TS男のシーフユニオン活動録 作:Xbox360
昨日は散々な目に遭った。
明智吾郎と新島冴にエンカウントするとは、なんとも運が悪いこともあったものだ。
彼らにはできるだけ俺とは関わらないで欲しいものだが…必要となれば、いつでもある程度の受け答えはできるようにしておかなければな。
「はー…しんど。けど、やりがいはあるな。」
半ば場当たり的に目的を決めているせいか、スケジュールはあっという間にギチギチになってしまう。
パレスの攻略に鴨志田との特訓。対話術の訓練に、人間パラメータの強化。どれも、一朝一夕では終わらないものだ。
「ま、着実にやりますか…」
風呂に入って魅力を磨き、凝った朝食を作り器用さを上げる。微々たるものだが、これでも成長するはずだ。
「いただきます。」
ベーコンエッグ、ワカメの味噌汁、サンマの塩焼き…山盛りのキャベツ。ごきげんな朝食だ。当然、山盛りの米もある。
ベーコンエッグには当然、塩だ。卵だけなら醤油派だが、ベーコンがあるなら塩ぐらいで良い。味噌は赤味噌派。程よい塩味が米とよく合う。
「うん、おいしい!」
食事を終え、歯を磨いて外出する。
今日は球技大会だ、色々な経験値を稼がせてもらうとしよう。行きがけに本を読みつつ、雨宮くんを迎えに行く。
今日読むのは、『クソデカ根性カエル』だ。根性とあるし、たぶん度胸が上がるだろう。
「や、おはよ。体育着持った?」
「持った」
「頑張ろ、クラス対抗だもんね」
昨日は痛い目を見たが、今日痛い目を見るのは俺じゃない。三島だ。
過労かストレスか、何らかの理由で鴨志田のスパイクをモロに受け、倒れ───そして、学内でも黒い噂の絶えない二人組に絡まれ、挙句の果てには鴨志田にまで睨まれるという厄日が彼には待っている。
「自分は…あんまり乗り気じゃないな。バレーには良い思い出は無くて」
「雨宮くん、インドアって感じだもんね」
「まあ、そんなところ。」
おそらくは地下牢で見た凄惨なバレー地獄がフラッシュバックしているのか、嫌そうな顔をしている雨宮くんを尻目に、渋谷のホームに降りる。
メメントスの影響か、微妙に歪んで見える。現実がイセカイに与える影響と、その逆を調べてみたいが…メメントスには明智吾郎がいる可能性があるからな。
やめておこう。
「今日は空いてて良いね、こうして一緒に座れたし」
「そうだな…零はこういう時、何してる?」
「私は暇な時は本を読んだり、工作してたりするよ」
本を読んだおかげでこっそり授業中に火炎瓶を作れるようになったので、今後は活用していこうと思う。
ペルソナ世界の警察と司法は腐ってるので、爆弾を作っていてもお咎めはないのだ。
「工作…手芸とか?ぬいぐるみ作ったり?」
「うーん、まぁそんなとこかな。」
ぱっと見活発な美少女が火炎瓶作ってるとか、言えるわけない。
「着いたね、それじゃあ私着替えてくるから」
「また後で」
着替えを済ませ、体育館に行く。
すでに包帯まみれのバレー部員が集合しており、アップがてらに軽くストレッチをしている。
俺はそこに混ざり、軽く身をほぐし、イセカイでの俺と同じように不敵な笑みを浮かべる。
「お、こんな早くから来るとは感心だな。桐崎」
「カモシダ先生。今日はお願いします!」
「本番は大会終わりだからって、手抜くんじゃないぞ。どんな相手でも、学べる機会にしろ」
「うっす!」
そうして始まったクラス対抗バレー大会。
俺は女子ということで、適当なポジションを割り当てられたが…俺はレシーバー希望だ。
