第六惑星の決戦〜土星沖、燃ゆ〜   作:くコ:彡の本棚

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前編

 故郷に来攻する敵艦隊を望むのは、ざっと三年ぶりのことである。艦首の複眼をぎらつかせて迫る敵艦隊の姿は、雲霞の如き蝗の大群そのものだった。

 

 地球艦隊総司令・山南修は旗艦"アンドロメダ"の艦長席に座し、スクリーンの向こうに広がる光景を黙然と見つめる。三千隻を優に超える敵の本隊が、楔のような密集隊形で土星沖に踏み込んでいる。

 

八番浮遊大陸では取り逃したカラクルム級戦闘艦、通称・大戦艦を円錐状に配し、その内側には空母、巡洋艦、駆逐艦で構成される機動部隊が布陣……ないし充満していた。

 物量が許すだけの堅牢さが、これでもかと押し出されている。

 

 さらに、ヤマトとも熾烈な攻防を繰り広げたメダルーサ級重戦艦が九隻。三隻一隊が三個、本隊の両翼および右翼後方に布陣していた。

 前者二つは地球艦隊に火力を指向しうる位置にあり、本隊を波動砲で薙ぎ払おうと静止すれば、数万との高エネルギー流を跳躍させる火焔直撃砲によって串刺しにされるだろう。

 

 それらを統轄するのが、今回初めて確認された白い大型空母である。全長1200mを超える破格の規模を誇り、搭載機数は数百機にのぼると推計された。

 

「敵艦隊の戦力、布陣に関するデータを、太陽系内の友軍全てと共有」

 

 千五百隻にのぼる主力が、現在内惑星系で待機し、出撃の時を待っている。最前線からの報告は彼らにとって初めてのはずだ。

 没個性的なモデルで再現された情報だが、一目見れば嫌でも理解させられることだろう。敵が何故ここまで来たのか。地球に何を突きつけているのか。

 

 戦って死ね。辺境でガトランティスの先遣部隊に遭遇し、その蛮行に最後まで立ち向かった先達。最後の最後に降伏を申し入れた彼に対して、敵の指揮官はそう言い放った。

 今、実際に敵と向かい合ってみると、その声から表情までありありと浮かび上がってくるようだ。

 

 馬鹿め、と応じてやるのみだ。

 

 山南が現在率いるのは八百隻の先遣隊。土星を右手に、横列と縦列を組み合わせた陣を敷いて迎え撃つ。正面に火力を集中して敵の正面を押さえつつ、各隊を縦列に切り替えて火焔直撃砲を回避しやすくした。

 

 主力が駆けつける、その瞬間が勝負を決する。それまで如何に損耗を抑えて戦線を維持できるか、正念場だった。

 

マイクを手渡され、全艦隊に通信回線を開く。

 

「地球艦隊司令・山南より、全艦に達する」

 

 自分でも言じきれていない勝利を、部下に信じ込ませる。訓示を垂れるとはそういう儀式であって、山南がそのしんどさを真に理解したのは、これが初めてのことである。

 

「お前達、なんて顔してる」

 

 不安に押し潰され俯いていた顔を、弾かれたように上げる乗員が大半の艦で見られた。山南は千里眼の持ち主ではなかったが、そうした者達の存在を当然知っていた。

 経験を積む機会も与えられぬまま、強大きわまる敵と直面することを強いられた彼らは、かつての山南自身でもある。

 

「今の我々には、新技術で生まれ変わった艦がある。波動砲もある。経験なんてものは、生き残れば勝手についてくる」

 

 敵にこそ聞かせてやりたいと思った。今、お前達が踏み潰そうとしている相手は、このようなことを宣っている。

 

「第一種戦闘態勢。力を過信する者は、怯懦を知る者に勝てないことを教えてやれ」

 

 ────────

 

 当初の布陣は、ひとまずバルゼーを満足させるものだった。

 

 左手に、地球人が土星と呼称する恒星系第六惑星がある。レギオネル=カノーネ発動の贄となる予定の天体だ。

 

 千隻の大戦艦が円筒状に陣を敷き、地球を狙う砲塔を形作る。これを敵艦隊との決戦に投入することを、バルゼーは考えついた。内部を埋め尽くす形で機動部隊を置き、戦況に応じて出撃。

