ただのモブ(大嘘)がTSした原作主人公の代わりに逆転世界で頑張る話 ―女性特効ラスボスは俺が倒す― 作:つくもいつき
春シーズン第十一週七日目、午前。
カイウスが起こした騒動の翌日、俺は聖堂外苑本通りの角にある薬草茶屋を訪れていた。
今日は四人掛けのテーブルに座る。
俺の左隣にベルノ。向かいに座るのは青髪のネリスと、赤髪のプラムである。
商会の面々と、俺はゆったりお茶をしばく。
「あ~うまいっスね~」
プラムが、氷霊結晶で冷やしたハッカ柑橘茶をぐいっと飲む。
透明なガラス杯の内側で、薄緑の茶が涼しげに揺れた。
俺もネリスも同じものを飲んでいる。ベルノだけは、湯気の立つ黒い薬草コーヒーを選んでいた。見てるだけで汗が出る。
口に含むとハッカの冷たさが舌先に走り、あとから
昨日の雨が嘘のよう。
日差しが店内にも差し込み、足元の床を光が縁取る。
店内が多くの客で活気づくのも相まって、暑さが増す。首元にひと筋汗が垂れた。
シャツの襟に指をかけてぱたつかせると、向かいのふたりが目を見開いた。顔を赤くして前のめりになっている。
もういっちょサービスしたろかなと思ったが、ベルノがにらみをきかせてきたので止めておく。
昨日と違い、俺もベルノも身軽な格好だ。
俺は赤い半袖シャツの上に、黒い肩掛けを羽織っている。腰には黒革のベルト。茶の細身ズボンを膝下で絞り、足元は革サンダルである。
ベルノは灰色の半袖シャツに薄茶のベスト。幅広の茶の帽子を被ったまま、薄茶の瞳を細めていた。
「若。ひとまず、お疲れさまでした」
ベルノが、帽子のつばを指で上げる。
「身代わりする準備はしてましたが、いらん心配でしたね。孫らに泣かれずに済んでよかった。……これで若も、レベル4ですか」
「ああ、落ちないようにまたダンジョンに行かないとだけどな。幸い、次まで
カイウスの計画が成功し、もしも商会に影響が及ぶようなら、ベルノが出頭して責任を引き受ける手はずとなっていた。
隣のベルノの顔をちらと見やる。
何でもない顔で黒い薬草コーヒーをすする姿を見て、俺は口角をあげる。ふと背中をぽんぽんと軽く叩いた。
ベルノが眉をひそめて俺を見上げて来る。
「ど、どうしたんで?」
「なんでもない。これからもよろしくな、ベルノ」
「はあ。……変な若だ」
ベルノがカップの口に再び唇をつける。
その隙に、お調子者のプラムが口を挟んできた。
「やっぱりただものじゃないスね若は。春先までレベル1だったなんて、信じられないスわ」
「いやー、それほどでも?」
そうだろうそうだろう。俺は軽口で返す。
プラムのグラスの中身はすでに空。
気をよくした俺は、彼女のために給仕の気を引いた。
新顔の女性給仕がこちらに会釈をする。空いたグラスを盆に乗せ、急いで奥に向かって行った。
プラムの話に、ネリスも話にのっかってくる。
「ほんとほんと、男でレベル4だなんて、しかもその歳で……。なにか、秘訣でもあるんですか?」
「あるある」
そう言ってから、俺もグラスの中身を飲み干す。うまい。
木の卓にグラスを置いてから言った。
「最低でも月に一回、できれば二回。ダンジョン
「……」「……」
プラムとネリスがドン引いている。
唇を引きつらせていた。
それもそう。自分で言っておいてなんだが、狂気の所業である。
「あっしはあんま明るくねえが、そいつは大変なことで?」
「やーばいっスよ! ダンジョン踏破なんて、成り上がり目指してる冒険者でも年に一回あるかないかっスよ? あたしらも三年ぐらい粘ったけど、危ないと思って止めました。深層潜るのも、ヌシの相手するのも、怖すぎっスわ。未踏破のとこなら、なおさらス」
「〈
「俺もそう思うわ」
「上級冒険者校ってすごいんですね……」
ネリスがグラスを両手で包みながら、感嘆をこぼす。
俺は頭をかきつつ苦笑いを浮かべた。もちろん、他の生徒はこんなペースでやっていない。うちのパーティぐらいだ。そのせいか、最近学内で〈ダンジョンマニア〉とささやかれる始末。
これ以上は話が脱線するので、俺はツッコミは控えた。
ふと、俺は窓際に視線を向けた。
