がっ、ぐはっ、ひ、卑怯っ!卑劣っ!?」

 

「怪盗がマナー守るわけねぇだろうが…!」

 

「い、言われてみれば……ぐわぁーっ!」

 

シャドウの断末魔を聴き、レベルアップの感触を得る。それと同時に、新しい力の感覚も芽生えてくる。

コウハ、テンタラフーときて、次に手にしたスキル。それは──────。

 

「リカーム…蘇生魔法か。」

 

序盤に枯渇しがちな蘇生リソース。モルガナくらいしか覚えない貴重な蘇生スキルだ。

確かに、救難で来たペルソナ使いが持ってたら嬉しいよな…というスキルだ。

 

だが……

 

「基本ソロプレイの俺には…無用の長物なんだよなぁ」

 

倒れた仲間を蘇生する魔法。確かに良い魔法だ。

しかし、それは仲間がいてこその魔法である。自分で決めた方針とはいえソロプレイであるため、いずれこのスキルは消すハメになりそうだ。

 

「よし、とりあえず雨み……ジョーカー達のとこへ行こう。道はほんのり覚えてるし、まぁ大丈夫だろ。」

 

たしか、モルガナがパレスの中で本名を呼び合うと何か悪影響があるかも…と言っていたはず。実際どんな影響があるかは分からないが、注意しておくに越したことはないだろう。

 

「俺の暫定コードネームは…ま、ゼロでいいだろ。下の名前英語にしただけだけど。」

 

変に凝ったコードネームだと、素面に戻った時に恥ずかしいからな。こういうのは分かりやすい方が良いのだ。

 

大広間入って右の扉を開け、地下牢への階段を降りていく。少し狭まった通路に出ると、牢屋が四つほど並んでおり、その中にはジャージ姿の囚人達が囚われている。

彼らの姿は一様にボロボロで、見るに堪えない。

 

「胸糞悪ぃ…知らない相手とはいえ、可哀想になってくるな」

 

今頃雨宮くんたちに絡んでいるのか、はたまた移動中かは分からないが警備が一人もいない。カバーできるような遮蔽もないので助かったな。

さらに地下へと進むと、いくつかの足音と話し声が聞こえる。

 

(……っと、これ以上近づいたらマズイな。)

 

この辺まで来れば、あとはもう道なりだ。幸い、話し声の中から鴨志田の声はしなかったし、一旦引き返すとしよう。

…とは言っても、セーフルームの中で待機するだけだが。

 

「あったあった。ここだここ」

 

扉をよく見れば、なにやらモヤがかっている。躊躇なく扉を開くと、一瞬だけ空き教室のような光景が見える。

ここで待ち、カモシダの声が聞こえてきたらその後をこっそり尾けて行くとしよう。

 

「……それにしても、妙だよな…」

 

実際にパレスを移動してみて思ったのだが、出てくるまでに4時間も掛かるわけがない。たかだか古城の地下、それも短い通路をいくつか通るぐらいで朝8時から昼休みまで時間が飛ぶなど、どう考えても変だ。

ゲーム感覚だというのは分かっている。だが、それにしたって時間がかかりすぎではないだろうか?

 

「見てみるか。」

 

確か、ゲームでは鴨志田は主人公が牢獄で目覚めてから一瞬で来ていたような気がする。二、三箇所ほど牢屋を調べると、鴨志田が偉い顔して出張ってくるのだ。

 

「五分以上経っても来ない。どうなってんだ…?」

 

鴨志田が来る様子もなく、また兵士が巡回する様子もない。

いくらなんでも不自然に思い、雨宮くんたちの様子を見に行くことにした。

 

「くそッ!出しやがれ!なんなんだこれ!」

 

牢屋に近づくと、竜司が元気そうに抵抗している。姿を見られるわけにもいかないので、こっそり確認する。

牢屋の中では、雨宮くんがベッドを細かく調べている。

 

5分。10分。15分……。しばらくすると、背後の方から足音が聞こえてくる。

ようやく鴨志田のお出ましのようだ。咄嗟に木箱の裏に隠れ、状況を見るとしよう。

 

