TS男のシーフユニオン活動録   作:Xbox360

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投稿時間を間違えていました


4/15 舞踊する愛

 

早朝。

 

シャベルと軍手、それにサバイバルキットを背負い、俺は始発電車に乗って秀尽学園前まで来ていた。目的はひとつ。

鈴井さんの飛び降り対策だ。今日、彼女は鴨志田からの暴行を受けたことを理由に飛び降りてしまう。そこで、彼女は物語から退場し、あとのことはアン殿のコープでしか分からなくなってしまう。

 

「しかし…怪我を減らすことだって出来るはずだ」

 

目の前には、がっつり閉ざされた校門。守衛すら来ていない。だが、ちょっとでも乗り越えようとすれば警備員がすっ飛んで来るだろう。

 

ならばどうするか?

 

「こうやるんだ……よっ…!」

 

秀尽学園の近くにある自販機置き場。そこのブロック塀に登り、近くの木に飛び乗り、ワイヤーフックを使って音もなく忍び込む。

 

「ぐえっ!」

 

怪盗の時のように上手くいかず、着地に失敗しごろごろ転がる。だが、軽く擦りむいただけでこれといった怪我はない。

10m近く落ちたのに、頑丈なことだ。

 

「さて…こっからが本番だ」

 

「何がだ?」

 

「そりゃもう、人助けよ」

 

「へぇ〜、立派なヤツだな」

 

うん?おかしい、学校には誰もいないはず。

辺りを見回しても近くに人影はない。まさか、と思い下を見れば、見覚えのある黒猫────モルガナがいた。

 

「ようやく気付いたか。オマエ、ワガハイの目の前に降ってきたもんだから驚いたぜ」

 

「驚かせたならゴメン。俺ちょっと急いでるから、またな」

 

体育倉庫へと足を運ぼうとすると、モルガナが俺の前に躍り出る。

 

「まぁ待てよ。ワガハイが手伝ってやる。オマエがこれからワガハイたちを助けるのに、ワイヤーフックを渡すだけってのもシノビない」

 

「……なら、そうだな。ピッキングを頼めるか?」

 

「任せとけ」

 

早速、体育倉庫に急行し、モルガナにピッキングをしてもらう。ツールの作り方は分かっても、実際に開けられるかは別だ。

 

「こんなところに何の用なんだ?」

 

「コイツが目当てだ」

 

体育用マットを指差し、運ぶ。ペルソナ使いになった影響か、軽々と重いものを運べる。

俺はマットを「とある位置」に置くと、そのまま土を掘り返し、マットの上に載せていく。なるべく耕して感触が柔らかくなるようにする。

 

「なあ、何でこの位置にこれを?」

 

「秘密だ。すまんな」

 

モルガナがしきりに俺の真意を問うて来るが、まさか俺が「この先の未来の展開をほとんど知ってるし、ある程度コントロールしようとしてます」なんて言ってみろ。

怪盗団の理念的に、そのうちボコられてメメントス最奥のムショにぶち込まれて一巻の終わりだ。

 

「よし、これでまぁ大丈夫だろ」

 

時刻は現在6時45分ほど。そろそろ人が来てもおかしくない時間帯だ。

俺は持ってきた道具を鞄にしまい、モルガナを肩に乗せてワイヤーフックで渡り廊下の上に飛び乗る。

 

「コイツの扱いにも慣れてきたみたいだな」

 

「まぁね」

 

そのまま校舎にワイヤーを引っ掛け、誰にも見られることなく学校の敷地内から脱出する。完璧だ──────。

 

 

「………桐崎さん?」

 

生徒会長(ニイジマ マコト)に見つからなければ、の話だが。

 

「なに、してるの?」

 

目の前には、困惑する生徒会長。だが、当惑しているのは俺も同じ。確かに新島真ならこの時間帯に来ていても違和感はない。

だが、まだ学校は開いてないのだ。来るはずがない。特に、それを知っているだろう新島真ならば。

モルガナは危機を察知してさっさとトンズラこいた。この場所には、俺一人だ。

 

「今、結構上から落ちてきてたよね?怪我はない?」

 

「会長こそ、こんな時間から学校なんて早いですね」

 

「ええ、まぁ…生徒会長だもの、特別に開けてもらってるのよ。それより、あなたこんな所で何してるの?」

 

