TS男のシーフユニオン活動録 作:Xbox360
今日は、ジョーカーたちのパレス潜入二日目だ。
昨日はパレスへの初侵入とペルソナ覚醒、そしてモルガナ、竜司との出会いと雨宮くんにとっては忙しい一日だっただろう。
そして今日の予定としては、虐待されている部員の特定、竜司のペルソナ覚醒がある。
「昨日の感じで行くと、案外大丈夫そうだが…」
しかし、油断は禁物だ。
確かゲームでは、竜司の覚醒前の戦闘でピンチエンカウントがあったはず。それ以外では、これと言ってピンチはないが─────心配なものは心配だ。
「念の為、準備は怠らないようにしなきゃな。」
朝風呂を済ませ、本棚に置いてあった「かんたん工作指南書」を手に取る。
パラパラとめくってみると、ちょうど煙幕の作り方と材料が書いてある。他にも、火炎瓶やキーピックなど、さまざまなものが載っている。
「いやダメだろ。」
なんでそんな物騒なモンの作り方が書いてあるんだ?
つくづく、俺が入る前のこの身体はどんな生活を送っていたのか疑問に思う。
ジョーカーたちの手伝いをしなければならないのもそうだが、それと並行して自分探しもしなければな。
「行ってきます。うわー、雨だ…」
傘を持って誰もいない家から出て、まっすぐ四軒茶屋まで向かう。
今日四茶に来たのは、もちろん雨宮くんと登校する為でもあるが、それだけじゃない。目当てはリサイクルショップだ。
「…いらっしゃい。」
リサイクルショップに行くと、さまざまなものが乱雑に置かれている。中古のテレビや、ビデオデッキ、扇風機などさまざまだ。
手持ちの金は5万ちょっと。シャドウを倒して得た金もあるが、銀行口座には転生特典か何かは知らないが、200万円ほど振り込まれていたのだ。
「生糸の束6つと、ブリキの留め金5つ、それと羊皮紙を6枚、植物の…オイル?を7つください」
「植物の香油は無いよ。」
「あちゃー…どこで買えます?」
「そうだね……花屋なんかに売ってるんじゃないかい?毎度あり。」
総額3万ちょっとで植物の香油以外は買えたので、鞄に買ったものを詰め込みルブランへと向かう。
ちょうど雨宮くんも家から出たようで、ばったり鉢合わせる。
「おはよう。」
「おはよ、雨宮くん」
雨宮くんの隣を歩きながら、駅へと向かう。
朝ゆえか、車内は異様に混んでいて本を読む暇もありゃしない。
思わず、密着するような形になってしまうが…こいつ、良い匂いがする!?
「猛スピードで駅に突っ込むとか、何考えてんだよ…」
「知らないの?運転手、完全に頭イってたらしいよ。ほら、ここんとこそういうの多いじゃん?」
「原因不明の暴走とか、突然心がおかしくなるっていう…」
「景気悪いもんな〜、ストレス社会の弊害ってやつでしょ」
そうか、昨日は確か電車の暴走があったんだっけか。知っていたから回避できたものの、知らなければ巻き込まれていたかもしれない。
ううむ……明智吾郎め。危ないやつだぜ。
「ぷはぁ、混んでたねえ…」
「苦しかった」
渋谷駅に着く頃には、お互いに暑い暑いと服で風を得ようとパタパタしていた。満員電車って、やたら暑いよな。
雨の日は蒸れが追加されるから尚更だ。
「そういえば、最近変わったことない?昨日からちょっと雰囲気変わった気がする。」
「そうかな」
「なんていうか、こう…やったるぞ!みたいな?」
それとなく、俺が見ていない間の様子などを聞いてみる。
放っておけば原作通りの動きをするだろうが、人間パラメータやコープの進行度、メメントスの依頼状況などは人によって異なる部分だ。
なにより、パレスの攻略度なんかは最たる例だ。
俺は一日でパパッと攻略して、あとはパラメータ上げやコープに全部ぶち込んでいた派の人間だったが、雨宮くんはそうとは限らない。
「思い当たる節はないかな。」
おっと、パレスのことは話してくれなさそうだな。
まだ信頼度が足りていないのか、はたまたこちらから気づかなきゃならんのか。
……いや、まぁ。原作でも相当親密になった人にも自分からは言わないぐらいだからな。口は相当堅いと見ていいだろう。
