鬼舞辻無惨になった男が生き抜く話   作:野生の生蛇

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第4話

 

 珠世と炭治郎は人気のない夜の公園の椅子に座っていた。

 

「珠世さんも"前"の事を覚えていたんですか?」

 

 炭治郎がそう珠世に尋ねる。

 

「いいえ。つい先ほど思い出しました……でなければ、あの男──鬼舞辻無惨様に仕えるなどしていませんでしたから」

「という事は……」

「えぇ。今の私は鬼舞辻無惨様に仕えています」

 

 それは、最悪の知らせだ。

 かつて無惨を倒すのに使われた薬の制作者が敵に回っているのだ。倒すのは困難を極めるだろう。

 

「無惨が悪鬼ではなくなった……という訳ではないですよね」

 

 無惨が人を食わない鬼になったわけではない。

 無惨からは人食い鬼の匂いがした。食った数も百を超えるだろう。

 

「えぇ。無惨様は自らの敵対組織に襲撃する際、ついでとして捕食をしている」

 

 というよりは、攻撃と同時に相手にダメージを与えるのを目的で捕食もしている、というだけなのだが。

 それ以外に積極的に人を食っている訳ではない。

 

「敵対組織というと、鬼殺隊ですか?」

「いいえ。国外からの賊だったり、裏の筋の者などです。真っ当な人間は殺していないと言っていいでしょう……」

 

 そこが、前と違う所だ。

 

「それに、あの男は──いえ。鬼は全て日光を克服しています」

「それは……!」

 

 最悪の知らせだ。

 鬼を倒すには二つの手段がある。日光で灰になるまで焼くか、日輪刀で首を斬るかだ。

 だが日輪刀は日光の力を溜めた刀だから首を斬る事で鬼を倒す事が出来る。つまりは日光が弱点であるという鬼の弱点を突いているのだ。

 その弱点が無いという事は、日輪刀では鬼を倒せないという事。

 

「それに配下の鬼には基本人食いをしないよう厳命しています。それに鬼も元が人であり、積極的に人を食おうとする鬼は少ないです」

 

 いないではなく少ないは鬼にも異常者が数人はいるからだ。特に童磨とか。

 童磨は救済と称して自身の教徒を捕食しても良いかと無惨に問いかけたことがある。無惨は当然却下した。

 人食いの化け物と分かればセフィラがどう動くかわからぬ以上悪人以外の捕食は避けているのだ。

 

「……それで、珠世さんは無惨に仕えていると」

「えぇ。今回の私は夫と子が亡くなり、孫も大往生するまで見守る事が出来ました……それに──」

 

 珠世は"前"の記憶が戻った事で感じ取ったことがある。

 無惨が鬼全てに与えている呪いは珠世も対象に入っている。

 今ではまだ解除出来てないが、その為に自らにかけられた呪いも感知できる。

 無惨が鬼に与えた呪いは二つ。位置把握の呪いと忠誠の呪いだ。

 

 そう。珠世は無惨に仕えたくてたまらない。心の底からの忠義を捧げたくてたまらない。

 

 今まではそれが普通だと思っていた。呪われているという自覚すらなかったからだ。

 だが今では呪われている自覚があり、この考えも無惨様の為になるのではという考えが頭から離れない。

 

「……炭治郎さんとしてはどうするおつもりですか?」

「……鬼舞辻無惨が人食いの鬼であるならば、討つべき敵だと思います」

 

 それは鬼殺隊として動いてきた前を思っての事だ。

 悪鬼として動く無惨によって苦しむ人がいるのならば、助けたい。そう思っている。

 

「……無惨様は真っ当な人間には迷惑をかけず、人食いも悪人にのみ絞っています」

「人食いをしているという事に変わりは有りません……だけど……」

 

 炭治郎は考える。無惨との共存の未来というのを。

 ──出来る気がしない。

 

 鬼を作り出し悲劇を量産する悪しき存在。無論それは"前"の話だ。今回もそうであるとは限らない。

 だが人食いという悪事をなしているのは変わりない。ならば討つべきでは、という考えが抜け落ちない。

 

「……私として、今回は無惨討伐に協力できる気がしません……もし、無惨様を討つというのならば──私は敵に回るでしょう」

「それは……」

 

 最悪だ。

 珠世の医者、薬師としての知識を元に鬼には効かず人にだけ効く薬を無限城に散布した状態で鬼殺隊員が無限城に落とされるなどしたら全滅も有りうる。

 

「……他の柱の人たちとも話してみようと思います。今回の鬼舞辻無惨を討つべきか──」

 

 

 

 ■

 

 

「猪突猛進! 猪突猛進! 死ね、童磨!」

 

 万世極楽教の本部、教祖の間にて。

 

 少女と見間違うほどに美しい少年が物騒な事を叫びながら教祖である童磨に向かって突撃していた。

 嘴平伊之助という少年は上半身裸という中々ふぁんしーな恰好をしている。

 

「うーん。悪いけど死ぬことは出来ないなぁ」

 

 等と軽く返すのは殺意を向けられた側である教祖童磨だ。

 

 童磨は伊之助の頭を押さえ、突撃を防ぐ。

 

「んぐー!」

 

 ジタバタと暴れるが呼吸法が使えるとはいえまだ十三の少年の身体能力と上弦の弐にまで上り詰めた童磨との身体能力の差はでかい。

 結果、こうも簡単に押さえ込まれる。

 

「こら、伊之助。教祖様に迷惑かけないの」

 

 そう諭すのは伊之助の母、嘴平琴葉だ。

 

 

 この世界では童磨は人食いをしていない為、琴葉は教団を離れることなく平穏に暮らしていた。

 勿論教団に守られるだけでなく、仕事を探し働いているが。

 

「ぐぎぎぎぎぎぎ」

 

 伊之助はうなる。

 "前"の記憶を持つ伊之助は今生での違いに混乱した。

 記憶を取り戻したのはつい最近だが、それでも違いが大きい。

 山暮らしではなく、教団ぐらし。しかもその教団の長は胡蝶しのぶを殺した鬼である。

 だが、童磨からは人食いの鬼特有の嫌な感じがしないことが伊之助を混乱させていた。

 

 童磨は別に人食いを禁止されている訳ではない。

 無惨からの命令で敵対組織──ヤクザだとかを襲撃する際に人を食ってもいいとは言われている。

 だが童磨としては自分の信者を救済(食って)いないのに関係の無い者を食ってはいけないだろうという謎に律義な所がある為人食いをこの世界線ではしていない。

 

 だからか、伊之助は今の場所が心地よかった。伊之助風に言うのならばほわほわしているのだ。

 

 

 そうした日々を送っていたある日、伊之助は突然母である琴葉に向かって宣言した。

 

「鬼殺隊に入る!」

 

 前でも世話になった組織だ。今生でも多分あるだろうの精神で入ろうと思った。

 

「鬼殺隊? あの剣術稽古の?」

「は?」

 

 ──詳しく聞けば、今生の鬼殺隊はどうもおかしい事になっている。

 

 

 まず、鬼殺隊という存在がある程度市民にも認知されている。だが、鬼狩りの組織としては認識されていない。

 変な呼吸法と剣術の道場として広く認知されているのだ。

 道場には各柱が居り、柱の元剣術の鍛錬をする組織となっている。

 

 なんだそれ、と伊之助は混乱した。

 

 鬼狩りは何処行った。鬼は童磨が居る以上この世界にもいるのではないか? 

 

 取りあえずは、という事で伊之助は最も近い──花柱の胡蝶カナエの元へ向かった。

 

 

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