イエガーの死が悲しすぎて、救いを求めた妄想の結果がこうなった。
ザウデ宮。
ゴーシュ、ドロワット、カプワ・トリムの救児院を盾にされユーリたちを迎え撃つことを強いられたイエガーは独りで戦う。一刻も早く、死を偽装して騎士団を欺いた盟友カラ=カラがこの最悪の状況を打開してくれることを、居もしない神に祈りながら。
絶対的支配者の駒、10年の支配、暴君の掌で踊らされる男。運命に抗うことはできるのか。
テイルズオブヴェスペリアのオリキャラ小説
イエガーの死が悲しすぎて、救いを求めた妄想の結果がこうなった。
注意!
オリキャラがチート武器持ち。
原作沿いだけどねつ造多い。
そして結局イエガーは死ぬ。
オリキャラ:テオドール
アレクセイの駒の一人でイエガーの部下。
ギルドでの名前はカラ=カラ。
「海凶の爪」の暗殺者の制服(兜は壊れて被っていない)、隻眼。
小柄な17歳、男。元貴族。
双剣使いで、武器は砲剣(銃と剣を行ったり来たりする変形武器)。
ゴーシュとドロワットを実の妹のように溺愛している。
状況
時間軸としてはザウデ戦。
ゴーシュ、ドロワット、カプワ・トリムの救児院を盾にされユーリたちを迎え撃つことを強いられたイエガーは独りで戦う。
一刻も早く、死を偽装して騎士団を欺いた盟友カラ=カラがこの最悪の状況を打開してくれることを、居ない神に祈りながら。
首領、還らず
まさにそこは術技が飛び交い混戦の様相を呈していた。首領と仰ぐ男の胸元は暴かれ、禍々しい紅光が見える。カーレスオブデスが少なくとも一回は発動されたことを見て取ったカラ=カラは、その混戦の中心で孤軍奮闘している男へ加勢するべく迷わず突っ込んでいき。
「やっぱり伏兵か!?」
「どこまでも卑怯な奴!」
さまざまな声が上がる中へ割って入ったカラ=カラは、いつものイカレた笑みを口元に刷いた。
牽制で術技を放つカラ=カラを警戒して全員が間合いを取りなおす。カラ=カラの肩は大きく上下し深呼吸を一つした。走り続けて息は上がり、汗は睫毛を濡らした。それでも双銃の銃口はレイヴンとユーリをしっかり捉え、その銃身はエアル充填が完了した青く発光する魔核がそれぞれ嵌っていた。
硬直する戦場。
荒い息使いが反響する仲、床を海中の陽光が踊ってゆく。
もはや傷のない所が無く虫の息に近いイエガーは、やっと生まれた戦闘の間隙にゆっくりと息を吸った。その胸の中央に埋まった紅の石が緩やかにその輝きを失い始めている。酷く不安定に心臓魔導器の光が揺らめいていることにレイヴンもカラ=カラも思わず息を呑んだ。
その時、カラ=カラはジュディスの目が、自分の一挙動を監視していることに気付いた。おそらく、気づいたのだろう・・・レイヴンとカラ=カラが同時に同じものを感じ取ったことも、その理由も。僅かに見開かれ、眼帯へと視線を移して細まるその目を、カラ=カラも視界の端に捉えて決して見逃さなかった。余計なことまで知られる前にレイヴンにはその気になってもらわなければ困るのだ、敬愛する主の死の尊厳を守ることもカラ=カラの務めであったから。上がった息を無理やり腹へ溜め、乾いた口内を一度舐めまわしてから、カラ=カラは首はそのまま一行へ向けたまま、視線の端でギリギリ捉えたイエガーへ声をかけた。
「“首輪は外し”ました。ギルドもあちらもフリーです」
その言葉に、イエガーは目を細めた。
「これでもう、足止めの意味はナッスィン。待ちかねマシタヨ、カラ=カラ」
カラ=カラ。およそ本名ではないだろうふざけた名前の小男は、否、青年は、苦闘のために蒼白になった主の顔に、邪悪な笑みに、喜色を認めた。最後の最後で間に合った歓喜に身が震えるようだった。間に合った・・・間に合った!あまりに気持ちが高ぶったために言葉にならずカラ=カラは吠えた。雄々しい叫びがその華奢な体から迸った。それは若い狼のように生に満ち溢れた雄叫びであった。思わずユーリとジュディスが武者ぶるいを覚えるような、そんな物騒な類の歓喜の声であった。そして喜色満面に、レイヴンへ言い放つ。
「さぁ、ギルド幹部としてお相手願おう、「天を射る矢」のレイヴン!」
レイヴンの目は異様に見開かれていた。シュヴァーンでは無くレイヴンと呼んだカラ=カラを、レイヴンは酷い形相で睨みつけていた。
ジュディスとユーリが“首輪”という単語に僅かに反応したが、その違和感は言葉に乗せられる前に遮られた。カラ=カラは大声で呼びつける。
「ゴーシュ、ドロワット、来い!」
「遅いぞ、カラ=カラ!」
「カラちゃん遅い!!」
