ただのモブ(大嘘)がTSした原作主人公の代わりに逆転世界で頑張る話 ―女性特効ラスボスは俺が倒す―   作:つくもいつき

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短章 1年目春 モブの休日編(完)
モブの休日①:春シーズン第二週 週末


 

 

 春シーズン第二週の六日目、早朝。

 

 

『……♡』

 

 

「うわあぁああああああっ!?」

 

 

 背に衝撃を受ける。俺は痛みで目を覚ました。

 手の下はさらりとした毛足――赤い絨毯の上だ。どうやらベッドから転げ落ちたらしい。

 

 

 窓から差す薄い光が頬を撫で、まぶたが縮む。昨夜開けた芳香剤(聖光ミント)の爽やかさが鼻をくすぐる。

 額から汗。胸が速く上下し、天井の聖素結晶灯が汗ばんだ視界にぼやけた。

 

 

 最悪の目覚めだ。

 上体を起こし、慌ててパジャマのウエストへ手を差し入れる。

 ――異常なし。胸の奥から長い息が抜けた。

 

 

「……あっぶねぇ~~」

 

 

 今日の悪夢は原作主人公+原作ヒロイン勢ぞろい。

 まぶたの裏に、さっきまで夢で見ていた顔ぶれ――カーラ、アリス、カナメ、ルールルー、マリー――が並ぶ。

 壁に手をつけて、制服姿で、スカートを突き出して、微笑んで、手招きして……。

 

 

「っでいや、ふんっ!!」

 

 

 自分の頬を往復で叩く。

 妄想を続けてどうする、と舌打ちまじりに己を叱った。

 

 

「毎回毎回、バカかてめーは!! バカだった! バカなんだけど……、許すよ! しょうがないよな!? だって男の子じゃんねえ!!」

 

 

 両手で頭を抱える。涙がにじんだ。

 

 

 日課の自家発電をやめてから、悪夢が増えた。

 なんなら白昼夢も見る始末だ。

 いつか教室で「おーいみんな~! スケベしようや~!」と口走りそうで怖い。

 

 

 レベル10を目指すなら暴発を減らすしかない。

 来週、カナメに〈瞑想〉を教わる。上手くいけば月一で済むはず――だが、それだけで足りるか。視線が勝手に下へ落ちる。

 

 

「こうなったら……」

 

 

 俺は決心する。立ち上がった。

 もはやこれしかあるまいと、俺は街に繰り出す準備を始めた。

 

 

 

 

 春シーズン第二週の六日目、午前。

 俺は交易都市ミカの行政区※1に訪れていた。

 石畳の反射がまぶしい。

 

 

 最寄りに王国代官府〈法印殿〉・公水監査局といった役所がある特性上、青基調のスーツ姿の男女や紫のとんがり帽子をかぶった魔術ギルド技師の姿をよく見かける。

 警備隊の本部や中央留置監獄も近いこともあり、ハーフアーマーを着込んだ衛兵の姿も多かった。

 

 

 区の南端――公水監査局前にある〈シルバーリム金具工房〉に俺はたどり着く。

 店の前で俺は五分ほど、うろうろしていた。

 城壁中央の戦功記念公園から流れるギターとフルートの音色を背に、俺は考え込む。スライム製の車輪を履いた馬車が近くを過ぎる。振動が石畳を這い、靴裏に伝わった。

 

 

(……よくよく考えてみたら、さすがに?)

 

 

 朝風を浴び、小走りに駆けたせいか。

 俺はすっかり冷静さを取り戻していた。

 

 

 ここに来た目的は、特注の貞操帯を頼むこと――だった。

 いったい目覚めたばかりの俺はナニを考えていたのだろうか。行動速度を犠牲にするなんてどうかしている。ぶっ殺すぞ。

 

 

 立ち止まって俺は顔を上げる。

 蒼穹を仰ぎながら、自身の腹の音を聞いた。

 先ほど通り過ぎた屋台の脂の匂いを思い起こす。

 飯でも食って帰るかと、息を整えた矢先。

 

 

「む」

 

 

 俺は何者かが背後から近寄るのを感知した。

 人の流れから外れ、靴音が二つ近づく。

 

 

「よ、お兄さん。ひとり?」

 

 

 赤毛と青毛の女性二人が、俺を呼び止める。

 ――ナンパか。

 髪は短くぼさぼさ、日に焼けた肌は荒れているが、身につける装備は高級。リザードの革鎧を二人は纏っていた。城壁内に通されたうえにこの身なりとなると、冒険者の線が濃厚である。

 

 

 すかさず視界を赤に染め、俺は裏どりする。

 ランクはゴールドランク。所属は火の帝国。

 レベルは4で前衛よりの技能習熟。所持金は二人合わせて十金そこら。一般冒険者の日当百日分となかなかの羽振りだ。

 

 

 年は二十六と二十七。結構年を重ねている。

 この年齢でレベル4かつプラチナ未満ということは、昇格を逃している。素行か安定性に難あり、と俺は目星をつける。

 

 

(……観光兼出稼ぎか。装備のまま=ダンジョン帰り、だな)

 

 

 出身も火の帝国。完全なよそものである。

 この街の生まれで俺にナンパする命知らずはいない。連絡ひとつで警備隊三番隊隊長である長姉が飛んでくるし、俺の母親の耳に入れば文字通り指を詰められると住人は知っている。

 

 

 視界を元に戻す。

 久しぶりの向こうみずを目の当たりにし、俺のテンションは上がる。

 〈酒造の極意〉〈栽培の才〉と持っている才能(タレント)もなかなかよいではないか。兼業冒険者として輝くことができる素質を持っている。

 俺はリクルーター気分で二人の話に耳を傾けた。

 

 

「ねえ、この後あたしらと食事でもどう? いいもん食べたくない?」

 

 

「エードウシヨッカナー」

 

 

 頬に手を当て、わざとらしく考える仕草をする。

 二人の顔つきが途端に緩んだ。

 脈ありと判断されたのだろう。

 間合いを詰めてくる。左右に広がって、二人組は俺の手をつかむタイミングを狙う。

 

 

 ――いい、実にいい。行動力の高さは高得点だ。

 俺は二人の品定めを続ける。

 素行を矯正できれば、農村にいる親戚に預けてもよき働きをするだろう。

 

 

「私ら帝都から来たもんでさあ、火の帝国の女の激しさ、知りたくない?」

 

 

「おっきいお兄さんとなら、いい思い出できそう……♡ フレイムリット亭で熱い夜、すごしましょうよ♡」

 

 

 どストレートに来た。高級宿を使ってまで燃え上がろうとするところは実に火の帝国出身者らしい。

 正直そそられるが、さすがにノーだ。

 

 

 二人組の後ろで成り行きを見守っていた衛兵たちを、俺は目で制止する。

 まだ一人で対処できる範疇――俺はどう二人を言いくるめようか考え込む。

 そこに、突如横合いから声をかけるものがいた。

 

 

「――お待たせしました、モブ様」

 

 

「謝罪」

 

 

 どうしてここに? 待ち合わせした覚えはない。

 青のシスター服のマリーと、学生服にとんがり帽子のルールルー。

 突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)の存在に、俺は目を丸くした。

 

 

 

 

 

 

─────────────────

〈用語解説〉

 

※1 行政区:王国代官府・監査機関・警備隊本部が集まる公的エリア。交易都市ミカの城壁内北西に位置する区画。

 

 

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