「スパイクくるぞーっ!」
「私に任せて……っ!はっ、軽い!」
バレー部と思しき生徒のスパイクを捌き、高く打ち上げる。すかさずセッターからトスが上がり、スパイカーが決める────が、ブロックされる。
「見えてたよ…!」
ボールに飛び込み、弾かれた球を浮かせる。
「確かに…これは良い経験だ!」
……結局。クラス対抗試合には負けた。比較的動けるであろう雨宮くんの不参加もあったが、なにより地力が足りない。
それもあり、教員vs生徒の試合は酷いもんだった。
「み、三島ーっ!」
三島が鴨志田のスパイクを顔で受け止め、保健室に搬送されたのを皮切りに次々と倒されていくバレー部員たち。
最後に残った俺は、一人で試合終了までスパイクを受けては弾き、受けては弾きを繰り返していた。
「試合終了ーっ」
試合後、俺はヒリヒリする腕に冷えピタを貼りながら、体育教官室で鴨志田と対面していた。後ろで何やら女子たちや竜司がヒソヒソ話をしているのが見えたが、まぁそっとしておこう。
「なかなか良かったじゃないか。周りの奴らが………」
「カス、ですか?まぁそうですね。体力がなかったと思います」
鴨志田が気を遣おうとして来たので、先読みして暴言を差し込む。
人間は自分の考えていることをそれとなく同意されたいものだからな。
「あ、気を遣わなくて結構ですよカモシダ先生。私と二人だけしかいないんで、何言ってても聞こえないですよ」
「フン…それなら言わせてもらうが、桐崎。お前が負けたのは身体能力が足りてないのもあるが、チームワークが無いからだな。」
「…というと?」
「お前、どこかで一人で試合をしようとしてなかったか?俺だって一人じゃバレーは出来ん。トスが上がらなきゃスパイクは出来んからな」
痛いところを突かれたな。そりゃあそうだ、俺は生まれてこの方チームプレイをしたことがない。
前世でも、これと言って何かしていたわけでもなく。今世では最初からソロプレイだ。
そんな人間が、どうやって協調性を得るのだろうか?
「図星みたいだな。とりあえず、これから練習だから少し休んでから来い。自分で言ったんだ…来ないなんて選択肢はないよな?」
ニヤリと笑って言う鴨志田に、俺も笑顔で答える。
「もちろんですとも」
部屋から出て中庭に行く。構内の自販機はラインナップが豊かなのもあるが、何より安い。
自販機にコインをがちゃがちゃと入れ、ボタンを押す。一見、何の変哲もない風景。
────それを、まじまじと眺める三人組がいることを除けば、だが。
「………なあ、こんな事してる俺が言うのもなんだけどよ、お前それで良いわけ?」
「生徒会なんだろう?」
「たっ、助けて……桐崎さん……!」
視界の端には、三島を囲んで立つ雨宮くんと竜司。
雨宮くんは不思議そうな顔をして、竜司は呆れたような顔を。三島に関してはほぼ半泣きだ。
うーむ。確かに、生徒会としてはマズい…のか?
「────だが断る。生徒同士のコミュニケーションは生徒同士で完結してネ!それに……三島くんにはこれが必要なはずだよ」
「だとよ。それじゃあ聞かせてもらおうか…鴨志田の体罰のこと」
「し、知らないよ!もう、帰るから!……それじゃあ。」
言えるはずもないか。何せ相手は鴨志田と不良2人だ。保身に走るのも無理はない。その結果、自分がリンチされようと────鴨志田に殺されるよりはマシだと思ってるのだろう。
「っ、おい待てって!」
玄関まで逃げるように歩いていく三島を追い、雨宮くんと竜司が追いかける。
