鬼舞辻無惨になった男が生き抜く話   作:野生の生蛇

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第2話

 

 鬼殺隊、という組織がある。

 鬼舞辻無惨の誕生の百年後に生まれた組織である。

 名の通り鬼を殺す組織──かと思ったが実はそんなことはない。

 

 何せこの世界では無惨が作った鬼は人食いをする必要が無い。

 それに元から地位のある者を鬼にしている為飢えの末に人を食いに行く、などという事もない。

 ならば人食いの鬼による被害なんてものは発生しえない。

 

 故、鬼殺隊は鬼ではなく人を倒す──傭兵稼業を営んでいた。

 

 彼らは変わった武器を手にしている。

 日輪刀という握る者によって色が変わる刀だ。色が濃い者の方が強いという指針がある。

 そして彼らは鬼のように強いという。

 

 そんな彼らに転機が訪れた。

 

 継国縁壱という男が鬼殺隊に入隊した。

 といっても前線に出て敵と戦う訳ではない。教師として入隊したのだ。

 彼は鬼殺隊に特殊な技術を齎した。

 呼吸法というそれは、身体能力を底上げし、技を振るえば幻を出現させるという奇妙な技だった。

 だが、有能な力だ。呼吸法は正しく鬼のような身体能力を与え、技も洗練された。

 

 しかし欠点が一つあった。痣だ。

 

 呼吸法を極めた者は顔の何処かに痣が出来る。そして痣が出来た者は二十五に成ると死んでしまった。

 そのことに就いて縁壱を追放や処分しろという話が出たが、縁壱自身知らなかった事であったため追放は免れた。

 

 

 縁壱の兄、巌勝もまた、痣を発現し二十五で死ぬ運命(さだめ)だった。

 

「ならば鬼になればよいではないか」

 

 天啓だった。

 満月の夜の事だ。

 巌勝が自らの屋敷の屋根上で未来を憂いていたら男が話しかけて来た。

 百七十八センチと巌勝よりは小柄だが、この時代の人間と考えれば大きい方だろう。

 流れる黒髪は美しく、赤い瞳は縦に割れている。

 ペイズリー柄の着物は実によく似合っている。

 

「鬼に? ……なれる……モノなのでしょうか……」

 

 巌勝の認識では鬼とは化け物の事であり、鬼殺隊が──というよりは産屋敷が長年追う鬼舞辻無惨の事ではないのかと疑問に思う。

 

「ああ。私の血を受けた者は鬼へと変貌する。鬼は素晴らしいぞ。不老不死に限りなく近くなれる。人を食わねばならない等といったデメリット……欠点もない」

「不老……不死……」

 

 その言葉に巌勝は心がざわついた。

 

「それは……痣による死も……回避できると……?」

「ああ、出来るとも。不老不死の超越者の肉体はそんな欠点を克服できる」

 

 巌勝にとっての問題は痣だ。如何に技を極めようと思っても時間が足りなさすぎる。

 あと数年の命では縁壱には決して届かないだろう。

 

「であれば……受けたく思います……」

 

 こうして巌勝は鬼と成り、黒死牟となった。

 

 

 ■

 

 

 無惨の気分は上々だった。

 うなぎ登りという奴であり、今ならこのうなぎでうな丼が作れる気分だった。

 無論例え話であり作れる訳が無いが。

 

 無惨は己の作った無限城で茶を嗜む。

 無限に広がる風景は見る者によっては狂うだろうが、無惨にとっては心地よい場所だった。

 

 無惨は無限城の一角を弄り、農業や畜産をやっている。

 作業するのは下位の鬼たちだ。自分たちの食い扶持を自分で作らせているのである。

 

 日光や水は空間を弄り自然の物が入れるようにしている為困る事はない。

 

 原作開始まで後約四百年。無惨はこれまで以上に戦力を集めていた。

 

 集める理由は恐ろしいからだ。

 自分以外の転生者が。この世界以外の来訪者が恐ろしくてたまらない。自らの命に届きうる脅威が怖くて怖くてたまらない、臆病者なのだ。

 

 だからこそ戦力を集める。何が来ても対処できるように力を集めるのだ。

 

「臆病者ですね、貴方は」

 

 そんな無惨に話しかける者が居た。

 

 無惨は目を顰め、声をかけた女に問いかける。

 

「どうやってここに入った?」

 

