TS男のシーフユニオン活動録   作:Xbox360

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短め


4/14 見てみぬふり

 

怪盗の朝は、優雅な朝食(別途3000円)から始まる。

 

心地よいジャズに耳を傾けながら、気まずそうに立ち去っていくカップルたちを尻目に、朝の眠気を覚ますエスプレッソを一口含む。

 

外を見遣れば、晴れ渡る空が広がっている。

 

「ああ良き天気。我が心快晴なり」

 

場所は渋谷、ラブホテル内。

とは言っても誰かと寝たわけではない。一人で泊まる分にはラブホは格安宿なのだ。

 

「…しっかし、昨日は一日中動いたのにもう疲れが取れてら。すげえな、ペルソナ使い」

 

パレスから出入りすれば傷は全て癒えているし、一晩寝れば体力は全快。反射神経や動体視力なんかも超人的。

なるほど、こんなのあったら毎日夜更かしなんか余裕だな。

 

「やってる場合じゃねえ…学校行かな」

 

チェックアウトを済ませ、爆速で帰宅する。支度を済ませ、四軒茶屋へ向かう。

その間は常にダッシュだ。時間が足りん。

 

「ぜぇ、はぁ……おはよ、雨宮くん」

 

「…大丈夫?」

 

「もちコース。少し息を整えれば……()ッ!…ゲェーッホゲホゲホ」

 

「変な構え…」

 

三戦(サンチン)で何かできるかと思ったが、無理そうだった。

急激に息を吸い込んだせいで咽せていると、雨宮くんがそっと背中をさすってくれる。しれっとこういう気遣いが出来るところがモテる秘訣なんだろうか?

 

特に変なこともなく蒼山一丁目まで着く。

 

「そういえば…体育教官室から、誰もいないハズなのに悲鳴や物音が聞こえてくるんだって。怖いよね」

 

「……………。」

 

それとなく情報を流しつつ、気楽なふうで歩く。

今日はアン殿と雨宮くんの話し合いの日だ。そして…今日、鈴井さんが酷い目に遭うのだ。

 

「零、あまりカモシダに近づかない方がいい。」

 

「心配してくれてんの?嬉しいね」

 

「昨日も怪我してた」

 

雨宮くんが俺の前に立つ。その眼差しは真剣だ。

 

「そう怖い顔しないでよ。私なら大丈夫…怪我もほら、治ってるでしょ?それに、私は自分から望んでスパイクを受けてる。」

 

「何か理由が?」

 

理由なんて、そんなの決まってる。

 

「君のためだよ、雨宮くん♪」

 

「自分の…」

 

「ほら、ホームルーム始まっちゃうよ?行こう」

 

俺はそのためにこの世界にいるのだから。

だから幾ら心配されようと、何があろうと雨宮くんの支援やサポートは辞める気はない。死ぬのだけは勘弁だけどな!

 

 

昼休み。

俺は鈴井さんに会うため、中庭で陣取っていた。

アン殿に鈴井さんをどうにかするように言ってから、俺は少し考えた。

彼女の受ける精神的苦痛を、少しでも和らげられないか…と。

 

「あ、あなたは…桐崎さん…だよね?どうしたの?」

 

「疲れてるでしょ?まぁ座りなよ」

 

中庭の自販機前に鈴井さんを座らせ、俺もその隣に座る。

 

「話したかったんだ…君と。」

 

「わたしと?バレーのことなら、わたしより鴨志田先生に聞いた方がいいと思うけど…」

 

「受けてるんだろう?暴力。」

 

鈴井さんの顔が、一瞬で戦慄したように強張る。

顔は青くなり、息は浅く、軽い動悸がしているようでもあった。

どうやったら人をここまで追い込めるのかわからないが、心の傷は相当なものだろう。

 

「教えてあげるよ。戦い方をさ……理不尽への反逆の仕方を」

 

「…………そ、そんな…でも、だって…」

 

「意外かな?まぁそうよね。私、カモシダ先生のお気に入りに見えるもんね」

 

静かに頷く鈴井さん。

 

「確かに、バレーを教わってるし恩義もある。『一人の個人』として見た時のカモシダ先生は、そう悪い人じゃないのかもしれない。」

 

「………………。」

 

「けどね。だからこそ────今のままじゃダメなんだ」

 

