ただのモブ(大嘘)がTSした原作主人公の代わりに逆転世界で頑張る話 ―女性特効ラスボスは俺が倒す―   作:つくもいつき

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第13話 商会令嬢の暗躍

 

 

 

 春シーズン第一週の五日目、黎明(れいめい)

 自室のベッドの上、俺は昨夜のことを思い出していた。

 

 

『我は――』

 

 

 続きの言葉を思い起こすと、顔が燃えるように熱くなった。

 毛布を体に巻き付けながら俺は転がり回る。

 

 

『我は――モブと組みたい。それでもその契約は成立するか?』

 

 

『……私と役割が被るから難しいわね。彼が役割を変えるなら構わないけど』

 

 

『――そうか、ならば一旦保留させてもらおう』

 

 

『なぜ?』

 

 

『我にとって、一番の案内役はモブだからだ。それに、アリス。我はお前の実力を知らぬ。命を預ける相手なら、慎重に見定めるのが道理であろう?』

 

 

「……んん~~~~っ!!」

 

 

 緩んだ頬を枕に押し付け、俺は叫ぶ。

 身悶えは収まらなかった。

 

 

 ベッドから跳ね起き、寝間着のまま、俺は部屋を飛び出した。

 

 

 

 

◆□◆

 

 

 

 

 春シーズン第一週の五日目、朝。

 水浴室の冷水で目を覚ました後のこと。

 湿った髪を押さえつけながら俺は教室へ駆け込んだ。

 

 

 視線が一斉に集まる。

 固まってぎょっとする一部の女子生徒を横目に、俺は自席に辿り着いた。

 

 

「おはよう! モブ!」

 

 

 カナメの銀髪が朝日に瞬く。

 氷のように澄んだ藍の瞳がこちらを射抜いた。

 目が合った途端、俺は反射的に視線を逸らす。

 心臓が、早鐘を打つ。

 

 

「……おはよう、カナメ」

 

 

「?」

 

 

 声が半拍遅れた。

 椅子を引いて、俺は席に座る。

 机に突っ伏して、表情を隠した。

 

 

(ぞ、造形がよすぎる……!)

 

 

 カナメの顔を見るだけで体温が上がっていく。

 午前中の間は、カナメの顔をまともに見ることはできそうになかった。

 

 

『……アリス。学校のギルド窓口で資金を融資してもらう道だってある。カナメは和国の統治者を目指している。後学のため、今のうちに他国での資金融資のやり方を学んでおいてもいい』

 

 

 昨日のやり取りを俺は再び思い起こす。

 この話を切り出した時、カナメは『そんな手段があるのか』と手を叩いていた。

 

 

 レベル回復の策を立てる必要もあるが、まずはカナメの刀。

 火照る頬をつまみながら、俺は考えを巡らせ始めた。

 

 

 

 

◆□◆

 

 

 

 

 春シーズン第一週の五日目、正午。

 

 

「――では、来週の四日目~五日目に郊外ダンジョン〈試しの山〉へ遠征するから各々準備しておくように! 班構成については明日おって連絡する!」

 

 

 午前中の座学の終わりに、担任のメイリーナから新しいダンジョン遠征についての発表があった。

 

 

 教室中がにわかにわく。

 〈水の王国における税金の申告方法〉〈クエスト後の収支帳簿のつけ方〉という二連続で地味な授業から解放されたこともあって、生徒たちのはしゃぎぶりがすごかった。

 

 

 背後のカナメも興奮していたのか、俺の背中をつんつんとつついた。

 かわいいから止めろという言葉を呑んで、俺はゆっくり振り返る。

 

 

「刀、週明けには買いに行きたいな」

 

 

「うむ! え~、その資金融資というのは間に合うのか?」

 

 

「マリン先輩に確認したところ、二日で審議は終わるみたいだから、ぎり大丈夫だな」

 

 

「よし! 善は急げという。早速教えてくれ!」

 

 

「午後、俺は必須の授業があるから、それ終わってからな」

 

 

「む。なら我は窓口で申請書類とやらを貰ってくるか」

 

 

「おお、任せた」

 

 

 本日午後は、男子限定の必須授業が予定されていた。原作ゲームにはないが、設定資料集に載せられていた裏設定が反映された結果だろうと、俺は勘繰る。

 

 

 昼食後カナメと別れ、〈冒険者パーティにおける男性の役割~女性の喜ばせ方~〉という授業に俺は向かった。

 