俺もコーラ片手に追いかけ、正面玄関まで歩く。このタイミングなら、鴨志田は玄関の方にいるだろうからな。
「そのケガ、ぜってーオカシイって!なあ、あるんだろ?毎日ボコボコになるまでシゴかれてんじゃねーのかよ!?」
「知らないで通せると思うな。」
「知らな………い、言えないよ!」
タイミング的には、そろそろか。
俺はコーラの缶をゴミ箱に投げつけ、鴨志田の来る方に向き直る。
「あれ、カモシダ先生?」
「───ッ!?」
三島が恐怖で満ちた目で振り返る。
当然、そこには鴨志田がいる。
鴨志田は俺を見て少し眉を下げたあと、三島に対しては呆れと怒りを孕んだような表情を見せる。
「どうした、三島。帰るのか?」
「テメェ…鴨志田ァ!」
「今は大会前で、不良の相手をしてる時間はないんだ。どっか行ってろ!」
いきりたつ竜司を雑にあしらい、鴨志田は冷たい目線を三島に向ける。
「今日の試合酷かったなぁ?素人の桐崎はあんなに動けてたってのに、バレー部に置いてやってるお前はどうだ?」
「………っ」
こういう時に引き合いに出されるとあまり良い気分はしないが、まぁ黙っておくか。ここで何か言って興を削いだら面倒だ。
ただ、何もしないというのもアレなので…気まずそうな顔をしておこう。
「練習しなきゃ上手くはならないぞ。次あんなミスしたら、退部させるからな。」
「そんな…!」
「で?どうするんだ。練習、来ないのか?」
「………………行きます。」
「ならさっさと着替えろ!桐崎、休憩が十分なら一緒に体育館に来い。」
「はーい」
脅し慣れているな。ワルい奴だぜ、鴨志田卓。
雨宮くんが何やら手を伸ばしているが…まぁいいか。止められたとしても、俺には止まる理由がないしな。
いざ体育館に着くと、鴨志田は俺を隣に立たせ、全員を集めた。
「いいかお前ら。今日から生徒会の桐崎が見学として練習に参加する!ハッキリ言うが、こいつはお前らよりも動ける。」
途端にどよめきが起きる。
「見学者だからスタメンに入ることはないが、舐めたプレーをしやがったら即刻退部して貰うからな!」
うわ〜…クッソスパルタだ。しかも、俺に精神的なプレッシャーまで掛けてきやがった。だが、これも一つの学びだ。
精神力が強くなれば、SPも増えるかもしれないからな。
「桐崎、挨拶してやれ。」
「よろしくね〜、全員ブッ飛ばすから覚悟しといてね!」
鴨志田が「こいつまじか」みたいな目で見てくるが、無視だ無視。ヘイトを集中させることで、俺へのプレッシャーを増やし、SPを増加させるトレーニングだ。
万物全てを経験として、俺は強くなるんだ。
「………オホン。言われっぱなしか?さっさと練習を始めろ!」
そう言われてようやく状況を飲み込めたのか、言われたように各自練習をしているのを眺める。
アップが終わり、鴨志田によるレシーブ練習が行われる。次々とボコスカとバレー球を当てられ、呻く部員たち。
失敗するごとに怒鳴るか殴るかをされ、見ていて居た堪れない。時折、俺に助けを求める目を向けてくる部員たちもいる様子だった。
「悪いネ。じゃ…カモシダ先生!私にもお願いします!」
「よし、全員、桐崎に打ち込め!全力でやれよ。顔を狙ったって良いぞ。なあ?桐崎」
「どんとこい!」
鴨志田ふくめ、全員が溜まっていたであろうフラストレーションを晴らすが如くバレーボールを打ち込んでくる。
一番最初に飛んできたのは鴨志田の球!避けきれず腕で受け、やや仰け反らされた所に球が殺到!バク転回避を試みるも追撃が届く!
