鬼舞辻無惨になった男が生き抜く話   作:野生の生蛇

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第1話

 

 その男は生れついて病弱だった。

 産声を上げるのも遅く、すわ火葬される寸前で声を上げたことで生きていると認識され、どうにか生を繋いだと思えば肉体は脆弱其の物。

 走ればすぐ息が上がり、重いものを持つ事など叶わず、すぐ風邪をひく。

 

 そんな弱い男に生まれた男はこう思った。まるで鬼舞辻無惨の人間だった頃だ、と。

 

 男は転生者だった。ただ、神に会った事の無い転生者だ。

 五十の頃にガンにかかり治療する金をどうにか工面しようとしていたら進行が進み手遅れとなって死んだ、よくいる男だ。

 

 だから、次の生でも病弱な体なのは何かの呪いかと神を憎んだ。

 だが、実在するかわからぬモノを憎んでも仕方がない。男は諦めた。

 

 しかしながらこの時代は男にとって非常に生きにくい物だった。

 

 なんで病気だというのに訳の分からぬ祈祷に参加せねばならん。汗で体が気持ち悪いのに清潔な布が無い。

 何故布団の性能が悪い。何故飯が硬くて不味い。

 

 現代、西暦二千年を生きた男からすれば平安という千年前の時代は生きにくさそのものだった。昔はよかったというが、昔過ぎてよい事など何もない。

 それはこの時代の者達から見れば男は我儘に映っただろう。

 そして誰もが見放すかと思った頃、ただ一人の善良な医者だけは見放さず男の治療を続けた。

 

 善良な医者の治療は男から見てもまだマシな治療だった。

 訳の分からぬ薬草やら粉やら飲まされたり食わされたりするが、基本何か摂取して治すが基本の現代医療に多少は近い為抵抗感薄く受け入れられた。

 

 そうして治療を続けていた頃、男の体に異変が起こった。

 

 体調が悪くない。寧ろすこぶる調子が良い。

 体のだるさが消え、今ならば大岩も持てそうな程に力に溢れている。

 だが、陽の光に当たりたくはなかった。何故か当たると焼けてしまうと確信を持てた。

 

 男がそのことを善良な医者に告げると、善良な医者は治療を続けましょうと言った。

 

 そして男は普通の肉やら魚などが問題なく食べられるようになり、薬を飲み続けた。

 

「ちょっとやり過ぎた」

 

 善良な医者はそうちょっとだけ後悔した。

 

「今日は天気がいいな、先生」

 

 男は庭に出て太陽を眺めながらそう呟いた。

 

 男は鬼と化した。鬼の始祖、鬼舞辻無惨となったのだ。

 だが、男は原作の無惨の様に太陽が弱点じゃないし、人を食わねばならない事もない。

 普通に獣や魚の肉で栄養と成る。更には血鬼術が起こせる現象全てを行えた。

 無機物の創造。空間転移に空間創造。気の感知に属性攻撃。

 いわば無惨は究極生命体(アルティミット・シイング)鬼舞辻無惨となっていたのだ。

 

 これには医者も苦笑い。多分効くだろうで処置してたら患者が生物かどうか怪しい存在に成り果てたのだ。もはや笑うしかない。

 だからこそ、医者は無惨に願った。

 

「私を殺してください」

 

 その言葉に無惨は驚愕に目を見開き、顎を外して驚くしか出来なかった。

 一分の沈黙ののち、無惨が問いかけた。

 

「何故だ? 恩人である貴方を手にかけたくはない」

「私にはわかるのです。私はこれからも人を救おうと医術を使うでしょう。そして重病人には貴方と同じ薬を処方し、人では無い物に変えてしまうでしょう。私は私の事をよく知っている。善意から、やり過ぎてしまうでしょう──だからこそ、私は死ななければならないのです」

 

 ここに、と医者は懐から本を取り出す。

 

「貴方に投与した薬と、薬の原材料が何処にあるかを記した本です。私の死後、薬の材料を焼き、本も焼き捨ててください」

 

 医者の目は本気だった。本気で無惨に殺されようとしている。

 そうか、と無惨は言った。

 

「ならば、望み通りにしよう」

 

 無惨は自身の右手を刃のように鋭くし、目を瞑った医者の首を刎ね飛ばした。

 証拠を残さない為に腕を捕食者の形に変え、遺体は食った。

 

 その後、無惨は青い彼岸花を見つけ出し焼き払い、医者の残した書物も己の頭に入れた後に焼き捨てた。

 そうして無惨はどうするかと考える。ここが鬼滅の刃の世界ならば、成すべきことは何か、と。

 だいたいすべての元凶であるラスボスは己である為、悲劇を防ごうとあくせく動く必要はない。鬼の量産をしなければよいのだ。

 

「そうだ、日本を裏から支配しよう」

 

 無惨は思い立ったが吉日とばかりに、その日から行動を開始した。

 

 

 

 ■

 

 さて、無惨の頭は余りよろしくはない。

 無論人並み程度はあるだろうが、良く言えば人並み程度だ。

 スパコン並みの計算なんてできないし、逆転の発想じみた起死回生の一手を打ち出す事なんて出来やしない。

 

