倒れるデンジ君を引きずって家の中へ入って行ったパワーちゃん、建物内に入られるとカラスの視界は使えないからネズミの耳に切り替え私は会話の盗聴を始めた。そして分かった情報は、パワーちゃんが共謀している悪魔というのはコウモリの悪魔だという事だ。デビルハンターに受けた傷で隠れざるを得なかったコウモリは人間の血を欲していて、デンジ君を掴みその血を飲んだ結果―――不味いと不満の声を上げながらも悪魔の力を取り戻した。
通常若い人間の血は悪魔にとって大好物なんだけど、強い拒否反応を示したのは彼がチェンソーマンで普通の人間とは違うからだね。そのままデンジ君を離してくれたのは安心したけど……チェンソーマンの血が不味いってほざくコウモリは気に食わないかな?だってあのチェンソーマンだよ??
「全く、やっぱり雑魚悪魔はダメだね」
「今何か言いました?」
「な、何でもありません……早川君、私の指示した場所には後どれくらいで着きそう?」
「町の外れにある家ですよね、申し訳ないですがまだ少し時間かかります―――それにしてもその家に悪魔がいるっていうのは本当なんですか?当然マキマさんを信頼していないとかではないんですけど……さっき何の勘って言ってましたっけ」
「―――デビルハンターとしての野生の勘です」
「真顔で言うのやめろよ……」
支配の悪魔だから全部分かるとは間違っても言えないからね、それに私は野生の勘とかちょっとカッコいいと思うんだ。これでまた上司としての威厳を部下に見せられたよ……有能上司の私は盗聴を再開したけどコウモリの悪魔の声が聞こえてこない、それにデンジ君とパワーちゃんの声もだった。
―――これは間違いないね。
状況を察した私はカラスの目に切り替え、そこに映ったのは。
「オレの胸ェ返せ!」
「私の血を飲んでる!?気持ち悪い……!貴様の血など飲む気も起らんわ!」
飛んでいるコウモリの悪魔の足にしがみつき、噛んで血を吸っているデンジ君の姿。パワーちゃんは恐らくコウモリの体内かな、でもまだ死んでいないはずだからそこら辺は大丈夫だね。そして彼は先ほどのようにコウモリに強く握り締められ……私には分かる、今から彼はなるよ。
胸のスターターを引き、ヴヴンとエンジンを吹かす音が聞こえるとその姿を―――チェンソーマンへと変えた。
「頑張れデンジくーん!」
「ど、どうしたんですか、いきなりアイツの名前を叫んで」
早川君から困惑の声が上がるけれど私の耳には入らない、だってチェンソーマンが悪魔と戦い始めたんだからね。デンジ君がチェンソーでコウモリの羽を切るとお互いビルの中へ落ちていった……こうしてはいられないよ。
私は後ろから早川君の肩を強く揺らし。
「早川君!行き先変更だよ!」
「あの、野生の勘でその家に悪魔がいるって話は「私の勘違いだったよ、ごめんね早川君」……もういちいち感情荒げるのバカらしいんでツッコミませんよ俺」
「ほらほら飛ばして、私は早くファン活動をしたいんだ!」
「さっきも言いましたけど肩揺らすのは危ないんでやめてください……」
車で向かっている最中も私はチェンソーマンの戦いを見ていて、やっぱり苦戦しているけれど……コウモリの体をチェンソーの刃で切り刻むたびに私はだらしなくニヤケ顔を浮かべていた。私はチョロくないよ。
「着きました、近くは危ないんで少し距離を置きましたが。とりあえず俺は姫野先輩達と合流するんでマキマさんも一緒に……ってトランク開けて何してるんですか」
「これはね早川君―――私にとって命よりも大切なものだよ」
そう言ってバッグを見せると、彼はその中身を悪魔に対し何か効果的な武器でも入っているのかと思ってるらしく私の開ける様子を息を呑んで見守っていた。そして中身を見た瞬間に「期待した俺が馬鹿でした」と氷のような目つきを私に向けてきて……はっぴとハチマキを巻き。
「早川君のバカ!私はもう先に行ってるからね!」
「マキマさん!?」
私はチェンソーマンが戦っている現場へ走り始めた。
5分も経たないうちに現場へ到着し、そこには倒れているパワーちゃんの姿が。走っている途中も見ていたからチェンソーマンがコウモリの悪魔を倒し彼女を救出したのは既に把握済みだ、そしてその後にコウモリのパートナーであるヒルの悪魔が現れたのも知っている。血が足りないデンジ君は変身できず苦戦を強いられてる状況、だから私は尚更走る足を速めたんだ。
パワーちゃんは私の存在に気づいたのか驚きの表情を浮かべている。
「マ、マキマか……?」
「無事でよかったよパワーちゃん、デンジ君は?」
「あ、あそこじゃ……」
彼女が指を指した先には、ヒルの悪魔の舌に体を貫かれ今にも食べられそうになっているデンジ君の姿が。
ヒル如きがチェンソーマンを食べるなんて……許されると思ってるのかな?