「ぶわ、あだ、あだだだだ!」
結局、一回目はダメだった。だが────即座に二回目のバレーボール掃射が飛んでくる。
少しタイミングをずらして飛んでくる鴨志田の強球を見切れず腹で受け止め、少し呻き声を漏らす。このままでは一回目と同じだ。
「そうは…いかんっ!」
いわゆる『ジャストパリィ』を行い、飛んでくる球を弾く。しかし、それでも捌ききれない。何発も身体で受け、着実に身体にダメージが溜まっていく。
無論、一発一発は大したことはない。だが、それも蓄積すれば大打撃になりうる。
「三回目、いくぞーっ!」
(……次まともに食らえばヤバい。)
真っ先に飛んでくるのは、鴨志田の豪速球。
走馬灯が過ぎる。当たれば死ぬ。死なずとも、戦えなくなる。ここで避けられなければ死ね。そんな弱い人間はジョーカーの助けにはならない。避けろ。動け。動け。俺は出来るだろう。
「ぬおおおっ!!!」
直撃コースを軽くステップで避ける。
次々と迫ってくるボールを軽く躱し、
「…ハッ、掴んだぜ。」
してやったり、という表情で鴨志田を見ると、驚きと歓喜が混ざったような顔を見せている。
「すごいじゃないか、桐崎!その感覚を忘れるなよ?そら、もう一丁!」
続く四回目の攻撃を、今度は鴨志田のボール以外を避け、鴨志田のボールをレシーブしようと構え────大きく弾かれる。
素人の構えならこんなものだろう。
「なるほどな、よし。もう終わりにしていいぞ!各自練習に戻れ!」
「えー?もう終わりですか、カモシダ先生」
「当然だ。お前の癖は大体今ので分かった。受けの姿勢の作り方を俺が教えてやる。」
鴨志田が俺の後ろに立ち、手を掴んで正しいレシーブの形にする。そこに下心はなかった。
「これがレシーブの形だ。ちゃんと覚えろよ。この形のまま、もう一度俺が打ち込むから、垂直に上がるように弾いてみろ。いいか、垂直だぞ」
「はいっ!」
それから、完全下校時間ギリギリまで俺は特訓を続けた。レシーブの型をなんとかカタチにしたところで今日はお開きとなった。
「桐崎、今日は帰ったらゆっくり休めよ。追い込むのは確かに下手くそには必要だが、お前には必要ないからな!」
「どーもー!私、もっと強くなりますよ!」
「おう!その意気だ!明日も万全にして来いよ!」
「おいしゃーっす!」
まるで青春の一幕のようなことをしながら、俺はそのまま帰路に着く───
────フリをして、誰もいないのを見計らい、パレスへと潜入していくのだった。
♦︎
「桐崎か……変な奴だと思ったが、あれは化けるかもしれんぞ…」
しかし今は、熱心に"自身の生徒"の将来を考える、『カモシダ先生』であった。
「あのカスどもは俺がいくら教えてやっても伸びやしない。多少マシにはなったが、本物の前には霞むか…」
ぶつくさと言いながら眺めているのは、生徒名簿だ。
桐崎 零────鴨志田卓の前に突然現れた、
「桐崎零……父親は海外に単身赴任中。母親は別居中…あいつ、家で一人なのか。」
頭の中に邪な感情が芽生えるが、かぶりを振って摘み取る。
貴重な才能……それも、自分が自分で良いと言ってくれる生徒に手を出せば、何かが壊れてしまうような気がしたというのもあった。
「乗り気じゃなかったっぽいが…あいつもバレーの面白さを知れば、入部したくなるかもしれんな」
しかし。と鴨志田卓は思い至る。
桐崎零の癖───ソロプレイの悪癖は、チームを組むことでしか解消出来ないと。
だが、バレー部にはマトモに桐崎零と組めるメンバーはいない。
(あのいくら打たれても立ち上がるタフネスとメンタル、そしてあの凄まじい動体視力について来れるやつなんか、俺ぐらいだろう)
鴨志田卓が最も注目しているのは、桐崎零は全ての球を「見てから避けている」ということ。
普通は、球ではなく選手の動きを見る。相手が人間なのだから当然だ。相手には癖があり、さらにどこに打つかも予想しやすい。
「そういえばあいつ……雨宮だったか?あいつも俺の球見えてたような気がするな…」
校長が言うには、桐崎零には雨宮蓮の面倒を見させているらしい。理由は、たまたま知り合ったからだそうだ。
自身が前歴の噂を流させている生意気そうなガキが、俺の生徒を…と思わないでもないが、そこに何か関係があるのではないか?と考えるのには十分すぎる導線だった。
「体育の時、雨宮から妙な気配を感じたが…」
それは、つい昨日のことであった。
2-D相手に体育の授業をしていた時、鴨志田卓はレシーブの練習で雨宮から妙な凄みを感じていたのだ。
それと同じモノを、桐崎零からも感じていた。
(そうなれば…桐崎のことをもっと知れば、俺もあの凄みを得られるかもしれんな?)