「そう、ならいいんだけど。」
確か、ほとんどの人は怪盗団騒ぎが世に認知され、自分の周りの困ったことを解決してもらってようやく気がつくんだったな。
そして、悩みを打ち解けられるまでには…コープを7〜8ほどまで進めなければならない。
「ん?あれは……」
俺の視界の先には、吉澤かすみ…もとい、その妹である吉澤すみれが扮した吉澤かすみがいた。
高くまとめた赤みがかった髪に、赤いリボンをつけている。身体つきは細く、モデル顔負けのスタイルだ。
「あっ、ちょ…しまっ……」
思わず見惚れていると、後ろから押しかけてきた乗客たちに巻き込まれ、雨宮くんと離れ離れになってしまう。
一瞬焦るが、今日は吉澤さんとの出会いの日のはずだ。部外者は大人しくしているとしよう。
(ヒロインたちは分かりやすくていいな…みんな揃ってツラがいいから……)
そんな益体のないことを考えながら、蒼山一丁目に辿り着く。雨宮くん達はなにやら話し込んでいる様子だったので、物陰に隠れながら様子を伺う。
「楽しそうで何より。」
ぺこりと頭を下げ、吉澤さんが立ち去っていく。
これで確定したな。この世界がペルソナ5ではなく、5Rの世界だということが。
となると────マルキ・パレスまでちゃんとあるということだ。約一年後のことだな。
「道のりは長いなぁ…」
「そう?蒼山から学校まではそう遠くないと思うけど」
雨宮くんと合流し、秀尽まで向かう。吉澤さんについて触れても良かったが、知らないふりをしておこう。
「雨宮くんと私じゃ、一歩ごとの長さが違うんだよ…っと、ついたね。教科書もってきた?」
「ああ。」
「なんだ、見せてあげようと思ったのに。」
そんな他愛のない会話をしながら席に着く。
三島は相変わらずこっちを……雨宮くんの方をチラチラと見ている。雨宮くんが視線に気がつき、見つめ返すと三島はドキッとした顔をして縮こまる。
ペルソナ使いになると前向きな感じになるのは、俺もそうだが……立ち振る舞いに覇気が出てくるのではなかろうか。
「はーい、みんな席について。ホームルームはじめまーす。」
今日の授業には体育がある。ちょうど身体能力も確かめておきたかったところだ。ペルソナ使いと一般人…どう違うのか、見ものだな。
……そう、思っていた時期がありました。
「ぶべら」
元オリンピックメダリスト・鴨志田卓の超人的なスパイクを、トーシローが防げるわけがなかった。
確かに見えてはいたのだ。動体視力はしっかり向上し、俺に当てないようギリギリに打ち込もうとした鴨志田の全力スパイクを俺は確かに捉えた。
問題は────身体が付いていかなかったことだ。
「きっ、桐崎!!なぜ自分から当たりに来たんだ!?!?」
本気で困惑しながら鴨志田が心配そうに駆け寄ってくる。
「い、行けると思ったんです……」
「俺のスパイクに顔から突っ込んでおいてか!?と、とにかく保健室に連れていく!骨折してたら大問題だ…体育委員!俺は桐崎を保健室に連れて行く、少し皆を見といてくれ!」
鴨志田は俺を何の躊躇いもなく背負うと、いやらしさなどカケラも感じない手つきで紐で背中に括り付け、そのままダッシュし始めた。
……腐っても、こいつは教師だったってことか。
まぁ絆されねえけどな。
「なんてバカなことを…!」
保健室で処置を受け、一旦落ち着いたところで鴨志田は叱るように腰に手を当て立ち上がる。
この件に関しては鴨志田は何にも悪くないんだから、叱られて当然だ。
「軽傷で済んだからいいものの、顔に傷でも残ったら大変だぞ?それにお前、俺のスパイクを見てから動いたろ。」
「ええ、まぁ…」
ふむ。どうやら上がっているのは動体視力だけでなく、防御力も上がっているらしいな。
「俺の現役時代でもそんな奴は少なかった。今度からちゃんと、取れる球と取れん球は見極めることだな。」
「ごもっともで…」
真っ当なお叱りを受け、少し気分が落ち込む。
いや待てよ…これは良い体験なんじゃないか?
