ただのモブ(大嘘)がTSした原作主人公の代わりに逆転世界で頑張る話 ―女性特効ラスボスは俺が倒す―   作:つくもいつき

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モブの休日②:春シーズン第二週 週末

 

 

 

 金具工房の軒先で、マリーとルールルーが、赤毛と青髪の冒険者ふたりに向き合った。

 行政区の人々が歩調を緩め、遠巻きにこちらをうかがう。昼前の風が、吊り看板をかすかに鳴らした。

 

 

 さっきまで様子見していた衛兵も、ついに剣の柄へ手を添える。

 

 

(……ちょっと大ごとになってきたな)

 

 

 青いシスター服をまとったマリーが、水色の長髪を風に揺らし、眉尻を下げながら俺へ微笑みかける。

 その隣では、学生服にとんがり帽子の小柄なルールルーが、杖を片手に変わらず無表情で立っている。

 

 

 ふたりは待ち合わせを装い、俺を助けに入ってくれたらしい。

 咄嗟(とっさ)にそこまでしてくれたことに、胸の奥が少し温かくなる。

 

 

「は? 誰、おたくら」

 

 

 赤毛の冒険者が背の高いマリーをにらみ上げる。肩を張り、顎を突き出した。

 その喧嘩腰は、すっかり板についている。

 

 

 俺に向けられているうちは、面白がっていられた。

 だが、その矛先が助けに来てくれたマリーたちへ向けば、話は別だ。

 口を挟もうと、息を吸う。

 

 

(……いや、止めとくか)

 

 

 俺は途中で思い直す。マリーもルールルーも自分の意思で割り込んできたのだ。

 ふたりが踏み出した一歩を、俺が横から奪うのは違う。

 融資申請のときのカナメとの一件を思い出し、反省する。俺はまず、ふたりに任せることに決めた。

 

 

「あたしたちが先に声かけたんだけど? 何、シスターと学生が正義のお姫様気どり? 知り合いっぽくいいやがって、引っ込んでなよ」

 

 

 今度は青髪がルールルーへ顔を寄せ、間近から見下ろす。唾でも飛ばしそうな距離だ。

 自分より背の低い相手なら脅せると踏んだらしい。

 

 

「知り合いっぽいもなにも……」

 

 

「友だち」

 

 

 マリーの微笑みも、ルールルーの無表情も崩れない。

 その平然さが気に障ったのか、女たちの肩が同時に動く。

 

 

 自然と指が動きかけるが、俺は我慢する。ふたりなら、俺が割って入るまでもない。

 

 

 ふたつの手が振り上がった。

 乾いた音が、ひとつだけ響く。

 痛烈一閃──とは、ならなかった。

 

 

「は……?」

 

 

 青髪は自分の手のひらとルールルーを交互に見つめる。

 彼女は結構な勢いで平手を振り抜いていたが、とんがり帽子のつばは少し揺れただけだった。

 

 

 俺には見えていた。

 ルールルーの頬がぷるんとたわみ、平手の衝撃が顔から足元へ流れて散るのを。

 

 

「~~っ!?」

 

 

 一方、その隣では、マリーが赤毛の手首をがっちり押さえていた。

 俺の位置から赤毛の顔は見えないが、漏れた声には苦痛がにじんでいる。

 

 

「あ、が……っ! は、放せぇ!!」

 

 

「あら?」

 

 

 マリーは赤毛の空いた手首も取った。

 

 

「ぃ~~~~っ!!??」

 

 

 赤毛が苦しまぎれに蹴り上げる。

 マリーはすねで受け、そのまま軸足を払った。両手首をつかんだまま倒れる勢いを殺し、赤毛を石畳へ仰向けに寝かせる。

 間髪入れずその腹をまたぎ、両手首を頭上の石畳へ押さえ込んだ。

 赤毛は何をされたのかも分からない様子で、目を(またた)かせた。そして状況を遅れて理解したのか、顔がみるみる青ざめていく。

 

 

「プ、プラム!?」

 

 

 青髪が相棒の名を叫び、身をすくませる。

 だが、それも一瞬だった。青髪はすぐに腰の剣へ手をかける。

 

 

 俺が制止するより早く、ルールルーの杖先が抜きかけた剣を捉えていた。

 紫の魔力光が杖先に灯る。

 

 

『〈突風拳(ガスト・ストライク)〉』

 

 

 ヒュッ、と細い風切り音が鳴る。

 一直線の風圧が剣の柄を打ち、抜きかけた刃を鞘へ押し戻した。

 鍔が鯉口をカチンと打つ。

 

 

「はぁ!? なんで!?」

 

 

 青髪が手元へ目を向ける。

 

 

(きょ、曲芸すぎる……! その魔法、ふつーなら前方へまっすぐ風圧をぶつけるやつだろが……!)