こと、スポーツにおいて。
自身から放つプレッシャーというのは重要なものである。
プレッシャーのある選手は、相手を本能的に恐れさせ、動きを固くさせる。
無論。鴨志田卓にもプレッシャーは出せる。
だがそれは、体格と肩書き、実力から来る「実体的なプレッシャー」であり、雨宮蓮や桐崎零の持つような、得体の知れないプレッシャーではない。
バレー選手である鴨志田卓は、自身の更なる成長のため、今まさに貪欲になろうとしていた。
自身がどこかで抱いていた、仄暗い欲望が見えなくなりそうになった──────その時。
「失礼します……。」
ノックをして、部屋に入ってきたのは……鴨志田卓の
途端に、ドス黒い感情が湧き上がる。
自信に満ち溢れ、輝いた目で教えを乞う"生徒"ではない…オドオドしていて、恐怖に満ちた瞳で自分を見つめる、"奴隷"のような姿。
「俺を待たせるとは、良い度胸してるな?!三島!!!」
気付けば、カモシダ先生ではなく、バレー部顧問・鴨志田卓は怒鳴り散らしていた。
「言ったよなぁ?遅刻したら殴るって。何回目だ?あぁっ!?」
「す、すみませんっ!ごめんなさいっ!うぐっ!?」
跡が残らないよう、腹に一撃くらわせる。
「二回目だ!今日二回もお前は俺の貴重な時間を奪った!!」
「げほっ、げほ…!うぐぅ…!すみませっ、うごっ!?」
失敗作。
丹念込めて、あれほど情熱的に、愛を込めてプロの指導をしてやったのに。このガキどもは、俺様から何にも学んじゃいない。
それもそうだ。適当に基礎さえやっていればガキどものバレー大会なんて勝てるに決まっている。
そこにプロ意識はない。
「何も学ばんクズが!」
そこに選手の矜持はない。
「お前は所詮!!俺の言いなりになってネットで悪口書くことしか!!出来ねえ癖にッ!!!」
求めているのは、結局。
「全国大会で優勝だと……?そんなん、
何よりも、努力を知っているが故に。
鴨志田卓は心の中に、汚泥を溜め込むのだ。
♦︎
「はぁ〜、荒れてんなぁ…」
目の前では、パレスの奴隷たちが鞭打ちや殴打を受けていた。
シャドウ鴨志田自らが奴隷を殴り飛ばしている。
俺は今、前回訪れたシャンデリアの上まで来て、エントランスホールを観察しているところだ。
「ま、いいか。俺には関係ないし」
シャンデリアを飛び移り、向かいのセーフルームまで辿り着く。
今日の出来事のおかげで、若干だがなんとなく敵の強さも分かるようになってきた。
弱い敵は瞬殺し、強い敵にはしっかりと挑むようにすると、レベルはあがり、今はレベル9だ。
「まさか行き帰りをちゃんと省略しないだけでここまで上がるとはな」
そして新たなスキルも獲得した。
「コウハ」「テンタラフー」「リカーム」に次ぐ、四つ目のスキル。
その名も─────「物理見切り」だ。
ここに来て、まさかのパッシブとは…。
「まあ、使いやすいというかあって困るもんでもないけどサ」
「あ、当たらんっ!?」
「折角なら、派手なスキルが良かったわ」
「ぐほあっ!」
シャドウの攻撃をすいすい躱しつつ、一撃、二撃と入れて倒す。
謎解きをして進んでいった先には、崩れかけの高塔がある。この先は、ワイヤーアクションを使わなければならない。
「あんな細い糸で登れるわけねーだろ…この高さを………」
約10m近い高さに軽く目眩を起こしながら、呆れて絶句する。ワイヤーフックがいくら頑丈だろうが、これは無理だろ。
いや…引く力と引く力とで噛み合えばいける…のか?腕痛くない?