というのも、鴨志田のスパイクは自ら体感した通り強烈だ。凡百の攻撃なんかよりも、ずっと強いだろう。
これは─────使える。
もちろん、鴨志田は悪だ。許されない行いをしている、相当のワルだ。だが…鴨志田は悪といえども、根っこから悪人ではない。
鴨志田を歪めた金メダル……名声と実績で人々から戴冠された、偽りの王冠。その輝きは本物だが、今や悪に穢されきっている。
「なら、カモシダ先生……先生が教えてくださいよ、危ない球と、そうでない球。」
ジョーカーの持つ力…サーチアイ。敵の強さすら測る、凄まじい能力だ。
俺は考えた。鴨志田に師事すれば、サーチアイの劣化版。すなわち、エネミーアイとでも呼べるものを会得できるのでは?と。
ペルソナ5Rの世界は、認知が重要だ。
「出来る」と思うことは、イセカイでも出来る。
つまり、俺が危険予知をすることが出来ると思えれば、パレス攻略にも役に立つのでは?
「……バレー部に入るってことか?」
「いえ。違います。言ったじゃないですか、球を見極めろって。カモシダ先生、私はね───メダリストでも、人々に贔屓されている教師でもない、いちバレープレイヤーとしての鴨志田卓に教えを乞いたいんですよ。」
「メダリストでも、教師でもない、個人としての、俺……」
鴨志田についた歪みは、決して消えることはないだろう。パレスをもってして、初めて解決できる類のものだ。
だが、歪みがあるならば…その大元を刺激してやればいい。
「いいだろう。バレー部の練習中、体育館に来い。俺のボールに反応できたんだ、素人のボールを完璧に捌き切れるだろ?出来なければ出来るまで打ち込んでやる。」
「契約成立、ですね。」
これで、コープ成立──────。ジョーカーがコープによって強くなるのなら、俺だってどんな人間であろうとも人間関係を築き、強くなろう。
ジョーカーよりも弱い奴が、ジョーカーを助けられるわけがないからな。理想は、ジョーカーより強くなることだ。
「…だが、今日はやめておけ。怪我したばかりなんだ、明日の球技大会のあと、練習がある。そこに来い。」
「お邪魔します。」
「邪魔なもんか!最近あいつら弛んでるからな、新しい風も必要だろう。」
そう言って快活そうに笑う鴨志田の顔からは、一切の邪気も感じなかった。
放課後。
俺は予定通りカモシダ・パレスに足を踏み入れていた。
今回の探索には、竜司の覚醒を見届ける以外にも一つ目的がある。
それは、鴨志田との関係性の変化によるパレスの変化の調査だ。
「さてさて。まだ雨宮くんたちは来てないっぽいな。今のうちに探索しちまおう」
今回、雨宮くんたちが辿るのは地下牢へのルートだ。竜司がモデルガンを持ってきていて、それを使って戦闘をするんだったっけか。
学校にオモチャを持ってくる勇気はすごいが、バレたら大騒ぎだったな。
「…あれ、正面玄関の鍵が空いてる。珍しいこともあるもんだな。」
ダクトは正直言って臭いし狭いし最悪なので、なるべく使いたくなかったから助かる。
入って左側の扉を抜け、いくつかの部屋と廊下を経由し、シャドウが4体ほどいるであろう食堂へと入り込む。
案の定シャドウはいた…が、数が足りない。本来4体いるはずのシャドウが、2体しかいないのだ。
「ふむ、これが認知の変化か……?」
やはり懐柔策はパレス攻略においても重要…なのか?詳しいことは分からないが、ひとまずシャドウを片付けよう。
「悪く思うなよ」