「ヒルの悪魔、今すぐデンジ君を離しなさい」
「ア、ガッ……!?」
命令を聞いたヒルは舌を引き、それによってデンジ君は地面に落ちた。私は彼の元に駆け寄り。
「デンジ君」
「……マキマ、さん」
「私の血を飲んでね―――それでキミはチェンソーマンとしてまた戦えるから」
「そ、そんなの悪いっすよ……」
「気にしなくていいんだよ?私にとってはチェンソーマンが全てだからね」
飛び散ったガラスの破片を握りしめ血を出し、それを彼に飲ませている最中ヒルの悪魔が目を覚まし。
「い、一体何が起きたのよ……アンタの仕業ね!?どうやったか分かんないけど私の夢を邪魔しないでちょうだい!」
「アナタの夢とは一体何なのでしょう、教えてくれませんか」
「私の夢は人間を全て食べる、無謀だけど崇高で素敵な夢。その子犬の低俗な夢もそうだけど、どうせ人間なんて誰もがその程度。アンタもそうなんでしょ?」
「私の夢はとある存在をずっと近くで見て、そして応援していく事です。素晴らしいと思いませんか?」
「……くっだらないわ!自分ではなく誰かに重きを置く人生だなんて馬鹿らしい!」
私の。
「―――ヒルの悪魔、アナタはもう一生体を動かす事は出来ませんよ」
「……あ?はへ?」
与えた血の量は復活に十分、それを確認し私はデンジ君のスターターを思いっきり引っ張った。彼の姿がチェンソーマンへと変わっていく。
「デンジ君」
「はい!」
「―――やっちゃって」
「分かりましたァ!!」
私の夢を馬鹿にするなら死んで。
ヒルの悪魔を倒したデンジ君だったけれど、所詮ガラスで切った手の血でしかも1人分の量なため変身解除後すぐに貧血で倒れてしまった。ちょうどそのタイミングで4課のみんなもやってきたので彼を早川君に託し……
「悪魔倒しちゃったよデンジ君!これでキミも少しは彼を見直したかな」
「……どうでしょう」
「素直じゃないね?」
「マキマさんもこういう真似するのは危ないんでもうやめてください、少しは自分の立場というのを考えて行動するべきですよ」
「早川君、私のファン活動は誰にも止められないよ」
「……まぁそう言うって分かってましたけど」
早川君は呆れながらも私の無事に安心しているように見えた。
とりあえず後処理はみんなに任せるとして、私は倒れているパワーちゃんの元へ向かった。何故かと言えば私が支配の力を使っている所を見られているからだ、もし彼女が口外してしまうのなら……理解者に対し気は進まないけどその部分だけ記憶を書き換えようとして。でも。
「マキマは凄いのぉ、流石天才のワシが認めただけはあるわ!」
「……内緒にしてくれるの?」
「ウヌがいなかったらワシもニャーコも死んでおった、だからそのお礼じゃ!」
こうして私はパワーちゃんに能力を使わずに済み……改めて彼女をどうしようかと悩んだ結果私はとある良いアイデアを思いついた。
「―――早川君家の部屋を一つパワーちゃんに貸してほしいの、キミならデンジ君とパワーちゃんの面倒を見れそうだからね」
「……なんで俺の家にヤバい奴ばかり集めるんですか?」
「フフ、それは私が早川君を一番に信用してるからだよ」
「いやそれは嬉しいですけど住まわせるなんて無理です」
上司からの熱い信頼、今ので通せると思ったんだけど……仕方ないね。
ここは奥の手を使おうかな?
「たばこ1年分」
「えっ」
「早川君がパワーちゃんを迎え入れてくれれば、日本では購入不可能な外国産の希少かつ超高級たばこを1年分あげるよ」
電話越しだけど彼の迷いが伝わってくる、もう一押しだ。
「私はたばこ無理だけど、吸った人の感想を聞けばこれを味わってしまったらもう他のには戻れない。そう言ってたね」
「お、俺は……」
「いいのかな、これを逃せば恐らく一生吸える機会は訪れない。キミは……この味を知らずに死んじゃってもいいんだ?」
私は確信した、今ので早川君は……
「―――分かりましたよ!絶対約束守ってくださいね!?」
堕ちちゃったね。