おととい、俺とカイウスが掛けていた席を見る。
割れた窓には新しい板がはめ込まれ、折れた椅子は新しいのに替えられている。
席では、巡礼客の男女が仲良く、店内のにぎやかな様子について語っていた。他の客同様、新顔の給仕の話で盛り上がっている。
別れて間もないのに、俺は老騎士と向かい合っていた時間を、少しだけ懐かしむ。
『いやはや、志の高い若者だ。……アイカータ商会の代表ともなれば、レベル6は必要となるでしょうな。だが、いまのあなたを見るならば、夢物語でないやもしれません』
『さみしく、なりますな』
あの男も俺と同じように、ダンジョンに潜っては、男である宿命に抗い続けてきたのだろうか?
交えた剣の重みが、いまだ俺の体の芯を震わせている。
グラスに口をつけようとする。
持ち上げてから、俺は中身が空になっていることを思い出した。
「新しいもの、お持ちしましょうか?」
にぎわいの
聞き覚えのある声。
俺は声のしたほうに視線を向ける。
卓の前で、髪を白頭巾でまとめたセレスティーネが、盆を抱えて立っていた。
□
新米給仕に扮するセレスティーネを、俺はまじまじと見る。
金の髪は頭巾に隠れ、薄桃の前掛けをつけている。ほっそりとした体つき。マリーと比べれば、だいぶ華奢に見える。
ぱっちりとした薄桜色のまなこでこちらを見下ろす。
セレスティーネは、しまったといった具合に、急に口元を手で隠した。
「──ごめんなさい! この場合は……。お待たせしました、お客様! だったわね?」
盆を両手で抱きしめながら小さく舌を出す。小首をかしげた。
うぉわあああああ。そのさりげなくあざとい仕草に、俺は手を止める。
稲妻に打たれたように、心かき乱された。
いかんいかん。俺は首を横に振って、ノーダメージな素振りをする。別にきいてねーし。
真顔で冷静に、俺は彼女にツッコミを入れた。
「その、注文用紙はなくて大丈夫か?」
「あっ!」
「せ、聖女様! こちらです!」
慌てたように少年給仕が寄ってくる。さらに店の奥では女店主がそわそわと落ち着かない様子で、こちらを見つめていた。洗っている皿そのうち割るんじゃないか? 俺は心配になる。
「ご、ごめんなさいっ! 助かりました。ありがとう、セシルくん」
「はははは、はいっ!」
セレスティーネが紙とえんぴつを受け取る。
聖女候補に感謝され、少年給仕は頭をかいた。
でれでれと照れ顔を浮かべている。
年上のお姉さんに憧れる少年の顔だ。
わかるぞ、セシルくん。俺は同意する。
おまけに清楚のようで、その実、夜遊びが激しい点が色っぽさを感じさせてなおよし。
まさに女神教の
俺はうんうんとうなずいてから、こほんと空ぜきをする。
セレスティーネに注文を伝えた。
「はい、かしこまりましたわ! 店主さん、ご注文入りました──」
注文用紙とえんぴつ片手に、セレスティーネが奥に小走りで駆けていく。
セレスティーネが注文を無事取り終えたと同時に、店内ににわかに拍手が鳴り響いた。「いい……」「素晴らしい……」とささやきが聞こえる。
子どもを見守る家族かのよう。女神教徒の結束に、俺だけではなく、ベルノたちも閉口していた。
「すごい人気スね……!」
「店の外にあれだけ行列ができるわけだわ」
ネリスがちらと窓の外を見る。
店の外には、折り返し列ができていた。大聖堂から派遣されたシスターたちが列の整理を手伝っている様子が、この席からでも確認できる。
巡礼客だけでなく、聖堂外苑の地元民まで並んでいる。
どう見ても茶屋に入るというより、給仕姿のセレスティーネを見るために来たような印象を受けた。
俺が頼んだとはいえ、聖女候補の集客力はばつぐんである。
昨日の騒動で傷ついた店が、今日は別の意味で悲鳴を上げている。
「ここまで混むとは思わなかったな」
カイウスの連行後、俺はセレスティーネへ頭を下げ、カイウスの騒動に巻き込まれた店の救済手伝いを依頼した。
俺が一日だけ集客してくれないかと伝えたところ、セレスティーネは思いのほか乗り気で承諾してくれたのだった。
「~~♪」
前から、市井の仕事に興味があったらしい。