不意打ちで一体に風穴を開け、残る一体は気付かれる前にコウハをぶつけ、よろめいた所を飛びかかり、銃剣でメッタ斬りにする。
ここまでやれば死ぬだろ……ぐらいのラインでもないと安心できない。シャドウが本気を出す前に倒すなら、やはり瞬殺でもしなければな。
「ふぅ。レベルが上がったけど新スキルは解放されんか…」
数え間違えがなければ、今のレベルは7〜8のはず。
これまでに覚えたスキルは「コウハ」「テンタラフー」「リカーム」の三種類だけだ。
本腰を入れてレベルを上げなければ、すぐにでも追いつかれてしまう。
「おっ、セーフルームだ。ゲームでは一瞬で移動出来たんだが、現実では……いや無理だな。」
通路の先にいたシャドウをザグレウスで蹴散らしつつ、螺旋階段を登っていく。長めの廊下の先にもシャドウがいる…が、カバーをしなければ見つかってしまうだろう。
「ま、出来るんだけどネ…正体を見せろ!」
「なっ、何者だ…!?」
シャドウの仮面を剥がし、先行有利を取ったところでコウハを放つ。カモシダ・パレスで祝福属性で有利が取れる敵はあまりいないが、火力はそこそこ保証されている。
「ん…仕留め損なったか。」
銃剣を突きつけ、シャドウを降参させる。経験値になってくれてもいいが、この先にあるパズルで謎解きをするのも面倒だ。
「い、命だけは助けてくれ」
「良いぜ。その代わり、見取り図の写しを寄越すかこの先の仕掛けを解け。」
そう言うと、シャドウは難色を示す。ザグレウスも出して脅すと、シャドウは慌てたように了承する。
良かった良かった、正直サードアイ無しでの謎解きなんか御免だったからな。
「おい、なんか紙とか持ってないか?」
「は、はい。持ってます」
「写せ。」
「は、はい?」
「写せ。」
「はい…」
謎を解かせ、城の見取り図の写しをゲットしたところで油断していたシャドウを背後から突いて始末する。
すまないが、目撃者を逃すわけにはいかないからな。
「さて…一旦引き上げるか。シャドウたちもざわついて来た。そろそろジョーカーたちも来る頃だろう。」
怪盗としての身体はとても便利なものだ。二、三階から落ちても怪我一つ負いやしない。
見取り図の間の先にある吹き抜け、大広間を一望できるシャンデリアの上に乗り込み、俺は時を待つ。
しばらくすると、地下牢のほうからジョーカーたちが走ってくるのが見えた。
すかさず重スナイパーライフルを構え、いつでも救援できるようにしておく。
「何もなけりゃ良いんだがな……」
♦︎
坂本竜司は、元陸上部のエースである。
仲間に恵まれ、部活に打ちこみ、母に誇れるような、そんな青春を送っていた。
「この…ッ!」
「どうせ、貴様の思いつきで来てこうなっちまったんだろう?え?」
目の前には、兵士と鴨志田のクソ野郎に踏みつけにされる蓮とモルガナ。そうだ、俺がこんなとこに連れてさえ来なければ、こうはならなかった…。
「やめろ…」
喉からは、掠れるような声しか出ない。
「すぐ感情的になるクズ…この俺様に手を挙げやがって。臨時とはいえ陸上部の面倒を見てやった恩を忘れたか?」
「あんなもん練習じゃねぇ!体罰だ!単にテメェが、陸上部が気に食わねえから…っ!」
項垂れて、這いつくばって叫ぶしかない。
蓮みたいにすげぇ力もねえし、モルガナみたいに機転が効くわけでもねえ。
「目障りなんだよ!実績を上げるのは俺様だけでいい!……クビになった監督も、救えないバカだ…正論言って楯突かなけりゃ、エースの足を潰すだけにしてやったものを…」
時間が止まる。