歪み、増大し、成長しきった欲望は人を壊す。

どのような立派な人間でも、どこかで歪んでしまえば、そのまま闇を抱えて生きることになる。

誰だって、生まれついての悪人であるはずがない。

 

「どう、すれば。どうすればいいの…?」

 

「抗え。抗って、抗って。戦い抜くしかない。どんな事があろうと、その胸の中に(シン)を抱き続けるんだ。」

 

(シン)…?」

 

「理不尽への怒り。不正への憤り。大悪への憎しみ。これらを以て、糾そうとする心こそ(シン)だよ。分かってるんでしょう?────このままだと、ただ奪われ、壊されるだけだって」

 

鈴井さんが目を見開く。

俺が今語っているのは、ペルソナ覚醒のために必要な「怒り」だ。強い怒りの力が、心の奥底に眠る反逆の精神を呼び起こす。

とは言っても、俺は鈴井さんにペルソナ使いになって欲しいわけじゃない。力で負けていても「負けない」方法を話しているのだ。

 

「……できないよ。わたしには、バレーしかないから」

 

「ま、あくまで心構えの話だから。逃げることだって、立派な闘争だよ。覚えといてね」

 

うーむ。思いの外根深いらしい。

少しは和らげたい…とは言ったが、たいした人生経験もない俺にそんなこと出来ないのかもしれない。

それでも────心を強く保てば、辛い境遇にも耐えられるかもしれないから。

 

「それじゃ、さよなら」

 

「うん。またね」

 

鈴井さんには悪いが、明日彼女が屋上から飛び降りることは確定事項だ。そのために、今日彼女はアン殿の代わりに鴨志田の犠牲になる。

そして彼女は、物語からフェードアウトし、アン殿の言でしか安否を確認できなくなるのだ。

 

「………午後は曇りだったっけか」

 

太陽が隠れ、授業開始5分前を知らせる予鈴が鳴る。

俺は静かに教室に戻り、ぼうっとしていた。

 

 

放課後。俺は雨宮くんと鈴井さんが接触したのを確認してから中庭に出る。すでに竜司がイライラしながら自販機前に陣取っていた。

バレないように隠れていると、少しして雨宮くんがやってくる。

 

「くそっ!どうなってやがんだ……!」

 

「見つかったのか?」

 

「そう見えるか?…ったく、どいつもこいつも三島みてぇなこと言いやがって!ぜってー鴨志田になんか言われてんだ!」

 

「こうなりゃ…ヤロウに直談判するしかねぇ…かな」

 

竜司の声色はセリフに対してだいぶ弱気だ。

やはり、鴨志田に植え付けられた暴力の記憶がフラッシュバックするのだろうか。

 

「最初からそうすれば良かった。」

 

「んなこと、分かってっけどよ……マジなんとかなんねーのか?こんな事で泣き寝入りなんてゴメンだぜ!なんかねえのか……?」

 

「闇討ちは?」

 

「バレねえように出来たら良いけどよ…もしバレたら終わりだろ?」

 

そんな物騒な。

 

「なら、城主を懲らしめよう。」

 

「城主って…あっちの鴨志田か?その発想はなかった、けど…それ意味あん────」

 

「やっと見つけたぞ!」

 

モルガナの声が聞こえてきた。

雨宮くんと竜司は困惑している様子で、周りを見回している。

 

「ワガハイに仕事させといて、タダで逃げられると思うなよ?」

 

「猫が喋ってる!?」

 

「猫じゃねえモルガナだ!」

 

「お、おい!蓮もなんか聞こえるよな!?」

 

「にゃーん。」

 

「言うと思った」

 

ペルソナ5は、主人公の選択肢次第でカッコいいキャラと寡黙キャラ、お調子者キャラとを何となく決められるが、雨宮くんはどうやらお調子者キャラのようだ。

 

「それより、オマエら手こずってるみたいだな?証人がどうとかってやつ」

 

「るせえんだよ」

 

竜司からしてみれば、モルガナの声が外に漏れ聞こえてたらマズい状況だ。黙らせたいと思うのも無理はない。

 

「カモシダをなんとかする方法、教えてやらんでもないけどね。さっきオマエ、良い線突いてたぜ?」

 

「その腹立つ上から目線!モルガナだわ!今確信したわ!」

 

「まだ疑ってたのかよ!?」

 

「ばか…声がでけえよ!」

 