           ♢

 

「侵入者を捕らえたと聞いたが……まさかお前とはなぁ、坂本。」

 

偉そうな態度を取るカモシダという男が、坂本という生徒を見て嫌らしい笑みを浮かべる。傲岸不遜、自分に叶わないことはないと思っているその顔は、雨宮蓮の嫌な記憶を刺激する。

 

「テメェ…鴨志田!?」

 

「俺の城にこんな害獣が入り込むとは。処刑だな。」

 

鎧姿の男が、二人の罪を読み上げる。罪状は、不法侵入。そして────死刑を言い渡される。そう聞き、覚悟を決めたのか、坂本は一歩、踏み出した。

タックルだ。タックルによる突撃で、坂本は兵士を一人突き飛ばした。

 

「こんなとこいてられっか!逃げんぞ!」

 

だが。

 

「ぐはっ……!?が、ぁ…いっ、てぇ……!?」

 

もう一人の鎧姿の男に盾で腹を殴打され、坂本は蹲る。すかさず、坂本に剣が振り下ろされそうになり────自分は、たまらず止めようと動く。

 

「っ、ぐ…離せ……!」

 

「抑えてろ。坂本を殺したら次はお前を殺してやる。」

 

抵抗するが、自分とは隔絶した膂力になす術もない。抵抗することすら出来ず、このまま終わるのか?そう考えると、身の毛がよだつ。

その時──────声が、聞こえた。

 

『どうしたんだ?ただ見ているだけなのか?』

 

違う。

 

『お前は、己を救うために奴を見殺しにするのか?』

 

違う。

 

『お前が何もしなければ、奴は死ぬだろう……お前のこれまでの決断は、間違いだったのか?』

 

フラッシュバックするのは、あの時の……男から女を庇った、あの時の光景。

許せなかった。理不尽は到底、許すわけには行かなかった。

 

「そんなことはない!」

 

叫ぶ。

 

『言葉は不要…我はお前の決意を受け入れた……』

 

心の奥底から出てきた言葉を述べて、誓う。

 

「『我は汝』」

 

『「汝は我」』

 

力が漲る。自分が、自分であるかのように思えるようになる。

 

『己が正義のため、あらゆる冒涜を顧みぬ者よ!我が名を呼び、その怒りを解き放て!』

 

『たとえ地獄に繋がれようとも、己の全てを掴み取る意志の強さを示せ!』

 

カモシダが号令を下す。そうはさせない。

自分が…そんなことを許しはしない!

 

「自分が相手だ!」

 

声に力が漲る。自分の放つ言葉すべてが、エネルギーを持ったかのように牢獄の中に響き渡る。

振り返るカモシダ。その目には驚愕が浮かんでいる。それもそうだろう。貴様は、己に逆らう者などいないとタカを括っているのだから。

 

「なんだと…?そんなに殺されたいか…いいだろう!」

 

鎧姿の男に、顔面をどつかれる。だが、この身に溢れる力の前には、傷一つない。そして……猛烈に、顔に痒みが浮かんでくる。

硬いものがある。外さなければ。たとえこれで、どんな痛みを負おうとも。自分はここで、この仮面を剥がさなければならない!

 

「……ぐ、う…おおおおっ!!!」

 

べりべりと、顔の皮ごと仮面を剥がす。

痛いのは……はじめだけだ。それと同時に、万能感と、全能感。そして爽快感が全身を突き抜ける。

 

「フフフ…ハハハハ!!!」

 

青い炎が自分の周りに現れる。

 

『我は逢魔の略奪者────アルセーヌ!我はお前の中に宿る反逆者の魂だ。もし望むなら、この難局を乗り越える力をやろう。』

 

当然、答えは決まっている。

 

「力をくれ。」

 

『ふん…よかろう。この力はこれよりお前のものだ。好きなように殺せ。思う存分暴れてやれ!』

 

「来い!アルセーヌッ!」

 