「ハハハ…」

 

誤魔化そうとしたが、ダメだ。

まぁそうだよな。この人全国一位とか二位とかだし。明智吾郎とタメ張れるような頭脳の持ち主に、俺程度のしょうもない頭脳で誤魔化しが効く訳がない。

 

「とぼけてないで答えなさい。どうして上から降ってきたの?」

 

「………パルクールの、練習中で。ちょうど失敗したところなんですよ。受け身取ったんで、大丈夫ですよ!」

 

ぱっと笑って、後退りしながら詰問から逃れようとする。パルクールの練習なら、上から落ちてきても問題はない…はずだ。

 

「あなた、そんな趣味があったの?」

 

「ほら、今まで私って特徴無かったじゃないですか。なんで、ほら。キャラクター付けようかなって!」

 

「そんなことないわよ。あなたは他の誰よりも真面目に生徒会活動をしてくれてたし、どんな仕事も嫌がらずにやる、真面目な子っていう、ちゃんとした印象があるわよ」

 

俺ってそういうキャラだったんだ。生徒会なんて転生してから一回も行ってないからまるで分からなかったな。

 

「今は…分からないわね。校長先生に何か言われているの?転校生の…雨宮くんと一緒にいることが多いみたいだけれど」

 

「…ま、私も変わろうとしてるんですよ。もう行っていいですか?」

 

「待ちなさい。パルクールだけど、今度はちゃんとしたコースでやるのよ。危ないから。」

 

「はーい。」

 

パルクールで通った。ヨシ!……とは行かないらしく。

 

俺が雨宮くんを迎えに行く最中。ふと後ろを振り向くと何やら雑誌で顔を隠しながら尾けてくる人影がある。

バレバレの尾行。十中八九、新島真だ。

 

「………あの」

 

「……………。」

 

ただ尾行されているだけなら問題はなかったが、満員電車のなかでお互いに至近距離でくっ付いてしまった時は笑いを堪えるので大変だった。

バレてないと思っているのか、雑誌で顔を隠して無視を決め込んでいる。

 

「………私、行きますからね。ついて来ないでくださいね」

 

「………………。」

 

四軒茶屋に着き、ルブランの前で待っていても、新島真は電柱の陰に隠れて見張ってきている。

数分後、雨宮くんが出てきて挨拶してくる。気まずくなれば帰ってくれるだろうか?

 

「おはよっ、蓮くんっ!」

 

「おはよう。零。」

 

手を差し出すと、雨宮くんは俺の手を何の疑問もなく取ってそのまま歩き始める。この色男め。

こっちのして欲しいことを察するとは。だから11股も出来るんだな、なんて思いつつゆっくり歩く。

 

「蓮くん、耳貸して」

 

「……?」

 

雨宮くんの耳に睦言を囁くような表情で────。

 

「尾けられてるの。ちょっと付き合って」

 

と言うと、雨宮くんは無言で頷く。

四軒茶屋の入り組んだ路地を抜け、そそくさと地下鉄に乗る。気がつけば、すでに新島真を撒いていた。

 

蒼山に着く頃には、尾行の影も形もなかったので、じっとりと汗で濡れた手を離し、雨宮くんに礼を言う。

なにも、電車の中まで手を繋ぐことはなかったな。おかけで手がヌルヌルだ。

 

「もういいの?」

 

「大丈夫そう。ありがとね」

 

ケツで汗を拭き、教室まで歩く。

事件は、午前中に起きた。

 

「おい、あれって……!」

「志帆っ!?」

 

鈴井志帆の飛び降り事件は、俺の想定よりも遅くやってきた。

中庭で倒れ、ぐったりとしている鈴井さんは、俺の敷いておいたマットのお陰で比較的軽傷で済んだらしく、軽い脳震盪と打撲で済んだようだった。

 

「……えっ、鴨志田!?志帆、まさか…」

 

「ゴメンね…杏……わたし、もう、無理…」

 

逃げていく三島、それを追う雨宮くんと竜司。俺は、何も出来ずにただ立ち尽くしていた。

牛丸先生に声をかけられ、ようやくハッとして周りを見ると、「授業に戻るぞ」と言われる。

 