 叩けるだけ敵を叩いたら大戦艦の壁の中に帰投して、再度の出撃を繰り返すことができるのだ。

 

 最大の懸案、地球艦隊の"大砲”対策として、火焔直撃砲搭載の重戦艦を九隻動員した。敵の“大砲”が放たれるまでに、火焔直撃砲を二発は撃ち込める。

 建造過程がきわめて複雑なこの艦は、現在の運用可能数が二十隻にも満たず、一箇所の戦場に三隻以上が投入されること自体稀である。それを許可した大帝にも、土星における激突を決戦と見る思いがあるのだろう。

 

 覇道の別れ目と言うべきだった。その戦場に艦隊司令として立っている事実に、バルゼーは武者震いを抑えきれなかった。

 

「バルゼー様。敵艦隊が間もなく、大戦艦の射程圏内に入ります」

 

 副官・ヴィルホの報告通り、艦首をこちらに向けた地球艦隊がじわじわと相対距離を縮めつつある。"大砲”を使う兆候は見られない。

 

「よし、入り次第砲撃を開始しろ。耐えかねて"大砲”を使おうとするなら、両翼から火焔直撃砲を叩き込んでくれる」

 

 塔のように積み重なった大戦艦の砲塔が動き始め、接近する敵に狙いを定める。

 短射程のビームを大量にばら撒く輪胴砲塔と違い、高威力と超射程を備えた大戦艦の艦橋砲は、遠方の敵を狙い撃つことに長ける。まずは機先を制して弾幕を叩きつけ、敵を揺さぶることからだ。

 

 数千を超える緑の光条が砲門から次々と飛び出し、宇宙を沸き立たせて突き進んだ。光の鉄槌に押し潰されると見えた地球艦隊が俄かに闘志を張らせ、青い光の卒流で抗う。

 青と緑の光世が飛び交っては消え、恒星系の一角を激烈に彩る。

 

 土星沖海戦は王道的な砲戦によって幕を開けたが、規模といい破壊力といい尋常なものではなく、地球とガトランティスの戦争が、真の始まりを迎えた瞬間でもあった。

 

 火力の応酬は地球時間で一時間に及び、開始から今まで互角のまま推移している。互角。その事実がバルゼーにはじ難く、同時に腹立たしくもあった。

 

「敵に与えた損害は」

「撃沈、五。脱落が七です」

 

 バルゼーは辛うじて舌打ちを堪えた。こちらは大戦艦が十三沈み、四十余りが砲塔を吹き飛ばされて戦闘力が低下している。艦の各所から煙を噴いている艦は百に達しようとしていた。

 

 地球の艦が機関出力を転用した”防壁”を展開することは知っていたが、大戦艦の砲撃はむしろ、柔軟な艦隊運動に阻まれている。

 間断ない砲撃、その中にどうしても小ずる一瞬の間隙に乗じてありったけ撃ち込み、応射に曝される前に退く。地球艦は概して小型であるだけに、集中砲火を避ける運動性能があった。

 

「イーターを出しますか?」

「ならん。何のためにあれを使うのか忘れたわけではあるまい」

 

 旗艦である白い巨大空母に搭載された、剣を思わせる小型艦。敵艦に突撃し、艦首の衝角で"防壁”を中和しつつ串刺しにする、外見の印象と異ならない戦法を能くする新兵器である。温存しておくだけの理由が、バルゼーにはあった。

 

 侵攻に先立ち、数十個の小艦隊を太陽系で遊やさせ、陽動と威力偵察の任に充てた。得られた情報を集積させ、少なくとも数百隻の敵が内惑星系に待機し、出撃の機を待っていることが判明したのである。

 地球の本隊に間違いなかった。新型の"大砲”を始めとする武装を搭載した、五隻の新鋭艦と思しき反応もある。

 

 現在交戦中の艦隊とこれの他に、まとまった艦隊は確認されていない。

来着時にイーターを全て投入し、覆滅するというのがバルゼーの構想だった。

 新鋭艦を含めた主力が文字通り串刺しになるのを見れば、抗戦の意志も完全に潰えるだろう。なればこそ、先遣隊は早期に潰しきってしまいたかった。

 

「砲撃を突撃支援に切り替え。近接戦だ!」

 