この力……ペルソナで、目の前の鎧姿の男たちを吹き飛ばす。だが、カモシダの号令で鎧姿の男たちは赤黒い泥になり、そしてカボチャ頭の怪物へと変貌を遂げた。

 

「衛兵!まずはアイツから殺せ!」

 

「ヒーホー!」

 

手にした力を思う存分振るおうと、手を翳す。唱えるべき呪文は分かっている。影を殺せし、呪怨の魔弾。即ち──────。

 

「エイハ!」

 

呪怨のパワーがカボチャ頭を打ち据える。だが、殺し切るには至らない。敵からの攻撃が来る……その時。

 

ズドンッ!!!

 

重い銃声が響く。討ち漏らしたカボチャ頭が爆ぜる。カモシダでさえ、目を丸くして怯え始める。だが、そうも言っていられない。

目の前のカボチャ頭からの攻撃をなんとか受け、手に持っているダガーで斬り刻む。だが、相手も負けじと反撃をしてくる。

しかし……これで終わりだ。

 

「エイハ!」

 

再び呪怨の魔弾がカボチャ頭を撃ち抜き、チリと化す。

怯えるカモシダは、腰を抜かし、見るに堪えない。よく見れば、子鹿のように震えているではないか。

 

「フッ…」

 

「うお……なんだそれ…あ、いやいや、今のうちだ!逃げんぞ!」

 

坂本という生徒が鍵を拾い上げ、牢の外へ走る。自分もそれについていくと、何やら力が抜けたような感覚になる。

鍵を締め、そのまま水路に鍵を流してから走り出した。

 

 

           ♢

 

 

いやぁ…カッコよかった。

アルセーヌ、そしてジョーカー。大丈夫だとは分かっていつつも、思わず手助けしてしまったが…反応を見る限り、俺がいることはバレてなさそうだ。

 

「誰か!俺を出せ!衛兵!衛兵はまだか!」

 

引き金を引く。鴨志田の元へ向かう兵士が一体、また一体と倒れていく。特に意味はないが、まぁ嫌がらせだな。

 

「……レベルはもう上がらんか。」

 

何度かのレベルアップを経て、俺のレベルは約6程になった。おニューのスキルはなし。ひとまず、序盤にしてはなかなか強くなれたのではないだろうか?

 

「おい!そこ!さっきからマズルフラッシュが見えてんだよ!やめろよ、嫌がらせか!?俺はなぁ、鴨志田なんだぞ!?」

 

だからなんだ、って感じだが、そろそろジョーカーたちがモルガナと合流する頃合いだろう。移動しなければな。

去り際に鴨志田の腕をライフルで狙撃し、呻いているところを悠々と歩く。流石に吹っ飛んだりはしなかったようだ。

 

「じゃあな。」

 

あとはモルガナに任せるとしよう。ペルソナ使いが2人もいて、こんな最序盤にピンチになるはずがないからな。

 

地下一階に上がると、何やら牢屋の前でジョーカーたちが揉めていた。おそらく、モルガナとの初邂逅シーンだろう。

ここから帰ろうとすると見つかるな…よし、再び見守るとしよう。

 

「っ、何者……ぐはっ!?」

 

「シーッ…!静かに。バレるだろうが」

 

背後からやってきたシャドウを瞬殺し、黙らせる。この辺りのシャドウだともう敵ではない。が…このままだとマズいな。

ジョーカーたちに入る経験値が下がってしまいかねない。

 

ならば──────。

 

「うおっ!?なんだアイツ!」

 

「新手のシャドウか?」

 

「コスプレした女…!?」

 

三者三様の反応をどうもありがとう。

3人の横を駆け抜け、俺は橋を飛び越えて離脱を図る。ギリギリ届いた。ペルソナ使いでなければ届かなかっただろう。

 

そのまま走って城門前まで戻り、息を切らしてへたり込む。

地下の階段を走って登るのは、流石に無理があったな。ダクトを通るのも慣れたものだが、それにしたって狭いのは嫌いだ。

 

「はぁ…疲れた。元の世界に帰ろう…」

 