 

 

 俺が感心する間もなく、ルールルーの杖先に二度目の紫光が灯る。

 

 

『〈風圧反転(プレッシャー・リバーサル)〉』

 

 

 杖先から生じた風圧が青髪の上体を押す。(かかと)を支点に、体が仰向けに傾いた。

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 背中が石畳へ落ちる寸前、押していた風圧が引く力へ切り替わった──ように、俺には見えた。

 上体を引き戻され、青髪は背を打つことなく、とすんと尻もちをつく。

 

 

(今度は押し出しや引き寄せに使う魔法で……)

 

 

 断じて、転倒の衝撃まで殺すための魔法ではない。過去の魔法開発者に謝ったほうがいいだろう。まったくもってイカれた精密操作である。

 風は青髪ひとりだけを捉え、隣にいるマリーの法衣の裾すら揺らさなかった。

 

 

「く、くそっ!」

 

 

 青髪はなおも剣の柄を握りしめる。

 

 

「まだ、やる?」

 

 

「う……」

 

 

 ルールルーの杖先がその手を追い、三度目の紫光が灯った。

 青髪は杖先とルールルーの無表情を見比べ、柄から指を一本ずつ離す。

 それを見届けると、杖先の紫光も消えた。

 

 

 ルールルーのあまりの技量に俺は舌を巻く。

 〈突風拳〉はレベル1風魔法、〈風圧反転〉はレベル2風魔法。〈中転移〉に比べれば、どちらもレベル3のウィザードが使っていても不自然ではない。

 特異性がバレるのは避けたい──そんな彼女の意図が伝わってくる。

 ……が、この変態じみた制御で使うんなら、十分目立つだろうと俺は思った。

 

 

「あ、あたしら、レベル4なの、に……」

 

 

「あら、とてもそうとは」

 

 

 赤毛の強がりをマリーはさらりといなす。

 この世界ではレベルがすべてというわけでもない。レベル4までの中位層では特にそうだ。

 レベルによるステータスは最低保証にすぎず、種族や才能、鍛錬と技術の差は消えない。

 ルールルーが見せたように、同じ魔法でも制御ひとつで別物になる。

 

 

「ち、ちくしょう……」

 

 

 腹の上にまたがったマリーに両手首を押さえ込まれ、赤毛はもう身動きが取れない。

 青髪も石畳に座ったまま、剣へ手を伸ばそうとはしなかった。ふたりとも、倒されこそしたが傷ひとつない。

 刃が抜き放たれないまま争いが収まったと見て、衛兵たちも柄から手を離す。

 マリーも赤毛の手首を放し、何事もなかったように立ち上がった。

 

 

 俺はまず、マリーとルールルーへ向かって拍手を送った。

 

 

「さすがだな、ふたりとも。助かったよ」

 

 

「い、いえ、お力になれたようでなによりです」

 

 

「ん」

 

 

 マリーが頬に手を添え、顔を赤らめる。

 隣のルールルーは無表情のまま、小さくうなずいた。

 

 

 それから、石畳に残された冒険者ふたりを俺は見下ろす。

 俺の態度次第では、彼女らはますますみじめな思いを募らせるだろう。だが、これ以上屈辱を与えるのは本意ではない。ふたりへ歩み寄り、俺は両手を差し出した。

 

 

「ふたりとも、合格」

 

 

「「……は?」」

 

 

 赤毛と青髪が、それぞれ差し出された手と俺の顔を交互に見つめる。

 マリーの困り眉が戻り、ルールルーが小さく首を(かし)げた。

 

 

「……あ、あら?」

 

 

「観察値、興味?」

 

 

 すまんが、人材勧誘はさせてほしい。

 俺はマリーとルールルーにウインクし、ぺろりと舌を出した。

 

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