扉を開けてやってくる姉妹に、その場の全員が顔色を変えた。
「おっさん!?」
前衛に立つべくユーリとジュディスが身構えるのを、そっと身振りだけで制すレイヴンにも常にない緊張が漂う。
もはやただ立つことすら覚束ないイエガーは、ただでさえ白い面を紙のように白くしてカラ=カラを咎める。
「どういうことデスカ、マイメイト?」
「これで「海凶の爪」の首領として逝けるってもんでしょう」
もう一人っきりで特攻なんてさせない、一人の死は一人の運命ではなく残った全ての者が受け止める運命なのだ、と。それは付き従ってきた三人の意志。二対と一つの目が死を間近とした男へと突き刺さる。コゴール砂漠で逃れられない死と知ってなお武器を振るった十年前を思い起こさせる。その事にイエガーは、悪くない、と呟いた。
悪くない、こんな看取られ方も、悪くはない。
「カラ=カラ、イエガー様は・・・」
目を伏せがちでゴーシュが言うその意味をカラ=カラは知っていた。
「ごめんねゴーシュ。約束なんだ」
カラ=カラの横顔は、まるで騎士のようだった。すぐにまた悪党の仮面に隠れたその横顔をゴーシュは脳裏に焼き付けて剣を構える。
イエガーもカラ=カラも、悪党だけど、恩人で、家族だ。ゴーシュにとってそれは十分すぎる理由だった。そしておそらくドロワットにとっても。
人が倒れる音がした。カラ=カラにとっては聞きなれたはずの音が、嫌に耳に残る。
「イエガー様!」
「イエガー様ぁ!」
ほとんど悲鳴のような叫びを聞きながら、カラ=カラは笑った。胸が悪くなる様な、殴り付けてやりたくなるような、そういう類の。
「ナ・・・ナイス、ファイト」
イエガーの声は、諦観の思いがあり、そして賞賛と、喜びと、何かの未練とを孕んで、広間の天井に響いた。
僅かな間、カラ=カラの隻眼は伏せられ、その口端は物言いたげに震え、けれども決して言葉を発することは無く、酷い作り笑いに消える。
その仮面の下を、レイヴンは知ってしまった。レイヴンにとって、それは己の犯した罪の一つだった。アレクセイを独りにしたこと、テオドールを独りにしたこと。シュヴァーンとしてやり残したことだとレイヴンは思った。オレは、・・・オレにその資格は無い、だが、と。その思考はレイヴンでありシュヴァーンだった。
今、死人が死んでいく。壊れかけたゼンマイが戻りきる前に、その死の意味を変えることができるただ一人の男と見込み、レイヴン、とカラ=カラは叫んだのだろう。
レイヴンは根が生えたように重い足をようやく踏み出した。これは、共に騎士であった者への情けであり、先に呪縛から抜け出した者からの哀れみであり、ドン・ホワートホースという柱を卑劣な手口で折った裏切り者へのケジメであり、生に執着した者への敬意だ。レイヴンはそう信じた。
お互い死んだ者同士、今更死なんて怖くない。果たしてイエガーはそう思っていただろうか。聞いてしまいたいような、聞いてはいけないような、そもそも聞いてどうするのか。結局のところ、ギルド幹部としてやることは変わらないのだ。今こそ分かった、コゴールから、生きて戻った人間なんて、だれもいない。酷い孤独感と僅かな安堵がレイヴンの錆ついた心を軋ませる。恨むなよ、頼むから。必死に念じながら、レイヴンは仰臥した死の商人たちの首領へと重い足を進めた。
一歩、一歩とゆっくり近づいて来る男に、カラ=カラの砲剣が僅かに震えた。
激情を全て抑え込んでやせ我慢で立っている隻眼の青年に、レイヴンの弓を握る手に力がこもった。
青い光に照らされて徐々に“停止”してゆく男に、息を詰めその場に膝を付いた少女たちの頬に滴が走った。
それでも「海凶の爪」のメンバーは誰もレイヴンに武器を向けることは無い。その切っ先は横やりを防ぐべく「凛々の明星」のメンバーへ向いていた。それは明確な意思表示だった。
「柄じゃねぇんだけど、ドンの仇、取らせてもらうわ」
頭(かしら)として、イエガーはうっすらと微笑んだ。穏やかな了承がそこにはあった。
「油断しちゃダメ。まだ何か企んでいるかもしれないわ」
やや離れた所に残されたリタが、レイヴンを諌める。
「ノンノン」
苦しげに、それでも穏やかな声色で、イエガーは続けた。
「もう、何もありません」
ヒクリ、ただ一回だけ大きくカラ=カラの砲剣が跳ねた。
「最後・・・そう、最後です」
停止するのだ、とその声は告げる。生を終えるのではなく、ただ止まってしまうのだ、と。
「その胸・・・・・・あなたも、アレクセイに?」