元より、雨宮くんたちよりも早くイセカイから帰還するつもりだったのだ。ちょうどいいだろう。

何故早く帰還するつもりだったか?それは────俺が、雨宮くんの学園生活のサポート役を校長から任されているからだ。

 

『ホームに帰還しました。』

 

イセカイナビの音声を聞き、時計を確認する。時刻は12時ほど。時間の流れが随分と違うようだ。

なるほど、時間の流れが違うからこそ、速攻でパレスから帰還しても時間が進んでいたというわけだな。目から鱗だ。

 

「ふぅ……よし、息も整った。校門前で待ってるとするか。」

 

髪の乱れを整え、制服をピシッと着こなし、校門まで歩く。すると、事情を知っている教頭先生が素直に「体調は大丈夫か?」と心配しながら出迎えてくれる。

 

「あはは…まぁ、少し気だるい感じはしますけど、大丈夫です。雨宮くんは来てますか?」

 

「あの転校生か…来てないぞ。全く、初日から遅刻とはけしからん奴だ。」

 

「せっかくですから、ここで雨宮くんを待つとします。まだ昼休み終わってないですよね?」

 

「あとキッカリ1時間ぐらいあるな。具合が悪いなら少し座っていなさい」

 

そう言いながら教頭先生は立ったまま、睨みを効かせている。その5分後ぐらいに、鴨志田が玄関から出てくる。

しかし、様子が変だ。なぜか片腕を庇うような歩き方をしている。

 

「うん?来たのか、桐崎。体調が悪いって聞いたが、もう平気なのか?」

 

「はい。連絡通り、午後から授業受けますよ………腕、どうしたんですか?」

 

そう聞くと、驚きと喜びが合わさったような表情を浮かべる鴨志田。

 

「よく分かったな。それがな、さっき突然腕が痛んでな…怪我とかはなさそうなんだが、妙なこともあったもんだ」

 

「怖いですねえ…」

 

鴨志田が押さえている位置には、見覚えしかない。

俺がさっき重スナイパーライフルで弾丸をぶち込んだ箇所だ。なるほど、本人のシャドウを変身前に攻撃すると、幻痛が走るんだな。

これは上手いこと使えそうなテクニックだ。覚えておこう。

 

結局、雨宮くんと竜司が来たのはその40分後だった。

 

教頭先生はお冠。鴨志田は何か色々考えている顔だが、どちらも良い顔はしていない。曲がりなりにも教師ということだろう。

 

「……あっれぇ〜…?おかしいな、夢でも見てたのか?」

 

「寝ぼけるには数時間遅いぞ、坂本!」

 

教頭先生と鴨志田によるお説教が挟まる。まぁ、事情があったとは言え、四時間も学校をスッポかすのはヤバい。

さらには連絡なしでの失踪。親御さんへの顔が立たないし、そのまま行方不明にでもなられたら監督責任になりかねないからな。

 

怒られて当然だ。

だが、それでは納得がいかないだろう。

 

「やっほ、随分遅かったね〜。どうしたの?疲れた顔して」

 

「あっ!どこ行ってたんだお前!?」

 

竜司が俺を指差して声を上げる。まぁ、彼らからすれば突然消えたわけだからな。心配をかけてしまっただろうか?

 

「どこって…学校だけど。」

 

「いやそりゃそうだけどよ。あー、もう訳わかんねえ…」

 

「雨宮くんもさっきぶり。途中で体調悪くなって休んでたら、突然消えちゃうからビックリしたよ」

 

「影が薄いからな。」

 

む。よく見ると、雨宮くんの表情に覇気がある気がする。

彼はまぁ、いわゆる「おもしれー男」なのだが、今まではその片鱗はあるものの、まだ陰の多い美青年だった。

しかし今はどうだ?ウキウキで冗談を言っている。

 

「雨宮くんはなんか元気そうだね。良かった良かった。」

 

にっこりと微笑むと、雨宮くんも微笑み返してくれる。やはり、ペルソナに覚醒すると性格がやや前向きになるような気がするな。

 