そんな彼女の願望もあり、今日の一日給仕は実現していた。
鼻歌まじりにセレスティーネが店内を歩き回る姿は、実に絵になる光景だった。思わず拝みそうになる。
「まあ、これでこの店も、『聖女候補が働いた店』という評判が立つ。若が気にしていた風評も、無事解決。むしろおつりがでたことでしょうぜ。……別に放っておいてよかったと思いますがね。話聞くかぎり、自業自得でしたぜ?」
ベルノが黒い薬草コーヒーをすすりながら言う。
その口ぶりは淡々としていた。
店の連中は、善意でカイウスを手伝った。扇動されてしまった、と言い換えることもできる。
ベルノの言い分は正しいのだろう。善人・悪人双方嫌いな母セリアから言わせれば、まさしく余計な世話という奴だ。
俺は首を横に振る。ベルノに言ってのけた。
「恩を売っただけだ。二度目はないよ」
「そうですかい。ならいいんですがね。甘ちゃんな対応だと、またセリア様にどやされちまいますぜ」
「わーってるよ」
セレスティーネが嬉々として、女店主に話しかけているのを、俺は眺める。
困ったような顔を浮かべて応対する女店主。その瞳の中に、恐怖の色はない。
ふと、店主と目が合う。
彼女は申し訳なさそうに深々と俺に頭を下げてから、また、セレスティーネとの会話へと戻った。
これで仕事がひとつ片付いた──肩の荷が下り、俺は胸を撫でおろす。
セレスティーネを待つ間、俺はもうひとつの仕事を終わらせにかかった。
「ふたりとも、ちょっといいか?」
そう言って、俺は魔法の携帯袋から包みをふたつ取り出した。
卓の上に置く。
「?」
「これは……?」
ネリスとプラムが、俺の顔と置かれた包みを交互に見やる。
俺は包みの口をつまみ、ふたりそれぞれの前に差し出した。
「俺とベルノからの
「えぇえ!?」
青髪のネリスには〈栽培の才〉にちなんだもの、赤髪のプラムには〈酒造の極意〉を高めるものを、中に入れている。
「リヴィエ村でも頑張れよ。ネリスとプラムなら、きっとうまくいく。俺が保証するよ。俺の友人たちにも、よろしくな」
「……う」
「ぉおおおお……!!」
「ッ!?」
俺がそう言うと、ふたりとも顔をくしゃくしゃに歪め出した。び、びっくりした。
唇を内に引っ込め、差し出した手を震わせながら、ふたりは俺から包みを受け取る。
それから振り絞った声を、彼女らは上げた。
「ありがどう、ございまず……!!」
「頑張っでぎまズ……!!」
「はじめでのどぎは、ほんど、しづれいしましだっ!! でも、声かげで、ほんとに、よがっだっで、おもっでます……!」
「おぶたりども、ぜわ、なりまじだ……!!」
おんおんと泣くふたりを見て、ベルノは苦笑している。だが、どことなくうれしそうだ。帽子をつまみ、表情を隠しながら、彼は言った。
「へっ。出戻ってきたら、あっしが承知しねえからな? ……頑張んな」
「ふたりとも、達者でな」
出会った時は、ふたりはただの向こうみずなよそ者だった。
それがいまでは、リヴィエ村へ送り出す大事な人材になっている。
ネリスとプラムが受け取った包みを抱え、大泣きを始める。
う、うるせえ。そう思いつつも俺は口角を上げる。
ふたりが女泣きする間に、セレスティーネが飲み物を持って再び現れた。
□
「だ、大丈夫なのですか、おふたりは?」
「感極まっちまっただけでさあ。ったく、女が人前で泣くたあ、みっともねえったらありゃしねえ」
「うぅ……」「っス……」
「まあまあ。……ところで」
セレスティーネは俺たちの前に、ハッカ
薄桃の前掛けの紐が法衣の腰で揺れ、店内の何人かがまた小さく拍手する。
「?」
セレスティーネが、盆を両手で抱えたまま、俺を見つめる。
それから頭を下げた。はらりと金髪が頭巾のあいだから垂れる。
唐突な振る舞いに、俺は面食らった。
「どした?」
「──モブさん。ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございました」
「んん??」
まだ見えてこない。いったい、なにに対する礼なのだろうか? なんかしちゃいました?