 無惨が顔を向ければそこにはかつてと変わらぬ姿で佇む志波美輝の姿があった。

 

(わたくし)、空間操作はお手の物なので」

「ふん……茶でも飲むか?」

「ぜひ、頂きますわ」

 

 無惨は空間を操作し椅子をもう一つ転移させ、美輝に座る様に促す。

 向かい合って二人は茶を嗜む。

 

「最近はどうですか? 悪事はなしていませんか?」

「……仮になしていたとして、馬鹿正直に答えると思うか?」

「それでも、体裁というのは必要ですわ」

「そういうものか……ところで私からも聞きたいが、お前はいったい何なんだ? セフィラと言っていたが……」

「そうですね……貴方になら、話してもよいのでしょう。ですがその場合、貴方には私達に協力して貰いたく思います」

「その分の見返りはあるんだろうな?」

「勿論ありますとも。この星の発展に伴い、あらゆるもので助力致しますわ」

「ならばいい。聞かせろ、お前の──いやお前たちの事を」

「そうですね。まずは世界の成り立ちから話しましょうか──」

 

 

 

 

 ■

 

 

 無惨の気分は上々だった。

 そんな無惨は三日月の夜、珠世を連れて竹林を散歩していた。

 珠世は医者だが今は薬師として働いており、薬を作って売る商会に所属している。

 珠世を鬼にしてから約百年が経っており、珠世の夫も子も孫も既に死んでいる。

 だからか珠世は気分転換に散歩にでも出ないかと無惨を誘い、無惨はそれを受けたのだ。

 

「こうして歩いていると、思い出しますね。あの夜の事を」

「ああ、お前を勧誘したのも夜だったな」

 

 ぽつりぽつりと珠世が喋り出す。

 

「最初は疑っていました。鬼という存在を聞いたこともありませんでしたから。ですが貴方の血の力で鬼となった時、真実なのだと思い知りました」

「そうか……鬼になった事を後悔しているか?」

「いいえ。子が孫を成すまで生きられたのです。後悔などしようがありません」

 

 無惨の血で鬼になった者は自我を失ったり飢餓状態で暴れる様な事はない。

 

「だからこそ、次は貴方の番です。私の孫が亡くなるまでまってくださった貴方に恩返しがしたい」

「ならば医者として懸命に働く事だな」

 

 そうして竹林を歩いていると、向こう側から一人の男が歩いて来る。

 刀を腰に差した若い男だ。顔に痣があるのが特徴的で、黒死牟によく似ている。

 

(──継国縁壱?! 何故ここに?!)

 

 無惨は驚愕に目を見開くが、次の瞬間思い出す。

 そういや原作でも竹林っぽい場所で珠世連れた無惨と縁壱遭遇してたな、と。

 

(あれ? これもしかして命の危機?)

 

 無惨はふとそう思う。

 この無惨は原作の無惨よりも圧倒的に強い。

 だからかだろうか、透き通る世界にも到達済みであり、相手の実力というのがある程度わかる。

 故に──天地がひっくり返っても勝てないぐらい縁壱と実力の差があるのが見てわかった。

 

 あかんこれどうする。転移で逃げるか? 等と考えているうちに、縁壱が口を開いた。

 

「……あなた方は、鬼殺隊が追う、鬼ですか?」

 

(おっと? 対話の余地ありか?)

 

 無惨は会話を選択してきた縁壱に希望を見出す。

 

「ああ。私は鬼だ。鬼舞辻無惨という」

 

 無惨は精一杯虚勢を張りながら答える。

 

「そうですか……悪鬼羅刹の類ではありませんか?」

「仮にそうだとして、馬鹿正直に答える者は居ないと思うが?」

「……それもそうですね」

 

(さて、何が目的だ?)

 

 無惨は考える。この縁壱は何を目的として会話をしているのか。

 いきなり斬りかかってこない分戦闘には成らないだろう。

 では何故会話をしているのか。これがわからない。

 此方の正体を突き止めた途端斬りかかって来るのではないかと無惨はひやひやする。

 

「私は鬼殺隊という鬼を殺す組織に所属しています。その身からすれば、鬼である貴方は倒すべき存在だ」

「ふん。随分な言い草だな。私は悪事をなしたことはないというのに」

 