「初日から遅刻とは、良い度胸だな転入生。今回は慣れてないだろうから見逃してやるが、次はないぞ。」

 

楽しく会話をしていると、鴨志田が横入りしてくる。意地の悪い顔だ。普通にしてれば悪くないのに、性格はやはり顔に出るのだろう。

 

「次もよろしく。」

 

「チッ…まぁいい。精々楽しめよ、学園生活」

 

嫌味ったらしく言うと、鴨志田は退散して行った。

雨宮くんは「してやったり」みたいな顔をしてこちらを見る。俺は無言でサムズアップし、職員室まで案内する。

初見だと職員室の位置が分かりにくくて面倒なんだよな。

 

「桐崎さんは連絡通りね。雨宮くんは少し話があるから、桐崎さんは先に教室に戻っていて」

 

「はーい。またね、雨宮くん」

 

手を振ると、雨宮くんは小さく手を振りかえす。

いざ教室に行くと、俺を出迎えたのは心配そうに抱きついてくる女子たちだった。ふむ…これはなかなか、悪くないな。

いや、そんなこと言ってる場合か。もしかすると俺の知らない人間関係が俺とこの子たちの間に何かあったのかもしれんだろうが。

 

「レイ〜!体調不良大丈夫そう?!あたし心配で〜!」

 

「え、レイちゃんまさか照れてんの?こんなの女子では普通じゃ〜ん、手つなご」

 

ヤバイ。

 

「あ、そうそう知ってる?転入生、うちのクラスらしいよ?」

 

「は〜、手ぇちっさ…あれだっけ、前歴持ちの」

 

ヤバイ。

女子ってこんなに距離が近いんだろうか?いや、確かに前世でも傍目に見てもやたらとベタベタスキンシップ取り合ってる女子居たな。

それか?それなのか?これが普通…なのか?いや待て、しかして希望せよ。童貞のまま死んだ俺よ。転生してもなお童貞メンタルが抜けない俺よ。

 

大前提として。

 

これはあくまで友好的なスキンシップだ。

やましいことは一切ない。だから、一旦、カーム・ダウンだ。

 

「私は…あんまりそういう悪い噂とか、好きじゃないな。」

 

「えー?おもしろくね?」

 

「どんな人であれ、ちゃんと見て判断したいから。」

 

よし。ちゃんとしたことを言って平静を保つことができたな。

しばらくすると、教室に川上先生が入ってきて、その隣には雨宮くんもいる。

 

教室の中は騒然とし始め、ざわめきがおさまらない。

 

「初日から遅刻とかやべぇ…」

「普通に見えるけど…」

「目ぇ合わすと、殴られるかもよ?」

 

根も葉もない噂がもうこんなに立っているとは。

人の口に戸は立てられないな。

 

「静かに。えっと…転入生を紹介します。雨宮蓮くん。今日はその…『体調不良』ということで、午後から出席してもらいました。じゃあ、みんなに一言お願い。」

 

「宜しく。」

 

再度、噂話がヒソヒソと鳴る。

 

「大人しそうだけど、キレたら…」

「だって、『傷害』でしょ?」

 

「えっと…その……」

 

見るからに困っている川上先生。

 

「席はね、ああ……そこね。空いてるとこ。悪いんだけど、近くの人。今日は教科書見せてあげて。」

 

近くの人、ということは俺か。幸運なことに、俺の席は雨宮くんの席の隣だ。存分に見せてあげるとしよう。

しかし、ひどい話だ。自分に非のないはずの罪を、こうも広められるとは。

 

確か、この噂は三島が広めていたんだったか。

様子を確認すると、何やら身を小さくしていた。こいつ、傷害の前歴持ちの人間の噂なんてよく流せたものだな。

どうせ鴨志田に唆されたんだろうが、まぁしたことはしたことだ。許されることではないな。うん。

 

「よろしく。自分は運が良さそうだ。」

 