「ショックを受ける気持ちは分かるが、そういう時こそ普段通りにするものだ。さあ、早く戻りなさい」

 

「はい…」

 

ショックを受けているか、と言われたら「受けている」というのが本音だ。だが、それと同時に安堵もある。

物語は想定通りに進んでいる。それどころか、原作通りながらもやや後味のいい結果に出来ているのではないか。

そう思うと、少しだけホッとする。

 

「………本当に、これで良かったのか…?」

 

いやいや、と(かぶり)を振って、校舎へと走る。

今は己の行為の是非を問うている場合じゃない。雨宮くんたちの様子を確認しなければ。

 

「みんなは…ロッカールームにも中庭にもいない。体育教官室か!」

 

体育教官室に行くと、怒号が聞こえてくる。扉が半開きになっている。

覗いてみると、雨宮くん、竜司、そして三島が鴨志田と相対していた。対する鴨志田は、なぜか顔に絆創膏が貼ってある。

 

「昨日、鈴井は先生に呼ばれてた…俺は命令されて、仕方なく…」

「鴨志田ァッ!」

「よせ、竜司。手を出したら奴の思う壺だ」

 

竜司を止める雨宮くんが意外だったのか、鴨志田が振り返る。見ているのをバレたらマズいので、顔を引っ込めて音だけ聞くようにする。

 

「意外だな、お前が止めるなんて」

 

「どういう意味だ?」

 

「傷害事件の前歴持ちで、次問題起こしたら少年院行きなんだってなぁ?もし仮に、お前らの言うようなことが事実だったとして…三島、お前も同罪だからな!」

 

「えっ!?」

 

「そいつの前歴の噂流したの、お前だろ。裏サイトとかSNSで流したんだってなぁ?酷い話だよまったく…」

 

「それも、命令されて……仕方なかったんだ……」

 

「お前ら全員、次の理事会で吊してやる。結局お前らは、俺に人生を奪われて終わりってわけ。分かったらさっさと出てけ!」

 

おっと、これ以上の長居は無用か。

急いで女子トイレに駆け込み、体育教官室から出てきた3人が行ったのを確認し、誰にも見られないようひっそりとパレスへ向かう。

 

今ごろ、雨宮くんと竜司、そしてモルガナは中庭あたりで話し込んでいるだろう。

パレスの中に入ると、なにやらいつもより警備が厳重になっていた。雨宮くんたちが正面切って喧嘩を打ったんだ。厳重にならないわけもない。

 

「さてと、今日はどれぐらい進むかな」

 

ワイヤーアクションを駆使しつつ、シャドウを撃破しながら進んでいく。図書館に沸き直した強敵シャドウも相手にしつつ、新しく手に入れた銃で翻弄し、なんとか無傷の勝利をする。

 

「よし、レベルアップだ。」

 

新しいエリアに着く頃には、すでにレベルは11。スキルも新しく獲得した。

「コウハ」「テンタラフー」「リカーム」「物理見切り」。五つめとなるスキルは、「メギド」だ。

 

「ここにきて万能属性か…いいね、強くなってきた実感がある」

 

早速試すべく、礼拝堂へと入る。

確認してみれば、敵は密集しており、固まっている。ここからメギドを撃てば、何体も巻き込んで倒せるかもしれない。

 

「メギド」

 

手をかざし、魔法を唱えると、そこから光の球が現れていき、敵を一瞬で包囲する。シャドウたちは突然現れた光球に困惑しながら、じりじりと内側に密集し──────俺は、おもむろに手を握る。

すると、光球は煌めき、まばゆい光線がシャドウたちを焼いていく。

 

「………ばかな。」

 

指揮官と思しきシャドウが殲滅されていく部下たちを見て呟いたのが印象的だった。

 

「な、何者だ!こんなふざけた真似を────」

 

「よう、(オレ)だぜ」

 

背後に回り、飛び乗って仮面を剥がす。出てくるのは、天の刑罰官ことアークエンジェル。その表情は窺い知れないが、怒りに満ちているのは確かだ。

 

「賊…!よくも好き勝手してくれたな。いいだろう、この私────カモシダ様親衛隊が一人………いや、今こそ仮初の仮面を剥がし、真なる我へと成ろう。」

 

「何を……まさか!」

 