セレスティーネが
どことなく情熱的な視線。
柔らかな笑みを浮かべながら、彼女は言う。
「昨日、あなたがカイウスに、祈りの句を手向けたことです」
「──ああ」
そんなことか、と返す間もなく、セレスティーネがずいと顔を寄せて来る。
ちっか。
吐息がかかりそうになる。店内のざわめきが、聞こえてきた。
マリーと同じ桃の香りが鼻先をかすめる。教国で流行ってらっしゃる? 俺の心臓の鐘が、せわしなく音を立てる。
「私では同じように、彼の心を慰めることはできなかったと思います。あれを見た時、
「……だと、いいけどな」
「それで、モブさん。──私」
「!?」
ずずい。
超絶至近距離。
もはや鼻が触れ合うほどにセレスティーネが顔を近づける。桃色の瞳が、俺の眼前でぱちくりとまばたきした。
思わず俺は椅子を引く。けれども、セレスティーネはなおも顔を近づけて来る。まっずい。店中の視線を集めているのを肌身に感じる。
こちらの気も知らず、セレスティーネは満面の笑みを俺に向けた。
「私、すっかり、あなたのファンになってしまいましたわ♪」
な、なんかとんでもないことを言いだしている!! そこかしこから殺気が漏れる。特に入り口側。護衛の聖騎士たちが剣に手をかけているのが、視界の端に映った。じ、地獄すぎる!
「マリーがほんとうにうらやましいですわ……。あなたと過ごす生活はさぞ
「あ、ありがとう?」
「ふふっ、どういたしまして♪」
そう言ってセレスティーネが身を引いた。教徒らの殺気がおさまる。
ようやく離れていってくれて、俺はひと息つく。
同席のネリスとプラムもほっと胸を撫でおろしていた。
「若のファンってことでしたら、いいもんがありますぜ?」
「あら?」
隣のベルノはどこ吹く風と、何食わぬ顔でコーヒーをすすっている。
卓の上には、跳ね兎の家紋を記した魔導板帳。
いつの間に取り出したことやら。
セレスティーネの視線が、魔導板帳に落ちた。
「魔導板帳、ですか? それがなにか……」
「こいつは特別でね。若と若のファンが集まって、日夜活発な会話が行われている、専用の板帳でさあ」
「なんと!」
「それがいまなら15銀」
「買います!」
即決だった。
商店の売値よりも3銀高く売りつけている。ベルノは悪びれた様子もなく、受け取った銀貨を一枚ずつ指先で弾き、音を確かめてから懐へしまった。
セレスティーネはというと、専用魔導板帳を宝物でも抱えるように胸元へ寄せている。
俺もベルノに負けじと、と言いたいところではある。
だが、そろそろ行かなければならない。
腰の金貨袋から銀貨を三枚抜く。四人分の茶代には多すぎる銀貨を置いてから、俺は椅子を引いて立ち上がった。
「あら、もう行かれるので?」
セレスティーネが顔を上げる。
薄桃の前掛けの紐が、彼女の動きに合わせて小さく揺れた。
「小教会に用事があってさ。マリーたちの様子を見にね」
「まあ!」
ぱっと明るくなった顔が、すぐにかしこまる。
セレスティーネは魔導板帳を大事そうに抱え直し、少しだけ背筋を正した。給仕の顔ではなく、聖女候補の顔だった。
「……モブさん。マリーをよろしくお願いします」
「ああ」