「なん、だと……」
心臓がガンガン鳴ってるのに、血の気が引いてくる。
「もう1本の足もやっておくかぁ?どうせ学校が『正当防衛』にしてくれるしなぁ!」
歯を食い縛るが、立ち向かおうという気が湧かない。
脳裏に刻まれた、暴力の記憶が。俺を立ち上がらせてくれない。
「クソ…また俺……負けんのかよ……!?こんなクソのせいで、走れなくなって…陸上部もなくなって…!」
血が頭に上っているのか、ザアザアと波のような音が耳に響く。
「こいつらを始末したら、次は貴様だぞ?ハハハハ…!」
「おいっ、リュージ!」
「言われっぱなしか?許せないんだろう……?!」
────ふざけんな。
なんだって、俺が、こんなクソに負けを認めなきゃならねえんだ。
「…そうだよ。」
足を壊されたぐらいで何だ。居場所を奪われたぐらいなんだ。
「俺が、あいつに奪われたもん…!もう返って来ねえ、大切なモン…!」
「そこで大人しく見ていろよ。クズを庇って犬死にする、救えないクズどもをな」
身体の奥底から、力が満ちる。
「お前の方だよ……!」
"坂本竜司"は立ち上がり、目の前の敵を睨みつける。
「人を利用することしか考えてねえ、お前のほうこそクズだ!鴨志田ァ!!!」
「何をしてる!早く殺せ!」
「ニヤけたツラで!こっち見てんじゃねえよ!」
心の声が、俺と一つになる。
『随分と待たせてくれたものよ…』
耳元で潮騒が響く。そうだ、俺はこれを待っていた。
激しい痛みと、力が満ちていく万能感。抑圧していた怒りが、形となって全身に駆け巡る感覚。
『力がいるんだろう?ならば契約だ。』
自分を受け入れる、っつーのは痛みを伴う。去年あたりに、先生が話してたっけ。
『どうせ消し得ぬ汚名なら…旗に掲げて一暴れ。お前の中の"もう一人の自分"が、そう望んでいる。』
ああ、そうだ。
俺は────ずっと、これを望んでいた!
「『我は汝』…」
『「汝は我」!』
『覚悟して背負え。これよりは、反逆のドクロが貴様の旗だ!』
仮初の自分を引き剥がし、絶叫する。
魂から出てくる、怒りの叫びを!
「これが…俺のペルソナ……!」
波の音が止む。こいつは良い…絶好調だ。
「ぶちかませよ!キャプテン・キッドォ!!!」
祝砲のように、どこからともなく銃声が鳴り響き、鴨志田の周りの兵士たちを片付けていく。残りは一体だ。
「随分待たせちまったな…行くぞ!」
♦︎
竜司も無事に覚醒できたようだ。
だがまだ油断はならない。敵はエリゴール、そしてバイコーンが二体だ。バイコーンに関しては竜司が弱点をつけるが、エリゴールは誰も有利が取れていない。
「援護射撃は任せとけってハナシ。」
目下では、竜司が早速ジオを使ってバイコーンに有利を取っている。随分派手に戦っているが……詰めが甘い。
「そこ!」
反撃をしようとしたエリゴールの武器を撃ち抜き、それを阻止する。危なかった。アイツの攻撃痛そうなんだよな。
「くそっ!何者だ…何者が狙ってきているんだ!?」
エリゴールは心底困惑した様子で周りを見ている。
「上だよバーカ」
スナイパーにとって、地の利が取れているというのは素晴らしいことだ。シャンデリアの上から狙撃されてるなんて、誰がわかるもんか。
キルカメラでもなければ気付かないような芋砂に勝てるわけないだろう。
「おっ、良いとこ入ったな。やったれスカル!」
エリゴールにクリティカルを入れたスカルが、仲間たちに合図し、一斉に飛び掛かる。数秒間の総攻撃。エリゴールは耐えられず爆発四散!