静かながら鋭い質問にイエガーは視線を彷徨わせた。美しいテムザの空の色をした女、その姿を認めて、イエガーはゆっくりと笑みを作って、殊更ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「さぁ・・・・・・どうでしょう」
走馬灯を追っているのか、その目に力はなく、どこか心浮き立ったような、酷くふわふわと浮ついた声。
「ネヴァマインド」
秘密は墓まで持ちさるつもりなのか、それとも本当に知らないのか、どうでもよくなったのか・・・、真相は分からないまま、命の灯はどんどん暗くなってゆく。居ても立っても居られなくなったエステルだけが無防備にイエガーの下へ走り寄った。その首筋を無機質にカラ=カラの砲剣がぴったりと追ったが、跪いたエステルの細く白い首を傷つけることはなかった。
「どうして」
光の中で育ち光として育ったような、そんな姫君の声は、イエガーにはくすぐったい響きで。
「なぜひとりで戦ったんです?仲間も、何の用意も無しに・・・」
フ、というイエガーの吐息のような笑いに、最期の息が全て抜けてしまったような音を聞き、皆が息を呑んだ。
グッバイ、空気の僅かな塊だけがその口から抜けるような別れの言葉。それを最後に、死んだ体に張り付いていた魔核は完全停止した。
二度と起き上って来ないだろうか、誰もがそんな思いに囚われてその場で固唾を呑み、このふざけた男が、イカレた挨拶を始めるのではないか、と武器を握りしめ。それでも治癒術師としてエステルは確信せざるを得なかった。ここでまた、命が一つ失われたのだと。それでも万が一、心臓魔導器が再起動する可能性も、とエステルはリタを仰ぎ見る。だがそれには静かに、だが確かに否定が返ってくるのみだった。膝から力が抜けて、エステルは冷たい石造りの床へペタリ、と座りこんで、死んだ男を見つめ、答えの与えられなかった問いを何度も胸の内で問い続けているようだった。
レイヴンは、嗚咽さえ響くことのないその空間にただただ取り残された置物のように立っていたが、やがて
「・・・・・・なんでぇ」
絞り出すように、だたそれだけを口にする。
死に顔は苦痛とは無縁、とても満身創痍で剣に倒れた者とは思えない穏やかなもので。うっすらと閉じられずに固まった瞼の間から覗く、夜明けの空のような瞳は、ここでは無い、どこか遠くの幸せでまぶしい何かを見上げるように静かに澄んでいるのだった。
誰もが動けずにいる中、やはり最初に息を吐いたのはカラ=カラだった。
変形武器を畳む金属音。砲剣を腰に納めて、レイヴンの正面へとやってくる。相変わらず作り笑いのまま固まった表情筋は、まずます不気味な表情を作り上げていた。
「「海凶の爪」は義務を果たし過去の清算を完了した。・・・ありがとう」
差し出された手を、レイヴンは取れなかった。
「首領を人として送ってくれて」
言いながらようやくカラ=カラの表情が崩れた。幾重にも鎧った仮面が一つ一つ剥がれてゆくようで、レイヴンもつられてクシャリと顔をゆがませた。カラ=カラでありテオドールであるその表情にレイヴンは共感を覚えた。どちらであるべきかが分からないのだ。二つの役が混ざり合って、下手な役者のように不格好な演技の下に本心が見え隠れする。きっとカラ=カラはこう思っているはずだ。本当は失いたくなかった、けれどこうすることがきっと最善だったのだ、だって彼の死に顔はあんなに穏やかだった。やるせなくとも、この結末に満足しなければ。そう必死に自分に言い聞かせているに違いない。その気持ちがレイヴンには痛いほど分かってしまった。二人はこの時ばかりは説明しきれないような複雑な感情を共有する。イエガーは最後の最後で幸運にも自由を掴み取ったのだ。道具としてではなくギルドの人間として、独裁者の駒としてではなく己が率いたギルドの長として、主の命令ではなく己の選択による結末として、人形としてではなく一個の生きた人間として愛した者たちに見守られながら果てた。その人生で成してきた事を思えばおよそ望むべくもないような幸運。けれども、願わくば、自分もそんな風に穏やかな終わりを迎えられるよう・・・。その思考に至って初めて、レイヴンは差し出された手を取ることができた。レイヴンらしくなく、カラ=カラらしくない思考だ。お互いの手は震えていて、他人の血に濡れていて、そして古傷だらけであった。二人にとって人の死なんてものは嫌になってもこの手を通り過ぎていくもので、疲れきって、そこに意味を求めることをずいぶん前に止めた、そういうものだった。そういうものであったはずだった。
おわり