天の刑罰官の雰囲気が変わる。忠誠心に満ちた雰囲気から、罪人を裁く、天使のような厳しい雰囲気に変化していく。

 

「私はカモシダ様親衛隊などではない。真の名を、アークエンジェル。陰から襲撃する卑劣さ、赦し難い。何をもって貴様の不義理に報いようか?」

 

「お生憎様、赦されたいなんざ思っちゃいないんでね。くたばりな、アークエンジェルッ!」

 

「抜かせ。」

 

アークエンジェルの剣先にオーラが集中していく。マズい気配を感じ、ハンドガンで羽を狙って射撃するが、大きな紅い翼には掠りもせず、悠々と避けられる。

 

「金剛────」

 

「クソッ!メギドァ!」

 

光球の輪がアークエンジェルを取り囲む。

 

「発破!」

 

アークエンジェルは立体機動飛行でそれを回避しつつ、激しい衝撃波を放ってくる。ワイヤーアクションで2階にぶら下がり、間一髪で避ける。

ごう、と突風が吹き荒れ、俺のいた位置には激しい破壊痕が残っている。

 

「………っ」

 

生唾を飲む。あれが当たっていたら、確実に死んでいた。

 

「どうした、私に一撃与えただけで怖気ついたか?」

 

見れば、メギドを食らってなお平然と動き、オーラを纏った剣を振りかぶって飛んでくるアークエンジェルの姿がある。

ワイヤーを引っ張り、軽く浮遊する。片手に逆刃にした銃剣を持ち、すれ違いざまに切り付ける。

 

「曲芸か、くだらんな。むんッ!」

 

アークエンジェルが軽く剣を振りかぶると、斬撃が飛んでくる。

 

「ザグレウスッ!」

 

コウハを3発放ち、それを相殺する。SPはもうスッカラカンだ。道中で使いすぎたのと、メギドの一発一発の消費が重いのがある。

ここからは、スキルを使わずに戦わなければならない。

 

「疲れが見えるな、いま楽にしてやる。金剛───」

 

「また金剛発破か!?芸がねぇなぁ!」

 

「発破!」

 

面の攻撃が飛んでくる。俺の身体は本能的に危険を察知し、安全地帯へと飛び込む。

攻撃の影響で軽く耳鳴りがしたが、それを無視してアークエンジェルにワイヤーを引っ掛け、急速上昇する。

 

「せぇやっ!!!」

 

回転しながら切り付け、そのまま重力に従って銃剣を脳天に突き刺す─────直前、アークエンジェルの掲げた剣に軌道をずらされ、致命傷を避けられる。

 

「なかなかやる。だが!魔法の使えぬ貴様など、ただの道化よ!」

 

「さらにもう一発!」

 

「ええいっ!煩わしい!」

 

空いた片手で首に銃剣を突き刺そうと振りかぶると、そのまま首を掴まれ、地面に投げ飛ばされる。

 

「かっ………は……!ザグ、レウス!」

 

一瞬意識が飛びかけたが、ザグレウスを顕現させてアークエンジェルに向かわせる。ザグレウスは武器を持たないペルソナだ。故に、時間稼ぎにはなるかと思ったが──────。

 

「くっ、ちょこまかと…!」

 

ザグレウスは俺に使われている時とは裏腹に、超高速でアークエンジェルを翻弄する。どうやら、アークエンジェルのそばを通るたびに爪で斬りつけているようだった。

 

「……ザグレウスよ…俺がオマエなら…俺もそれ、出来るはずだよな…!」

 

ザグレウスのように超高速ではないものの、ワイヤーを飛ばし、ザグレウスの攻勢に加わる。

俺を狙おうと思えばザグレウスに斬られ、ザグレウスを打ち落とそうとすれば俺が妨害する。言わば、『一人総攻撃』だ。

 

「ばかな……バカなァァァ!!!!」

 

「──────終わりだ」

 

両手に握った銃剣を首めがけて十字状に突き刺す。そのまま銃剣を振り抜き、アークエンジェルの首を落とし、天使を地に堕とす。

だが───アークエンジェルは、まだ死んでいない。

 

「粛、正!」

 

口で取り落とした剣を噛み、首だけながらも斬撃を飛ばしてきた。

 