 しいて言えば鬼という人外になったのが悪と言われれば反論のしようがないが、それ以外特に悪事はなしていない。

 それどころか暇なときは土木工事に参加したり画家として絵を描いたり、適当な仕事を探してやっていたりする。

 故善性の存在に近いと言えるだろう。人を余り食ったことはない。山賊や野盗等が襲ってきた時に捕食形態の腕で殺害と捕食を同時にしていたりする。

 

「そうですか……貴方は私が倒すべき敵では無いようですね」

 

 ふぅ、と無惨は心の中で息を吐いた。

 勝った。第三部完。

 そして無惨はある事を考えた。

 

「そうだ……お前も鬼にならないか」

 

 そう。原作最強を鬼にし、今後の為の戦力とするのだ。

 継国縁壱が鬼になればそれはもう無惨を超えた真の最強の鬼となるだろう。それだけの戦力があればもはや怖いものなしだ。

 

「鬼に? なれるものなのですね……ですが私はお断りします。私は人として生き、人として死にたいのです」

「そうか。何時でも門は開いている。なりたく成れば岸田祥元という男を訪ねろ。鬼舞辻無惨の知り合いだと言えば話は通る」

「そうですか……ところで、なのですか。私の兄を知りませんか?」

 

 どくんと、無惨の心臓が痛い程動き出した。

 

 ──どうする? 嘘をつくか? だが透き通る世界に到達しているこの男は嘘など瞬時に見破るだろう。

 

「……お前の兄の名は?」

「継国巌勝といいます」

「………………その者ならば、私が鬼にした」

 

 無惨は悩みに悩んで、真実を告げることにした。

 最悪の場合でも生き恥ポップコーンをすれば逃げれるだろうと腹をくくっての回答である。

 

「そうですか……兄に会う事は?」

「しばしまて、本人に確認する」

 

『黒死牟、聞こえるか?』

 

 無惨は己が鬼にした者同士で念話という形で連絡を取る事が出来る。

 ただ究極生命体無惨は鬼以外にも念話を繋げる事が出来るが。

 

『どうか……されましたか……』

 

 直ぐに返事が返ってきて、無惨はさてどうするかと頭を悩ませる。

 

『お前を兄だという継国縁壱がお前に会いたいと言っている。会うか?』

 

 しばしの無言ののち、黒死牟は返事をした。

 

『会いたく……思います……』

 

「ふむ。本人の許可も取れた。ここではどうだ、私の本拠地に案内しよう」

「ありがとうございます」

 

 無惨は指を鳴らし、己の背後に襖型の転移門を開く。

 

「この先だ。付いてこい」

 

 無惨は珠世を連れて先に入る。珠世が何処か心配そうな顔をしているが、何か言葉を返す余裕は無惨には無かった。

 

 遅れて縁壱も入り、無限城の闘技場に三人は転移する。

 

「ここは……」

 

 無限に広がる空間だ。

 和室が上下左右様々な位置に物理法則を無視して配置されている異空間。無限に広がる事から無限城と無惨が名付けた場所だ。

 

 その闘技場は稽古部屋を思って作った部屋だ。

 部屋は充分広く、縁壱と巌勝、無惨と珠世が居ても尚広さを感じられる。

 

「兄上……」

 

 緑壱は変わった兄、黒死牟を見て声を漏らした。

 黒死牟は目が六つになった。それ以外に変わった要素は特には無い。

 

「……いざ。尋常に」

 

 黒死牟は自らの血と骨で作った刀を抜き、構える。

 

「……まずは話し合いを──」

 

 対話を試みようとする緑壱に対し黒死牟は刀を振るう事で返答とする。

 

 未来の上弦の壱と最強の侍の戦いが始まった。

 

 

 

 ■

 

 

「圧されているな」

 

 戦闘から四半刻が経った頃、無惨が呟いた。

 

「私の目から見ても、わかりますね」

 

 返答するのは珠世だ。

 

 黒死牟と緑壱の戦いは最初こそ戦意が無い緑壱を黒死牟が圧倒していたが、すぐさま緑壱の方が上回った。

 月の呼吸に鬼としての身体能力が合わさり、呼吸法の幻を血鬼術で本物にしても尚緑壱には届いていない。

 

 そうしてもう少しすると、黒死牟の大太刀は破壊され、黒死牟は膝を屈した。

 

「鬼になっても……届かぬのか……」

「兄上……話し合いましょう。何故鬼になったのか、何故鬼殺隊を抜けたのか──」

 

 




黒死牟のSAO、というのを思いついた
はたらく魔王さま編終わったら書こうかしら……
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