アン殿と会話を終え、席についた雨宮くんから声をかけられてハッとする。

彼は悪い人間ではない。しかし、広まってしまった噂はおいそれと消すことは出来ない。だが、俺にも何か力になれることがあるはずだ。

 

「よろしくね、雨宮くん。私もそう思ってたとこ!」

 

ざわめきが広がる。

俺には、生徒会役員という立場がある。そんな立場の人間が、大勢の前で普通に接していたならば、雨宮くんを勘違いする人間は少しでも減るだろう。

 

積み重ねだ。積み重ねが大事なのだ。

 

「あ、そうだ。明後日球技大会だったんだ…クラス変わったばかりだから、親交深めてねー。さて、授業始めますかー。」

 

「起立……」

 

授業内容は、初回ゆえガイダンス的な内容だった。

現代文の授業なら、点数の取り方を知っている俺としては楽で良い。…まあ、この学校は出題傾向がかなり変だが。

 

授業は終わり、放課後。

俺は雨宮くんと共に帰ろうと教室の外に出ると、雨宮くんが急に頭に手を押さえ、かぶりを振った。

 

「雨宮くん、ちょっと……って、うん?ちょっと、大丈夫?」

 

後ろから川上先生が声をかけてくる。なんだかんだで生徒思いの良い先生なのだ。

 

「ここは学校か?」

 

「ハァ…ちょっと君、大丈夫?あと、もう噂になってるけど、あれ言ったの私じゃないから。」

 

「どうやら、悪意ある第三者が学校の裏サイトか何かに流したようですよー?」

 

ここで爆弾投下だ。三島には悪いが、俺は雨宮くんだけの味方だ。シーフユニオンとして、雨宮くんの学校生活のサポート役として。

このような事は見過ごすわけにはいかないからな。原作が変わらない範囲で好きにさせてもらうとしよう。

 

「桐崎さん、それ本当…?ハァ、だとしたら……ホント、勘弁してほしいわ。なんで私がこんな目に……」

 

川上先生は寄り道しないように雨宮くんに言う。そーじろーさんはとても怒っていたそうだ。

 

「ああ、それと。坂本くんには関わらないようにし…」

 

と言うところで、ちょうど竜司がやってくる。おそらく、パレスの話をしたいのだろう。俺と川上先生を邪魔そうに一瞥する。

 

「噂をすれば…何の用?今日、補導されたんですって?」

 

「るせえな…なんでもねえよ」

 

うわぁ、反骨精神の塊だ。先生に向かってこんな口を聞ける奴は、前世でもなかなかいなかった。俺の周りがそうだっただけかもしれないが。

だとしても、聞こえるように言うのは割と度胸がすごいと思う。

 

「頭も黒くしてこないし…」

 

「スンマセンっす。」

 

ぶっきらぼうにそう言うと、竜司は雨宮くんに近づき、何かを言う。多分、屋上で待ってるとかそんな事だろう。

まぁ何を言っていようが、俺には関係ない。どうせ今日はもう探索しないのだ。学校生活をサポートするのは俺の仕事だが、パレス関連はサービス対象外だ。

 

「…見たでしょ?関わらないでよ。」

 

うんざりしながら川上先生は職員室へと歩いていく。

雨宮くんは少し困っているようで、俺がついてこないか心配なようだ。

 

「坂本くんと内緒話がしたいなら、私は先に帰るけど…校門で待ってたほうがいい?」

 

「いや、悪いから先に帰っててくれ。」

 

「おっけ〜。じゃ、また明日。」

 

校長と鴨志田の二人とすれ違いながら、俺は帰路につく。帰りの電車の中、持ってきた本を読む。

ふむ。少しは魅力について理解が深まった気がするな。

 

家に帰る頃には日が暮れ、夜になっていた。

軽く筋トレをし、夕飯を摂り、シャワーを浴びる。なんて事のないルーティンだが、この一つ一つが俺を形作っていることを忘れてはならない。

 

「今日は疲れたな……もう寝ようか。」

 

やはり、疲労というのは良い。

人を効率よく睡眠へと誘えるのだから。

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