「仕方ない、出直すとするか………」
踵を返し、戻ろうとした──────その時。
「その必要は無いぜ。」
見覚えのある、まるまるとした猫の怪物…もとい、モルガナがそこにいた。
モルガナは仁王立ちしながら、ニヤリと笑いつつこちらを見ている。
「オマエ、そこの崩落した階段の上に行きたいんだろ?なら、ワガハイがワイヤーフックを貸してやるよ」
「………アンタ、正気かよ?見ず知らずの俺…私にそんなもの渡しても良いのか?」
「話しやすい方で話してくれて良いぜ。この間、ワガハイ達のことを助けてくれたろ?」
「さぁな。違う人じゃね?」
とりあえずとぼけておく。
モルガナの目的がわからない以上、迂闊には信用しない。
無論。モルガナの善性は信じているが、それはそれだ。
「まぁ聞けよ。オマエ、ワガハイと協力しないか?見たところ、パレスは歩き慣れてるみたいだしな。こっちでも期待の新人を二人ぐらい知ってんだ。どうだ?」
「うーん…」
詰まるところ、怪盗団へのお誘い…ということだろうが。俺はあくまで「シーフユニオン」、つまりはどこまで行っても「お助けNPC」であり、仲間にはなる気がない。
「俺のことを尾けてたんなら分かるだろ。俺の戦い方とお前らの戦い方は違う。俺の基本は瞬殺、暗殺だぜ。素直に戦うこともあるが、リスクの方がデカいからな…」
「リスク、メリットのハナシか?なら、ワガハイのワイヤーフックを貸してやる代わりに、ワガハイたちに協力しろ。Win-Winってやつだろ?」
「それなら良いぜ。協力成立な…っと、その前に。俺をアテにされて戦われても困る。その新人たちには俺の存在は教えないようにな」
「こちらも了承した。ワガハイはモルガナ。オマエはなんて呼べばいい?」
「ん〜、ゼロで。」
これで良し。元より俺は怪盗団…というよりはジョーカーを全力で支援する腹積りだ。
ワガハイたち、というように怪盗団全員を支援する必要が出来たのはちょっと面倒だが、まぁやる事がないよりマシだろう。
「ワイヤーフックの使い方はわかるか?ここを押して…」
「あ、できた」
ぱしゅん、と間抜けな音を出して鋼線が発射され、都合のいい箇所に引っ掛かる。
そのままぐいんと引っ張り、図書館のあるフロアへとたどり着く。モルガナはしれっと付いてきている。
「おい、ここからどうするんだ?」
「このフロアは…合計で8体のシャドウがいる。そいつらを一体一体殺していくが…2体だけ、明らかに強い奴がいる。」
「詳しいな。」
「一体はこっちから行かないと見つからないが、もう一体は徘徊してる。モルガナ、アンタは下がってな」
相手はエリゴールやらベリスやらの強敵だ。それも、竜司が最初に戦ったような弱い奴じゃない。油断すると即死させてくるような最強シャドウだ。
レベルは11〜14ほど必要で、「チャージ」からの「スラッシュ」で刈り取られたプレイヤーは多いだろう。
(だが…安定して狩れるようになれば……ウマい)
原作をクリアした諸兄なら理解できると思うが、強敵シンボルのシャドウは経験値と入手金がウマい。とんでもなく、ウマい。
マトモに戦えば激戦必至だが、勝てばリターンは大きい。
「ワガハイを見くびるなよ、ペルソナってのはこう使うんだ!」
「あっ、待て!」
駆け出すモルガナを追いかけると、角を曲がった先でシャドウと対峙していた。
この辺りの敵だと、インキュバスやケットシー、シルキーにケルピーと平均レベル5〜6の敵が多いはずだ。
初期のモルガナのレベルは良くて3〜4。
勝てる道理がない。
「威を示せ、ゾロ!!!」
「駆け抜けろ!ザグレウスッ!」
ゾロの疾風よりも先に、ザグレウスが光刃を放ち、それと共に俺も銃剣を振るう。敵も強い、一撃では倒せない。
「なんだ貴様ら!?始末する!」
シャドウが正体を表す。
インキュバスは既にダウンしており、次いでケットシーもゾロの
「モルガナっ、総攻撃だ!」
「……!ボコボコにしてやる!」
縦横無尽に駆け回り、斬りつけ、それが数秒ほど続いた後────モルガナが決めポーズを取る。
それと同時にシャドウたちが血を吹き出して消滅する。
……俺も決めポーズ考えとこ。
「どうだ?ワガハイだって頼りになるだろ」
「アンタ、俺が来なかったらどうしてたんだ?」
「わざわざ留まるように言うやつが、助けに来ないわけないだろ?」
こ、こいつ。人の善意を見透かして…!
