『こちらレビン
JDAMこと、統合直接攻撃弾がF−2のハードポイントを離れ、天を裂くように落ちていく。
巨大な弾体は隕石めいてヒルコの背に突き刺さり、同時に大きな咆哮が響き渡る。
ヒルコの背甲が光を帯びる。
光明に、より鮮明に、己を誇示すべく200デシベルは確実に超える轟音が辺りに響いた。
衝撃波は容赦なく空を切り、航行中の一機を海へと落とす。
まるで外敵を片付けたといわんばかりに、ヒルコは雄叫びを上げた。
それに呼応するように残存する航空機群と第50普通科連隊の84ミリ無反動砲が火を噴く。
砲口から吐き出される炸裂と煙。鋼の破片が水面を叩き、海が血の色を帯びる。
だがヒルコはそれを外敵として認識したに過ぎない。火薬と硝煙の臭いが存在を知らせ、そこに食事の価値は生じるものの、ヒルコの本能は、より大きな獲物を求めた。
この外敵を喰う手間をかけるよりも、その先にあるより大きなものを直接摂取する方が効率的だと、身体が教えているのだ。
「ヒルコが我々を無視している!?」
浅瀬に慣れた足取りで──かつてはヒレだったものが、今はワニのように陸を這う脚へと進化している。
巨大な体躯は自重で鈍く重くなるはずだが、捕食者としての執念はそれを凌駕していた。
海と陸の狭間を巧みに使い、ヒルコは歩行と半ば潜行するような独特の移動で接近する。
第50普通科連隊の小隊は散開して対処し、84ミリ無反動砲は命中を狙う。命中すれば局所的にダメージを与えられるが、ヒルコの巨体に致命的打撃を与えるには至らない。
時間が経つにつれ、戦況は危険な均衡を保つ。
ヒルコは噛みつきや踏みつけで敵を一度に殲滅できることを知っている。250メートルに達するその顎と躯は、咬み付けば装甲ごと潰し、踏みつければ戦車も兵員も即座に粉砕されるだろう。
だが、相手もそのことを理解している。
そのとき、コンクリートの大地に低く唸る新たな金属音が響いた。
16式機動戦闘車。
ヒルコは知らなかった。
第15即応機動連隊の力を、人類の底力を。
◇
「──勝てる!」
そう口にしたのは誰だったか。
すでにヒルコが上陸しようとして2時間近くがたった。
F-2による爆撃、84mm無反動砲による弱点である腹の攻撃、そして、16式機動戦闘車の徹甲弾。
それらの一撃一撃が、確かにヒルコの巨体を削り取っていた。
そして今もなお、ヒルコは奥に眠るたくさんの獲物たちに辿り着けていない。
人々は歓声を上げ、兵たちは叫ぶ。
勝ちを確信しない者はいない。
アサギリはその景色を、ただ遠くから眺めていた。
避難してきた人々。
必死に誘導する自衛官。
子を抱えて走る母親。
泣き叫ぶ声と、祈りのような声。
混乱、怒り、恐怖、そして希望。
幾千の感情が入り乱れるこの場所で、アサギリはただ、理解できないという一点に立ち尽くしていた。
アシハラからは、感情シークエンスを活性化させるなと命じられていた。
実際にアクティブにはしていない。
自衛隊が勝てるかどうか──それが問題ではない。
空に漂う灰。
沈みかけた太陽。
戦場に満ちる熱と波動。
アサギリのセンサーが微かに警告を発した。
──重力子の反応。
本来、生物から出てはいけない反応。
「…まだ、まだ終わってない。」
それを口にした瞬間、
◆
「カーニバルだよ!」
静かな海の中、アシハラはそう口にした。
葦原としての記録ではない。別の
今、口にしたのはその中でも印象に残っていたことでもある。
アシハラは普段こうして自身の
本来なら霧がまだ知らないはずの「メンタルモデル」という存在を知り得たのも、この作業の結果だった。
「…海域強襲制圧艦?」
──ナニソレ、知らん。
思わず声が漏れる。
どうやら記憶によれば、それは空母に相当する霧の艦艇らしい。艦載機を捨てたという情報まである。
確かに、艦載機というものは効率が良いとは言えない。
だけど、捨てるほどのモノなのであろうか?