 

 

 

◆□◆

 

 

 

 

 春シーズン第一週の五日目、放課後。

 授業でひたすら男性講師を相手に言葉選びとボディタッチの実技をこなした後。

 

 

 西日の差す教室で、俺はカナメと合流を果たした。教室には同じクラスの、下校途中の生徒の姿がまばらと残っている。

 

 

 合流直後、俺は泡を吹いて倒れそうになった。

 ありったけの声を絞る。

 全身を、震えさせた。

 

 

「もう申請してきたぁ!?」

 

 

 得意げにカナメが腕を組んで頷く。

 

 

「うむ! アリスから申請用紙と提出先を教わってな! お前の手を煩わせるのもあれかと思い、出してきた!」

 

 

「な、内容は!?」

 

 

「うん? 記入例があったから真似たぞ?」

 

 

「ファー!?」

 

 

「?」

 

 

 周囲の足が止まり、視線がこちらに集まる。

 

 

 俺は自身に向けられた粘っこい視線に気づく。

 開いた戸の向こう、金色の輝きがこちらをうかがう。

 

 

 瞳の主は、深いブロンドの髪をかき上げる。

 彼女は微笑みを残し、翻って場を後にした。

 

 

(あの女豹、やりやがったな……!?)

 

 

「──カナメ、控えはあるか?」

 

 

「これか?」

 

 

 カナメがジャケットの胸ポケットから二つ折りの紙を差し出した。

 ──薄灰色の魔力紙。

 魔導インクで記された写し。

 角に〈受付番号 0421〉の朱印が刻まれている。

 

 

 俺はひったくるようにそれを取り上げる。

 夕映えの中、一行目から目を走らせた。

 

 

 〈担保:武士の誇り(無形)〉

 〈収支見通し:素材売却次第〉

 〈保証人:アリス・マーケッタ〉

 〈返済開始:出来次第〉

  ……

 

 

女神様(ガッデス)……ッ!」

 

 

 机が悲鳴を上げるほどの力で、控えを叩きつけた。

 

 

「担保が無形!? 収支が“次第”!? 保証人がアリス!? はぁ!? 窓口もこんなんすぐ叩き返せよ!? うちの母親に出したら一族追放もんだぞ!!」

 

 

「な、そこまで言うか!?」

 

 

 アリスの入れ知恵だろう。

 保証人欄の横に固有魔法陣印が刻まれていることから、本人証明印となっている。

 

 

 手が込んだ嫌がらせである。

 これさえなければ書類不備ですぐに差し戻されただろう。マーケッタ商会のネームバリューが憎い。俺は歯噛みして、写しを睨みつける。

 

 

 顔を上げてカナメを見る。

 藍の瞳が、揺れていた。

 

 

「き、記入例に――」

 

 

「記入例はあくまで“参考”だ! 数字を埋めて根拠を添えるのが計画だろ!」

 

 

 ――審査は最短でも二日。

 却下されてすぐに再申請しても、遠征時に刀は間に合わない。

 

 

「こんなんどうせ却下されるに決まってる――! くそっ、いっそのこと自腹で……!」

 

 

 俺の怒声を聞いて、教室の数人が凍りついていた。

 カナメは拳を握り締め、唇だけ動かした。

 

 

「……モブが忙しかったから、我は……」

 

 

「相談せず動いた結果が、これだ! そもそも俺が教えてやるっつってたろ! 蛮勇が過ぎる! 少しは考えろ!」

 

 

 俺は髪を掻きむしる。

 勢いに任せてまくし立てた。

 ──羞恥に頬を赤くする、カナメを無視して。

 

 

「もう今回はいい! 次に向けて書き直すぞ! あーもう、窓口閉まってっから申請用紙も手に入らんし……!」

 

 

 空気が凝固する。

 言い返しかけたカナメは、唇を震わせ、踵を返した。

 

 

「あ、おい!」

 

 

「──モブの阿呆っ! 頑固者っ!!」

 

 

 夕映えの廊下に足音だけが伸びていく。

 小さな影に手を伸ばすも、すぐに遠ざかっていった。

 微かな嗚咽の音だけが置き去りにされる。

 

 

 俺は立ち尽くす。

 言い過ぎた、と遅れて胸が痛む。

 廊下に伸びた影が消えるまで、動くことができなかった。

 

 

 

 

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