地獄のヒーローチェンソーマン。
助けを叫ぶとやってきて、叫ばれた悪魔はチェンソーで殺され助けを求めた悪魔もバラバラに殺される。多くの悪魔に目を付けられ殺されるけど、何度も何度もエンジンを吹かして起き上がる。そのめちゃくちゃな活躍にある者は怒り、ある者は逃げまどい、ある者は。
「ゾンビの悪魔め……!雑魚悪魔のくせしてチェンソーマンをバラバラにしようとするとかふざけてるのかな!?あっまずいよ、逃げて逃げて!」
「あの、マキマさん。いきなり何を言ってるんですか?チェンソーマン……?」
「―――これは命令です、今聞いた事を忘れなさい」
「はい」
―――超大好きになる、いけないいけない。つい感情が高ぶって口に出しちゃってたみたいだね?でもこうなるのは仕方ないと思う、だって現在進行形で私のヒーローなチェンソーマンが大ピンチなんだもん。まだ車が現場に辿り着かないからネズミの耳を通じて情報を入れる事しかできないのがもどかしい。早く「チェンソーマン!助けに来ましたよ!」って場に入りたいのになぁ、鎖とか使っちゃってすぐゾンビの奴をぶっ倒すカッコいい所見せて……想像するだけで思わず笑みがこぼれそうになるけどここは抑えないとね。
でも本当ならゾンビの悪魔程度に苦戦するなどあり得ない、ただそれには大きな理由がある。何故なら今の彼は殆ど力を失ってしまい戦える状態じゃないから、そして弱体化の原因となったのは地獄でのとある戦い。当時私以外の三騎士や悪魔達とチェンソーマンは熾烈な戦闘を繰り広げ、彼はその最中に行方を晦ませてしまった。私はというとそもそも戦い自体に参加してない、何故なら彼の活躍を見て応援したいのであって傷つけたくないしそもそも触れる事すら恐れ多いよね?始まる前も散々反対したのに死や戦争といった姉共は聞く耳を持たず私を動けなくさせて……自由になった頃には時すでに遅し。アイツらめ、絶対いつかチェンソーマンに食べさせて存在を消し去らないと。
そこから探し出すまで時間がかかったけれど、私は彼をようやく見つけた。ただ意外だったのは……デンジという少年と生活を共にしていた事かな?詳しい経緯は分からないものの、私の予想では地獄の戦い後に瀕死の所を助けてもらったとかそういう感じだと思う。あのチェンソーマンと毎日一緒に過ごせるだなんて羨ましいにも程があるよ。
「いいないいな、代わってほしいな……って彼が刺された!?しかもゴミ箱にそのまま放棄!?いい加減にするべきだよねゾンビ共!これはもうキレちゃったよ??この支配の悪魔が今すぐ車から降りて君達の元へ向かってあげ「えっ悪魔って言いました」―――今聞いた事も忘れなさい、そして平山さんはこの車を最高速度ですっ飛ばしなさい」
ヒーローの危機的状況に頭に熱が上がった私は能力で運転している公安の平山さんを従わせ、車の最高速度を出させる命令をした。待っててくださいチェンソーマン、すぐに私が行きますから……そう思っていた瞬間。バラバラになったデンジ君の体が一つに繋がり再生するような音がネズミを通して私の耳に聞こえてきた。
そしてドクンと―――チェンソーマンの心臓であろう音も。
「これは……そっか、つまり彼らは」
間違いない―――2人は契約を交わしたんだ、確かにそうすればチェンソーマンが心臓となりデンジ君は生き永らえる事が可能か。勢いよくゴミ箱から飛び出したデンジ君が彼の消滅を悲しむ声が聞こえる、まぁそれは違うんだけどね?今の状態は悪魔でも魔人でもない特殊そのもので……いやそんなのはどうだっていい。私が長年求めていた存在はこの瞬間に同化し、今はデンジ君が代わりにチェンソーマンになった。
「わ、私のヒーローが……」
どうやらデンジ君が変身したらしく、チェンソーで切断されるゾンビの悪魔の断末魔が耳に入ってくる。最高速度で飛ばしているからか車はあっという間に現場へ到着したけれど、向かっている間ショックからか私の視界はグラグラと揺れ続けて心ここに在らずだった。
例の廃工場の中からチェンソーの音が漏れ出ている、まだ戦闘は終わっていないみたい。言っておくけどチェンソーマンファン1位を自負している私はこんなの認めないよ、別人がチェンソーマンの力を使うだなんて……ま、まぁほんの少しだけ気になるから様子だけは見てあげるけどね?
何か自分でも言い表せない感情を認識しながらも、そんなものは気のせいだと言い聞かせながら私は廃工場のドアを思い切り開けると。
「―――もうだいぶ数が減ってきちまったな!テメェらも所詮こんなもんかァ~!?このまま全員ぶっ殺してやるよ!ギャハハ!!」
ゾンビの残党をチェンソーでひたすら切り刻むデンジ君の姿が、私の思った通り戦い方はまるでその力を活かせていない酷く雑なもの。いくら弱体化してるとはいえチェンソーマンはこんなもんじゃない、そもそもチェンソーマンは服なんて着ないし言葉を喋らないしやる事全部がめちゃくちゃでなきゃいけないの。今の状態は映画で例えるなら名作映画の駄作な続編、でも正直言うとね?私は……実は私は。
「こういうチェンソーマンも―――いっ、意外とアリかもね?」
クソ映画、大好きなんだ。