 機動部隊に前進を命じた。大戦艦の壁から湧き出るようにして、汎用艦艇が突出してゆく。雷雲が無数の稲妻を四方に放つ様にも似ていた。

 

 地球艦隊を直接狙っていた大戦艦の砲撃が、放射状にベクトルを変える。上下左右方向への展開を封じ、機動部隊の突撃を否応なしに受け止めさせようというものだ。

 エンジンノズルを全開に噴かす機動部隊が、翠光の切り拓いた回廊を突き進んでゆく。

 

 ────────

 

 敵機動部隊の突撃は、緒戦を制した証左だと山南は見た。

 

 極論を承知で言うなら、敵は攻撃する必要すら無いのだ。泰然と陣を堅持しつつ、奇襲への備えだけを残して、惑星間砲撃システムの完成をただ待てばよい。

 本隊が来着したところで、メダルーサ隊の十字砲火が健在な限り、波動砲戦に持ち込むことはほぼ不可能だろう。

 

 だが実際は、いきり立ったように機動部隊を差し向けている。自分の思うような戦闘展開とならず、苛立っているのが手に取るように分かった。

 殺戮のためだけに造られた人工生命というが、中々どうして、と山南は苦笑する。

 

 とはいえ現実問題として、こちらの三倍は下らないであろう機動部隊の撃退せねばならない。これを跳ね除ければ敵の判断はますます弾性を失い、逆にこちらが動く余地は大きくなるはずだ。

 

「全艦、微速後退。所定の宙点に達するまでに、火力部隊は集結を完了せよ」

 

 下命は副長によるものである。戦後の人材不足により、軍歴に相応しくない地位に就いたことへの戸惑いが隠せていなかったが、ようやく板に付いてきたと思えた。

 

 麾下の艦艇も後退しながら崩れる兆しを見せず、訓練とは見違えるような舵の切り方だった。本当の戦場に立ったことで、自分が艦に乗る意味を自覚したのだろう。生き残れれば、良い船乗りとして大成するかもしれない。

 

 剽悍な獣性を剥き出しにして迫り来る機動部隊。それぞれ巡洋艦と駆逐艦を引き連れる形で、空母が先陣を切る光景など、ガトランティスの戦闘教義を如実に示す一例だった。

 

 あるいは彼らにとって航空機とは、意思を持って動き回るミサイルや魚雷のことを指すのかもしれない。より効果的な「着弾」を狙い、前線に出て機会を探すということなのか。

 発艦ないし射出の瞬間に虚を突くことがかなえば、形勢はこちらに傾くことだろう。

 

 護衛艦の艦首に備わった発射管が火を噴き、敵の針路を立ち塞ぐ形で短魚雷がばら撒かれた。ガトランティス艦特有の砲塔が、猛烈な回転でもってそれに応じる。

 艦の装甲すら挟るビームが秒間十発で撃ち出され、弾幕となって両軍の間に満ち満ちた。

 

 回転式砲塔の対空能力が如何に高いか、改めて見せつけられる。緑の光弾が次々と魚雷を射貫いた後には、赤い爆炎しか残らない。

 それを突っ切る機動部隊は減速する素振りすら見せなかった。牙を剥いて威嚇するかの如く、回転砲塔は光を吐き出しながら回り続ける。

 

 退がりながら少しずつ、少しずつ各艦の配置を組み替えてゆく。各分艦隊を率いるD級戦艦や金剛改型戦艦を抽出し、五つの火力部隊に纏め上げた。

 機が訪れれば一挙に正面火力を解き放ち、全艦隊が反撃を開始する狼煙を烽火を上げるのだ。訓練を重ねた所定の行動であったが、敵の砲火の目の前で成功させたことは重畳と言うべきであろう。

 

 山南は見た。電探員が声を上げるより先に。カブトガニを思わせるシルエットの攻撃機が、空母の飛行甲板を滑るように姿を現す。

 

 尾崎、と口にした時、既に土星の輪から一隊が飛び出していた。

 

 幸運艦”ゆきかぜ”最期の地、衛星エンケラドゥス。そこに駐留する艦艇を中心とした奇襲隊である。

 前哨戦にあたる衛星フェーベ近傍での戦いでガトランティスの先遣隊を撃退したことにより、土星に潜伏するだけの余裕があった。そのため、敵機動部隊が前進した際の横撃役に任じていたのである。