そういえば、確かモルガナが入った影響で猫探しが学内で行われてるんだったな。生徒会にも探すように来ていたはずだ。

まぁ、俺は生徒会にも関わらず何一つとして仕事をしてないわけだが。

 

「ワガハイの声は、普通のニンゲンには猫の鳴き声にしか聞こえてないらしいぜ?」

 

「どうなってやがんだ…てか、さっきの話本当だろうな?聞かせてもらうぜ…つっても、ここじゃマズいよな。」

 

おっと、移動か。確か屋上に行くんだったな。

これ以上聞くことは出来なさそうだ。俺は練習に行くとしよう。

 

体育館には既にある程度人が集まっており、その中に鈴井さんはいない。皆、何かソワソワしたような面持ちでいる。

かく言う俺も、知っていて行かせたという罪悪感が湧いてきた──────その時。

 

「すまんすまん、待たせたか?」

 

「──────マジか。」

 

鴨志田が何食わぬ顔でやってきた……が、何かに引っ掻かれたり、殴られたりしたような痕を顔に残している。

瞳孔はアドレナリンでガン開きになっており、まるで一個の戦いでも終わらせてきたかのように興奮状態に見える。

 

「……カモシダ先生?何があったんです?」

 

「聞くな。」

 

「アッハイ」

 

どうしても気になり、俺は練習後、パレスで確認してみることにした。たしか、アン殿が捕まる部屋にもう一度行くと鈴井さんの写真が貼られまくっているはずだ。

認知存在としての鈴井さんの立ち位置を見れば、今日何があったのか分かるだろう。

 

「………と、思って来てみたら。なんだこれは…」

 

見れば、パレス全体が何やら傷ついている。

鴨志田は姿を見せないし、兵士たちも傷ついている。

 

「い、一体何が…」

 

アン殿の捕まっていた部屋まで入り込むと、そこは「戦勝記念室」となっており、写真には激しく抵抗し、椅子や机を振り回して戦う鈴井さんと、やられながらもなんとか殴り勝った鴨志田の写真が飾られている。

 

「………怖。」

 

暴行事件…というよりは乱闘騒ぎだが、少しだけ安心した。鈴井さんはやられてしまったが、それでも抵抗することをやめなかったのだと。

 

「…さて。攻略再開と行くか。」

 

図書館まできちんとシャドウを一体ずつ始末しながら、ワイヤーアクションを駆使して楽できるところは楽をした。

そして、俺は原作でジョーカーが使っていた遠隔チャンスエンカウントの習得に成功した。

 

「こうやって、ワイヤーを飛ばして……敵の頭にブッ刺してから────跳ぶっ!」

 

身軽にシャドウの肩に飛び乗り、その仮面を引き剥がす。相手は赤いオーラを漲らせた強敵。ベリスだ。

ベリスのレベルは9。チャージからのスラッシュにさえ気をつけていれば、恐るるに足りない。

 

「何者────はっ、賊とはな…この私に挑んだことを、後悔するが良い!」

 

「全部見切ってやるよ……」

 

ゲームでは、基本的に「攻撃に素直に当たること」が前提で敵が技を振ってきていた。当然だ、古き良きRPGの原型はそこだからな。

だが、実際の戦闘はターン制なんかじゃないし、強いやつは反撃の機会なんか与えてくれない。

 

「うおおおっ……!」

 

力を溜めているベリスを尻目に、俺は廊下中を跳び回り、その度に銃剣で斬りつけていく。

相手は鎧を着ており、馬上。当然ながら有利を取られている。人間部分への刃の通りは悪いが────馬は別だ!

 

「なっ…!?貴様、卑怯な!馬を攻撃するなど……」

 

「そういうとこが…甘えってんだよ!」

 

鎧の隙間から刃を通し、首元に突き刺す…が、浅い。致命傷をズラされた。

強敵シンボルは伊達じゃないか。

 

「中々やるようだ…ならば、もはや容赦はせん!」

 

「はっ、木偶人形がどうやって────はぐあっ!!」

 

ベリスが突然掌底を喰らわせてくる。ハルバードしか使わないと思っていたが故の、盲点!

