TS男のシーフユニオン活動録 作:Xbox360
今日は日曜日。何もしなくて良い日だ。
雨宮くんたちは渋谷まで武器を調達しに行っているはず。待ち合わせは昼頃で、今は朝の7時ごろだ。
俺の今日の予定は特に決まってはいないが、人間パラメータを上げるのに費やせたらいいな。
そう思い、早速俺は映画館へと出掛けることにした。
「幸い、金は無限にあるしな。無くなったらパレスかメメントスで調達すればいいし」
いざ渋谷に着いてみれば、思いのほか人が多い。
目黒から渋谷までは電車で二駅と5分ほどで到着するので、朝一なら人は少ないかと踏んでいたが……そんなことはなかったようだ。
「ん?あれは……寅さんじゃん。」
朝だと言うのに、くたびれた様子の、しかし覇気のある中年男性が渋谷駅前のロータリーで演説の準備をしている。
そういえば、今日は武器確保の他にも寅さんとの初邂逅や潜入道具作りなんかがあったっけ。
「ま…演説に関しちゃジョーカー以外に必要とは思えないけどな」
一応顔だけ覚えて素通りし、映画館に向かうついでに駅地下モールに顔を出してみる。
宝石だの贈り物だの、センスのない俺には分からないが、何が高いものなのかを知っておけば今後も何かと役に立つかもしれない。
「いらっしゃいませ」
初めに来たのは、アクセサリーショップだ。
ここには有用なアクセサリーが置いてあり、「活泉」シリーズや「魔脈」シリーズの効果を持ったアクセサリーが売られていた。
「は、80000円…」
「それをお気に召されましたか?そのチョーカーを付ければ、自然とやる気が湧いてくると評判なんですよ〜」
手持ちは現在9万円。これを買えば、他のものは買えなくなる……が、SP+30%は流石に買う他ないのではなかろうか?
「か、買います…」
「ありがとうございます〜」
財布は貧しくなったが、ソウルチョーカーを購入して気は大きくなれた。
やや惜しみながら駅地下モールから出て、セントラル街に出る。
映画館のほうに近い出口から出て、そのまま映画館に直行する。
「なんの映画やってるかな…お、アニメ映画じゃん」
某探偵漫画のアニメがやっていたので、見てみることにした。
結果から言えば、知識がやや上がったような気がした。やはり、映画は良い。特に探偵ものは、俺の脳みそを活性化させてくれる。
「やっぱ……散財するのは気持ちいいな。溜め込むなんて性に合わないや」
満足しながら映画館を出ると、ちょうど路地裏に入っていく雨宮くんと竜司を見かける。カバンの中にモルガナも見えた。
折角なので、三人が何を買うのか見に行ってみることにしよう。
「ん…ミリタリー飯自販機?一回800円か。たしか回復効果もあったような…?」
自販機でそれぞれいくつかの種類を買う。出てきたミリ飯の缶は少しベタついているが、保存は効いていそうだ。
「────オートマ?なんで急にクルマの話すんだよ」
缶を吟味していると、頓珍漢な竜司の言葉が耳に飛び込んでくる。
俺も少し齧っただけとはいえ、それが車ではなく銃器の話だというのは判る。いや、本当に興味がない人ならそういうものなのか?
「ここはシロートじゃなくてマニア向けの店だ。おととい来な」
「シロートじゃねえし!こないだここで買ったし!」
「覚えてねえな」
小馬鹿にするような物言いに、竜司がウンザリしたように雨宮くんに代わりの買い物を頼む。
リアルなものが欲しい、ということだったはずなので、ここで雨宮くんは出来のいいモデルガンを買うはずだ。
「……一体何を買うんだ…?」
「あれ?桐崎じゃん。なんでオマエがここに?」
「え」
俺が雨宮くんの様子を眺めていると、突然横から竜司が話しかけてきていた。こいつ、いつの間に…!
「………こう見えてもガンマニアでね。今日も良いのがないか探しに来たんだ。」
「いや違ぇだろ。オマエ今さっきまで蓮のことしか見てなかったじゃねえか。」
こ、こいつ!気付いていてその上で…!