「がっ、くそ、くたばれ、畜生ッ!」

 

袈裟に大きく肌を裂かれながらも、拳銃でアークエンジェルの首を撃ち抜き、消滅させる。

 

「はーっ……はぁーっ………しぶとすぎんだろ…!」

 

ぼろぼろと消えゆくアークエンジェルを眺めつつ、斬られた部位に傷薬を塗りこんでいく。肩口から腰あたりまでを斬られた。

幸い、ペルソナ使いだったから両断はされなかったが、出血がひどい。

 

「……帰らなきゃな…家、に……」

 

まずい。意識が朦朧としてきた。

ここで気絶するわけにはいかない。もし、気絶したなら、俺はきっとここで死んでしまうだろう。それだけは避けないと。

 

「……ワイヤー、アクションで…ショトカ………ぐふっ」

 

倒れ込み、消えゆく意識のなか、俺は、見覚えのある人影を見た──────。

 

 

           ♦︎

 

 

「ちょっと!これ何かの撮影!?フーゾクってやつ!?マジ、ケーサツ呼ぶから!」

 

もうさんざん。学校が城になったと思ったら、今度は拉致されて磔にされるなんて。

目の前には、ハダカにマントを羽織った変態───鴨志田がいる。その隣には、私…高巻杏のニセモノが猫耳ビキニ姿で立っている。

 

(気持ち悪い…!)

 

「さーて、どこから切っちゃおうかな〜…!」

 

鴨志田は剣を使って器用に私の服を斬ろうとしてくる。服に剣が触れる──────その時。金色の鎧を着た兵士が鴨志田に耳打ちをする。

 

「……なんだと?なんでアイツが…」

 

「それが………」

 

「なっ、なんだと!?ふざけんな!殺してないだろうな?俺様のボールを受けられる唯一の生徒なんだぞ!?」

 

「は、はい!」

 

鴨志田は舌打ちをして、私に向き直る。けれど、直後に飛び込んできた人たちによってそれは妨害された。

 

「高巻ぃっ!」

 

現れたのは、金髪にドクロの仮面を被り、暴走族のような格好の男と、黒髪にマスカレードマスクを付けたいかにも「怪盗」って感じの男。そして謎の化け猫。

 

「その声…竜司!?そっちの彼は……もしかして、転校生くん?どうして……」

 

「またお前らかぁ?ったく…お前ら賊は懲りねえなあ。あのー、なんだっけ?鈴井とかいう奴、アイツが飛び降りたの、お前のせいだからな、高巻」

 

「え…?」

 

ぴん、と音が消える。

何を……言っているの?こいつは。志帆が飛び降りたのは、私のせい?

 

「お前が相手してくれないから、変わってもらったんだよ。けどアイツ、最後まで抵抗しやがって……おかげで痛い目に遭った。」

 

「そんな………志帆は、だって」

 

まだ、そんな迷い言を信じているの?

 

「スタメンにって…努力が認められてるからだって……」

 

「んなわけないだろ。いいか?俺の指導に耐えられずに立ち向かわず、弱音を吐いて逃げ出すような奴なんか、所詮替えの効くゴミに過ぎん」

 

分かっているんでしょう?貴女はずっと目を背けていた。

見たくない現実から目を逸らし、都合のいい「真実」だけを見続けていた。

 

「は、はは……そうだよね。ホントは…気づいてたはずなのに。ゴメン…志帆……私……」

 

「お前らも見てけよ、解体ショー。」

 

(こんなクズ、死んで当然──────)

 

本当に?

 

「また言いなりで、許すつもりか?」

 

良いわけない。だって、そんなの。志帆に顔向け出来ないから。

逃げてばっかりの私は、もう嫌だ。

 

「────そんなのやだ。」

 

心の中で、何かがぴたりとハマる感覚がする。

 

「そうだよね。こんなクズに言われるがままなんて……フ…フフ……どうかしてた…!」

 

全身に力が入り込んでくる感覚。

 

「だからよ、奴隷は大人しく…」

 

「…うるさい!」

 

力は、私の身体の中を巡り、全身に活力を与えていく。

 

「もうね、ムリ。マジでムカつきすぎて────どうにかなっちゃいそうよッ!!」

 

叫びに応えるように、頭の中に声が響いてくる。

 