「──私はずっと、親友の苦しみをわかってやれていませんでした。どんな思いで、教国を去ったのかさえも思いやれず……。ただただ、独りよがりに友の行方を案じていた。……我が身の不明を恥じるばかりです。この巡礼の旅で、ようやくマリーのことを知ることができて、ほんとうによかった。あの子を支えるすばらしい友だちがいると知れて、ほんとうによかったです」
セレスティーネの声は、茶屋のざわめきの中でも不思議と澄んで聞こえた。
昨日までの彼女なら、きっとこんなふうには言えなかっただろう。そう思うと、胸の奥が少しだけ温かくなる。
「あの子の分まで、とは言いません。けれど、私が聖女になって、女神教を少しでもよい方向へ持っていければと、いまは思っています。カイウスや、彼が忘れられなかった人たちについても……」
途中でセレスティーネが目を細める。
俺は短くうなずく。
「できるよ、きっと」
セレスティーネの肩から、ほんの少し力が抜けるのを俺は見た。
これ以上、言葉を重ねすぎると野暮になる。
俺は半身で通路へ向き直り、顔だけをセレスティーネへ傾けた。
「セレスティーネさん。それじゃまた。来週末からの査察巡礼、頑張ってな。時間があったらさ、うちの商店にも寄ってってくれよ。未来の
「ふふっ。ありがとうございます♪」
セレスティーネは微笑んだ。
それから、セレスティーネは一度だけ入口の聖騎士へ目をやり、俺に顔を近づける。声を落とした。俺だけに聞こえる距離で、祈りの句とは違う、現実の重みを帯びた言葉を彼女は告げる。
「……モブさんも、ご健勝で。レベル4になったあなたを、放っておかないものは多いでしょう。わ、私もいい関係になりたいと思っていますし……。ごにょごにょ……。えー、こほん。……カイウスも、かねてから言っておりました。立場のある男性には、『男神教』が寄ってくる、と。いまのあなたなら、いっそう気をつけたほうがよいと思います」
男神教。
その名が出た瞬間、喉の奥に残っていたハッカの冷たさが、別のものに変わった。
無意識に、肩へ掛けた黒布を指で押さえる。
「……ありがとう。肝に銘じておくよ。それでは、お元気で」
「はい! またお会いしましょう! モブさん、ほんとうに、ほんとうにありがとうございました!!」
深く頭を下げるセレスティーネに見送られ、俺は薬草茶屋を後にする。
背後では、また誰かが拍手していた。ベルノ、ネリス、プラムへ肩越しに手を振り、俺は店の外へ出る。
店の前では、変わらずに軒先から角まで順番待ちの列が伸びていた。さっき見た時より人数多いな?
巡礼客だけではない。地元の男たちや子どもまで、扉が開くたびに首を伸ばして店内を覗き込んでいる。
列の脇では大聖堂のシスターたちが人をさばき、白鎧の聖騎士が無言でにらみをきかせていた。
俺は一度だけ振り返る。
茶屋の窓の向こうで、薄桃の前掛けを揺らすセレスティーネが、また客の卓へ向かっていた。穏やかな笑みを浮かべて。
このミカ巡礼が、彼女の中でどう消化されていくのか。
女神教が拾いきれなかったものを知った彼女が、今後女神教国でどのようにそれに向き合っていくのか。
原作にも描かれていない結末に、俺は想いを
遠くで、聖堂外苑の鐘が鳴る。
小教会〈聖滴の庵〉を目指し、俺はひとり歩みだした。