 なので、出来ることは優秀な部下に任せようと無惨は考えた。

 

 その為に適当に鬼にした者に与えた呪いは二つ。

 一つは忠誠の呪い。

 鬼舞辻無惨に心の底から仕え、手足となって働き、命を捨てても構わぬと思う精神性を与える呪い。

 もう一つは原作にもあった位置情報把握兼思考盗聴の呪いである。

 

 無惨は鬼にする段階から選別を始めた。

 

 まずは単純に鬼に成る意思を持つ者に限定。

 勧誘をし、受け入れれば鬼にし断ればその場で帰る。

 次に最低でも能力がある者に限定する。

 そこらの一般人を鬼にするようなことはなく、剣士だったり画家だったり建築家だったり、最低限何かしらの能力を持つ者のみを鬼にする。

 

 無惨は己の能力で無限城を作り出し、鬼を増やす。

 鬼を増やし己の勢力を築き上げ、日ノ本への影響力を得る。

 

 だがこれは、早々に成功と失敗をした。

 

 成功は、ある程度影響力を持つ配下を得られたのと、百年も過ぎれば自死をする鬼の登場だ。

 無惨は元からの能力を活かすため鬼にした者の記憶を消したりしていない。それが仇となった。

 

 人間に永遠の命は重すぎたのだ。

 

 無論、全員が自殺する訳ではなく生き残る者もいるが、少数だ。

 鬼の始祖の血は肉体を鬼へ作り変えるが、精神までも鬼に変える訳では無かったのだ。

 

 まぁ仕方が無いか、と無惨は受け入れた。定期的に入れ替えればいいだけの話だと受け入れたのだ。

 最低でも百年は持つのだからそこまで躍起になってあーだこーだ考える必要は無いか、と気楽に考えていた。

 

 そうしてまた二百年程勢力を作り上げていた時、無惨は医者に出会う。

 

 

 ■

 

「酷く弱っている。体はやせ細り、病が体を蝕んでいる」

 

 無惨は家屋に浸入し、女を見るなりそう言い放った。

 

「あなたは……?」

 

 そう返すのは病に倒れている女だ。

 歳は二十代後半程度、日本人らしい黒髪黒目の女だ。

 だが、容姿は優れている。美人と言って差し支えないだろう。

 

「私は鬼だ」

「鬼……?」

「妖怪、(あやかし)と言った方がわかりやすいか? 兎も角、人間ではない。私の力をもってすれば、お前はたちまち健康体になり、超常の力を持った存在になれるだろう」

 

 無惨の言葉に女──珠世は目に希望の光が灯る。

 

「それは……子が成人して、孫を成しても生きられますか?」

「あぁ。それどころか、曾孫が寿命で老死しても尚生きられるだろう」

 

 どうする? と無惨は手を差し伸べる。

 

 珠世はその手を強く握った。契約はここになされた。

 

 

 ■

 

 珠世を鬼にした無惨は有頂天だった。

 配下にした鬼も独自で作った実験体共も調子が良く、日ノ本に勢力を築き上げる事に成功している。

 そんな無惨は海岸を散歩していた。

 夜遅いが鬼の目には昼の様に見通す事が可能で視界に困りはしない。

 三日月がらんらんと輝く夜だった。

 

「あなたが鬼舞辻無惨ですか」

 

 そんな無惨に声をかける者が居た。

 

「何者だ?」

 

 無惨は声の方に振り向く。

 崖の上に女が立っており、女はゆっくりと浮かび上がり、崖から無惨に向かって降りていく。

 

(何者だ? 何故空を飛べる? こんなものを鬼にした記憶はないぞ?)

 

 鬼滅の刃の世界で超常となればそれは鬼が扱う異能、血鬼術しかありえない。

 だが無惨は目の前の女を鬼にした記憶はなく、呪いによる把握も出来ていない。

 全く関係ない第三の者であった。

 

「初めまして。私は志波美輝。貴方を排除する者です」

「私を排除だと? 大きく出たな、人間」

 

 無惨は好戦的な笑みを浮かべる。

 

 ──次の瞬間、無惨の左わき腹に風穴があいた。

 

「は?」

 

 無論次の瞬間には鬼の始祖としての能力で再生が終わる。

 だが、無惨の肉体は最上位の生物の物だ。並大抵の手段では傷一つ付くわけがない。だというのに風穴があいた。そのことに驚愕する。

 

「殺す!」

 

 怒り狂った無惨は攻撃を選択する。

 自らの肉体を戦闘用に作り変える。

 

 両腕の手首から先に刃を形成し、体中の至る所に牙の付いた口を形成。

 背中から六本の触手を生やし、足からも管着きの触手を生やす。

 

 鬼舞辻無惨、本気の戦闘形態である。

 

「死ね!」

 

 無惨は目にもとまらぬ速度で駆け出し、女──美輝に襲い掛かる。

 その速度は初速からマッハに近い。原作以上のスペックを無惨は保有しているのだ。

 