俺の身体は数度バウンドし、10mほど転がる。

 

「…げほっ、突然…パターンを変えて、来やがって……どういうつもりだ…」

 

「フフ…ハハハ……!貴様に一撃を貰った時、()()()()()()()()()のだ!そしてわかったぞ。」

 

「……何が」

 

「私はカモシダ様の兵士などではない。我こそ、人々の心の中に巣食うシャドウ────ベリス!名を名乗れ!貴様の名を覚えておいてやろう!」

 

…なるほど。このシャドウたちは、何かに縛られていると決まった動きしか出来ないが、一度自分が何者かを思い出せば、自由に動ける────そういうことか。

 

「生憎……アンタに教えられるほどの名は持ち合わせてないんでね」

 

「ならば無名の賊として死ね!」

 

ベリスの槍に雷光が嘶く。全身の神経が危険信号を発し、前に飛び退く。直後、電撃を纏った斧槍が背後に突き刺さる。

 

「ばっ、てめっ…!反則だろ!」

 

「ハハハハ!なんとでもほざけ!」

 

ベリスはジオを覚えない。覚えるはずがない。

であれば─────馬の方のスキルか!?

 

「駆け抜けろ、ザグレウスッ!」

 

ザグレウスを呼び出し、コウハを放つ。

だが、それは斧槍により防がれる。やはり…近接戦闘で決着を付けるしかないのか?いや、それでは分が悪い。

 

(……なんとしてでも、重スナイパーライフルを直接ぶち当てるしかない)

 

あれが直撃すれば、どんな硬い鎧でも貫通し、大穴をぶち開けてくれるだろう。

 

「ほう?遠距離攻撃か……よかろう、このベリスの突進と、貴様の早撃ち、どちらが速いか───勝負っ!」

 

弾を込め、雷光を纏った斧槍を構えて突貫してくるベリスに突っ込む。相手もまさか突貫してくるとは思ってなかったのか、少し身体が強張る。

その、一瞬の隙をついて。馬の股座の下を滑り抜け、構える。

 

「くたばれ…ッ!」

 

ドスン!大口径から放たれたライフル弾がベリスを貫き、黒いチリを撒き散らす。

 

「見事…」

 

ベリスが死んだのを確認し、俺は胸を下ろす。

それと同時に、レベルが上がったのを確認する。俺の計算では、まだ上がらないはずだったが…相手の全力を引き出して戦えば、経験値効率も良いのだろうか?

 

「本格探索前にレベル11は余裕そうだな…よし。」

 

今日のところは一旦引き上げ、他のことをやることした。

そう。武器の調達だ。

 

「ここがあの男のハウスね…」

 

今回欲しいものは、銃剣に変わる双剣と小回りのきく拳銃だ。

店に入ると、愛想のない店主…岩井さんがぼんやりと新聞を眺めていた。

 

「…いらっしゃい。」

 

展示されているガンラックを眺めつつ、岩井さんに話しかける。

 

「すみません、グロックをお願いします。」

 

「………モデルガンか?それともエアソフトか?」

 

「モデルガンで。」

 

岩井さんが奥からグロック19を持ってきてくれる。これ一つで幾らぐらいになるかは知らないが、俺にはシャドウをシバいて得た金がたんまりある。

 

「それと、取り回しのいい銃剣みたいなのってありますか?」

 

「銃剣だぁ?刃渡は」

 

「あー…マチェットぐらいのやつで」

 

なんでガンショップで近接武器やアクセサリーが買えるのかは分からないが、あるのだから仕方ない。

全部買った後、俺は慎重に家に持って帰った。

 

「ふむ…早速振ってみたいが。結構重いな」

 

よくよく考えてみなくても、鍛えていない女子高生一人程度の力で存分に振るえるわけがない。

が、そのために俺はどんな努力も惜しむつもりはない。

 

「まずは基礎からだ。筋トレはHPを5ずつ上げる!」

 

梁上懸垂でHPが8〜9伸びるんだ。最初は少しだけでも、ちょっとずつあげていこう。

まずは腹筋、そして腕立て、プランク、シャドーボクシング、キック連打だ。当然、冷蔵庫にはササミがある。

 

「くっ、くそ、スポーツウェアがねえから適当にしたが……脂肪が揺れたい放題だ!じゃ、邪魔!」

 

どこがとは言わないが、ブルンブルン揺れて邪魔くさい。ちゃんと抑えなければ…世のアスリート女性はこんなものぶら下げてんのかよ。

シンプルに尊敬だな。

 

「……ハァ、クソ。スポーツウェア買わねえとな」

 

ワンセット終わり、息をついてそうごちる。

結局、その日は風呂に入り、そのまま寝てしまった。

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