『まったく……出番が遅すぎるのよ。』

 

心臓が跳ねる。

 

「あ……ッ!」

 

声が漏れる。激しい痛みが私を襲う。

 

『お前が立ち向かわないで、誰が恨みを晴らしてくれるの?──────許す気なんて初めからなかった。』

 

全身に漲った力が暴れだす。

激しい痛みと痒みが、私の全身に広がっていく。

 

『お前の中のもう一人のお前が、そう叫んでる…』

 

我は汝。

 

『汝は我。』

 

(──────やっと契約、結べるね。)

 

痛みに叫びながら、その名を呼ぶ。

 

「聞こえるよ…『カルメン』。わかった、もう我慢しない…!」

 

『そうよ。我慢なんかしていても、何も解決できない。分かったのなら、力を貸してあげる。』

 

一気に衝動のまま仮面を引き剥がし、ビジュアルのことなんか何一つ気にせず、力を解放する。

そのまま拘束を破り、剣を蹴り飛ばし、空中でキャッチする。そのまま私の気持ち悪いニセモノを叩き斬る。

 

「──私、あんたなんかが好きにできるほど安い女じゃないから。」

 

「こいつ…!」

 

「志帆から全部、奪って踏み躙った…あんたは許さない!あんたの全てを奪ってやる!!」

 

ここからは、私の時間だ。

 

 

           ♦︎

 

 

「──────はっ!?」

 

目を覚ますと、俺の視界に保健室の天井が飛び込んでくる。

最後に見たあの人物……髪をポニーテールにまとめた女子の姿を探すが、どこにも見当たらない。

 

「あ、起きたんですね。おはようございます、桐崎先輩」

 

困惑していると、保健室に吉澤すみれが入ってくる。まさか、彼女が?いや、それはない。彼女がパレスやイセカイの存在を知るのは、もっと後のはず。

 

「吉澤………かすみさん、だよね?どうしてここに…」

 

「やっぱり覚えてませんよね。学校の正門の近くで倒れていたんですよ。ずっとうわ言のように何かを呟いていて…」

 

「それは…ごめん。迷惑かけたね。私はもう大丈夫だから、ありがとうね。」

 

「いえ。お礼なら私じゃなくて鴨志田先生にお願いします。私の腕力じゃ桐崎先輩を引きずるのがやっとだったんですけど、鴨志田先生が一緒に運んでくれたんですよ」

 

「カモシダ先生が……」

 

この手のこととは全く無縁だと思っていたが、まさか鴨志田に助けられるとは。

起き上がり、全身が軽くなっているのを感じてからゆっくりとベッドから出る。

 

「もう大丈夫なんですか?もう少し休んでいても…」

 

「んにゃ、だいじょーぶ。ほらこの通り」

 

軽く跳んでみせると、吉澤すみれは安心したような表情を見せる。

それを確認し、荷物を持って保健室を出ると、ちょうど経口補水液を手にした鴨志田と鉢合わせる。

 

「桐崎、もう平気なのか?驚いたぞ、倒れたなんてな。保健室の先生が言うには、身体になにか異常はなくて、強いストレスが原因…だってよ。」

 

「私を運んでくれたって聞きましたよ、カモシダ先生」

 

「礼は要らん。それよりも、倒れたのが学校の近くで良かったなぁ?別の場所なら助けてやれんぞ」

 

「いやぁ…すみませんね。身体に支障はないんで、練習行けますよ」

 

「馬鹿か?今日はもう帰って休め。まあ、今日はショッキングな出来事があったばっかなんだ。とにかく休息を取れ、良いな。」

 

そういう鴨志田の瞳はやや揺れている。動揺が抜けきっていないんだろう。

あり得ないとは思うが、まさか罪悪感を感じているのだろうか?俺と一向に目を合わせようとしない。

 

「はーい。あ、それと!」

 

「?」

 

「別に、カモシダ先生のせいじゃありませんから。そんな泣きそうな顔しないでください」

 

そういうと、軽いげんこつが俺の頭に落ちる。

 

「心配してるだけだ、馬鹿もんが」

 

「いで〜っ!ふふ、ありがとうございます。じゃあ、私はこれで」

 

ほんの少し、鴨志田の雰囲気が和らいだ気がした。

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