 更に無惨は己の腕を伸ばし鞭のようにしならせ振るう。

 鬼の始祖という人外の者が振るう鞭は音速を優に超えている。

 

 だが、美輝はその腕の鞭を左手で掴んだ。

 そのことに驚愕する暇もなく、美輝はそのまま腕を引っ張り無惨を引き寄せる。

 戦闘経験の浅さからくる判断ミスにより無惨は無残に引っ張られ、美輝の眼前まで移動する。

 

「せいっ!」

 

 美輝は光り輝く右手で無惨の腹を殴り、消し飛ばす。

 だが消し飛ばされると同時に無惨の再生が完了し、傷跡は跡形もなく消える。

 

 無惨は即座に肩から腹までかかる巨大な口を形成し、衝撃波を放つ。

 原作でも使った金縛りの効果がある衝撃波だ。

 

 美輝は防ぐ事出来ず、金縛りの術を受ける。

 その隙をついて無惨は腕は掴まれたままなので自切し、後ろに飛んで距離をとる。

 

「こい、駒共!」

 

 べべん、と琵琶の音が響いた。

 無惨の背後から球体状の襖が生まれる。大きさは十メートル以上はある。

 

 襖が開き、異形の鬼たちが出現する。

 

 熊に結晶に似た角が生えた個体。翼の生えたワイバーンの姿をした鬼。二十メートル以上はある蛇。ドラゴン擬き。

 

 これらの鬼は鬼の始祖の血を動物に与えたらどうなるかという実験の元生み出した鬼たちだ。

 知性も発達し、無惨の命令にこの上なく忠実に従う鬼たちだ。外見は鬼らしさ全然ないが。

 

 異形の鬼たちは美輝に襲い掛かり──美輝が謎の光の衝撃波を生み出し全て消し飛ばした。

 

 だが、その一手の隙があれば充分だった。

 無惨は美輝の背後に転移し、手刀で貫こうとする。

 

 無惨の手が美輝を貫いた。

 胸を貫通し、無惨の手が血に染まる。

 

 仕留めた、無惨はそう思った。

 心臓を貫いている。生物ならばまず間違いなく死んでいる。

 

 だが美輝は光り輝く衝撃波を放ち、無惨を吹き飛ばした。

 

 無惨は両の足で空中から着地し、戦闘形態を解除せず構える。

 

「ここまでとは、思いもしませんでした」

 

 美輝は無惨に話しかける。

 

「なんだと?」

 

 無惨は驚愕に目を見開いた。

 

 美輝の胸の傷が塞がっていく。時間でも戻る様に、じっくりと、ゆっくりとだが治っていく。

 

(あの医者が私以外を鬼の始祖にしていた? だが、医者の細胞からそう言った記憶は読み取れない……)

 

「なんなんだ、お前は」

 

 無惨は美輝に問いかける。

 

「私からも同じ問いをかけましょう。貴方は何者で、この世界に何を齎すのですか?」

 

「何をだと? 決まっている。私は平穏な暮らしがしたいのだ。私の命が脅かされず、世界の終焉の時まで生きながらえる暮らしを」

「世界に害をなすものではないと?」

「世界を滅ぼしてどうする。私が暮らす世界が滅べば困るのは私ではないか」

「……どうやら嘘ではないようですね」

 

 ふぅ、と美輝は息を吐いた。

 

「では自己紹介からやり直しましょう。私は志波美輝。十一番目のセフィラです」

「セフィラだと? ……まさか、世界の調停者か」

 

 無惨は己の前世の知識からセフィラについて思い出す。

 よく様々な漫画や小説で出てくるセフィラは旧約聖書に出てくる神話の一節だ。

 

「よくご存じで。この星の者ではないからと乱暴な手段に出た事、謝罪致します」

 

 美輝は小さく頭を下げた。

 

「わかればよいのだ、わかれば。私は平穏に暮らしたいのだ」

「平穏という割には自らの眷属を増やし、政界にも進出しているようですが?」

 

 無惨は美輝の言う通り政界にも進出し、貴族の一部を鬼にしていたりする。

 それ以外にも商人を鬼にし、商品開発等もしていたりする。

 

「自己の進化と発展はつきものだろう? 己の為に成る事をして何が悪い」

「確かにあなたは国を滅ぼそうとしていたり、世界を征服しようとしている訳ではなさそうですね……私の早とちりでしたか」

「そうだそうだ、分かったら帰れ、私はお前のせいで減った眷属を増やさねばならない」

「えぇ。今は帰りましょう。でも、またすぐにお会いしましょうね」

 

 美輝はそう言うとふわりと飛び上がり、空の彼方へと飛んで行った。

 

「まったく、何だったんだ? だが……」

 

 無惨の心に恐怖が襲い掛かる。

 

 特別なのは自分だけじゃないかもしれない。

 

 自分以外の転生者や別世界の何かがこの世界に来るかもしれない。無惨は美輝との邂逅でそう思った。

 

 ならば対策せねばならない。何が来ても己の地位と力を保持するために、出来ることは全てやらねばなるまい。

 

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