竜司のくせに、頭が回りやがる……いや、そうでもないか。なんだかんだで竜司はバカな振る舞いをしているだけで地頭は悪くないはずだ。
だって秀尽学園は進学校だし。そこに入れる時点でそこいらのヤンキーとは格がちがうのだ。
「なにオマエ、もしかして蓮のことが……もごご」
「そういうのじゃないから、勘弁してくれ」
下世話なことを言ってくる竜司の顔を押し、訂正する。
確かにジョーカーのことはキャラとして好きだが、恋愛がどうとかそういうのではない。第一、俺は元男だしな。もちろん、キャラとして好きなのは竜司とて同じことだ。
「なんだつまんねーの、蓮のいるとこによくオマエがいるから、てっきり好きなのかと」
「友達として、ね。出会ってからまだ1ヶ月経ってないんだよ?」
それに、俺が雨宮くんの近くにいるのは全てが滞りなく進んでいるか確認するためだ。全ての辻褄が合っていれば、俺はそれで良いのだ。
「じゃあ、なんで蓮の近くにいるんだ?」
「それは…………いや、坂本くんに言う必要ないよね?よくよく考えたら。」
「んだよ、ケチ」
よし。難局を乗り越えたな。
いろいろと詮索されるかと一瞬思ったが、こうやって煙に撒けばこれ以上は追及してこないだろう。
ちょうど、視界の先では雨宮くんが4人分の武器を買ったのが見えた。俺もそろそろ撤退するとしよう。
「じゃあ、私はこの辺で。暇じゃないからね。」
「……待てよ。」
踵を返して行こうとすると、竜司に呼び止められる。
今度はなんだと振り返れば、目の前にスマホを突き出される。そこには、しっかりとイセカイナビが表示されていた。
「このアプリ、桐崎のスマホにも入ってねえ?」
どきり、と心臓が跳ねる。
勘が良すぎる。いや…そうじゃない。きっと、もっと勘以外の理由があるはずだ。
考えられるとすれば、二つ。雨宮くんと鴨志田だ。
現状、雨宮くんの周りの人…竜司含め、アン殿、モルガナ。そして鴨志田の被害を受けた生徒がペルソナに覚醒し、イセカイナビを手に入れている。
そこで竜司は、雨宮くんと鴨志田の関係者という一本のラインを閃いたのではないか?
「…ないね。そんなダサいアイコンのアプリ、入れないよ。」
「スマホの画面を見せてくれよ、マジで一瞬だけで良いんだって」
スマホを取り出しながら、思考を回す。
おそらく、竜司が気づいた一番の原因は────俺が、雨宮くんと近い。その一点だけなはず。
スマホの中からイセカイナビを消し、画面を表示する。
「はぁ…しょうがないな、はいどうぞ」
「………本当にねえ。今消したんじゃねえだろうな?」
「なんでそんなに疑うのさ。もしかして、そのアプリが君たちの悪巧みに必要とか?」
今度は竜司がぎくりとする番だった。
アプローチは簡単だ。鴨志田の被害者3人組がこぞって放課後集まっている────これだけで、何か企んでいる事は明らか。
「そ、そんなこと、ねえよ?」
動揺しているな。あとは簡単。少し神経を逆撫でしてやればいい。
「ま……カモシダ先生に迷惑かけなければいいよ。頑張ってね、悪巧み」
「…………あぁ?テメェも鴨志田派かよ。ま、それもそうか。あんなクズに従ってる奴に、ナビなんか渡されねえってこった」
「……………。」
こいつ、あっさりとナビが特別だってバラしやがった。
まぁ聞かなかったことにして立ち去るとしよう。
「じゃ、またね。」
今度は引き留められずに行くことが出来た。
よし…難局は去ったな。と思ったのも束の間。ミリタリーショップを出た直後、電話が鳴り響く。
明智吾郎からの着信だ。試しに嫌がらせを兼ねて放置してみると、一瞬だけ止まったあと、再び鳴り出した。
「うへぇ、出るしかないかぁ………もしもし?」
『もしもし、明智です。この間の事件について、進展があったんだ。良かったら、吉祥寺においでよ。事件の顛末と、次の事件について話そうかと思ってね。』
「行かない、という選択肢は私には無いんすよね。行きますよ」
『話が早くて助かるよ。それじゃ、また後で。』
電話をぶつ切りされ、俺はがっくりと肩を落としながら吉祥寺へと向かう。
電車に揺られながら、昨日倒した松田・シャドウのことを考える。たしか、痴漢冤罪でシャドウ化したんだったか。
「痴漢ねえ…俺には縁のない話だが……」
そうボヤき、目を瞑って周囲の雑音を聞く。
大抵が学校のこと、職場のこと、世相のこと───取るに足らないような、雑談だ。
だが。その中でもひとつ。気になる話題があった。
「───でさー、その朝神陽チャンネルなんだけど…」
「私人逮捕系の?アタシああいうのキライなんだよね〜、正義に酔ってるっていうか?」
「でもほら、昨日の動画見た?『チカン男を私人逮捕!』ってやつ!」
「そもそも私人逮捕って過ぎれば暴力じゃん。チカンでも殺人でも何でもいいけどさ、アタシらにメーワクかけなきゃいいよ」
(……昨日のやつ…松田さんのことか?)