 

 指揮を取る尾崎の忍耐と粘り強さは山南もよく知るところで、命じるまでもなく、最良のタイミングで敵に痛撃を与えていた。

 

 発艦直前の攻撃機を抱えた空母を狙いすまし、幾十本もの光の槍が投擲された。砕け散る母艦と運命を共にする機体もあれば、火達磨と化した艦載機の炎で甲板を灼かれる空母もある。

 不意を突かれて怒り狂う敵の一部が奇襲隊に向かい、左方に転針した。彼らは気づいていなかったが、尾崎は部隊を二分して待ち構えている。

 

 尾崎の旗艦も含む一方は縦列を取り敵に舷側を向け、右に砲塔をもたげさせる。

 艦載砲の火力を最大限叩きつける、洋上艦時代から続く伝統的な砲撃態勢。機関の齎すすエネルギーの高まりは輝きとなって砲口に灯り、指向性を帯びた光条と化して敵艦に飛びかかった。

 

 空母が貫かれ、巡洋艦が両断され、駆逐艦が爆ぜ散る。黄色い複眼は秒を追うごとに光を失い、燃えたぎる火球に取って代わられた。

 僚艦の残滓をかき分けて飛びかかる機動部隊の眼前には、縦列のまま土星に取って返そうとする奇襲隊の姿。逃すべからずと駆逐艦が飛び出して量子魚雷の発射管を開いた瞬間、奇襲隊のもう一方が対艦グレネードの豪雨を見舞った。

 

 爆発と共に吹き荒れる熱波。機動部隊の各艦は次々と装甲を融解され、内部で生じた炎に突き破られてゆく。攻撃機とその弾薬を満載した空母などは、全長より遥かに巨大な炎の柱と化して僚艦を飲み込みながら消え散る。

 

 焼け焦げた船体が崩れながらも慣性のまま進み続ける様は、手負いの狂戦士が道連れを求める姿を想起させた。

 

「エンケラドゥスの戦友に遅れを取るな。全艦連動!」

 

 奇襲隊の鮮やかな横撃により生じた隙を突いて、山南は火力部隊を最前面に展開した。次世代の主力戦艦であるD級は言わずもがな、第一世代艦の改装である金剛改型の正面火力も目に値する。

 外洋への進出能力が無い代わりに、機関出力増大と船体の大幅な補強が施されていた。

 

 攻撃開始の命令が艦隊に谺する。

 

「撃てえっ!」「撃てぇ!」

 

 眼前に聳える鴨緑色の壁を寄つ勢いで、金剛改型の艦首魚雷とミサイル発射管が咆哮する。発射煙を振り切るように猛進する弾体に対し、回転砲塔が全力稼働してビームを射かけた。

 

 先だっての奇襲による混乱があるため、先程のように全弾撃墜とはいかない。魚雷に砕かれ、ミサイルに群がられた艦から次々と光が失われてゆく。

 

 それに続く第二の攻撃は、D級の30.5cm砲による一斉砲撃である。威力は無論のこと、連射能力も強化された砲塔が息つく間もなくビームを吐き出し、陽電子の青いサイクロンを敵に叩きつけるのだ。

 前面を指向する砲口で遊んでいるものはなく、冷却装置を限界まで動かしての砲撃が、百隻単位で敵を粉砕した。

 

 ここまで苛烈な砲火に曝されてなお、機動部隊の戦意は未だ潰えておらず、船体に亀裂の走る空母がなおも攻撃機を繰り出す。爆沈する母艦から脱出しながら飛び出してくる機体まであった。

 

 火力部隊第三の攻撃がそれを迎え撃つ。無数の対空ミサイルと三色融合弾が飛び交い、攻撃機の生存を許さない地獄が戦場に現れた。

 金剛改型の艦首砲は改装前よりのショックカノンだけでなく、三式弾の発射も可能となっている。噂の域を出ないが、次元断層や亜空間ゲート内での戦闘を想定したものという。

 

 炸裂した砲弾は竜巻状に散弾を撒き、回避し損ねた攻撃機を包ち蜂の巣にした。

 間一髪で回避した機は対空ミサイルが執拗に追いかけ、背後から撃ち落とす。飛ぶ力を失った攻撃機が黒煙の尾を曳きながら、僚艦に衝突し、あるいは宇宙の闇へと消えてゆく。

 