「はぁ…まぁ良い。俺は今みたいに、速戦即決で終わらせるのがメインの戦い方だ。進むにつれて敵も強くなっていく一方だし、通用はしなくなるだろうが…」
「これを繰り返して、強くなってさらに強い奴に同じことをするんだろ?理に適ってるな」
「やってる余裕があればな…」
本のある部屋に入り、蔵書をチェックしながら言う。
ここの部屋にある『○○の書』を使って、謎を解くのだが、今日のところは印を付けるだけで終わる。どうせ後で謎解きは元に戻すんだ。
分かりやすい方がいいだろう。
「よし。一通り終わったな…俺は現実に戻るが、モルガナはどうする?」
「あの新人たちには言っとかないといけない事があるからな。オマエについてく。」
「そうか…まいいか。」
帰りがけにシャドウを殺しつつ、俺が解いた謎解きも自力で復元しながら現実世界に戻る。終始モルガナが怪訝な表情をしていたのは少し面白かった。
「うげ、もう0時半かよ…終電間に合うかな」
「シューデン?間に合わないとマズいのか?」
「家に帰れなくなるからな…じゃあ、私は走るから。またな!」
「おいちょっ!?」
全力ダッシュで蒼山一丁目駅まで向かう。なんとか終電に乗る事が出来た───が。
「渋谷からは、もう出てねえのかよ……っ!クソ………!」
渋谷駅は閉まっていた。
俺はうなだれ、地面に打ちひしがれる。渋谷近辺でホテルを探すか、タクシーを捕まえるしかないが…どうしたものか。
「…ふう。とりあえずセントラル街まで来てみたが、タクシーは捕まらないし、ホテルも満室か…ふざけろ…コンチクショウ……」
セントラル街のど真ん中で蹲り、ボヤきながら缶コーヒーをしばいていると、ひとつ足音が聞こえてくる。
「あ、明智吾郎じゃん。」
少し運動した後のような様子の明智吾郎が、どこからともなく歩いてきていた。
そういえば、この辺りは金城に斑目と大物揃いだったな。脅しでもかけて来たのか?
「……あれ、桐崎さん?どうしてこんな所に?」
声をかけると、驚いた様子で近寄ってくる明智。
心底不思議だったのだろう、ややヨレているネクタイも直していない。
「終電逃しちゃって。あんたは?」
「所用でね。」
白々しい奴め。
だがまあ、渡りに船だ。こいつなら何か移動手段か宿泊施設を知っているに違いない。
「これからどうするんです?」
「うーん。ここのタクシーはしばらく出ないしなあ。ビジネスホテルにでも泊まろうかな?」
「んえ、タクシーでないんです?」
「タクシー会社が今大変らしくてね。精神暴走事件で…」
テメーのせいじゃねえか!
クソ…ならホテルしかないか。空いてるホテルを探すにも…この辺りからだともうラブホしかないぞ?
「つっても、この辺はもうラブホしか空いてないですよ。探偵王子サマ」
「知ってるかい?ラブホテルって、一人でも泊まれるんだよ」
「マジか。」
「大マジ。試してみたらどうかな?一人ラブホテル」
これは僥倖。良いことを聞いた。
さらに明智はラウンジ付きの高級感ある一人で泊まれるラブホを紹介してくれたりした。頭が上がらん。
「てか、なんでそんな詳しいんです?高校生だろあんた」
「犯人がラブホテルに潜伏してることもあるからね」
「なるほどなあ」
結局、俺は明智に教えて貰った一泊5800円くらいのホテルに泊まり、ジャグジーや露天風呂、豪勢なディナー(別途5000円)を頂いた。