怪獣超戦艦   作:ロールクライ

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番外 頑張れ、アサギリちゃん!

 

 

 

 

とある街の中にアサギリは立っていた。

人混みに揉まれて、流れ着いたその先は…

 

 

「ハローワーク?」

 

違う、絶対にここではない。

アサギリにある知識にもここは情報集めるのに必要な場所ではないと言っている。

 

どうやら人間のデータベースによると人間は居酒屋で情報を集めるのが常識のようだった。

 

居酒屋と言ってもそれは広義的に言えば、飲食店の一つだ。

 

「ここは…居酒屋ではない。別の場所に行こう。」

 

だが、彼女はソレを知らなかった。

ただ、単純に居酒屋という名の店を探しているのだ。

 

まあ仮に見つけたところでアサギリの見た目では子供と間違えられて勘違いさせてしまうだけであろうが。

 

「ここは…居酒屋ではない。別の場所に行こう。」

 

アサギリはくるりと踵を返し、また人の流れに吸い込まれていった。

白い髪が朝日に溶け、そこにはまるで異世界に来たように見える。

 

「うおっ!?」

 

横からぶつかりそうになった男性が驚きの声を上げた。

ランニングウェアに汗、そして息を整える最中。どうやらジョギング中らしい。

 

彼は目を丸くした。

 

「え、君……その、コスプレ?いや、え、外国の子?」

 

アサギリは首をかしげるだけ。

 

「違う。」

 

「ち、違うんだ……。いやごめんね。」

 

完全に困惑している。

目立ちすぎる格好は、こういう反応を必ず生む。

 

男性は、アサギリの見た目を迷子の子供と判断したらしい。

優しげに腰を落として目線を合わせてくる。

 

「えっと、迷子かな?」

 

アサギリは即座に、きっぱりと首を横に振った。

 

「違う。」

 

「そ、そっか…。じゃあ、お母さんとかは一緒じゃないの?」

 

「いない。」

 

男性はさらに困る。

なんでそんな即答なんだと目が語っている。

 

「そ、そう……。じゃあ、なにか探してるとか?」

 

アサギリはこくりと頷き、淡々と口を開いた。

 

「居酒屋の場所を知りたい。」

 

「────え?」

 

今度は男性が固まる番だった。

 

「居酒屋を、探してるの?」

 

「うん。」

 

全く悪びれず、ただ事実を述べているだけの声。

ひとりで街を歩いて、見知らぬ大人に居酒屋の場所を尋ねる少女。

不審どころではない。

 

 

「いやいやいや……ちょ、ちょっと待ってね!? 君くらいの歳の子が行く場所じゃないよ!?それにまだ朝だし、開いてないよ。」

 

「でも、人間は居酒屋で情報を集める。データベースにあった。そう、朝だと居酒屋はないのか。」

 

「どこのデータベースなんだそれ!?」

 

アサギリは静かに首をかしげた。

男性の声の大きさに驚いたわけでも、怒っているわけでもない。

 

ただ、疑問そのものが理解できていない顔。

 

「……違う?」

 

「ち、違うよ!? 少なくとも君は違う!いや本当にどこでそんな知識を、」

 

男性はしばらく頭を抱え、ため息をついた。

だが放っておくこともできない。

 

「とりあえず……危ないから。一緒に交番行こう?おまわりさんなら安全だし、家の人にも──」

 

「交番……?」

 

アサギリは小さく首をかしげる。

 

「そこは情報の集まる場所?」

 

「いや違うってば!?」

 

男性は涙目になりかけていた。

 

「……頑張れ、俺……」

 

 

 

 

 

 

「……交番は情報を集める場所じゃなくて、安全な場所。」

 

アサギリは男性の言葉を素直に受け取り、小さく頷いた。

 

「安全な場所。」

 

「そう、だからそこ行こう。」

 

男性は胸を撫で下ろし、ほっとしたように立ち上がる。

だがアサギリはその手を取ることもなく、人混みの流れへそのまま歩き出した。

 

「えっ、待って!? そっち交番じゃ──」

 

アサギリはぴたりと足を止める。

 

「でも、交番は情報がない。」

 

「いや、情報あるよ!? あるけど! 君の探してる情報みたいなのはないかもしれないけど!」

 

「情報あるの?安全な場所に?──安全な場所だからあるのか。」

 

人類も思いがけないことをするとアサギリは思いつつ男性を見る。

 

──今、思えば彼に聞いてみればいいのではないか。

 

…何を?

 

そういえば、そうである。

 

旗艦であるアシハラからは受領した命令は単に人の情報を集めよである。

 

人間の構造的な話ならば容易く集まるはず。

 

ならば、アシハラが望んでいるものはなんなのであろうか。

 

「…えっと、どうしたのかな?」

 

男が不思議そうに問う。

しかし、アサギリは考え込んで動かない。

 

人間の構造などではなく人の情報を集めよ。

これは、情報として知れるものではない。

 

つまり、…

 

「では、あなたに問う。人間のココロとは何?ちなみに、心臓であるという意味ではない。」

 

男は一瞬で固まった。

 

「……え?」

 

アサギリはじっと見つめている。

白い無垢な瞳。どこまでも真剣で、どこまでも危なっかしい。

 

「人間のココロ。それを知る必要がある。」

 

「こ、ココロ……?」

 

「そう。」

 

「いやいやちょっと待ってね!? え、急に哲学の授業? 交番の話どこ行ったの!?」

 

男の声は裏返ったが、アサギリの問いは揺らがない。

 

「私は、人間の心を知らなければならない。」

 

彼女の前で彼は考える。

 

──俺が答えなきゃ、この子、別の知らん人に聞くよな。人間のココロとは何ですかって。

変化球な質問がくる面接を受けてるみたいだ。

 

そんなことしか頭に浮かばない。

 

だが、このまま黙り込むというわけにもいかない。

 

彼女的には大事なことなのだろうと。

大方、小学校の課題などで人間のココロとは何かを調べるように聞かれただけだろうと。

 

男は一息吐いて答える。

 

「わかった。えっと……俺なりの答えでいい?」

 

「うん。」

 

アサギリは小さく頷く。

 

男は深呼吸し、言葉を探しながらゆっくり話し始めた。

 

「ココロってのはさ……うまく言えないけど……嬉しかったり、悲しかったり、怖かったり……誰かを大事に思ったり、そういう気持ちの全部のこと、かな。」

 

アサギリの瞳がわずかに揺れる。

 

「感情、というもの?」

 

「そうそう。それも心の一部。あとね、人って……心があるから、他の人のこと考えたり、迷ったり、優しくしたりできるんだよ。」

 

「優しく……」

 

アサギリはゆっくりと視線を落とした。

 

さっき男がした、とてもささやかな行動。

迷子と思って声をかけたこと。

困った顔で、それでも放っておかなかったこと。

 

それらが、アサギリの中でひとつの概念に当てはまっていく。

 

「……あなたの、それが心。」

 

「え、俺の?」

 

「少し…理解できた。感謝する。」

 

アサギリの表情は変わらない。

 

だが、ほんの少しだけ──声が柔らかかった。

 

「い、いや……どういたしまして……?」

 

次の瞬間、アサギリはくるりと背を向け、

また人混みへと歩き出した。

 

今度は迷った様子もなく、まっすぐに。

 

──まだ、集めるべき情報がある

 

白い髪が朝の光にきらめき、人の波に溶けていく。

 

 

 

 

 

掲示板回を作ってもよいか。

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