少し気になり、スマホで「朝神陽チャンネル」とやらを調べてみる。
すると、松田さんを痴漢の犯人としてでっち上げ、必死に抵抗する松田さんを押さえ付け、悪し様に罵倒する軽薄そうな男の姿が映し出される。
その後、突然様子がおかしくなった松田さんが目から黒い涙を流しながら強い力で朝神陽を殴り飛ばし、駅員に拘束されている。
「…………。」
ひとまず、冤罪事件の真相は分かった。
あとでメメントスでなんとかするか…と考えていると、吉祥寺駅に到着する。
定位置──────ビリヤード屋の前に行くと、意外そうな顔をして明智吾郎が立っていた。
「僕の位置がよく分かったね。教えてないのに」
「そりゃあまあ、分かりますよアンタのことぐらい」
だってコープの時はいつもここにいるし。吉祥寺を指定された時点で分かっていたことだ。
「ゾッとしないね。君の洞察力には驚かされるよ。それじゃ、近くにカフェがあるからそこで話そうか?」
言われるがままにカフェに入り、エスプレッソとバナナドーナツを頼んでから明智の顔をまじまじと見る。
何やら最近のことや精神暴走事件のことについての講釈、初代探偵王子のことなどを話している。
「まったく、メディアにも困ったものだよ。テレビやスマホひとつで、人の人生をぐちゃぐちゃにされちゃ堪らない。」
やれやれ、といったふうに肩をすくめる明智吾郎を見て、メディアかあ…と想いを馳せる。
ペルソナシリーズにおいて、メディアは大抵カスの集まりだ。噂に影響されやすく、デリカシーがなく、事件が起こった場所の高校生らに取材したり。
…実情はどうあれ、よく書かれていないというのは事実だ。
しかし、そんな中でも光のメディアがいるのは確かだ。
「……月と悪魔、か」
「悪魔?」
「いや、メディアってそんなイメージがあるってだけです」
つい、口をついてメディア系のコープの名前を呼んでしまった。
しかし────月はともかくとして、悪魔…大宅一子は使えるかもしれない。無論、怪盗団が活躍してからの話だが。
「ま、確かにね。それじゃ本題に入ろうか。」
「あっはい」
「まず、昨日の深夜…昨日君に見てもらった容疑者のウラが取れてね。被害者と思われる女性の衣服のどこからも、彼の指紋は検出されなかった。」
「……!」
イセカイの件で冤罪なのは分かっていたとはいえ、それが現実だと分かってよかった。
まあ、暴れた分の傷害罪は付くかもしれないが。ともかく、無実の罪ではなくなったわけだな。
「事件当日、彼には強い精神的ストレスが掛かっていたのと…周囲からの相当の圧力があったとされていてね。精神暴走事件は、これまでの調べで『何らかのきっかけ』がないと起こらないとされているんだ。」
「ふむ。つまり、何某かの外圧があった…と?痴漢冤罪だけでなく」
「そうだね。それが一連の精神暴走事件の犯人によるものなのか……それとも、別の要因があったか。」
と、このように何やら明智吾郎が御託を並べてはいるが。
犯人は明智吾郎に決まっているし、もし何某かのきっかけがあったとしても最終的に暴走させたのは明智吾郎本人だ。
「……どうしたんだい?そんな興味なさそうな顔をして。もしかして、真相がわかったとか?」
「んにゃ、分かんないですね。」
適当に誤魔化し、思いついた名前を言う。
そういえば松田さんが暴走するに至った外圧のひとつに、朝神月チャンネルとかいうのがあったはずだ。
アレを槍玉に上げてしまおう。
「……なるほど。私人逮捕系の配信者か。確かに外圧としては十分だ。ありがとう、桐崎さん。僕の方でもちょっと調べてくるよ。」
「話はそれだけですか?」
まさか、と思って聞いてみると、明智吾郎は首を横に振る。
「いや、まだあるよ。次の事件のことだ。」
ぴしり、と空気が張り詰める。
なるほど。次は大物か、それとも別の何かか。
「次の事件は、少し入り組んでいてね。冴さんにも秘密で桐崎さんに話すんだけど────地下鉄暴走事件の犯人を探すのを手伝って欲しい。」
「……………は」
「困惑するかもしれないけど、聞いて欲しいんだ。僕は、あれをただの精神異常からなる事件じゃないと思っている。裏に何かが仕込まれている────そんな予感がするんだ。」
「そりゃ………そうでしょ」
お前がやったんだからな。と言う言葉をぐっと飲み込み、大人しく聞く。
「君に、この人を調べて欲しくてね。」
「………これ、政府の役人ですか?」
出されたのは、「美空奈緒子」という人物の名刺だった。
顔写真付きで、若い女だ。
「僕はこの人物が怪しいと睨んでいてね。調べてくれるかい?」
何が目的なんだ?明智は俺に何をさせたいんだ?
原作にもいなかったような人たちを調べさせて、その先には何がある?
明智のことだ、俺を信用して捜査協力させているわけがない。
「…………わかりました。」
何が目的かは知らないが、ともかくだ。
俺がこの先、カネシロやオクムラパレスを攻略するにあたって、政界にガサを入れておくのは正しいと信じよう。
結局、この日はこのまま何もせずに帰り、自宅で筋トレをしてから就寝した。