私は今コウモリとヒルの悪魔討伐の事後処理で山積みの書類作業に追われている所だ、普段なら鎖でズタズタに引き裂きたいと内心思いながら仕事するけど今回は違う。それは何故かと言うと。
「私の支配の力で悪魔を拘束して、チェンソーマンがぶった切る。これはもう最強のコンビが出来ちゃったよ」
地獄ではチェンソーマンに関わるなんて恐れ多く、そして戦い彼を傷つけるなど論外だと思っていた。だから私のスタンスは毎回ただ観戦しているだけ、でもそれでファン活動は成立していたし心も十分に満たされていて……だけど今回のヒル戦ではサポートという形でチェンソーマンの活躍に貢献する事ができたんだ。
その事実に思わず笑みが零れて―――いやこれじゃあダメだよね??叫ばれた悪魔も助けを求めた悪魔も両方殺す、そもそも敵味方の概念すら存在しないめちゃくちゃっぷりが彼の良さなのに誰かの力を借りるチェンソーマンをチェンソーマンとは到底言えない。でもあの瞬間に抱いた幸福感を嘘とは否定できず……そんなときふと床からサメの背ヒレが浮いているのが視界に入った。
「―――ビーム君、前にも言ったよね?キミがこの部屋に入るときは合言葉が必要だって」
「ヒャ!?オレうっかり忘れてた!もう1回やり直してくる!」
背ビレが沈んでいき、数秒後にドアの向こうから声が聞こえてきた。
「チェンソー様!」
「最高」
「チェンソー様!」
「最強」
「……入っていいよ!」
「ワアアアアアアアアア!!」
改めて部屋に入ってきたのはサメの魔人ことビーム君、公安に所属している魔人は皆地獄での記憶を保持しておらず私がチェンソーマンの活躍を熱く語ってもみんな理解してくれなかった。でもビーム君は……唯一地獄時代を覚えており同時にチェンソーマンの大ファン、言わば彼は貴重な同志だ。だからこうしてチェンソーマンの話をよく2人で交わしている。
合言葉は私以外の人がいるときでも関係無しにこの部屋へ入ってきちゃうから定めたもの……まぁそれは建前で本当の理由は。
「チェンソーマン最強最高!」
「チェンソー様!最強!最高!」
「「いえーい!!」」
素直にこの流れがめちゃくちゃ楽しいからなんだ。
「今日はどうしたの?」
「ギャワ!オレはマキマ様とチェンソー様に関する勝負しにきた!」
「第345回はつい数日前に終わったばかりだよ、第346回の開催日は明日のはずだったけど……いやそっか。明日は予定があるから今日に前倒ししようって前回の最後に私が言ったんだったね」
「そうそう!今日こそオレ絶対負けない!」
ずっとヒルの悪魔との戦いばかり考えちゃってて、私もうっかり勝負を忘れてたよ。これじゃビーム君の事を言えないね?でもちょっとモヤモヤしてたからこれは良い気晴らしになるかな、今までこの勝負は345勝0敗で私がずっと勝ち続けている。ビーム君も十分に素晴らしいファンだけど……チェンソーマンの戦法、何の悪魔といつ戦いどう殺してきたか、叫び声のレパートリーまで彼の事なら全て把握済みな私には流石に勝てないよ。
―――また記録を更新させてもらおうかな。
今日もクイズ勝負だと思い、私はチェンソーマンのナンバーワンファンとして余裕の貫禄をビーム君に示していたけれど……彼がズボンのポケットに手を突っ込みゴソゴソと何かを取り出しているのを見て思わず首を傾げた。
「ビーム君?」
「今日はクイズじゃなく……これで勝負するんだ!」
そう言ってビーム君が見せつけてきたのは。
「これは……チェンソーマンのぬいぐるみ?」
「正解!!正解!!マキマ様が作ってるのを見てオレも作りたくなった!」
サイズは最近私が24時間ぶっ通しで作ったミニサイズと殆ど同じ、ビーム君のこれで勝負という発言。要は―――私にぬいぐるみのクオリティで勝負を挑んてきたという事なんだ?
天才とお墨付き(パワーちゃんから)されているこの私にそれで勝とうとするなんてね、キミのその無謀さ……私は嫌いじゃないよ。
「いいよ、受けてあげる。ちょうど私も昨日新しいぬいぐるみを作った所だしさ」
「ギャワ!!」
「ただそうなると第3者でジャッジする人が必要だね、ビーム君以外の魔人はチェンソーマンを覚えてないからクオリティの判断ができない。どうしようか……あっ」
「マキマ様?」
「思いついたよ、ここは彼女に頼めばいい」
「―――ワシ参上じゃああああ!!!」
またしてもドアを壊しそうな勢いで開けてきたパワーちゃん、私のチェンソーマングッズをよく見せている彼女が適任だと私は判断した。
「何でか分からんがデンジが今日の朝からボケーッとしておってな、ワシが話しかけても全部無視するんじゃ。だから退屈で仕方なかったんだがのぉ……これは面白そうじゃ!」
デンジ君にもこの後書類作業を手伝ってもらう事になってるんだけど……一体どうしたのかな?
疑問はあるけれどそれは直接本人に聞けばいいか、とりあえず今は目の前の勝負に意識を集中させよう。
「パワーちゃんにはこの2つのぬいぐるみを見てどちらの方がクオリティ高いかをジャッジしてもらうよ、ちなみに私とビーム君のどちらが作ったものかは言わないでおくね。そっちの方が公平だし」
「了解じゃ!ぬいぐるみの商品開発で特許を1000個持ってるワシに任せておけ!」
パワーちゃんは前回と同じく顎に手を当ててまるで鑑定士のように2つのぬいぐるみをじっくり見ている、左に置かれたのが私制作で右に置かれたのがビーム君制作のだ。彼には悪いけど……グッズ制作で私が負けるなんてあり得ないよ。そうして数分後、彼女は自信満々な表情で1つのぬいぐるみに指を差した。
「勝負は―――この右に置いてあるぬいぐるみの勝ちじゃ!というか完成度が比べ物にならんわ!左のひっどいコレはなんじゃ?確かウヌの名はビームじゃったか、もう少しマシなものを作らんか!こんなのゴミじゃゴミ!!」
「チギャウチギャウ……右のがオレで左がマキマ様の作ったやつ!」
「は?」
今パワーちゃんは何て言ったの……?
私の、私の作ったぬいぐるみがゴミ?
「……そういえばワシ、今からアメリカに行く予定があるんじゃった「パワーちゃん」マ、マキマ!?いい今のは違うんじゃあ!」
「……冗談、だよね??」
パワーちゃんはただ黙って頷いていて―――うん!やっぱり冗談だったんだね!全く、パワーちゃんもイタズラが過ぎるよ!
「マッ、マキマの作ったぬいぐるみは最高じゃ……」
「フフ、ありがとねパワーちゃん」