「―――お願いです!この悪魔さんを許してあげて!」
「どゆコト?」
「私のパパは嫌な事があると私を殴るの、今日も駐車場で殴られたらこの悪魔さんが助けてくれて……だからお願い!殺さないで!」
「そうなんだね」
「マ、マキマさん、俺も悪魔とダチだったから分かるんすよ。悪魔がみんな悪い奴じゃねぇって……」
娘をさらい森の中へ逃げて行ったという悪魔、その悪魔を殺すために私達はここまでやってきた。でも見つけてみれば意外にも被害者の女の子が悪魔を必死に庇っている、デンジ君も自分の経験上から殺すのに躊躇いが生まれてしまっていて……筋肉の悪魔め。触れてる女の子の筋肉を操り嘘を吐かせて同情を誘い油断させる、弱いクセに面倒な事をしてくれるね?
私は早くデンジ君がチェンソーマンになって悪魔をぶった切るのが見たくてウズウズしてるのに、せっかく頑張って作った応援グッズを活かせないなんて許せないよね。ハチマキなんて縫ったときに何回か指切っちゃって痛かったのに……仕方ない。ここは手っ取り早くやらせてもらうよ。
私はその子の横にいる筋肉の悪魔の前でしゃがみ込み、その目を見て。
「君もわざわざ演技なんてしてないでさ―――早く本当の姿を見せなさい」
私の命令を聞くと、女の子の体から広がっていくように筋肉の悪魔は巨大化していき本体へ戻った。
「……ああ!?何でオレ元に戻ってんだ!?せっかくメスガキ使ってオマエら騙してたのによ!」
「いきなり悪魔のヤツがでっかくなりましたよマキマさん!てかさっき何か言ってましたけど一体何を「デンジ君、悪いけどそこについては触れないでくれるかな。後誰にも言わない事、約束……できる?」―――できまぁす!」
悪い悪魔をチェンソーマンが殺す、これで舞台は整った。私は緩んでいたハチマキをギュッと締め直して。
「やっちゃって、デンジ君!」
「いくぜええええええ!!」
デンジ君が胸のスターターを引きエンジンを吹かすと、彼は頭と両手からチェンソーを生やすチェンソーマンへと変身した。元はそういう過程がなかったけど、変身……変身かぁ。
「いいっ、意外と悪くないかもね?」
エンジンを吹かす音がたまらないね、心臓に響いてくるしこれからチェンソーマンになるんだ!的なワクワク感を駆り立てられるよ。こういった違いもまたチェンソーマンファンとして楽しめる所に―――わ、私もしかしてもうデンジ君版を結構受け入れ始めちゃってるのかな!?
それはダメだよ、確かに良い所はあるかもしれないけど元と比べて強さは不完全で戦い方もまるで別物なのに……でも。
「よかったぜ、テメェみてーなクズなら殺しても心痛まねえ!」
「痛タタタタたたたた!?」
「わーカッコいいね!やっぱりチェンソーマンは最高だよフフフ……」
デンジ君はまだまだこれから、公安に入って戦いを積んで強くなる。今の段階ではむしろファン目線として辛口採点しなきゃいけないはずなのに、どうしてだろうね?チェンソーマンの戦いがまた見れてる。それだけで私の心は喜びで埋め尽くされてしまい、駄作なのに続編作ってくれただけで満足って言っちゃうようなダメな映画ファンになってる気がするよ。いくらクソ映画大好きとはいえ……チョロすぎないかな私。
「こ、これじゃダメだよね」
私は強く決意した、だってチェンソーマン愛では誰にも負ける自信はないから。ごめんねデンジ君、公安ではキミを徹底的に厳しく教育していくよ。私が認められるような存在になるまで……ちょうど今筋肉の悪魔を倒したみたい、褒めてほしいのか彼はチェンソーマンのまま私の元へ走ってくる。
「マキマさーん!俺んは悪い悪魔ぶっ倒しましたよ!」
「―――よく頑張ったね!偉いよデンジ君!!」
嘘、決意とか全部嘘だよ。
助け出した女の子も駆けつけた救急車に乗り悪魔騒ぎは解決した、するとデンジ君がいきなりフラッと倒れそうになったので私が抱きとめ。
「おっと、キミ大丈夫?」
「チェンソーで自分の体も切れちゃって、血ィ出すぎて貧血なるみたいっす。すんません……」
確か廃工場のときも倒れそうになってたね、そっか、デンジ君の場合は貧血として体に現れるんだ。つまり毎回戦いの後はこうなるって事で―――それなら私が毎回彼を抱きしめてあげなきゃね……あれ?私は今何を考えて?
この私でも分からない感情が一瞬見えたような……でもどうしてだろう、その感情の答えを知るのは自分の根底であり支配の力を揺るがしかねない。そんな風に思える、私は気のせいだと疑問に蓋をして彼に違う話を振る事にした。
「デンジ君はどうやってそんな体になったの?」
「飼ってた悪魔が俺の心臓になったんす、信じられないっしょ?俺の為にポチタが死んじまったなんて……信じたくねぇなぁ」
声色からデンジ君の深い悲しみが伝わってくる。でも私は知ってるんだ、キミの言うポチタ……チェンソーマンは。
「その話信じるよ、私は特別に鼻が利くんだ。だから分かる―――キミの親友はキミの中で生きてる、浪漫的な意味じゃなくて体から人と悪魔の二つの匂いがするもん」
「そっか……そりゃすげ~よかった!」
私の言葉で彼は表情を一気に明るくさせて―――私もキミと同じかな、チェンソーマンが生きててよかったと心の底から思うよ。
そこから屋台で5000円分の食事を買い沢山のご飯にデンジ君は大喜びしていた、残りの9万5000円に加えて筋肉の悪魔VSチェンソーマンの鑑賞代で更に10万渡そうとしたけど「さ、流石にそこまでもらえないっすよ」と断られてしまい……別にいいのにね?
そしてお互い朝ご飯を食べ終えた後、デンジ君が何やら畏まって私の方を見てきた。
「あのっ、アナタのお名前は……?」
「私はマキマだよ」
「マキマさん……すっ、好きな男のタイプとかあります?」
「う~ん」
好きな男と言われても困る質問だね、私は見た目こそ女だけど悪魔で性別の概念は存在しないからさ。でもまぁ、私が愛するチェンソーマンは今デンジ君の状態だから……つまりは。
「デンジ君かな!(悪気なし)」
「……それって俺じゃ~ん!!」
結局、さっき一瞬頭によぎった感情は何だったんだろ。あれはチェンソーマンとしてではなく……デンジ君に向けたものだったような?