 恐らくは誰が命じるまでもなく、機動部隊は後退に移り始めた。後退する敵の後ろ姿を見ながら、山南はようやく一息つく。

 奇襲隊に、尾崎に礼を言おうとマイクに手を伸ばしかけ、止めた。彼らにはもう一つ大事な仕事が残っており、礼を言うのは勝って生き延びた後だと思い直したのである。

 

 損害報告が入った。喪失艦艇、一割。損傷のために後方に退く艦もあり、現有戦力は開戦時の八割といったところか。驚懼すべきは、沈んだ艦の大半が先の戦闘後半に被弾したという報告である。

 

 轟沈覚悟で突っ込みながら放たれた敵艦のビーム、操縦不能になってなお放たれた攻撃機のミサイルが、数多の味方を道連れにした。ガトランティスという存在そのものが抱える、妄執を目の当たりにした気分だ。

 

 より徹底した指揮が取れれば。訓練を積む期間を長く得られれば。そんなものは無益な感傷であり、現場指揮官は目の前の現実をただ受け止めなければならない。

 

「天王星軌道の友軍より入電」

 

 山南は僅かに表情をあらためた。

 

「”アポロノーム"は所定通りに」

 

 頷くと、山南は思考のチャンネルを冷徴な戦術家のそれに切り替えた。

敵艦隊を見据える。その視線は当初より減ってなお大兵力を誇る敵をすり抜け、遥か後方に達していた。

 

 ────────

 

 無様に逃げ戻ってきた機動部隊の惨状を見て、バルゼーは怒りの発露を抑える努力の無益さを悟り始めた。

 

「おのれ、何たる醜態か」

 

 五百隻が消えていた。数で遥かに劣る相手に二割近くの戦力を奪われては、敗北とそう変わるものではない。敵はまだ“大砲”を使ってもいないのだ。

 

 衛星での小競り合いを取れていれば。詮無い繰り言を口にしそうになる。そうしていれば敵の自由な展開を封じ、惑星のリングに潜伏させることも許しはしなかっただろう。

 弱者の浅知恵ではある。その浅知恵に一杯食わされた自分は、何と呼ぶべきだろう。

 

 暫し訪れた静寂。それを破る報告が飛び込んできた。

 

「敵の旗艦が動いただと?」

「率いているのは小型の高速艦。直卒部隊かと思われます。我が方の右翼に接近中」

 

 地球が建造した五隻の新鋭艦の一つである。百隻ほどの小部隊を引き連れて移動する先には、右翼に配した重戦艦の部隊があった。

 

「緒戦の余勢を駆って、"大砲"を防ぐこちらの陣立てを破るつもりでは?」

 

 ヴィルホの見解は間違っていないだろうが、その裏にある敵の考えをバルゼーは嗅ぎ取った。この動きが重戦艦を狙うだけでなく、何らかの陽動であるとしたら……。

 

 最終局面が近づこうとしている。地球艦隊は主力の進出を援護するため、こちらの注意を惹きつけようとしているのではないか。

 

「総力をぶつける。間もなく敵の主力がやってくるぞ、残存する機動部隊を全て差し向け、大戦艦を前進させる」

「重戦艦の援護は?」

「あちらは重戦艦に任せておけばよい。後方に一隊を配したのは何のためだ」

 

 鉄壁の布陣に唯一弱味があるとすれば、それは遮るものがなく、敵が自由に展開しうる右翼側だった。左翼重戦艦は左右を惑星と本隊に守られているからよいとして、右翼重戦艦のさらに右方から攻められると、孤立して瓦解する恐れがある。

 

 敵は"大砲”を使うために必ずそこを突くだろう。故に後方にも重戦艦を置いた。右翼から攻めかかれば、到底手の届かない遠方から火焔直撃砲を浴びせかけられるのだ。

 

 右翼で現在の敵を拘束し、来る主力を全力で叩き潰す。決意を固めたバルゼーは重戦艦に改めて迎撃用意を命じ、イーターの出撃準備を進めた。

緒戦の屈辱を雪ぎ、ガトランティスの凱歌を上げる時が近づいている。

 

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