「ヒューッ!お見事。さて…帰るか……」
シャンデリアから煙幕を投げ、同時に着地。悠々と正面から帰らせて貰おう。
去り際、ジョーカーと目が合ったので軽くウインクだけして、イセカイから抜け出す。
「さてさて…明日は球技大会の…って、あ。」
イセカイから出て、帰路に着こうとしたタイミングで気がついてしまう。
明日は球技大会イベントで、三島が雨宮くんと竜司にガン詰めされるのだが、三島といえば鈴井さんだ。
鈴井志帆。鴨志田の被害者でもあり、自殺未遂で重傷を負うことになる可哀想な子だ。
いくら俺が原作を遵守するからとはいえ……犠牲が出ると知っていて黙っていられるほどクズじゃない。
「……まだ間に合うか?」
イセカイに行った後の疲れた身体を引きずって、校内へ戻る。ちょうど、このぐらいの時間にアン殿と鈴井さんが中庭で話しているはずだ。
怪盗仕込みの隠密で、中庭へと忍び寄る。
「……上手く、眠れなくて。目を瞑ると…色々考えちゃうから。」
よし、間に合った。ちょうどベンチの真後ろにはある柱に隠れながら、彼女たちの話を盗み聞く。趣味悪いのは認める。
ふむふむ。全国大会がもうすぐで、私なんかが…という話と、バレーしか出来ないから、という卑下。怪我が凄いという話もある。
こりゃあ…酷いな。アン殿も辛いだろう。明らかに何かされているのに、応援することしかできないというのは。
「鈴井…悪い。話してるとこ。鴨志田先生が呼んでる」
三島も哀れなやつだ。鴨志田の使い走りだし、何より悪に加担させられているのだ。正義感が強い彼のことだ、苦痛に違いないだろう。
「……頑張れ、志帆。」
そろそろ良いだろう。
「頑張れ、って言葉さ…残酷だよね」
俺はアン殿の後ろから声をかける。
アン殿は驚いたようにのけ反ると、すぐに睨んでくる。
「…盗み聞き?シュミ悪くない?」
「まぁ聞きなよ。鈴井さんが明らかに無理してんの…分かるでしょ?高巻さんならさ……」
俺だって、好きでこんなことしてるわけじゃない。
むしろ、原作の流れを汲むのならば鈴井さんは飛び降りて、意識不明の重体になるべきだ。
「…何が言いたいの?」
「つまりさ、高巻さん。友達なら、たまには休ませてあげることも大事なんじゃない?」
「………なんで桐崎さんがそんなこと…」
だが、それは俺の正義が許さない。
俺だって不条理に殺された身だ。高いところから落ちて死んだのも、共感出来る。あれは…凄い怖いし、痛いんだ。
「お節介。私、生徒会役員だよ?」
「……」
「ほら、早く行きなよ。友達、行っちゃうよ?」
「…………変な人。でも、ありがと」
そう言うと、アン殿は走り去っていく。
ここからは俺の預かり知らぬところだ。俺と鈴井さんは友人同士ではないし、話したこともない。だから、あと出来ることと言えば──────。
来るべき日に、マットレスを敷いてやることぐらいだ。
学校からの帰り道。
今日は良いことをしたので寿司でも食おうと回転寿司に入ったところ…………。
「げっ、明智吾郎っ!?」
「うん?僕のファンかな」
高校生探偵、探偵王子。明智吾郎。屋根ゴミマン。
毎日回らない寿司を食ってそうな金持ちのボンボンが何でこんなところに…?!