霧同士で戦うというならまだしも、記憶にある限り、当時の戦争の相手は人類であったはずだ。
その状況下で、艦載機という手段を完全に放棄するとは、理解しがたい。
霧の兵器であれば、人類の艦艇を破壊することなど造作もない。
撃ち落とされたとしても、ナノマテリアルを再利用すれば、完全ではないにせよ、資源の一定量は還元できる。
──となれば、理由は別にある。
アシハラはそこでふと気づく。
単なるコスパの問題ではないか、と。
要は、演算リソースの無駄遣い。
別に霧の兵器は遠隔でクラインフィールドを張るというのは難しいことではない。
だから理論上は、艦載機にも同様にそれを纏わせることができるはずなのだ。
だけど、艦載機を操縦しながら、クラインフィールドを遠隔で操作すると他がおろそかになる。
特に、航空母艦という艦載機を複数を運用する艦艇であればその負担も増えるはずである。
直接打撃戦をするのなら、余計な演算は戦闘に大きな支障をきたす。
それならば、他の兵器を使って効率的に敵を倒そうということなのだろう。
言うなれば、わざわざ強力な艦載機を作る必要がない。
霧の艦隊はまさしくそういう結論になって艦載機を捨てたのではないだろうか。
「…まあ、ならこっちでもそうする?」
アシハラは独り呟いた。
霧の艦載機は海に潜ることも可能だ。
対怪獣という面においては、防御能力が多少低くともそこまで問題はないだろう。
残す利点も確かにある。
さらにいえば、人類を海上封鎖できない以上、今の霧の艦隊には轟沈した霧の艦艇を復元することは不可能に近い。
強いて言うのならアシハラ今いる場所。
アシハラ以外の霧の艦艇は一部例外を除いて知りもしない秘密の海底施設。
怪獣の解析を目的に、アシハラが独自に建造した拠点である。
ここではナノマテリアルの保存と再構成・収集を行っており、少量であれば艦体の再建も可能だ。
艦載機があれば、怪獣がどのような生体か偵察ができる。
だから、怪獣の分析し、的確に撤退かどうかを判断できるのだ。
霧の艦隊専用の基地が現状ない以上、やはり艦載機は残しておくことに越したことはない。
「──っと、やっぱり。グラビトン…でも、わたしたちのとは少し違う。」
視線の先には、アシハラを襲った怪獣──ミヅチ。
その名は、人類が怪獣を神話から引用して命名していることを知ったアシハラが、自ら便宜上つけた呼称だった。
シャコとカマキリでも混ぜたかのようなその見た目は大きさも相まってかなりの迫力を感じさせる。
──動かないのが玉に瑕だが。
怪獣は未知の存在。
それは人類がそうなように霧であっても同じこと。
「同じ重力子が相反する…?水と油、ってやつか。」
怪獣は、複数のグラビトン──重力子、あるいはそれに類する粒子を内包しているらしい。
「でも、これで霧の艦隊が怪獣を認識するのが早いように怪獣がわたしたちに攻撃をしてくる理由がわかるね。」
怪獣が人を襲うのは、食事のため。
オロチでも、カガチでも、小さな得物を多数摂取するように、人間が多い場所へ向かう。
兵器が邪魔をすれば破壊する。ただそれだけのこと。
ならば、本来無人兵器である霧の艦艇を襲う理由は、本来ないはずだ。
──それでも霧の艦隊は、幾度となく攻撃を受けている。
その記録は、共同戦術ネットワークにも上がっている。
つまり、怪獣と霧の艦艇が重力子を発するというのなら──怪獣は霧を異なる系統の外敵として認識しているのではないか?
アシハラは今日あったことを
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\カーニバルダヨ!!/
誤字報告ありがとうございます!
余談ですが本作における現状の霧のメンタルモデル普及率はイ400型やコンゴウなどを除けば片手で数えられるほどでしかないです。
設定資料集
ナノマテリアル
霧の艦隊が使用する情報さえあれば生物まで含めたありとあらゆる存在を寸分違わず再現することすら可能となる物質。
霧の艦隊の素材というか原材料的なモノであると思ってくれればよい。
◇
怪獣
怪獣自衛隊に登場する怪獣は数種類の未知の粒子を持ち、その性質がグラビトンに近いモノもあるのだとか。本作ではそれを多少拡大解釈し重力子と言う形にしている。
正確には本作においても霧及びタナトニウムの重力子とは
ヒルコの適応能力
怪獣自衛隊では数十分ほどで陸に適応し、より素早く陸上での攻撃を可能としている。
本作でもそれは同じ。しかし、怪獣自衛隊原作のヒルコと比べると適応する速度は少し早かったかもしれない。
追記。
デルタコアに関しては本作ではなしと言う形にさせていただきます。元より、蒼き鋼のアルペジオのアニメ版と漫画版を混ぜているとはいえ、デルタコアを出すともっとややこしい状況になるのでナガトとかヤマトとかビスマルクとか…原作でデルタコアを持つキャラはどちらか一つになります。一応、漫画版でコンゴウがやっていたみたいに疑似的なメンタルモデルは作成可能ですし、イオナを含めた複数がやっていたチビたちは作ることができます。あくまでデルタコアのみなしとします。
アシハラのデルタコアが楽しみだったりした人には非常に申し訳ないです。
掲示板回を作ってもよいか。
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やってもいいと思う
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やめておいたほうがいい