「どう見ても貴方に良い印象を持っていないようだけれど。」
「冴さん、突然知ってる有名人が目の前に来たら、どう考えても驚くでしょう?」
しかも、どうなのおばさんこと新島冴もいる。おばさんと言うほど歳は食ってないはずだが、なぜそんな酷いことを……。
「君、秀尽生だろ?冴さん…こっちの女の人の妹さんもそこの生徒会長なんだ。」
「アッ、えっ、はい。真ちゃんにはお世話になっております…はい……」
「…………ああ、そういえば真の部下の…」
「桐崎です、どうも…」
位置関係としてはこうだ。
俺、明智、新島冴…という感じで、寿司屋のカウンター席に3人で並んでいる図となる。
くそっ、テーブル席にしておくんだった……!
「桐崎さんか。知ってると思うけど、僕は明智吾郎。巷じゃ探偵王子なんて呼ばれてるよ」
「……まぁ、知ってますよ。あんたの事なら色々と…」
「へえ?それじゃあ、君が僕のことをどれくらい知ってるかテストしてみようか」
明智吾郎についてはある程度知っている。父親が獅童正義だとか、捨て子だとか、ペルソナ使いだとか、復讐を企んでるだとか、利用されて死ぬだとか、負けず嫌いだとか……。
だが────言えるわけねえだろ…っ!そんなことっ…!
半ば「ぐにゃあ」したときのカイジみたいになりながらも、なんとか見た目上は平静を保つ。
「桐崎さん、僕が今追いかけている事件はなんでしょうか」
「…………………。」
「あれ、難しかったかな?まぁ、そりゃそうか。誰にも言って────「精神暴走事件」……おお」
「精神暴走事件は…ここ最近、世間を賑わせてますから。探偵王子サマが食いつかないわけがない…違いますか?」
これなら言っても大丈夫だろう。
下手なことを答えて地雷を踏んだらまずいからな。それに、仮にジョーカーのことがバレた時、真っ先に始末されかねない。
少なくとも……使える人間だと思わせなければ!
「…あたりだよ。」
「明智くん。捜査のことは言わないで」
「でも、冴さん。彼女にはバレてるも同然ですよ?それに、ノーヒントで当てるなんてなかなか無い。」
精神を落ち着けるため、マグロを注文する。
機械音声と共にマグロが5皿流れてくる。
「それで…桐崎さん、もう一つ質問があるんだけど」
「ッス」
「精神暴走事件…犯人がいるとしたら、そいつはどんな奴だと思う?」
マグロを食べる。魚に含まれる頭が良くなる系の成分が五臓六腑に染み渡る。
批判されるかもしれないが、俺は寿司に甘だれを付けて食べる。程よく甘しょっぱく、美味いのだ。
「そいつは……多分、なんも考えてないと思いますよ。犯人がいたとしても、そいつは殺し屋みたいなもんでしょう。根本から解決するには……やはり、大本を叩かないと。」
マグロのおかげで現実逃避が出来た。よし。
少なくとも、俺はここで当たり障りのないことを言わないといけない。
「私からも良いかしら。」
「冴さんも彼女に興味を?」
「ええ。これまで聞いてきた中で、ここまでハッキリと犯人像を出してきた人はいないもの。」
「それもそうだ。」
サーモンを注文しつつ、新島冴からの質問を待つ。
「もし仮に───明日、どこかで貴方の学校の校長が死んだなら、誰が犯人だと思う?」
「そりゃあもちろん!………いや、何でもないっすね。PTAかなんかじゃないですか」
あぶね、お前の上司だろ!って言いかけた。
これ以上話してたらボロが出そうだ。さっさと退散しよう。
「…心当たりがあるの?」
「さぁ…?デブなんで、心筋梗塞で死ぬんじゃないっすか。私はこの辺で失礼します。なにぶん馬鹿なもんで、頭いい人と話してると疲れるんです」
そそくさと支払いを済ませ、帰路につく。
もう夜だ。意外と長くいすぎてしまったらしい。
もう疲れたし、早く寝るとするか。